能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

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2022年2月22日火曜日

米ドラマHBO 『The Gilded Age』(2022) ~Episode 4:己の中のスノビズムを刺激される





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『The Gilded Age』 (2022)
TV Series/米/カラー
/約50分・全9話/
制作:Julian Fellowes』
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今アメリカで放送されているHBOの歴史ドラマ 『The Gilded Age』。初回の放送は2022年1月24日。全9話。現在第5話まで放送されている。

製作・脚本は、英国 ITV のヒット作 『ダウントン・アビー/Downton Abbey』 のジュリアン・フェロウズ/Julian Fellowes氏。彼が今回はアメリカ・ニューヨーク市の1880年代の物語を手がける。

現在視聴中。毎週月曜日に放送されるのだが、週末に録画を視聴するので今うちでは4話まで見ている。



時代は1880年代。ニューヨーク・マンハッタンの一等地。その地には、家族の歴史を200年以上遡れるオランダ系の旧家、戦争の英雄を生み出した英国系の名家など、(アメリカでの)旧い家柄を誇る人々が裕福な暮らしを送っている。彼らは数世代続く世襲制の財産「Old Money」を持つ人々。彼らは自らの社交サークル/ハイ・ソサエティーの枠の中で、富と名誉をベースに貴族のように振舞う。

アメリカでは南北戦争(1861年~1865年)の後、急速に経済が発展した。時代の波に乗って新しく成功し「New Money」を持つ大富豪が、その閉じた堅苦しい「Old Money」のソサエティーに金の力で切り込んでくる。

ペンシルバニア州で育った箱入り娘・マリアン・ブルック/Marian Brook が両親を亡くし、父方の(オランダ系旧家に嫁いだ)未亡人の叔母・アグネス・ヴァン・ライン/Agnes van Rhijn を訪ねてニューヨークにやってくるところから話は始まる。最初はマリアンが主人公かと思わされるが、実際の話のメインは1880年代のニューヨークのハイ・ソサエティーの様子を描く事だろう。

第4話まで見た印象は、旧家と新興成金の戦い。それが面白い。ドロドロしてます。(あまりにも偏見がなさ過ぎて現代っ子がそのまま19世紀に迷い込んできたような)マリアンはあくまでもサイド・ストーリー。話の中心ではない。

見所は、新興の成金・鉄道王/railroad tycoon のジョージ・ラッセル/George Russell が、いかに旧家+名家ばかりで排他的なニューヨークのビジネス界に切り込むのか、そして彼の妻 Bertha Russell がいかに排他的で堅苦しいアッパーな女性達の奥様社交サークルに切り込んでいくのか。

1880年代のニューヨークを様々な角度から描く力作。今のところ私にはニューヨークの歴史の学びにもなっていて面白いです。第4話まで見た感想は「面白い」とだけ書いておこう。その印象がこれから変わることもないだろうと思う。基本的に描いているのはゴシップ系の人間ドラマだけれど、レベルは高い。面白いです。これからも期待。


★ネタバレ注意

最初は狭い世界の中の人々の下世話などんぐりの背比べ話かなと思いながら、このドラマが面白いのかどうか探っていたのだけれど、第3話で成金の鉄道王ラッセルが、意地悪な旧家+名家の排他的カタブツたちを札束で殴り始めた辺りからドラマとして面白くなってきた。旧家+名家か?それとも鉄道王成金か?…どちらにも肩入れすることはない。しかしどちらの心も理解できる。どちらも結構下衆なのですよ。だから面白い。さてこれからどうなるか。


ところでこのドラマの最初の数話を見ていてとても違和感を感じたことがある。それは、このドラマの名家+旧家の方々が…ニューヨークだかニューアムステルダムだか知らないが…ずいぶん偉そうに振舞っていること。

というのも彼らもルーツをたどれば、元々はたった250年~200年ほど前に、ヨーロッパの堅苦しい封建制下での階級社会や宗教弾圧から逃げ出してアメリカ大陸に渡った無一文の人々。貴族なんてとんでもない ㊟1彼らのほとんどは欧州の貴族とは血縁的な繋がりがない。そんな人々がアメリカで何らかの形で成功し大富豪になった。

もしそんな彼らが新しく自由な社会を作ったのならそれは素晴らしいこと。しかし現実には、そのような(数世代続く)アメリカの成り上がり者達は、また(自分達が逃げ出してきたはずの)旧世界ヨーロッパの階級社会と全く同じサークルを作り、偏見に満ちた狭い世界で格付けをし合っている。なんだか…おかしいよね。1880年当時のアメリカ人って結局全員が成り上がり者 ㊟2 なのに(個人的な意見です)。

