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2022年2月22日火曜日

米ドラマHBO 『The Gilded Age』(2022) ~Episode 4:己の中のスノビズムを刺激される





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『The Gilded Age』 (2022)
TV Series/米/カラー
/約50分・全9話/
制作:Julian Fellowes』
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今アメリカで放送されているHBOの歴史ドラマ 『The Gilded Age』。初回の放送は2022年1月24日。全9話。現在第5話まで放送されている。

製作・脚本は、英国 ITV のヒット作 『ダウントン・アビー/Downton Abbey』 のジュリアン・フェロウズ/Julian Fellowes氏。彼が今回はアメリカ・ニューヨーク市の1880年代の物語を手がける。

現在視聴中。毎週月曜日に放送されるのだが、週末に録画を視聴するので今うちでは4話まで見ている。



時代は1880年代。ニューヨーク・マンハッタンの一等地。その地には、家族の歴史を200年以上遡れるオランダ系の旧家、戦争の英雄を生み出した英国系の名家など、(アメリカでの)旧い家柄を誇る人々が裕福な暮らしを送っている。彼らは数世代続く世襲制の財産「Old Money」を持つ人々。彼らは自らの社交サークル/ハイ・ソサエティーの枠の中で、富と名誉をベースに貴族のように振舞う。

アメリカでは南北戦争(1861年~1865年)の後、急速に経済が発展した。時代の波に乗って新しく成功し「New Money」を持つ大富豪が、その閉じた堅苦しい「Old Money」のソサエティーに金の力で切り込んでくる。

ペンシルバニア州で育った箱入り娘・マリアン・ブルック/Marian Brook が両親を亡くし、父方の(オランダ系旧家に嫁いだ)未亡人の叔母・アグネス・ヴァン・ライン/Agnes van Rhijn を訪ねてニューヨークにやってくるところから話は始まる。最初はマリアンが主人公かと思わされるが、実際の話のメインは1880年代のニューヨークのハイ・ソサエティーの様子を描く事だろう。

第4話まで見た印象は、旧家と新興成金の戦い。それが面白い。ドロドロしてます。(あまりにも偏見がなさ過ぎて現代っ子がそのまま19世紀に迷い込んできたような)マリアンはあくまでもサイド・ストーリー。話の中心ではない。

見所は、新興の成金・鉄道王/railroad tycoon のジョージ・ラッセル/George Russell が、いかに旧家+名家ばかりで排他的なニューヨークのビジネス界に切り込むのか、そして彼の妻 Bertha Russell がいかに排他的で堅苦しいアッパーな女性達の奥様社交サークルに切り込んでいくのか。

1880年代のニューヨークを様々な角度から描く力作。今のところ私にはニューヨークの歴史の学びにもなっていて面白いです。第4話まで見た感想は「面白い」とだけ書いておこう。その印象がこれから変わることもないだろうと思う。基本的に描いているのはゴシップ系の人間ドラマだけれど、レベルは高い。面白いです。これからも期待。


★ネタバレ注意

最初は狭い世界の中の人々の下世話などんぐりの背比べ話かなと思いながら、このドラマが面白いのかどうか探っていたのだけれど、第3話で成金の鉄道王ラッセルが、意地悪な旧家+名家の排他的カタブツたちを札束で殴り始めた辺りからドラマとして面白くなってきた。旧家+名家か?それとも鉄道王成金か?…どちらにも肩入れすることはない。しかしどちらの心も理解できる。どちらも結構下衆なのですよ。だから面白い。さてこれからどうなるか。


ところでこのドラマの最初の数話を見ていてとても違和感を感じたことがある。それは、このドラマの名家+旧家の方々が…ニューヨークだかニューアムステルダムだか知らないが…ずいぶん偉そうに振舞っていること。

というのも彼らもルーツをたどれば、元々はたった250年~200年ほど前に、ヨーロッパの堅苦しい封建制下での階級社会や宗教弾圧から逃げ出してアメリカ大陸に渡った無一文の人々。貴族なんてとんでもない ㊟1彼らのほとんどは欧州の貴族とは血縁的な繋がりがない。そんな人々がアメリカで何らかの形で成功し大富豪になった。

もしそんな彼らが新しく自由な社会を作ったのならそれは素晴らしいこと。しかし現実には、そのような(数世代続く)アメリカの成り上がり者達は、また(自分達が逃げ出してきたはずの)旧世界ヨーロッパの階級社会と全く同じサークルを作り、偏見に満ちた狭い世界で格付けをし合っている。なんだか…おかしいよね。1880年当時のアメリカ人って結局全員が成り上がり者 ㊟2 なのに(個人的な意見です)。

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追記 ㊟1, ㊟2:訂正、少し調べたら、私の無知でした。「Old Money」の人々とは、例えばアメリカがまだ英の植民地だった時代に、英国から事業主としてやってきた裕福な英国人で、独立戦争(1775~1783)以前に本国との取引で富を成した人々。その子孫が自らを「Old Money」と呼び、南北戦争(1861~1865)以降に財を成した「New Money」の新興成金と区別していたらしい。彼らは旧世界の貴族ではないかもしれないが無一文ではなかった。その「Old Money」の人々が初期のアメリカで政治家や社会のリーダーとして国を牽引したのだそう。 
アメリカの人々には大変失礼な嘘(私の思い込み)を書いて申し訳なかった。このアメリカの歴史は面白いので、もう少し調べようと思う。
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…なぜそのようなことを私が思ったのか。なぜなら(日本人をはじめ)旧世界の人間は誰でも皆過去との長い繋がりを持つわけで、それはアメリカ以外の旧世界ならどこでも同じ。(家系図を持ち出すまでもなく)旧世界の国の人間は、誰にでも国や土地に根ざした何百年~1000年を超えるルーツがあり、その文化や伝統、しきたり、社会のルールやしがらみを受け継いでいるのがあたりまえ。旧世界の人間は現在と過去に折り合いをつけながら生きている。

しかしそれがないのがアメリカ…彼らは皆なんらかの理由で旧世界を捨てた人々で、人の土地を奪って定住し、いつしか旧世界に反抗、独自の社会を発展させ富を成した人々。新しい世界をつくるはずだった人々。それなのにそんな希望に溢れた成り上がり者達が、また(新しい世界で)旧世界と全く同じ階級社会を作り上げ、自分達よりも少し後からやって来た新しい成り上がり者を排除するという皮肉。 このドラマを見ていてそんな馬鹿馬鹿しさを感じたし、もちろんだからこそ面白いとも思った。人間とはそもそもそういう生き物。


このドラマの脚本家は英国人のジュリアン・フェロウズ氏。もしかしたら彼もちょっとそんなことを考えているのではないかと思った場面が第4話で出て来た。オランダ系旧家に嫁いだ(マリアンの)叔母アグネス・ヴァン・ラインの家で働く英国人のバトラーが、通りの向かいの豪邸に住む新興成金のラッセル家にやってくる。そしてその家のテーブルセッティングを見て「うちは、こういう風には並べませんね」と違いを指摘する。正式な英国式とは違うとダメ出しをする。そうするとラッセル家のアメリカ人のバトラーはちょっと不安そうな顔をする。どんなに成金の大富豪がアメリカ人のバトラーを雇っても、近所の旧家の英国人のバトラーには敵わない。そんな格付けを必死に探っている人々。しかしそんな成金のラッセル家はフランス人のシェフを雇っていたりして…。

それを書いたのは英国人の脚本家。う~む…面白いね。こういうものも当時のアメリカでは結構リアルだったのかもしれませんよね。


2010年から英国 ITVで放送された『ダウントン・アビー/Downton Abbey』は、衣装やセットをものすごく凝っていたと聞いている。このドラマもその辺りのクオリティーを下げないようにしているだろうと期待できる。実際にセットや内装、衣装、家具…街の様子、諸々…ゴージャスです。

俳優さん達も素晴らしい。とにかく今楽しんで見てます。途中経過を記録しておく。


大まかなニューヨークの歴史
ヨーロッパ人の入植は、オランダ人が1614年にマンハッタンの南端に毛皮貿易のために建てた植民地が始まり。後にニューアムステルダムと呼ばれる。1664年イギリス人が街を征服、ニューヨークと名付けた。ニューヨークはイギリス帝国の支配の下で貿易港としての重要性を増す。独立戦争の間は大きな戦闘が繰り返され1783年の終戦までイギリス軍の占領が続いた。1790年にはアメリカ合衆国最大の都市へと成長。以降発展し続ける。1873年にセントラル・パークが開園。1898年にいくつかの郡を合わせて現在のニューヨーク市が形成される。(wikipediaより)

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余談ですがCNNやCBSの仕事で有名なジャーナリストのアンダーソン・クーパー氏の母親は、ヴァンダービルト/Vanderbilt 家の出身。彼の5世代前の祖父コーネリアス・ヴァンダービルト(1794年 - 1877年)は19世紀に海運業から始めて鉄道王となり、世界一の大富豪の一人…ヴァンダービルト家は歴史上7番目に裕福な一族となったらしい。その祖先はオランダのユトレヒト州の農民。1650年にオランダからアメリカのオランダ植民地 New Netherland に年季奉公人としてやってきた移民だったそう。このドラマで言うところのオランダ系の旧家か…と思ったらそうではないらしい。1880年の時点では、このコーネリアスが1830年代から彼一代で築いた富は成金の「New Money」とみなされたらしい。「Old Money」とは1880年以前に何世代も受け継がれてきた富を持つ一族=資産家だそうだ。(上に書いた追記を参照)



2021年12月20日月曜日

米ドラマHBO Max『And Just Like That...』(2021) Episode 1 & 2:50代・女リアル?






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『And Just Like That...』 (2021)
TV Mini Series/米/カラー
/約42 - 44分・全10話/
制作:Michael Patrick King, Darren Star』
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米のサブスクのサービス HBO Maxでリリースされているドラマ。12月9日公開スタート。うちはHBO Maxに入っていないので見る事が出来ないのだけれど、ドラマのプロモーション用に第1話2話がテレビのHBOチャンネルでフリー放送されているのを発見。録画して視聴。


このドラマ、かの有名な『Sex and the City』のその後の話。
女性達は50代半ば。

元々の『Sex and the City』は、1998年から2004年までの6シーズン。当時のニューヨークの30代半ばの裕福な女性達の日々を描いて大人気だったドラマ。主演のサラ・ジェシカ・パーカーが1965年生まれなので、メインの4人の女性達もだいたいそれぐらいの年齢…2000年頃の時点で皆35歳前後だろうか。

彼女達は皆それぞれ仕事もしっかりと…恋も盛んなニューヨーカーの裕福な女性達。スタイリッシュでハイソな生活を謳歌する自立したニューヨークの女性達のドラマは世界中で大ヒット。私もシーズン3か4ぐらいから見ていた。

このドラマは、最初は30代の女性達の自由なセックスライフが主題だったらしいが(私は見ていない)、シーズンが進むにつれて30代の女性のリアリティを描くようになった

派手な生活をする美しいニューヨークの女性達も、30代後半には己の年齢を気にするようになる。独身女性の孤独と老いへの恐れ。母になる者もいれば、大病を患うものもいる…そんなリアルな30代後半の女性達のストーリーは、描かれたキャラクター達が私と同世代だったこともあって実に面白かった。毎週真剣に見た。このドラマの女性達と共に笑い、心配し、恐れ、時には涙した。心震えた。

2000年頃のニューヨークの成功した女性達。
(1980年代ヤッピーの時代の男達に15年ほど遅れて)2000年当時30代半ばの彼女達は、物欲と性欲を満たし人生を自由に楽しんでいるように見えた。派手なニューヨーカーの女性達のドラマは見て楽しかった。


そんな彼女達が2021年、50代の中年になった。


さて、どうしよう。HBO Maxをサブスクするつもりはないし(Netflixで十分だ)、いつかHBOのテレビチャンネルに降りてくる事を希望するしかないが、私はいつこのドラマを全10話見ることができるのだろう?

今は私はプロモ用に公開された1話と2話しか見ていない。だからあまり一方的に批評を決定してしまうわけにもいかないのだろう。



しかし…これは…、結構イタいね。イタタタタタタ…。結構キツイ

…と思ったのは第1話。オリジナルのメインの4人のうち、一人欠けた3人でストーリーは始まる。一番明るくて派手で面白いサマンサはロンドンにいるそうだ。


さてこの3人、どうやら全く変わっていません。ノリが以前と同じ。ミランダは30年間勤めた仕事を辞めて大学院に通う学生。シャーロットはティーンの女の子2人のお母さん。キャリーは子無しの既婚(夫は‘BIG’)で、時々若者向けの性情報ポッドキャストに参加。それぞれ活き活きとやっているように見えるけれど…、

(…最初からとってつけたような薄っぺらい台詞の脚本…不自然すぎて耳を疑う。そんな会話をする中年夫婦はいねぇよ…気持ち悪いわ…はとりあえずおいといて…)

現在50代半ばの彼女達、実はどうやら年をとり過ぎて、今の時代や若い世代の人々の常識やスタンダードについていけず、度々違和感を感じたり、居心地悪くなったりしている様子。


そうなのだ。時代は変わったのですよ。今はもうマノロの靴やエルメスのバッグを集めてニヤニヤする時代ではないのかもしれません。ニューヨークでさえそうなのかもしれないのだな…。 シャーロットの娘は綺麗なブランド物のドレスを着たがらないし、街の人々の服装も以前よりカジュアルでクリエイティブ。それに彼女達の周りには以前よりももっと様々な人種や多様な性的指向の人々も存在している。

たぶんそれらの描写は、今のBLM運動sustainability志向LGBTQの一般化(知識上では)や、#MeTooなどなどを反映し、今の50代の彼女達の違和感や戸惑いを通して、今の時代は変わったのだ…2000年頃とは違うのだと強調しているのだろうと思う。 しかしそれにしても私と同世代の50代の彼女達が、それらの「今のスタンダード」に対して妙なリアクションをするのも不自然に思える。

ミランダはなぜ、ブレイドの髪の女性を見てバリバリに(反)偏見的な反応をするのか?…BLMの時代に「正しい白人」であろうとして過剰反応をする姿が大変見苦しく不自然。 なぜキャリーはポッドキャストで露骨な性テーマの会話に戸惑うのか?…自分が出る番組の傾向ぐらい事前にわかっているだろうに(ノリに付き合えないのなら参加しなくてもよい)。 なぜ彼女達は今の2021年の時代に、いかにも20年前からそのまま抜け出してきたようなぎこちない反応をしているのだろう? おかしくないか? 特にミランダの人種に対するリアクションはかなり不快で驚く。

50代半ばの彼女達は今の世の中に馴染んでいないのだろうか? それはおかしい。彼女達はあのニューヨークに長年住み続けている女性達なのだ。それに今は『RuPaul's Drag Race』が人気番組の時代じゃないか。なぜだ。なぜ彼女達はそんなに時代遅れに見えるのだろう?…なぜ彼女達は今の時代に必死に追いつこうとしている…無理をしているように見えてしまっているだろう?


人間は、20年間全く変わらないものではないと思うぞ。好みも意識も変わる。
それに人間50代半ばにもなったら少しは落ち着くものではないか。


例えば(自分語りで申し訳ないが)…私にとって、人種とは…LGBTQとは…なんだろう。もう今は全く違和感のない当たり前のこと。みんな違ってあたりまえ。

それからなによりもモノに対する意識が変わった。2000年ぐらいまでは私の中にも確かに存在したConsumerism/コンシューマリズム/消費主義的な志向も、今はほぼなくなった。そのほうが意識が高くてお洒落だからとか…そういうことではなくて、

ただ私は年を取った

それだけの話。

バッグ、ドレス、靴…嫌いじゃないけれどもう必要を感じない。物欲が極端に減った。特にこのコロナでモノに対する意識は180度ぐらい変わった気がする。

必要の無い物はいらない

そうなのだ。いやミニマリズムとか…そういうつもりではないけれど、物欲が減ったのはまず私が年を取ったからだろうと思う。 


それは私だけではない。おそらく世の中もそちらの方向に向かっている。「sustainable云々…志向」などなど…無駄な消費を止めてモノを大切にする生き方は、今の若い人達にはもっとあたりまえのことになっている。若い人達は私達の世代に比べてもっと環境に対する意識も高いと思う。

あらためてこのドラマを見て、『Sex and the City』の女性達の世代…1965年前後生まれの世代が謳歌した1980年代1990年代の消費主義と、都会ならではの「見栄の文化」がいかに古臭く見えるのかにも驚いた。

無駄はいらない。 今の若い世代の人達はもっと現実的に自分達の将来を考え、思慮深く彼らの未来をもっといいものに…気持ちよく暮らせる時代しようと皆が健全な意識を持っているのではないか。時代は変わってきている。

あ~そうか…インスタの「映え…文化」「インフルエンサー文化」あれは今も「見栄の文化」だな。若者も人それぞれか…。

(考え始めたらわからなくなってきた。私の勘違いかもしれぬ)



ともかく、そんなわけで20年前とちっとも変わらない50代後半の白人のリッチな有閑おばさんたち3人を見て、なんだか正直ゲンナリしたのはしょうがない。それは時代が…私が変わったからなのだろう。


しかしこれは制作側が意図したものかもしれません。とりあえず、第1話で…お洒落で相変わらず浮き足立ったおばちゃん達を見せて「彼女達はまだ同じ事をやってるのか」と視聴者たちを呆れさせ、その後でどっかーんと爆弾を落とす。第1話の最後。びっくりですよ。こわいわ。マジ。

というわけで、第2話から急にトーンが変わった(もちろんキャリーはキャリーだからスタイルを諦めるはずは無いけれど)。 しかしドラマとしては掴みが上手い。これは続きが見たいですもん。しかしこれからどうなるんですかね。私はいつこのドラマの続きが見れるようになるのだろう。


いろいろ書きましたけど、年を取ると、以前は「良」と思っていたものに全く魅力を感じなくなるというのもあるのだな…と思わされた。この同世代の女性達のその後、見たいかな。彼女達は変わるのか?どうだろう。 きっとキャリーはまた新しい恋人を見つけるんだろうな。そういうドラマですよね。しかし女55歳。どうなのよ。人間のエネルギーにも限りがあるだろう。元気じゃなきゃ恋もできないだろう。恋愛が肉体ばかりのものだとも思わないが、しかしキャリーさんは男性に知性や落ち着きを求める人でもないだろうし。だからどうなるのだろう。そのあたりを、できるなら事細かにリアルに描いてほしいと思った。


年と取るって、人間みんなに平等に訪れて、みんなそれぞれ初めての経験。だからみんな戸惑ったり苦しんだり、諦めたり、かえって自由になったり、ふっきれたり…いろんな形の老い方があると思う。55歳ぐらいなら、もう一度花を咲かせるもよし。達観して仙人になるもよし。 みんなそれぞれの女性の老い方を見せてほしいと思う。いつか第3話以降が見れる日まで楽しみに。

彼女達の派手なカラフルなドレスはちょっといいな。
私も派手な色が着たいね。



2021年12月6日月曜日

米ドラマFX Networks『Impeachment: American Crime Story』(2021) シーズン3:事実は小説よりも奇なり・異様な政治茶番と女性達の怒り






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『Impeachment: American Crime Story』 (2021) 
TV Series-Season 3/米/カラー
/約42分・全10話/
制作:Scott Alexander, Larry Karaszewski, Sarah Burgess, Ryan Murphy 』
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久しぶりに気合の入ったドラマを見た。面白かった。

有名な「クリントン大統領のセックス・スキャンダル」…一般的にそう呼ばれている事件。

まずこのスキャンダルは、おそらく真面目なアメリカ国民にとっては「恥」なのだろう。現職の大統領が若い娘と不倫をし、その関係の詳細を白日の下に晒され…。普通の真面目なアメリカの中流階級の市民にとってこの事件は、もう二度と話題にしたくない「アメリカの恥」なのかもしれないと外国人の私は思う。アメリカの振り返りたくない恥…だからこのドラマはアメリカの真面目な市民にとって、公正な評価は難しいのではないか。

事実は小説よりも奇なり

まさにその通り。一般的にこの事件がそう呼ばれるように…上の文でも「セックス・スキャンダル」と書いたが、この一連のドタバタは、実は「クリントンの浮気」そのものが問題ではない…ということを私はこのドラマで初めて知った笑。



この事件がメディアに出るようになった頃、私は英国に移住してまだ数年目で、事の内容を詳しく知ることができなかった。メディアのこの事柄に関する記事もほとんど読まなかったし、たとえ読んだとしても当時の私の英語力では理解できなかっただろうと思う。ただ人々の会話には上っていたので多少の事柄は聞いていたが、私はてっきりクリントン氏が若い女の子と不倫をしたから大問題なのだろうと誤解していた。そして「アメリカの大統領は不倫も出来ないのか。不倫ぐらいでそんなにおおごとになるなんて、アメリカって厳しいね」などと、間違った解釈をしていた。

時の世界一の権力者が小娘と不倫をするだけで大問題なの????



実際の問題とは…、

現大統領のクリントン氏が、過去の女性(ポーラ・ジョーンズ)のセクハラ問題での裁判で、証人として呼ばれた別の女性(モニカ・ルインスキー)との現行の関係を問われ、「やっていない」と宣誓供述で嘘を述べ、「いや嘘をついているだろう」と問われれば、「その行為はジョーンズとの裁判で定義された性行為の定義には入らない」などと、みっともなくさんざん屁理屈をこねたあげく、結局…決定的な証拠(ドレス)を提出されて、その関係を認め司法妨害罪偽証罪(法律により宣誓した証人が虚偽の陳述(供述)をすること)…を問われ、下院で弾劾/Impeachment が実施されるまでに至った事件。このドラマはその経過を再現したもの。ちなみにクリントン氏は上院で無罪になり大統領の職を満期まで務めた。



問題は大統領の偽証罪だった。う~ん…それにしても厳しいな。宣誓ををしたら何事も絶対に事実を言わねばならない、嘘の供述をしたら逮捕されて刑務所行きになる…ということも、私は恥ずかしながら初めて知った。偽証罪は大問題で、それを現職の大統領がやった。それが問題。


ここで一応書いておかねばならぬだろう

大統領の「不倫」は犯罪ではない


ただクリントン氏の運が悪かったのは、その偽証罪を問われた内容が…若い女性とのお楽しみだった…という。かっこわるい笑。 



いや…そもそもおかしいのは、大統領の偽証罪を問う内容が、例えば大統領が企業から賄賂を受け取ったとか、どこかの国と裏取引をしていたとか…「政治家らしい嘘と罪」を問うためのものであるのならともかく、若い女の子との火遊びで「やったのか、やらなかったのか」の問いで、そんなどうでもいいことを暴くために、議会に雇われた独立検察官のチームが、国民の税金($52 million/約52億円~60億円くらい)を使い、長い時間(4年間)をかけ、FBI捜査官まで使ってとことん調べつくし、そして調べ出た結果(大統領と女性の性行為の生々しい詳細)を独立検察官のオフィスと議会が、公式なリポートとして誇らしげに世間に晒してしまう。

それがいかに

異常

なことだったのか。それがよくわかるドラマ。


クリントン氏にフェアであるように一応書いておこう。彼は非常に頭のいい人で、政治家としてもやり手のできる男だったと聞いている。もう私達には十分わかっていることだけれど…過去のどの大統領にも完璧な人物はいない。どの大統領も長所も短所もある皆と同じ人間なのだ。誠実であり過ぎれば政治力の弱い大統領かもしれないし、カリスマに溢れて強そうな大統領は、はたして危険な独裁者にもなりうる人物かもしれない。クリントン氏は歴代の大統領と比べても頭脳派の…悪くない大統領だったと聞いている。

しかしながらそんな彼は…どうしようもないほど女性にだらしがなかったのですよね。彼は心の底から女性にちやほやされるのが好きで、ご本人もチャーミングでカリスマに溢れ女性の扱いがうまいからモテて、病的なほどに女性といちゃいちゃするのがやめられない。英雄色を好む…彼もまた過去の時代に存在した人物で、まぁなんと言うか…今の常識だけでは一方的に彼をいいとも悪いとも言えないのかもしれないとも思う。ただ奥さんは大変。それにこの事件での彼はとにかくみっともなかった



このクリントンのスキャンダルの一連の大騒ぎのすごさは、
個人の小さな声から発した問題が、猛烈なスピードで追う者(独立検察官)と逃げる者(大統領)のエゴの戦い、同時にそれがアメリカの政治の戦いに変化していったことだろうか。

…信じられないようなドタバタ。…ありえないほどの偶然と、登場人物達それぞれの行動の意図しなかった結末。そしてまた、事を不必要に「おおごと」にしようとした「外野の者達(メディア)」にとっては…これ以上ありえないほど都合のいいタイミングが重なり続けて、結果…どこまでも大きく大きく、まるでバケモノのように膨れ上がった「大統領の浮気問題」。その肝心の大統領はみっともなくいい訳をして逃げ回り、周りの人々を傷つけ、失望させ、恥を晒し続けたという。

とんでもなく馬鹿げた茶番

まさに事実は小説よりも奇なり。



悪いのは、政治の派閥争い…現職の大統領を引き摺り下ろそうとする政敵(共和党)、その周りに群がるハイエナ達…弁護士、煽るメディア、権利活動家。そして無慈悲に女性達の尊厳を踏みにじり続ける「力のある者達」…独立検察官のチーム…のやり方と手口。

いつしか現職大統領の偽証罪を証明する戦いが、
大統領と独立検察官の醜いエゴの張り合い、になってくる。

どちらが勝つのか?