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追記 ㊟1, ㊟2:訂正、少し調べたら、私の無知でした。「Old Money」の人々とは、例えばアメリカがまだ英の植民地だった時代に、英国から事業主としてやってきた裕福な英国人で、独立戦争(1775~1783)以前に本国との取引で富を成した人々。その子孫が自らを「Old Money」と呼び、南北戦争(1861~1865)以降に財を成した「New Money」の新興成金と区別していたらしい。彼らは旧世界の貴族ではないかもしれないが無一文ではなかった。その「Old Money」の人々が初期のアメリカで政治家や社会のリーダーとして国を牽引したのだそう。 
アメリカの人々には大変失礼な嘘(私の思い込み)を書いて申し訳なかった。このアメリカの歴史は面白いので、もう少し調べようと思う。
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…なぜそのようなことを私が思ったのか。なぜなら(日本人をはじめ)旧世界の人間は誰でも皆過去との長い繋がりを持つわけで、それはアメリカ以外の旧世界ならどこでも同じ。(家系図を持ち出すまでもなく)旧世界の国の人間は、誰にでも国や土地に根ざした何百年~1000年を超えるルーツがあり、その文化や伝統、しきたり、社会のルールやしがらみを受け継いでいるのがあたりまえ。旧世界の人間は現在と過去に折り合いをつけながら生きている。

しかしそれがないのがアメリカ…彼らは皆なんらかの理由で旧世界を捨てた人々で、人の土地を奪って定住し、いつしか旧世界に反抗、独自の社会を発展させ富を成した人々。新しい世界をつくるはずだった人々。それなのにそんな希望に溢れた成り上がり者達が、また(新しい世界で)旧世界と全く同じ階級社会を作り上げ、自分達よりも少し後からやって来た新しい成り上がり者を排除するという皮肉。 このドラマを見ていてそんな馬鹿馬鹿しさを感じたし、もちろんだからこそ面白いとも思った。人間とはそもそもそういう生き物。


このドラマの脚本家は英国人のジュリアン・フェロウズ氏。もしかしたら彼もちょっとそんなことを考えているのではないかと思った場面が第4話で出て来た。オランダ系旧家に嫁いだ(マリアンの)叔母アグネス・ヴァン・ラインの家で働く英国人のバトラーが、通りの向かいの豪邸に住む新興成金のラッセル家にやってくる。そしてその家のテーブルセッティングを見て「うちは、こういう風には並べませんね」と違いを指摘する。正式な英国式とは違うとダメ出しをする。そうするとラッセル家のアメリカ人のバトラーはちょっと不安そうな顔をする。どんなに成金の大富豪がアメリカ人のバトラーを雇っても、近所の旧家の英国人のバトラーには敵わない。そんな格付けを必死に探っている人々。しかしそんな成金のラッセル家はフランス人のシェフを雇っていたりして…。

それを書いたのは英国人の脚本家。う~む…面白いね。こういうものも当時のアメリカでは結構リアルだったのかもしれませんよね。


2010年から英国 ITVで放送された『ダウントン・アビー/Downton Abbey』は、衣装やセットをものすごく凝っていたと聞いている。このドラマもその辺りのクオリティーを下げないようにしているだろうと期待できる。実際にセットや内装、衣装、家具…街の様子、諸々…ゴージャスです。

俳優さん達も素晴らしい。とにかく今楽しんで見てます。途中経過を記録しておく。


大まかなニューヨークの歴史
ヨーロッパ人の入植は、オランダ人が1614年にマンハッタンの南端に毛皮貿易のために建てた植民地が始まり。後にニューアムステルダムと呼ばれる。1664年イギリス人が街を征服、ニューヨークと名付けた。ニューヨークはイギリス帝国の支配の下で貿易港としての重要性を増す。独立戦争の間は大きな戦闘が繰り返され1783年の終戦までイギリス軍の占領が続いた。1790年にはアメリカ合衆国最大の都市へと成長。以降発展し続ける。1873年にセントラル・パークが開園。1898年にいくつかの郡を合わせて現在のニューヨーク市が形成される。(wikipediaより)

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余談ですがCNNやCBSの仕事で有名なジャーナリストのアンダーソン・クーパー氏の母親は、ヴァンダービルト/Vanderbilt 家の出身。彼の5世代前の祖父コーネリアス・ヴァンダービルト(1794年 - 1877年)は19世紀に海運業から始めて鉄道王となり、世界一の大富豪の一人…ヴァンダービルト家は歴史上7番目に裕福な一族となったらしい。その祖先はオランダのユトレヒト州の農民。1650年にオランダからアメリカのオランダ植民地 New Netherland に年季奉公人としてやってきた移民だったそう。このドラマで言うところのオランダ系の旧家か…と思ったらそうではないらしい。1880年の時点では、このコーネリアスが1830年代から彼一代で築いた富は成金の「New Money」とみなされたらしい。「Old Money」とは1880年以前に何世代も受け継がれてきた富を持つ一族=資産家だそうだ。(上に書いた追記を参照)