クリントンか、ケン・スターか?

そんなくだらない男の意地の張り合いに勝つために、独立検察官ケン・スターとそのチームは、リンダの録音テープとモニカの証言による「大統領と若い娘のお楽しみの内容」を事細かに調べつくし、それを白日の下に晒し晒し晒しつくす。そこに政敵とメディアのハイエナ達が群がって騒ぎ立てる。酷い。ひどい。本当にひどい。

私がこのドラマで一番の怒りを感じたのはケン・スターとそのチーム。国民の税金を使って何をやっているのだ。 それにそもそも彼等がこのルインスキーの件の前に調査をしていたビンス・フォスターの死の件や、ホワイトウォーター疑惑はどうなったのだろう?

そして自分の保身と、なによりも「奥さんが怖い」ために、嘘をつき続けたみっともない大統領ビル・クリントン。もし彼が最初に「私がやりました。ごめんなさい」と言っていれば、モニカやリンダやヒラリーはあれほど苦しむこともなかっただろうに。(それが可能だったのかどうか私にはよくわからないけれど)



そして傷ついた女性達

それがこのシーズン3の主題だろうか。

夫の欲により表舞台に引っ張り出され、彼女の「個人的な過去」が国を引っくり返すほどの大問題の引き金となった…ポーラ・ジョーンズ
(一般的に見て)大統領を陥れた浮気の相手/または権力者に利用された犠牲者。しかし事実は、大統領にただただ一途に恋をしていた若い女性…モニカ・ルインスキー
犯罪ギリギリの行動(会話の録音)で友人を売った(裏切り者)リンダ・トリップ。しかし彼女にも、権力者の悪を暴き正したい/不誠実な男を罰したい…という彼女なりの正義感があった。手段は最悪だったけれど
夫に裏切られ、激昂し、追いつめられ、それでも夫をサポートし続けた強いヒラリー・クリントン


このドラマをよく見てそれぞれの状況を理解すれば、これら4人の女性達を一方的に非難する者は少ないのではないかと思う。

このドラマの目的は、このドラマに登場する実在の女性達の苦難を克明に描くこと。彼女達は男達の抗争と政治の派閥争いの道具になり、メディアに翻弄、利用され、世間に傷つけられた。彼女達は全員が犠牲者であり、そこから立ち上がったサバイバー達でもある。このドラマは女性のためのドラマなのだろうと私は受け取った。


これほど事細かに、たった25年ほど前の事件を再現して、全体にバランスよく、当事者の女性達を誰も一面的な悪者には描かない。それぞれの女性達の立場と心を描き、視聴者が納得できるそれぞれの言い分を公正に描く。悪役とされるリンダ・トリップにさえ、彼女なりの正当な言い分がある。…誰も悪者ではない。その描き方の上手さに驚いた。

起こったことの全てをドラマで再現して善悪の判断は視聴者に委ねる。それが主旨だろう。しっかり作りこんで最初から最後まで手を抜かない…制作者側の熱意を感じる。



そしてだからこそ度々描かれる女性達の怒り(見事な脚本)。

女性達の沢山の怒り。沢山の怒鳴り声。絶叫。 第8話のヒラリーの激昂に大きな拍手をし、第9話のモニカの涙に共に泣き、第10話で明かされるリンダの正義に納得し、そして9話のポーラの夫への怒りに共にこぶしを振り上げる。

…そのような女性達の怒りの描写には、このドラマのもうひとつの主旨……男社会の中での女性の扱われ方…女性の尊厳のあり方について考えさせる意図もうかがえる。女性達が怒りの声を上げる…このドラマは今の #MeToo の時代の女性の目線を反映させたドラマでもありますね。今だから描けたドラマ。

私がこのドラマを見て、当時の権力者やメディア、公的オーソリティー全般のやり方に疑問を持ち、反感を覚え、また政治的な戦いに(都合のいいコマとして意図せずに)巻き込まれた女性達と共に泣き、怒り、その苦難に心を寄せるのであれば、おそらくこのドラマの制作の意図は達成されたのではないかと思う。


全編に渡って、法律関連の言葉は難しいし、一度見ただけではわかり辛かったが、ipadで言葉を調べながらゆっくりと二回目を見直したらますますストーリーに引き込まれた。ドラマとして最高に面白かった。こんなに必死になって理解しようとしたドラマは珍しいかも。


全体の構成は、

第1話 の冒頭に…1998年、モニカ・ルインスキーがFBIエージェントに拘束されるシーン。その後は、過去からそこに至るまでの経過が第6話まで細かに再現
第6話 で第1話の冒頭のオープニングをリピート、ストーリーはそこから面白くなる
第8話 ではクリントン氏とケン・スター独立検察官が対峙。夫ビルに怒りを爆発させるヒラリーに大きな拍手! ←このエピソードで傑作決定
第9話 のモニカ・ルインスキーの大陪審での証言。モニカ役のBeanie Feldsteinさん…彼女はいい女優さん。そしてポーラー・ジョーンズも夫に怒りを爆発させる
第10話 特別検察庁がスター・リポートを世間に晒す。そして下院での大統領の弾劾。それぞれの女性達のその後。リンダの正義感の理由

6話までは事件までの経過。見所は6話から。ストーリーがどんどんエスカレートしていく。


4人の女優さんたちが本当に素晴らしい。ものすごい力技。彼女達を見るだけでもこのドラマには価値がある。その力を引き出す上手い脚本。

政治のドラマ。そして女性に向けられたドラマ。脚本も演出も俳優さん達の演技も、全てが上質。ものすごいものを見た印象。



余談だが、私には法律関連の言葉の勉強になった。Impeachmentはトランプさん時代に聞いていたが、deposition、subpoena、perjury、grand jury、testimony、affidavit、indictmentなどなど…知らない言葉の勉強になった。


このドラマのエグゼクティブ・プロデューサーはライアン・マーフィー他。またエグゼクティブ・プロデューサーとメインのライターに Sarah Burgess。そしてモニカ・ルインスキーさんご本人がプロデューサーとして参加。彼女側のストーリーが描かれている。


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based on the book “A Vast Conspiracy: The Real Story of the Sex Scandal That Nearly Brought Down a President” by Jeffrey Toobin.

Executive producer: Scott Alexander
Executive producer: Larry Karaszewski
Executive producer: Ryan Murphy
Executive producer/writer: Sarah Burgess
Co-producer: Monica Lewinsky


CAST
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Sarah Paulson
as Linda Tripp
Beanie Feldstein as Monica Lewinsky
Annaleigh Ashford as Paula Jones

Edie Falco as Hillary Clinton
Clive Owen as President Bill Clinton

Dan Bakkedahl as Kenneth Starr
Darren Goldstein as Jackie Bennett
Colin Hanks as Mike Emmick



2021年6月21日月曜日

英ドラマ BBC/HBO『インダストリー/Industry』(2020) シーズン1:新卒の性生活で隙間を埋める







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『Industry』 (2020) TV Series-Season1/英・米/カラー
/約60分・全8話/
制作:Mickey DownKonrad Kay』
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やっと録画を見終わった。

英国BBCと米国HBOの制作。米国での放送はHBOチャンネルで去年2020年の9月9日から12月21日まで。日本ではスターチャンネルで3月に公開されている。全8話。脚本のMickey Down氏とKonrad Kay氏のロンドン金融業界での経験を元にしたドラマ。ちなみにお二人は業界に馴染めずに辞め(クビになり)脚本家に転身したのだそう。


ドラマは去年録画して最初の2話だけ見てそのままになっていた。今年の5月になってからやっと再度見始めた。

去年まず1話を見たときは面白いと思った。スピードが速いし、(そもそも私は金融に興味がないので完全に理解していたとは言い難いが)意外に面白かった。そして2話を見て、おそらくわからなくなったのだろうと思う(覚えていない)。それで食指が動かないまま半年間も録画をそのままにしていた。最初の2話は見たあとで録画を消してしまい、内容をおおかた忘れてしまっていたので、辻褄がよくわからないまま3話から見始めた。

全8話を見終わって最初の感想は…金融10%、社内派閥争い等の社内事情30%、新入社員の性生活60%だろうか?…これはゴミだなと思った笑。


舞台はロンドンの金融街・シティ。架空の投資銀行「Pierpoint & Co」に5人の新卒が入社してくる。インターン期を終えたら彼らの半分がクビになる。さて誰が勝ち残るのか?

新卒の若者達は5人。
Harper Stern: ハーパー
アフリカ系アメリカ人 小柄な女の子 頭がよく才能もあるが学歴を誤魔化して入社。
Yasmin Kara-Hanani:ヤスミン
裕福なレバノン系の家庭出身の女の子 スペイン語とアラブ語、フランス語を話す 美人
Robert Spearing:ロバート
労働者階級から努力してオックスフォード大学卒 世間知らず
Gus Sackey:ガス
アフリカ系 イートン校~オックスフォード大学卒 古典文学専攻 ゲイ
Hari Dhar:ハリ
ヒンズー語を話す努力家のインド系

この5人が投資銀行に入ってからのサバイバル・ゲーム。全員若い人達なので色恋が盛んなのは理解できる。しかし…全体に散りばめられたソフト・ポルノがあまりにも多すぎる。毎回毎回全エピソードで男女が裸になってベタベタと湯気を出す。残念ながら全然よくない。描写があまり綺麗じゃない。生々しく不快。ストーリーにはものすごく邪魔。 そもそも(個人的に)自分の子供(より若い)世代の若者達の性生活に興味が湧くはずもなし。

そんなわけで3話目4話目ぐらいから「もう見るのやめようかな」と思ったのだけれど、とりあえず見続ける。そうしたら最後の6話7話8話あたりで社内の派閥争いの話が少し面白くなってきた。最後は「あれ…?これ面白いのか?もしかして…」

「それならもう一回見てみよう」と3話から再度見直す。セックス・シーンは全部早送り。というわけで一気に見たら結構楽しめた。よ~く見ればそれぞれの人物達の心理描写も面白い。


ネタバレ注意

主人公のアフリカ系の小柄な女の子ハーパー。その上司・中国系のエリックとの関係がいい。それが話の軸。

エリックは米国ニューヨーク出身の中国系。おそらく名門校は卒業していない。業界では叩き上げで今の地位に上って来た。彼は学歴だけの無能な者達を馬鹿にしきっている。年齢は40代後半だろうか。

現在エリックはPierpoint 社のManaging Director of Cross Products Sales。 その彼が、学歴を誤魔化して入社してきたハーパーを可愛がる。ハーパーは頭がいい。彼女の才能と将来性を見抜き、エリックは彼女を一人前に育てようとする。第1話で取引に成功したハーパーにエリックが言う「この気持ちを忘れるな」。そのシーンがいい。


エリックがかっこいいですね

この短気で昔気質の上司・エリックがこのドラマで一番魅力的に思えるのは、私が古い人間だからだろうと思う。彼は結果を出すことが全て、部下にも同じく結果を出すことを求める。人を力で威圧し常に大声を出す彼は気性が激しく、部下をこき下ろし怒鳴り…本来決して魅力的なはずも無いのに、このドラマでは彼が一番魅力的だ。ハーパーを「ハープシコード」とニックネームで呼び娘のように可愛がる様子もまた微笑ましい。アジア人の彼が一見ミステリアスで何を考えているかわかりづらいところもまた魅力なのだろう。彼の魅力がこのドラマを救っている。


そしてハーパーもエリックの期待に答えようとする。しかしプレッシャーから失敗。その失敗を薬でハイになってごまかそうとする。さらに墓穴を掘る。そして(ほぼありえないが)運よく難を逃れる。エリックは間違ったら報告しろと諭す(←第4話 面白い)。また(新卒なのに)ハーパーのアイデアを会議で発表させる…エリックはそれをサポートする。エリックはよほどハーパーに期待しているらしい。ハーパーも期待に答えようと頑張る。それが見ていて楽しい。

…しかし邪魔も入る。社内での派閥争いにも巻き込まれる。女性上司ダリア(ハーバード・ビジネス・スクール出)は威張り散らすエリックが面白くない。また金融業界の男社会を変えようとする女性上司サラもいる。彼女達がパーパーを自分達の目的のためにチェスの駒のように操る場面もある。その話が出始める5話あたりからだんだん面白くなってくる。


他の新卒のメンバーはどうなのか…
 最初から頑張りすぎたハリ。 
 語学堪能で社交的で人当たりもいいが、その恵まれた出身と女性であることで上司に散々苛められる、「No」と言えないヤスミン。 
 エリックに文系の高学歴であることを馬鹿にされ、Pierpoint社には自分の居場所がないと言うゲイの男の子ガス。 
 周りに飲まれやすく同僚に進められるままドラッグに手を出し(他の皆もやっているが)、同僚のヤスミンに鼻の下を伸ばし、落ちぶれた上司には幻滅、混乱し、女性上司には無能だと苛められる世間知らずのロバート。 
…彼ら4人がサイドを飾る。


キャラクター達ひとりひとりを見ればそれなりに面白い。 しかしあの生々しいセックス・シーンは何とかならないものかと思う。あまりにも多すぎ。そもそもヤスミンとボーイフレンドや、ハーパーと元彼とのシーンはメインのストーリーには全く関係ないだろう。その上でロバートとヤスミンとハーパーが三つ巴になりかけたり、ガスと同僚(大学時代の友人)とのゲイセックス…等等あるわあるわ…あまりに多すぎ。

そして過剰なドラッグのシーン。  

このドラマの主人公達は金融業界に入ってきた新入社員の20代前半の若者達。だから制作はターゲットの視聴者を大学生ぐらいの若い人達に設定したのかもしれぬ。

そこで大量のセックスとドラッグのシーンを投入。というのも一般の20代の若者は、金融業界なんて1ミリも興味がないだろうから。金融業界の話で釣れないから、刺激的な男女のからみや薬のシーンで若い視聴者をつなぎとめる…そういうことなのだろう。

また80年代からよく言われてきた「金融業界は乱れている…日々札束が舞い、薬や女や酒でやりたい放題」というステレオタイプをなぞっているだけのようにも見える。それさえ描けば一定の視聴者は興味を示してくれる。デカプリオの『ウルフ・オブ・ウォールストリート/The Wolf of Wall Street』などの前例もあることだし。


そもそもこのドラマ、派閥争いや人物達の心理描写はあるけれど、実際の金融の取引は(ハーパーのいくつかのシーン以外)ほとんど描写されない。金融業界についての『Industry/業界』とタイトルをつけたドラマを制作しながら、結局金融を描かない…描けないのであれば残念。なぜなら社内の派閥争いや、上司と部下の関係、仕事上の失敗、師弟の関係、社内恋愛その他諸々…等の会社の内部事情を描いたドラマなら、金融以外の…例えば、広告業界や商社の設定でも成り立つからだ。金融業界のドラマである必要はほぼ無い。


またこのドラマは現代のロンドンのシティの様子を描いたドラマなのだけれど、シティを知る人によれば、このドラマで描かれたキャラクター…パワハラ気味の上司エリック、モラハラ上司のケニー、セクハラ上司ヒラリーの振る舞いは、今から10年~20年ぐらい前の業界の様子を極端に誇張して描いたものだろうと言う。今どきこのドラマで描かれたような極端なモラハラや、(#MeTooの今の時代に)セクハラもまさかないだろう。 

それから叩き上げの優秀なエリックのような人の数も減っている。今はほぼ高学歴しか金融業界には入れないのだそう。80年代までは大学を出ていない人が金融業界に入ってきて大成功する話もあったらしい。ヤッピーの時代の話。


というわけで…投資銀行の新入社員たちの迷いや戸惑いをメインに、仕事の内容はほとんど描かず、社内の内部事情を少しだけ描き、余った隙間に若者達の不毛なセックスを散りばめて全8話の尺に伸ばしたドラマ。 「得体の知れない金融業界の人々…魑魅魍魎」を冷めた目で描くのがテーマだろうか。一見シリアスでスタイリッシュだが、実際は…いかにも金融業界ステレオタイプ的な極端な状況描写をブツ切りにして並べただけで、人物達の描写も薄い。

そもそも脚本家二人が金融業界に馴染まず辞めた人達なわけで、エンタメのために業界の人々を極端に歪めて描くのも(業界内の人々にはフェアではないだろうと思う。金融業界の人々は、実際にはほとんどが真面目で、プロフェッショナルで、常識的な、普通の人々であることも、このドラマでは全く描かれていない。

それにこれは新卒の若者のドラマ。それならもう少し若い人ならではのユーモアや子供じみたおかしさがあってもいいのにとも思う。もっとみんな若者らしくしていてもいい。 ドラマ全体が重苦しく、怒鳴られたり苛められたりセクハラされたり…、誰一人として登場人物達が魅力的に描かれていないのは大きな問題ではないか。

結局人物達に心を寄せられなければ、どんなにドラマのカメラワークや音楽が凝っていてかっこよくても、薄っぺらい印象のままで終わってしまう。面白いドラマになる可能性は沢山ありそうなのに、全体の印象が軽薄なのはもったいないなと思う。

さてこのドラマは2シーズンも決まったそうだが、…どうかな…見るかな。どうかな。



2021年6月7日月曜日

米ドラマ FX『Pose』(2021) シーズン3-1994 感想:セーフティネットとしての「家族」



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『Pose』 (2021) TV Series-Season 3/米/カラー
/約60分・全7話/
製作:Steven Canals, Brad Falchuk, Ryan Murphy』
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見終わった。終わってしまいました。あ~これで終わりか。名残惜しいな。このドラマは本当によかった。なんと言ったらいいのか…こちらの期待もあったし、それに答えてくれた部分もあれば、そうでなかった部分もある…全体にドラマシリーズとして完璧かと言えば、たぶんそうではない(エピソード毎のペースにばらつきがあり、内容もトーンも凸凹していてスムースな流れのドラマだとは言いがたい)。

しかしよかった。魅了された。なぜだ? 

私…きっとこのドラマのキャラクター達が大好きになったからなのですよね。彼/彼女達が好きになった。理由は色々。トランスの女性達がただただかっこいいこと。しなやかなゲイの男の子達もかっこいい。見ているだけでも嬉しい。そしてもちろんキャラクター達それぞれのストーリー…人物を描く脚本がきっと上手いのですよね。いろんなタイプがいてそれぞれが魅力的。皆の事をもっともっと知りたくなる。彼/彼女達がどうなるのか見守りたくなる。そして彼らの温かい「ハウス=新しい家族」のあり方もいい。だから…もうこれで終わり? すごく寂しい。


日本でのこのドラマは、米国より遅れてNetflix/ネットフリックスでリリースされると聞いている。だからファイナル・シーズンのネタバレを書くことはやめようと思う。誰がどうなってこうなる…などという話はやめよう。その代わり全体の感想を書く。

最終回は2時間でした(2エピソード分を一度に放送したらしい)。さっき見終わった。最終回は様々な事柄がてんこ盛りで…内容が多すぎるから多少無理をしながらも…なんとか綺麗にまとめた感じ。ちょっと疲れた。


それにしてもファイナル・シーズンの最終回を見てあらためて思ったのは、このドラマ…最初は1シーズンで完結の予定だったのではないかということ。シーズン1はそれだけで本当に綺麗によくまとまっていた。あれが元々このドラマの完成形だったのかも。そう考えれば、シーズン2とシーズン3が、様々な事柄を必要にせまられてとってつけたような印象だったのも納得できる。

というのも…シーズン1は人物達の心を掘り下げ、キャラクター達に寄り添ったパーソナルな物語だった印象。その後シーズン2とシーズン3は、政治や主張、LGBTQの人々の主張、抗議活動、社会活動の歴史、HIVに関する医療関連の事実などなど…無知な視聴者にとって教育的な内容がかなり多いと思ったから。私もなるほどと考えさせられたし学ぶことも多かったのだけれど、…しかしこれはどうだろう…制作者達は最初からこういうドラマにするつもりだったのだろうか?

私はシーズン1を見て、このドラマはトランス・ジェンダーの女性達の日常、彼女達の複雑なアイデンティティと繊細な心を描く話だと思ったのですよ。だから3シーズン全体を見た後では…ちょっと印象が違った。

しかしながら、シーズン1のエンディングでその後の彼/彼女達がどうなるのか、はっきりとした結論を出さずに終わったのに比べ、シーズン2では社会を描き、シーズン3では時代の移り変わりを描いたことから、全シーズンで(時代の流れに沿った)キャラクター達の生活の変化と将来への希望が描けたのはよかったと思う。うまくまとまりましたね。


ではこのドラマで描きたかったのは何だったのか?
ちょっとリストアップしてみよう。

 トランス・ジェンダーの女性達
 80年代後期から90年代のニューヨークのボールルーム・カルチャー
 LGBTQの人々の日常と恋
 LGBTQの人々と(彼らが生まれ育った)家族との難しい関係
 LGBTQの人々がHOUSEに集い家族として助け合って暮らす
 LGBTQのコミュニティーに広がるHIVの恐怖
 AIDS Coalition to Unleash Power (ACT UP)/エイズ解放連合の活動
 トランス・ジェンダーの女性達に迫る暴力
 LGBTQの権利の主張、差別に対しての抗議活動
 HIVのケアで起こる人種差別問題への抗議活動
この中でシーズン1のテーマは上から6項目まで

またこのドラマのシーズンごとの構成は、

人物達のパーソナルな話でシーズン1をスタートし、
シーズン2ではHIVの脅威と、「LGBTQの人々 VS 社会」を大きなテーマにし、
そして最後のシーズン3では社会的なお題を散りばめながらも、キャラクター達それぞれのストーリーを完結。


そしてこのドラマ全体の大きなテーマは、世の中から受け入れられなかったLGBTQの人々が共に助け合って「家族」をつくり助け合いながら生きていく話

…彼らのコミュニティーの中の誰かが、リーダー/Mother・Father/お母さん・お父さんになってHOUSE/ハウスを作り、皆がその元に集まって共に暮らす。(まだまだ差別や偏見の多い世の中では)彼/彼女達が個人個人で生きることは難しい。だからそんな社会的に弱い者達が「家族」として共に暮らし助け合う。彼らにとっての新しい「家族」というセーフティネットを作る。

結果…自分の属する「家族」のサポートがあるから何があっても帰ってこれる場所ができる。失敗をしても「ハウス/家」に帰って来てまた出直せる。やり直してまた生きていける。「家族」のメンバーが弱い者を手助けし、皆がいつか独立できるようにサポートする。そんな「家族」の元で、メンバーは学校に行き、仕事を探し、結婚し、誰かが亡くなればまた「家族」として送り出す。そんな「家族」の物語。

彼らは常にお互いをサポートして励まし合って生きていく…彼らのストーリーに私達視聴者が魅了されるのは実はそういうところなのかもしれないとも思った。


現代の都会の若者達を考えてみる。例えば日本…地方の若者が18歳で東京に出て来て学校を卒業し就職して生活している。彼らの多くは一人暮らし。日々必死に頑張っているけれど、もし仕事で行き詰ったら、失敗したら、上司と上手くいかなかったら、もしリストラされたら、もし将来ずっと一人だったら、結婚しなかったら、離婚したら、そして一人暮らしで病気になったら…。彼らのセーフティネットはどこにあるのだろう?


このLGBTQの人々をテーマにしたドラマ『POSE』を見ていて…いかに彼らの「家族」のあり方が羨ましく思えたことか…。彼らはいつも助け合っている。シェア・ハウスの友人達というよりも、ずっと親密で誠実で思いやりに溢れた「新しい家族」

彼/彼女達は共に寄り添って自分達のためのセーフティネットを作った。

もしかしたらこのドラマの「新しい家族」のあり方は、LGBTQのコミュニティーだけに限らず、現代社会の誰にとってももっと必要なものなのかもしれない。核家族化が進み、若者は地方を離れ都会に出てきて一人暮らし。人と人の繋がりは薄れ、隣に誰が住んでいるかもわからない孤独な都会の生活。

…実は(私以外の)視聴者も皆、このドラマで描かれたLGBTQの人々の「家族」のあり方がとても羨ましいのではないか? だから私達はこの「家族」のドラマにこんなに魅了されてしまうのではないか?


ああ…それにしても終わってしまったな。ビリー・ポーターさん最高。最後のボールでのシーンも最高。ブランカは(胸は平らでも)しなやかな女性の身体なのに、ビリーさんはがっつり筋肉質のオトコなのね。それにもびっくりした笑。かなりスタイルがいい。そして最後の鏡の前のシーンは大女優の風情。素晴らしい。このドラマが終わってしまって、もうビリーさんのプレイ・テルが見れなくなるのはちょっと哀しい。

MJロドリゲスさんのブランカはもう女性にしか見えない。このシーズンの彼女は本当に美しかった。皆も本当に綺麗だった。エレクトラのエレガンス。ルルの女の子っぽさ。そしてエンジェルのセクシーないい女っぷり。みんな本当に綺麗。


話の最後は1998年。HBOチャンネルで『Sex and the City』のシリーズが始まった年。ブランカ、エレクトラ、ルルにエンジェルがランチを食べながらそのドラマの話をしている。彼女達が『Sex and the City』のパロディ風に4人並んで歩くのも楽しい。

そんな彼女達が並んで歩く様子を見て「ああ…トランスの女性達には敵わないな」と正直思ってしまった。手足の長いアンドロジナスなかっこよさは…(女として生まれた)女には真似できない。あのかっこよさには敵わない。本当に素敵。エレクトラの背の高さ…エレガントさにぽーっと見とれる。ほんと。私がドラァグ・クイーンが異常に好きなのは…つまりそういうことなのだろう。彼女達のアンドロジナスなかっこよさに憧れるのだろう。天を突くような大柄な女性達。なんとかっこいい美しい人々だろうと。

そして男の子達。すぐ泣くパピちゃん…下がり眉で泣く顔がかわいい。ダンスの上手いリッキー君もかわいい。そう、このドラマのゲイの男の子達は皆かわいい。ちょっと女の子っぽくて。プレイ・テルのビリーさんもかわいい。


ともかく…最後のエピソード7を2時間もかけて見終わって感無量。

それにしても内容が…辻褄が合っているのかわからなくなった話もあった。…ブランカはシーズン1でHIVだと宣告されているのに、どうして恋人ができるのか? シーズン2でプレイ・テルとリッキーがが仲良くなったのも、あれはHIVの問題はなかったんだっけ?ちょっとわからなくなってる…ので、ネットフリックスでもう1回全シーズンを見ようかなと思う。2回目に見たらまた違うものが見えてくるかもしれない。うん…見直そう。もう一回見直そう。そうしよう。

というわけで『POSE』見終わりました。終了しました。感無量です。このドラマの俳優/女優さん達にはこれからも活躍して欲しい。皆様おつかれさまでした。

いつか番外編をつくってほしい。


2021年5月23日日曜日

英ドラマ FX『ブリーダーズ 最愛で憎い宝物/Breeders』(2021) シーズン 2:思春期の息子と我の強い父親





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『Breeders』(2020-) TV Series – Season2/英 ・米
/カラー/約30分 ・全10話
Creators: Chris Addison, Simon Blackwell, Martin Freeman
Season 4 US Release Date: March 22, 2021
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米国FXでの放送は2021年3月22日から5月17日まで。全10話。

先日シーズン2を見終わった。感想を書くためにもう1回視聴。やっぱり面白い。ますます考えさせられる。食わず嫌いで嫌がる旦那Aにも今見るように進めている。週末に第一話を見せたら「思ったより悪くないね」と言いやがる。「ちょっと見たほうがいいわよこれ」…子供がいてもいなくても。


ロンドンに暮らすポールとアリーのWorsleys家の夫婦。シーズン1 の頃から6年が過ぎた。彼らの長男ルークは13歳。妹エヴァも10歳(シーズン1 ではルークが7歳、エヴァが4歳)。

シーズン1 の…真夜中に騒ぐ子供達を怒鳴りつけるような…バタバタとケオスな子育ての時代は終わって、今シーズンの子供達はずいぶん大人びてます。今回の大きなテーマはWorsleys家の夫婦が、繊細な長男ルークとどう向き合っていくのか。そして中年期を迎えたポールとアリーの心。

正直で恐ろしいほどリアル、そしておかしいのに、見につまされる。ああ子供を育てるって大変だ。ティーンの子供の気持ち、それに中年期の両親の戸惑いもよくわかる。


★ネタバレ注意

すぐにキレる、気が短か過ぎる父親ポール。前回と同じように今回もF-word満載。彼はあまりにも気が短くて問題なので「アンガー・マネジメント」のセラピーにも通っているのに、効き目は全くなし。それどころか「怒りは健康的だよ。俺は親父のように怒りを抑えたくないんだよ。誰が自分の親父みたいになりたいと思う?あんなの胃潰瘍になる。怒りは爆発させた方がいいのだ」などとセラピストに説教する笑。こんな男の性格がヤワなセラピーなどで変わるわけがない笑笑笑。

ところがそんな「ダイレクトで直情的で、だからこそ男らしくて健康的」だと信じているポールの父親としてのあり方が、繊細な長男ルークを日々傷つけていた…。

シーズン2の要は父親ポールと息子ルークの…何と言ったらいいのか…

相性の悪さ

なのかなぁ。親子の相性の悪さ。難しい問題。お父さんと息子の性格が正反対だったら…。


ティーンの子供と向き合う。難しいテーマ。何よりも…子育てをしていない私には、正直なところ完全に未知の世界。もちろん私自身も一度はティーンだったしその頃のこともよく覚えているけれど、今の時代にティーンの…自分とは性格が違う子供を育てることの難しさは、ほとんど想像することもできないほど遠くの世界。


父親ポールは…マーティン・フリーマンさん。御本人は1971年生まれの49歳。私より少し年下だけれど、まぁそれほど世代的には変わらない。だから彼が演じるポール(40代後半ぐらいだろうか?)の思い描く「理想の父親像」「理想の息子のあり方」、そして彼の考える「理想の父と息子の関係」もだいたい想像できる。

例えばポールは、ルーク君の13歳の誕生日だからと、彼へのプレゼントにちょっと高級なカメラ…だとか、エレキギターにアンプで大きな音を出したいだろう…とか「13歳のオレの息子はこんなものが好きだろう」と、自分勝手に決め付けて「それがいいだろういいだろう」と自分の好みを息子に押し付けようとする。

きっとポールはルーク君に、元気で外交的で、いつも外に出て友達も沢山、毎日外でサッカーの練習をして、男の子らしく活発な息子でいて欲しいのだろう。 そして息子が「カメラやギターが欲しいだろう…」などと言うのも、それらはきっと自分が13歳の時に欲しかったものだったのだろう。そんな自分本位で自分勝手な父親ポールは、ルーク君の話を聞くこともせず、どんどん勝手に物事を決めていく。

ところがルーク君が欲しいのは「新しいスマホ」。
ルーク君は繊細で、アーティスト気質。
クラスメイトは皆俗物だと言い、学校のクラスでもいつも一人。


「俺の息子が、娘が…そんなはずはない」それがこのシーズンの大きなテーマかもしれません。特にルークとポールは性格が正反対。辛いね。


そういえばルーク君は13歳。ということは…だいたい日本で言うところの「中二病」というやつかもしれない。だいたい13歳ぐらい。身体の変化に精神の変化も加わって、そのせいで両親との関係も変わってくるし、学校の友人や先生との関係なども変わってくる。自己のアイデンティティも定まらないし、13歳の頃とは…誰もが一度は通る悩みの多い時代。

それにしても私は子供はいないし、普段から子供に接する機会も少ないし、それにティーンの子供と親の関係のリアルな状況を見る機会もあまりない。 このドラマを見て改めて親の立場として、子供のそんな「中二病時代」に向き合うことを「さて私ならどうするだろう?どうすればいいのだろう?」と自分に問いかけてみたら…

ほぼ100%…全く想像すらできない


ことに気がついた。ああ…ここなのかもしない。「親になるってどういうこと?」の問い。これこそやってみなければ全くわからない。こればかりは想像しても仮説さえ立てられない。「ティーンの子供にどう接するのか?」これが…親になることの一番大きな山なのかもしれない。


ところで私はこの(問題の多い)気の短か過ぎるポールさんが決して嫌いではないのだ。ポールは直ぐにキレるし爆発するし常にイライラして強気のゴリ押しばかりやっている…子供にとっては、もう本当にめんどくさい父親なのだけれど、しかし彼の心の中は手に取るようにわかる。正直で真面目で…そして彼は彼なりにとことん子供を愛しているのね。子供達を心配するから子供達の間違いを厳しく正そうとするし、細々と重箱の隅をつつき、理想を押し付け、無理強いもする…。彼は子供達のいい父親であろうと一生懸命。それなのに、うまくいかない…うまくできない。いつも空回り。

そんな「子育てのうまくいかなさ」が本当にリアルで、おかしくて、また哀しくて…。脚本が巧みなのだろう。こんなにリアルに親子の関係を描いたドラマもなかなかないのかもしれない。

子育ては大変。しかしポールとルークはぶつかりながらもそれぞれ間違いなく成長している。


ポールとアリーの夫婦。中年期に入って彼らもまたそれなりの戸惑いや心配事もあるのだけれど、それでもこの二人は仲がいい。二人とも驚くほどお互いに正直で、時にはののしり合いの口喧嘩もするのだが、それでもやっぱり二人はいい友人同士。シーズン1 の感想でも書いたが、この二人は心の底にある同じ価値観でつながっている。だから色々あっても大丈夫。

それから愛らしく…しかしとても常識的なポールの両親。温かくてすごくいい人々。この二人の元でなぜポールはあんなに短気に育ったのだろう笑。 そして人生を謳歌するアリーの母親。彼女もかっこいい女性。そして彼女の素敵な恋人。このドラマは脇の人物達の描写も巧み。特にポールの両親の思慮深い言葉には何度も頷いた。


それにしてもシーズンの締めの9話と10話は…あまりにも想定外で…びっくりした。このシーズン2の中途半端な最後は意図的なものだろうか?こんな終わり方をしたら、いろいろと考えてしまうではないか。びっくりした。Worsleys家は大丈夫じゃないのか?

Worsleys家のことは最後の最後まで全く心配していなかった。アリーが「家族が壊れている」とか「もとに戻らない」などと言う台詞を聞きながらも、「な~んだ家族が壊れるって…大袈裟だなぁ。まだまだWorsleys家は大丈夫大丈夫」だと思い、ルーク君が父親ポールにしっかりと対立、抗議しているのもいいことだと思った。ルークが父親にパンチをかましたときも「よしっやったっ!」と思わず笑った。その場面もやっぱりコメディだと思っていた。最後まで全く深刻に捉えていなかった。

しかし…結果はかなり深刻…なの?
一体全体どうするのだろうこのドラマ??
さぁどうなる。このまま終わってしまうのか?


EPISODES --------------------------------------------------

1 No Surrender
長男ルークの13歳の誕生日が近づく
2 No Fear 
ルークは繊細で神経過敏。学校でも苦しんでいる 中二病か?
3 No Connection
子供達は大きくなりすぎて以前のような家族の団欒も難しい
4 No Faith
長女エヴァが宗教に興味を持った?
5 No Baby
アリーが妊娠?
6 No Choice
不妊治療。夫婦の危機。
7 No Excuses
夫婦の危機は続く。ルークが学校に馴染まない。
8 No Friends
ルークの新しい友達。エヴァ、アリー、ポールそれぞれの友人達。
9 No Power Part I
ポールの両親の結婚50年記念日パーティ。ルークの嘘と失踪。
10 No Power Part II
アリーの母親の再婚。ルークの抵抗。
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2021年5月20日木曜日

米ドラマ FX『Pose』(2021) シーズン3-1994・第4話まで放送中







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『Pose』 (2021) TV Series-Season 3/米/カラー
/約60分・全7話/
製作:Steven Canals, Brad Falchuk, Ryan Murphy』
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アメリカでは5月2日からFXのドラマ『POSE』のシーズン3 が放送されてます。先週の日曜日に第4話が放送された。私はこのドラマの大ファンでシーズン1 から感想を書いているのだけれど…、今回はなんとファイナル・シーズンだそうだ。なんだもう終わっちゃうのね。

シーズン1は傑作だと思った。そしてシーズン2では「質が堕ちた、方向が変わった」と私はこのブログで文句を書いた。こういうテーマならもっといいドラマができるはずだと期待した。去年は新型コロナのために撮影が出来ず、放送もなかった。そして今年はファイナル・シーズン。

今回は既に良作の兆し。今4 話まで放送されているのだけれどとてもいい。シーズン2 で気になった「彼らを見つめる冷たい外からの目線/面白いものを外から観察する目線」が減って、今シーズンはまた(シーズン1 のように)個々のキャラクターに寄り添って彼らの内面を描く内容になっている。よかった。


特に先週の第4話/エピソード4 は素晴らしかった。 内容は…ビリー・ポーターさんの演じるプレイ・テルのAIDSの病状が悪化。そこで彼が(随分前に離れた)彼の家族に会いにいく。プレイ・テルが実家に帰ってお母さんやお姉さん達、幼馴染に会う話。

唸りました。このエピソード4 だけで一つの短編映画のようだと思った。特に劇中のビリーさんの歌「This Day」はTVの画面に釘付けになった。彼は本物。本当にすごい歌のアーティスト。今まで見た中で最高の歌い手じゃないかとさえ思った。 そのことを書こう書こうと思っていたら、昨日ビリー・ポーターさんのニュースが聞こえてきた。


『POSE』のプレイ・テル、そしてブロードウェイ・スターのビリー・ポーターさんは、14年前の20017年にHIV陽性者だと診断されていた。


日本のYahoo!ニュースで知った。このニュースが海外のメディアに今出てきたのは、もしかしたら『POSE』のエピソード4 が放送されたからかも知れぬとも考えた。というのもプレイ・テルの話は、ビリーさん御本人がHIV陽性者であることと平行しているから…だからあんなにリアルだったのか。だからあんなに苦しくなるほどの熱演だったのか。だからあれほど心を動かされたのか。


私が最初に『POSE』でのビリーさんを見ていて「あっ」と思ったのは、3年前のシーズン1 でのシーン…プレイ・テルが初めてHIV陽性者であることを医師から告げられる場面だった。検査の結果を告げられたプレイ・テルが一人病院の部屋に残って椅子に座り…押さえ切れず彼の感情と涙があふれ出す場面。彼は一人泣く。そして感情をなだめ心を整えて部屋から出る。そして外で待っている友人達に「大丈夫だったよ」と笑顔で告げる。嘘をつく。  …その一連の場面が心に残った。そこから私はビリー・ポーターさんに注目するようになった。

あのシーンの表情は…ビリーさん御本人の過去の経験からくるものだったのだ。本物だったのだ。そんなことを昨日のビリーさんのニュースを見て考えた。



私は正直未だに(おそらく)HIV、AIDSのことをよくわかっていない。1983年にクラウス・ノミが、1991年にフレディ・マーキュリーが、1992年にティナ・チャウが、ああそうだ1990年にはキース・ヘリング、1989年にはロバート・メイプルソープの記事も見た。1985年にはロック・ハドソンのニュース。1993年にルドルフ・ヌレエフもそうだったとは…今まで知らなかったかも。どうだったろう。

あの頃、80年代半ばから90年代にかけて、それらの海外のニュースは確かにメディアから聞こえてきていた。記事を目にしていた。そういえば1991年にはマジック・ジョンソンがそうだとも聞いた。 しかしその後、いつの間にか日常でHIV、AIDSのことが話題になることはなくなっていった。1995年以降にはHIV、AIDSの大きなニュースを見た記憶もなかった(と思う)。その後その病気のことがどうなっていたのか私は全く知らなかった。

一番最近でHIV、AIDSのことを聞いたのは、米国のリアリティ・ショー『Rupaul’s Drag Race』のシーズン1 のエピソードだった。コンテスタントのオンジャイナ/Onginaさんが、番組内でHIV陽性者だと明らかにした。そしてぼんやりとではあるけれど「HIVも最近はいい薬があって以前ほど命に関わる病気ではないらしい」ということも同じ頃に知った。マジック・ジョンソンさんは今もお元気だとも聞いている。

(病気の詳しいことはわからないが)だからビリーさんがHIV陽性者であると聞いても今心が重く沈むことはない。彼はお元気だしきっと大丈夫。今はきっといい薬があるのだろうと思う。 

それにしても昨日のビリーさんのニュースを聞いて、『POSE』のプレイ・テルのキャラクターの設定がHIV陽性者であることは最初から意図したことなのだろうかと思った。第4話を見ればわかる。ビリーさんはプレイ・テルを全身全霊で演じていらっしゃる。


このドラマで私が見たいのは人間のストーリー。彼らがゲイだからトランスジェンダーだから…という前提だけのストーリーではないのだろうと思う。人であるなら誰もが経験する事柄…人生での戸惑い、家族や友人との絆や友情、そして仲たがい、人との関係での喜びや、また苦しみ…そんな普遍的な話が見たい。

今回のシーズンは完結編。それぞれのキャラクターのストーリーをまとめようとしているようにも見える。第1話はシーズンの華やかなオープニング…1994年のボール・ルームの様子。第2話はプレイ・テルのアルコール過剰摂取の問題。そしてブランカがボーイフレンドの家族を訪ねる話。第3話はエレクトラと彼女の母親との過去。そして第4話はプレイ・テルの家族。 シーズン2のように「世間 VS 私達のコミュニティー」のテーマよりも…個々のキャラクターをめぐる人と人の関係の話が多い。個人の心の話、個々の心情や、過去を掘り下げた話…そう、私はこういう話がシーズン2でももっと見たかった。


それにしてもこれで最後のシーズン。シーズン1が1987年で、2が1990年、今回3が1994年ならば、そろそろ終わりなのも納得。 しかしこういう話は1987年で始まったのなら、毎シーズン1年ずつ進んで全部で5シーズンぐらいやってほしかった。もっともっと個々のキャラクター達の家族や、子供時代、学校での経験や、アイデンティティの意識の流れ、出会い、愛、そして友情。そして彼らならではの生き辛さや困難。また彼らに理解を示してくれた(外の)人々との関係などなど…もっともっと掘り下げて欲しかった。このキャラクター達のストーリーがもっと見たい。

『POSE』シーズン3 は全7話。米FXにて日曜日に放送中。残り3話。
女性達がますます綺麗です。







2021年3月30日火曜日

仏ドラマ France 2/Netflix『エージェント物語/Dix pour cent/Call My Agent!』(2017) シーズン2






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『Dix pour cent』(2017) TV Series – Season2/仏
/カラー/約52分 ・全6話
Creator: Fanny Herrero
Original Air Date: 19 April 2017 (Fr)
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Netflixの『エージェント物語』シーズン2です。シーズン1の感想を去年の10月に書いているので,随分のんびりなスケジュールで見てます。シーズン2は今年の2月ぐらいに見終わったのかな。

ドラマはすごく楽しんで見てます。面白いですこのドラマ。(以前シーズン1の感想でも書いたように)エージェンシーと俳優達とのそれぞれ単発のエピソードも面白いが、メインのストーリーはこの芸能プロダクション「ASK」の社員たちの話。社員のメンバーは固定なので彼らの話は良く出来た連続ドラマとして見ることができる。

前回のシーズン1では「会社がどのように進んでいくのか?」がメインのストーリーだったように思うが、シーズン2の要は個々の社員たちの恋愛模様…会社「ASK」内の社内恋愛事情。全員で10人ほどの社内で社員同士がくっついたり離れたりしているのは、あまりリアリティがあるとも思えないが…そこはドラマ。範囲が小さいからわかりやすく感情移入もしやすくていい。

「ASK」の社員は
凄腕ハンサム熟年=マティアス(Thibault de Montalembert)
勝気有能なレズビアン=アンドレア(Camille Cottin)
髭面優しいが弱気男=ガブリエル(Grégory Montel)
マティアス命な女性=ノエミ(Laure Calamy)
新しい社長=ヒシャム(Assaad Bouab)
マティアスの娘=カミーユ(Fanny Sidney)
女の子みたいなアシスタントの男の子=エルヴェ(Nicolas Maury)
ゴージャスな受付女優の卵=ソフィア(Stéfi Celma)
超ベテランの女性=アーレット(Liliane Rovère)

それに
マティアスの奥さん=カトリーヌ(Philippine Leroy-Beaulieu)
マティアスの息子=イポリー(François Civil)
カミーユのお母さん=アニーク(Isabelle Candelier)
アンドレアのガールフレンド=コレット(Ophélia Kolb)

を加えてストーリーは進む。彼らがくっ付いたり離れたりするわけですがまぁ面白い。


メインの登場人物達が大変魅力的。それぞれに感情移入してしまう。それぞれを見守りたくなる。なぜなのか? それは彼らが完璧ではないからなのですね。

みんなほぼ全員がどこかでつまづいている。どこかで間違っている。ミスを犯している。間違った選択をしている。…みんな決して完璧ではない。しかしだからこそ私は彼らを応援したくなる。


★ネタバレ注意

マティアス。一見超かっこいい熟年凄腕エージェント。ハンサムなのは自覚しているだろうし、若い頃から女性にモテモテだったろうことは…彼の首の後ろの長い髪でもよくわかる笑。いつもコートの襟を立ててかっこいいオジサンなのですよ彼は。有能でルックスもいい凄腕の仕事人…だから奥さんも美人で資産家の娘。このマティアスさんは色んな意味で人生を肩で風を切って生きてきたかっこいい男なのですね。

ところが、そんな彼の完璧な人生がカミーユの登場で狂い始める。若い頃のマティアスの一時の気の迷い…シーズン1の最後、マティアスは家族にカミーユのことを話して奥さんから家を追い出されるのだけれど、シーズン2ではその後が描かれる。

それがまぁ大変。今まで完璧な人生を送っていた彼が落ちる落ちる…その描写はリアルで生々しく…しまいには両手で顔を抱えて泣き崩れるマティアス。それを見てかわいそうになるわけです…そう、彼はその弱さで魅力的に見え始めるのですよ。


上にリストをつくった登場人物達も…劇中で何かの間違いを犯す。そして皆それぞれ悔やんだり悩んだり泣いたり絶望したりする。その彼らの悲しみや苦しみや後悔を見てうんうんうんと頷き…彼ら/彼女達に感情移入するにつれ、私はますますドラマにハマっていく。

面白いドラマとは、人の弱さを描いてこそなのかも。そんなことを改めて考えさせられる。

ボロボロのマティアス。女遊びをして恋人を怒らせるアンドレア。嫉妬にかられてガールフレンドのチャンスを奪うガブリエル。ただただ都合のいい便利な女ノエミ。…間違いを犯して泣き悔やむ彼らを…どうして嫌いになれるだろうか。

もう彼らのことが好きになってしまうのね。愛してしまう。見守りたくなる。なぜなら彼らが弱い人間だから。

事実世の中に完璧な人などいない。

なぜこのドラマに夢中になってしまうのか。
人の魅力とはその弱さ=vulnerabilityにあるのだ…と思わせられる。そういえば同じような事を、アメリカのドラァグクイーンの大御所ルポールさんが言っていた「愛されるドラァグスーパースターとは、完璧な人物ではない。人は人の弱さに惹かれるのだ」と。それ、本当だと思います。


シーズン2のエピソード6。エージェントのメンバーがカンヌ映画祭に出席する。その前に「ASK」を退社して実家に帰っていたカミーユに、マティアスが突然電話をかけてくる。映画祭のパーティーにカミーユを連れて行くと言う。カミーユが「服が無いわ」と言えば、突然マティアスが車で登場。タキシードを着たマティアスが黒いドレスを手に車から降りてくる。カミーユの笑顔。「靴がない」と言えば、母親が「じゃあこれを」とサンダルを差し出す。カミーユは嬉しそうに車に乗り、ママに手を振り、パパとパーティに出かける。

そのシーンが素敵で素敵で。これ。これですよ。フランスの映画やドラマってこういうドキッとする素敵な場面が出てくることがある。やっぱりマティアスはかっこいいパパなのね。

いいドラマです。シーズン3をゆっくりのペースで見ています。じっくり楽しみます。






2020年10月28日水曜日

仏ドラマ France 2/Netflix『エージェント物語/Dix pour cent/Call My Agent!』(2015) シーズン1





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『Dix pour cent』(2015-) TV Series – Season1/仏 
/カラー/約52分 ・全6話 
Creators: Fanny Herrero 
Original Release Date: 14 October 2015 (Fr) 
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Netflixで8月頃からだらだら見始めたドラマ。 シーズン1を見終わった。

すごく面白い。 

お洒落。オトナね。

日本に住んでいた時は西洋に憧れ、英国に住めば欧州大陸+アジアに憧れ、そして太平洋上に住めば欧州に憧れる。そんなわけでいいヨーロッパのドラマがないかな~とフランス発のドラマを見始めたらとても面白かった。これは大発見。


フランスのパリの芸能プロダクション(エージェント)の話。人と人がすぐ仲良くなるから面白い。さすがフランスは愛の国。

オトナのコメディ。中年オジサンはモテるし、レズビアンのかっこいい女性は男のように女漁り。若い娘も、エージェントのおっさんも、俳優同士もみーんなくっついたり離れたり。ひゃー面白い面白い。これぐらい毎回色々あるとすごく楽しい。


しかしながら、このドラマの中の人物達の恋愛事情はストーリの主題ではないのですね。誰がくっ付いて誰が誰を好きになって…というのはサイド・ストーリー。スパイスのようなもの。

ドラマの軸はあくまでも芸能エージェントが、いかに気難しい俳優、女優達に仕事を見つけて監督に斡旋し、プロジェクトを成り立たせ、そして会社をやっていくのか…なのです。

人の恋愛はスパイス

だから会社の話をメインコースとしてシーズンが続けられる。俳優や社員がドタバタやりながら会社がどのように進んでいくのか…のドラマなので、これならドラマとして延々とストーリーを続けられますね。フランスではすでにシーズン4まで続いているのだそう。ちょっと目から鱗。 


というのも近年、日本の若者向けのドラマの多くは「誰かの恋愛」がストーリーの要なので早く決着がついてしまうものが多い。ドラマの主題が主人公の恋愛ならだいたい5~10話くらいで終わってしまう。日本のドラマはそういうのが多いのだなとあらためて思った。


このドラマの構成は、毎回何らかの映画や舞台、ドラマなどの ①プロジェクトが一話完結であって、同時に ②会社の社員達のストーリーが連続ドラマとして続いている。…2つの内容で構成されていて、その両方が面白いので飽きない。 

個々のエピソードでの ①プロジェクト話の内容は…老いと戦う女優、2大女優の戦い、仲の悪い母娘の共演、犬猿の仲の男女…などなど様々。それぞれ に出てくる俳優さん達は、ドラマ内で皆御本人を演じているのだそうだ。それもまた贅沢。

②社員達もそれぞれ魅力的。一人一人全員がいい。それぞれのキャラクターが面白いので、それぞれの話の続きが見たくなる。よく出来たドラマです。


レズビアンのアンドレアが中性的な魅力で素敵。いつも思うのだけれど、フランスの女優さんは綺麗な人が多い。いや…カメラが女性を綺麗に撮るのだろう。フランス映画を見るといつも思う。女性の撮り方が英国や米国とは違いますね。女性同士がチューしても綺麗。撮影する光が明るいせいなのか、女性の目の色がとても綺麗。混血の大きな髪の受付嬢ソフィアもゴージャス。個別のエピソードの女優さん達もみんな驚くほど綺麗。

フランスの男性の俳優さん達は皆個性的ルックスの人が多いのにね。それも面白い。


とりあえず全6話のシーズン1を見終わった。会社は紆余曲折あってもなんとか継続している。第6話の最後、社員達がパリの街を歩きながら一人一人抜けていくのがとてもお洒落。いいシーン。 

シーズン1で答えが出なかった事柄もあるので、またシーズン2が楽しみ。ゆっくり見る。





2020年10月13日火曜日

米ドラマSHOWTIME『The Comey Rule』(2020) 全2話:大統領はワンマン社長






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『The Comey Rule』(2020-) TV Mini-Series/米 
/カラー/全2話・210 min 
Based on: A Higher Loyalty by James Comey 
Written and Directed by: Billy Ray 
Original release: September 27, 28, 2020 
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米国発TVのミニシリーズ。放送はケーブルSHOWTIMEにて9月27日、28日の二日間。


実在の人物による回顧録をベースにしたドラマ。著者は元FBI(アメリカ連邦捜査局)長官ジェームズ・コミー/James Comey氏。彼がFBIの長官だった任期は、オバマ政権時2013年9月4日から、トランプ政権に変わって5ヶ月間が過ぎた2017年5月9日まで。 

本来FBI長官の任期は10年にもかかわらず、彼はトランプ大統領に解任された。そして彼が書いた回顧録が『A HIGHER LOYALTY/より高き忠誠・真実と嘘とリーダーシップ』。この本をベースに彼が長官時代にかかわった2つの案件をドラマ化。


普段から政治の細々とした事柄を追っていない私のような者にとってこのドラマは「近年アメリカの政界で何があったのか」の復習/おさらいのようなドラマ。しかしながらこのドラマが、今年2020年の大統領選挙の直前にリリースされるということは、制作の側からの政治的バイアスがあることも知っておくべきだろう。制作の意図に一方的に惑わされないためには、まずこのドラマが

公正なジャーナリストによる事実の再現ドキュメンタリーではなく
既にバイアスのかかっている個人の回顧録を元に作られたものであること
また選挙戦に向けて制作の意図が視聴者の心を一方向に動かそうとするものであること。
そのため制作側の意図で多少事実の歪曲/脚色がされているだろうこと

を知っておく必要がある。最初から人の心を動かす意図で作られたドラマを見て、100%事実だと信じ込むことは避けねばならぬ。あくまでもエンタメとして見るほうがいいのだろう。事実を知りたければ検索して自分で調べればいい。


…というわけで、事実をよく知らない私には批評するのも難しい「実話ベース」の話なのだが、エンタメとして見ればかなりいいドラマ。面白い。脚本も演出も俳優さん達も巧み。素晴らしい。

まずこのドラマの主役、ジェームズ・コミー氏は、本のタイトルが示すように国と任務に「より高き忠誠」を誓った=大統領に従わなかった…善人。FBIのトップとして任務に忠実で、また大勢の部下にとって理想的な上司。皆に尊敬され愛された英雄だ。


彼がかかわった2つの案件とは。 

1. 2016年の大統領選前、クリントン候補の私用メール・アカウント疑惑。
2. トランプ氏が大統領に選出されてから、コミー氏が解任されるまでのやりとり


1話は、クリントン候補のメール疑惑に関して:
まずコミー氏の人となり。彼がFBI長官に任命される前、オバマ大統領がコミー氏と短く会話する。大統領はコミー氏に「あなたが任命されたら、このような会話は不可能になる。(FBIと権力は距離をとるべきだ)」と告げる。コミー氏も同意。彼のFBI長官としての立ち位置を示す。そしてFBIスタッフとの関係の紹介。 
1話の本題は、2016年の選挙直前。一旦7月に閉じたクリントン氏のメール疑惑のケースが、選挙日11日前になって再開されるドタバタ。

2話は、トランプ氏が大統領に選出されてからコミー氏の解任まで:
この2話目がこのドラマの主題。トランプ氏が国の大統領としていかに倫理的に相応しくないのか…をコミー氏とトランプ氏の関係から描く。トランプ氏は大統領になってすぐコミー氏を個人的に呼び出し、(自分にとって都合の悪い)ロシアに関する案件でコミー氏に個人的に「君に私への忠誠を期待する」と指図…大統領によるFBI長官の懐柔の現場を再現。

もちろんコミー氏はトランプ大統領に従わない。その後コミー氏はトランプ氏が大統領になってから5ヶ月で職を解任されることになる。


トランプ氏はどのような人物なのか? 

このドラマで描かれるトランプ氏はまるでマフィアのボス…いやワンマン社長そのまんま。彼は彼のトランプ帝国でのワンマン社長のやり方をそのままホワイトハウスにも持ち込んでいるらしい

能力に関係なく誰でも気に入ればかわいがる。気に入らなければクビ。このお方は、自社内でもそんなやり方を長年ずーっとやってきたのだろう。彼は同じやり方で大統領になってからも自分に都合のいいようにFBIの長官まで自分の意のままに操ろうとする。…きっとそれはコミー氏に対してだけではない。今まで4年間、様々な人々がトランプ大統領から任命され、そしてどんどん辞めていったことはニュースでもよく知られたこと。

トランプ氏がご自分の会社でワンマン社長であることは何の問題もない。しかしもし大統領が同じように振舞えばそれは独裁者と同じ。  

それがこのコミー氏の回顧録の再現で制作者側が伝えたかったことなのだろう。大統領選の直前に「現在の大統領とは基本的な倫理さえ持ち合わせていない人物」なのだとあらためて視聴者に知らしめる。その意図は成功している。役者さんの上手さとともに非常に面白いドラマだった。


分別のあるメディア/批評家は、この「事実を元にした」ドラマがいくつかの不正確さを含んでいる事を見逃さず、そのためプロの批評家によるこのドラマの採点は(ドラマとしての質の高さにもかかわらず)それほど高くはない。Rotten Tomatoesで68/100点。問題はコミー氏が良い人物に描かれすぎているということらしい。

しかしドラマとしてはかなり面白い。コミー氏のJeff Daniels氏、それからトランプ大統領を演じたBrendan Gleeson氏も素晴らしい。特に脚本のトランプ氏の言動がよく再現できているのが面白い。そして大変恐ろしい。


…最後に告げられる事実。クリントン氏メール疑惑の1話で描かれたFBIの捜査官たちは、トランプ氏が大統領になってから4年後の現在、誰一人も残ってない。アメリカ国民はそれがどういう意味なのかを考えるべきだろう。


私はアメリカの政治に関して一定の距離を置いて見ようとしているのだけれど、今のトランプ政権の謎を知るには、まずトランプ氏御本人の事を知るのが一番。

変わり者…あれほどの珍しいタイプの人物がどういうわけで大統領になっているのか? どういうわけで彼を支持したい人々がいるのか…を知ることは、今のアメリカの現状を知る上でのキーとなる。あるべき理想と個人の私利私欲が入り乱れたアメリカの政界。事実は小説よりも奇なり。これからも観察していく。

さて今回の大統領選はどうなるか?私には未だにどちらが勝つのかわからない。トランプさんはもう辞めたほうがいいよなぁ。トランプ氏は変人なのでどうにもならないのだけれど、彼を支持する人々が現実的にとても恐ろしいです。なんとかまともなリーダーが選ばれてほしい。



2020年10月6日火曜日

英ドラマ FX『ブリーダーズ 最愛で憎い宝物/Breeders』(2020) シーズン1:現代の子育て







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『Breeders』(2020-) TV Series – Season1/英 ・米
/カラー/約30分 ・全10話 
Creators: Chris Addison, Simon Blackwell, Martin Freeman 
Season 4 US Release Date: March 2, 2020
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英国発のドラマ。現代の家族のリアルな日常の物語。英国人俳優 Martin Freeman さんのアイデアから始まったプロダクションだそうだ。製作は英国の Avalon Television。英国から BBC と Sky、そして米国 FXの共同制作。アメリカでの放送は今年3月2日から4月27日まで。全10話。

作品そのものは随分前に見終わっていたのだけれど、私の夏のあたりの体調不良でそのままになっていた。そろそろ録画HDが一杯になってきたので感想を書いて録画を消さなければ。



主人公は短気ながらちょっとロマンチストの男 Paul (Martin Freeman) と、サバサバ現実的な気の強い出来る女 Ally (Daisy Haggard)。年齢は俳優さんの年齢と同じぐらいだろうか。Paulは40代後半。Allyは30代後半から40代前半。子供は2人。 

このドラマは都会の忙しい男女がどう子育てをしているのか(+それぞれの両親との関係)を、現実的にリアルに描く。現代の家族とは? 


完璧な親などいない
完璧な家族でなくてもいい
それでもOK…いろんなことがあるけれどね



タイトルは Breeders…ブリーダーってみもふたもない笑。しかしこれは親子の話ではなくて親になった男女二人:Paul と Ally の話。

同居の男女二人に可愛いお子さんが2人いて、微笑ましい親子のドラマかと思ったら正反対。最初から最後まで F-word 満載。パパもママももちろんいい両親になろうと必死で頑張っているのだけれど、結局キレて子供達を怒鳴り散らす。F-word から始まってそれ以外の汚い言葉でも常にののしりあう。それがあまりにも酷くて笑ってしまう。大人達のイライラがおかしい。 

人生はドタバタ。いろんな事がある。そういうドラマなのだろう。

どこかの家族をドラマとして観察するのなら、誰かの綺麗な話よりも誰かの失敗や間違いの方が面白い。それを大袈裟に描けばもっとおかしい。そうやって問題ばかりを強調して描いたら、もしかしたら家族とはなんぞや…と見えてくるものもあるのではないか。 

「人間て…こんなもんだ。あるある。あっ言っちゃった…うわーひどいなーヤバイヤバイ。でもしょうがないよね。人間だもんね。」笑。 10エピソード分の様々な事件/問題を見て、気持ちが登ったり降りたり大笑いしたりギョッとして呆れ返ったり appalled したあと、最後にはほろりと泣いてしまう。そんなドラマ。途中でも時々泣ける。それがまたいい。


確かに人々の日常ってこういうものかも…


過去に10年間英国に住んだせいか、このドラマの魅力はわかる(つもり)。英国式リアリズムとユーモアで家族を描いたドラマは、たとえ家族の話であっても可愛らしく微笑ましいだけものにはならないのだろう。なぜなら全てが美しいばかりの家族のドラマなんてフィクション/嘘っぱちだと英国の人々はわかっているから。 

上品でアッパーな方々の話ではない。Paulの両親は sweet なブルーカラー。Ally の両親は自由な米国人の父と気の強すぎる母…離婚していて彼等は今でも憎み合っている。それも隠さない。Paul と Ally は二人ともホワイトカラー+クリエイティブ…ロンドンにいる一般的な普通の人々なのだけれど、彼等は毎日忙しい。

現代の英国の普通の人々の普通の日常。皆必死に時間をやりくりしてストレスを抱えながら子育てをする。それはきっと昔の感覚では「美しい」とは言えないものかもしれない。

本音を言う。毒づき、お互いにののしり合い、泣き叫び、文句をいい、不安になり、怒り、他人に嫉妬し…、誰にでも経験のある日々の感情を現実よりも大袈裟に描けば面白いではないか…という感じなのだろうか。 これは英国独特の自虐的ユーモアなのだろう。


そんな英国式にゴリゴリに誇張された Exaggerated なリアリズムのこのドラマを、私は決して嫌いではない。実は最初は旦那Aと一緒に見ていたのだけれど、このドラマのトーンの激しさ、荒々しさ、言葉の汚さにあきれ果てて旦那Aは2話でリタイアしてしまった。私…かなり面白いと思ったんですけどね。確かにリアルにギスギスしているので見ていてちょっと疲れるかも。要注意。 


それにしてもこの二人は激しい。特に Ally はキツイ。正直すぎて RUDE な人達。いくつかのエピソードでは私も目をむいてあきれた。小さな子供達に F-word なんて序の口。自分の親にも RUDE 。同僚にも RUDE 。知り合いにも RUDE 。出会う人皆にRUDE 。

しかしこれ…この二人…きっとお互いに隠し事はないのだろう(いやありましたね、バレたけど)。ふわふわしたファジーな感情だけで事を流さない。おかしな事 issue/problem があったら、目の前で address して論議しあう…いや文句を言い合う。

このお二人は心の底にある同じ価値観でつながっているのだろうと思う。善悪の判断やモラルなどの大切なコアな部分を共感し合っている。だからどんなにぶつかりあっても、毎日大声で怒鳴り合っても大丈夫なのだろう。それは…本当にわかり合った夫婦のあり方でもありますよね。 

…中身の事をほとんど書かずに感想ばかり書いてますけど、カジュアルにドラマを見ながらもいろいろと考えさせられたのですよ。夫婦って、家族ってなんだろう?


人は完璧じゃなくてあたりまえ。個人には個人のやり方がある。それぞれエゴがある。そんなバラバラの個人達が共に住んで家族になる。家族もそれぞれの幸せのあり方があっていい。私達の日常には色々な事があるけれど、失敗しながら間違いながらも日々を過ごしていければそれでいい。でこぼこでもいいじゃないか。

ケオスのように忙しくて毎日バタバタして…気持ちが不満と怒りで上がったり下がったりして失敗も沢山…色々とあって…それでも子供達は何よりも大切で、やっぱり笑って、日々失敗しながらも家族は前に進んでいく。それが生きるということなのだろうね。 

私に子供がいないからなのだろう。ちょっとしんみりと考えさせられた。ちょっと疲れるけれど。いいドラマ。


編集も巧み。現行のシーンに過去のエピソードが突然挟まれる。それで現行の物語のバックグラウンドが自然にわかる。編集のタイミングが上手くて爆笑ものの場面が何度もあった。

1話30分で全10話。全5時間のドラマなのだけれど、5時間もあればかなり踏み込んだストーリーが描けますね。やっぱり連続ドラマは面白い。

Martin Freemanさんがいい。好き。英国版「OFFICE」の地味キャラに惚れた。インテリなんだな。


このドラマはシーズン2が決まったそうです。


自分用にあらすじを書いておく 

★ネタバレ注意


EPISODES --------------------------------------------------

1. No Sleep
子供が夜中に起きて泣く、1日中騒ぐ。両親はイライラ。
2. No Places
二人のそれぞれの両親(子供達の祖父母)登場。子供達の学校のこと。
3. No Accident
Allyの父親 Michael が居候。男の子がよく怪我をして両親が疑われる。
4. No Lies
Michael の居候は続く。大掃除。Ally は産後鬱になったのか?
5. No Dad
ペットのスナネズミが死んでしまう。子供に死をどう教えるのか?そして突然の事件(最後のシーンで泣ける)
6. No Talking
友人のカントリーハウスで心を休ませる。Michael の式をしようとするが…(最後はひどい酷すぎる、開いた口が塞がらない)
7. No Exit
 Paul の長い1日
8. No Honeymoon
結婚式の準備…うまくまとまらない
9. No Cure Part 1
Ally が独ベルリンに転勤して、その間 Paul が子供の世話をする。男の子 Luke が病気に
10. No Cure Part 2
Luke の入院。心配は続く
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2020年6月24日水曜日

英ドラマ BBC/Netflix『義理/恥/Giri/Haji』(2019) シーズン1感想







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Giri/Haji2019-TV Series Season1/英/カラー
/約60 8話/Directed by Julian Farino, Ben Chessell
Release Date:  17 October 2019 (UK), 10 January 2020 (internet)
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数週間かけて週末に1エピソードずつ視聴。混乱して内容を見落としたので先週の週末に2日かけて全編通しで一気に2回目鑑賞。

面白かった。英国BBCの描く日本のヤクザの話ということで、それだけで興味津々。


1話目からひきつけられる。日本の俳優さん達が英国式の撮影のせいか雰囲気がずいぶん違って見えるのが面白い。皆かっこいい。ミステリアス。皆さん違和感無く画面とストーリーに溶け込んでいましたね。

日本での日本語の台詞は英語の脚本の翻訳でしょう。台詞の言葉がちょっと不自然ではあるものの、見ているうちに慣れて気にならなくなる。それよりも家族の距離感とか…森家のギスギスサバサバした様子に違和感を感じた。お母さんとお婆ちゃんが冷たすぎる。そのちょっと変な感じが「英国の撮った日本の家族」という感じなのかとも思った。


編集がいい。狙ってます。東京とロンドン、時間、時期がどんどん飛んで移動するので混乱する。それがまたかっこいいように思えたりもする。結末がわかった上で2回目に見るとずっとわかりやすい。


日本の俳優さん達がよかった。KENZOの平さんが大きい。彼はミステリアス。最初にロンドンに着いた時はぎこちないのに、すぐに馴染んで全く違和感がなくなる。会話も自然。さすがバイリンガル。実はストーリーに入ってしばらく経つまでKENZOは実はヤバイ人なのだろうか…と思っていた。怖い人かと思っていたら実は家族思いの人でしたね。

YUTOの窪塚さんは日本でもロンドンでも独特の存在感。女性に見せる顔は子供のように純粋なのに、ヤクザがらみでは重く暗い表情。予想不可能だから怖い人物。不思議なカリスマ。しかし森家の彼はなぜあんなにグレてしまったのだろう。お兄さんは真面目な人なのにね。

全体に日本の俳優さん達が皆いいTOSHIO/ 勝矢さんはコミカルな愛されキャラ。TAKIちゃんは不思議ちゃん。もっくんはお洒落。あ…そうだ…JIROの湊祥希さんはまぁー美しい男よ。西洋受けする美男。ガタイがいいと思ったらボクシングをなさるそうだ。あの青臭いヤンキー訛りもいい…あのヤンキー調が面白くて彼の場面はニヤニヤしながら数度見直した。


英国側の俳優さん達も皆いい。もう普通にクオリティーの高い英国製のドラマを見ている感じ。特にRodneyWill Sharpeさんは熱演に次ぐ熱演。彼は英国では既に良く知られた方だそうだ。SarahKelly Macdonaldさんは他の作品でも拝見。マフィアのAbbotはコミカル。あ…特に印象に残ったのは女殺し屋のDonna。彼女はかっこよかった。

このドラマは俳優さん達を見ているだけでも面白い。みんないい。配役が素晴らしい。英国の俳優さん達はやっぱりいい雰囲気。普段からもっと英国のドラマを見るべきだな思った。



★以下踏み込んで大いにネタバレ注意

さて…俳優さん達は素晴らしかったのだけれど、ストーリは…うーん…このドラマは、ぶっちゃけ1話から4話までで終わっても良かったのかも…ストーリーの完結のためにもう1話加えても5話かな

いやもしかしたらこのドラマは元々5話完結で作っていて…出来がいいから無理に8話まで伸ばしたようにも見える。それぐらい4話まで5話以降の雰囲気が違う。


というのも、14話まではものすごく面白かったのですよ。東京のヤクザの抗争にロンドンが絡んでくる話がとても面白かった。スピード感と編集の巧みさ、場面の切り替わりにも目が離せない。どんどん引き込まれた。そして4話のレストランでの銃撃戦は大興奮。あの緊張感。ドキドキした。もう映画ですね。暴力的でスピードが速くて…興奮した。大きな拍手。

銃撃戦の印象があまりにも強くて、2度目に見たら第4話は真ん中にYUTOFUKUHARAの娘EIKO、そしてSarahIan2つの話が挟まれている構成だったこともすっかり忘れていた(それぞれもいいドラマだけれど)。びっくり。

そして最後にまた銃撃戦…日本のFUKUHARAの家のシーンが同時進行で描かれる編集にも緊張する。音楽とSarahの哲学的な言葉「また同じ事が起こる…」が被さる場面はとにかく素晴らしい。編集がいい。本当に興奮した。


その後、5話でVickersDonnaが突然消え、その後はだらだらと普通の人々の話になってしまう。YUTOが休んでる間に、KENZOSarahが近づき、TAKIの初恋話、森家の父の死…などなどヤクザ話に全く関係のないストーリーが続く。6話と7話はRodneyの薬と元彼。森家父のお葬式+英国砂浜での儀式~日本の女性3人の…。もう全く違うドラマのようだ

そのテーマの変化にものすごく戸惑った。

頭の中では1話から4話までのヤクザの話の続きがまた直ぐに始まるだろうと期待しているのに、全く関係ない話が延々と続く。そしてそもそもロンドンではあれだけ大掛かりな銃撃戦があったのに、その後その現場にいた関係者達がのうのうと普通に生活していることにも大きな違和感。話の構成にかなり戸惑う。じりじりと「いったい何のドラマを見ているのだろう…」と戸惑っていたら8話でやっとそれらしいヤクザ話が復活。Abbot8話になって急に帰ってきた。


どういうわけか8話の屋上シーンは全部がコメディ風味Abbotがものすごくおかしい。いったいどうした?

TAKIがさらわれて、ビルの屋上に向かうKENZOAbbotがばったり出くわす。そして彼はよせばいいのにKENZOと一緒にTAKI救出劇のお手伝いTAKIをさらったのはJIRO達。皆が日本語を話せば、Abbotが「ハイ、訳してくださいね、でなければ俺は銃を振り回すアホ野郎なのよね」と文句を言い、ハンサムなJIRO君達のことを「このファッキンボーイバンド(アイドル野郎)」と言う。爆笑。とても真剣な場面なのにAbbotが喋るたびにゲラゲラ笑う。なんじゃこれは笑。そして謎のダンス


最初の4話でヤクザ話をして、途中で日本のエキゾチズムを散りばめ、最後はアート+浪漫に逃げた。雰囲気だけ良さそうに見せてリアリティがないのは大きな問題。最後はYUTOをうまく逃がした設定なのだろうけど、彼は動けば空港やユーロスターで捕まりますね。もう警察には顔も知られているわけだし。YUTOが自由になる浪漫は無いでしょう。

…だから最後まで首をかしげながら終わってしまった。しかし14話まであれだけ面白い話なのに、どうしてこんなに雑な終わり方になってしまったのだろう???不思議。


それでも西洋では非常に高い評価。IMDBでは7.9/10点。Rotten Tomatoesでは何と100点。そしてBAFTA(英国アカデミー賞) 2020のテレビドラマ部門では、作品賞、編集、音楽の各部門、それから主演の平岳大さんは主演男優賞、ウィル・シャープさんが助演賞にノミネート!おめでとうございます!

というわけで文句も書きましたが…十分に面白かったです。日本の俳優さん達がいい雰囲気でかっこよかった。

これは1シーズンで終わりかな。最後をうやむやで嘘っぽくしたせいで次に話が続かないかもしれぬ。親分達もJIRO君も死んじゃったもんね。