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2024年4月22日月曜日

DHT Musical★『キス・ミー・ケイト/Kiss Me, Kate』





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Kiss Me, Kate
Music & Lyrics by Cole Porter
Book Bella and Samuel Spewack
Basis The Taming of the Shrew
   by William Shakespeare
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DHTとはDiamond Head Theater。ハワイ・ホノルルのコミュニティー・シアター。週末にこの劇場でミュージカル『キス・ミー・ケイト』を見てきた。

DHTでのショーは以前はほぼ毎回見に行っていたのだけれど(ここではレポートしていなかった)、コロナになってからしばらく行かなくなっていた。シアターもライブもコンサートも…人が集まるイベントをほぼ4年間避けてきた。去年の年末にコロナ後に初めて映画館に『ゴジラ-1.0』を見に行ったが、人が密になる劇場はまだ勇気が出なかった。今回コロナ後に初めて劇場に出かけたので記録しておこう。


まずDHTは、コロナの間に建物が新しく建て替えられていた!すごく立派なシアターに変わっていてびっくりした。以前は古い古いシアターだった…元々は米軍の映画館だったその古いシアターが建てられたのは1933年!掘っ立て小屋とまではいかないが、かなり小さなボロボロの古い小さな劇場だった。舞台も小さくバンドの入る場所は観客と同じレベルの脇に小さくしつらえられていた。その古いシアターが壊されて、2023年に新しい劇場がオープンした。新しくなった劇場のキャパは482席。なんと(小さいけれど)オーケストラピットも舞台と観客の間に掘られていた…なんと本格的な。舞台上の天井も高い。電動で幕も上下する。なんと素晴らしい。DHTはモダンなシアターに変わっていた!


『キス・ミー・ケイト/Kiss Me, Kate』とは、1948年が初演のブロードウェイ・ミュージカル。ストーリーは…とある劇団によるシェイクスピアの戯曲『じゃじゃ馬ならし』の上演中の話。舞台に立つ役者が離婚した夫婦で、それぞれに恋人がいて…と男女の関係が混乱していくドタバタ劇…そのミュージカル。

音楽はコール・ポーター。『Why Can't You Behave』『Always True to You In My Fashion』『Too Darn Hot』等々キャッチーないい曲が多い。これらの曲はジャズのスタンダードにもなっているので、メロディを聴けば知っている方も多いのではないかと思う。


楽しかったです。久しぶりのシアターはやっぱり楽しい。いつもDHTのミュージカルはクオリティーが高いのに驚く。本当ですよ。

基本的にコミュニティー・シアターとは、素人が集まって演じる舞台なのだが、このDHTの舞台はかなり楽しい。私はこのシアターに通い始めて(コロナ期を除けば)もう10年以上、今までに50ショー以上見てきているけれど毎回必ず楽しませてもらっている。(もちろんローカル劇場だから身びいきというものもあるけれど)正直な話、私が舞台芸術の楽しさを実感したのは本場のロンドンではなくこのハワイのDHTだと断言してもいいほどだ。

この劇場では芝居もミュージカルも見るたびに演者たちの情熱を強く感じる。舞台芸術の基本の基本…いい芝居とは観客も演者も皆幸せな時を過ごす…そのことを毎回感じる本当に素晴らしい劇場。それはこのシアターに集う…演者も観客も皆それぞれが舞台の芸術を愛しているからで、その温かい雰囲気を毎回私が肌に感じるからなのだろうと思う。

そして舞台の質の高さには具体的な理由もある。ほとんどのショーにはいつも何人か本場ニューヨークのブロードウェイでの経験のある人々が関わっている。舞台が毎回成功しているのは監督や主役、それから演出の方々等々、毎回必ずプロレベルの人がどこかに関わっているからなのだろう。そして長い間このDHTでArtistic DirectorをなさっているJohn Rampagesさん…このお方の長年の豊かな経験と舞台芸術への愛がこのシアターの質の高さの一番の理由だろうと思う。感謝してます。



今回の『キス・ミー・ケイト』の主役リリー/ケイトを演じるのは元々オペラをなさっていた方。力強い歌声。DHTではおなじみのお方で彼女は今までにも何度も主演をなさっている。そして彼女の夫フレッド/ペトルーキオを演じるのは、この地の総合病院 The Queen's Medical Center の喉の専門のお医者さん!お二人ともカリスマに溢れてノリノリ。リリーがとにかく気の強いキャラで、途中怒りちらす場面があるのだけれど、それがユーモラスですごく面白かった。フレッドの役者さんは、昼間はお医者さんをなさっていて夜は練習にリハーサルにと大変なスケジュールだったと思うがすばらしい歌声と存在感。

また今回もエネルギーに溢れた楽しく素晴らしい舞台だった。


DHTでミュージカルを見るのは4年ぶりだったのだけれど、何人か馴染みのお顔も見えた。このシアターの役者さん達は皆オーディションで決まると聞いているが、ほぼ毎回選ばれている人々もいる。彼らは違う演目にも何度も登場なさっているので自然にお顔を覚えてしまう。その他にも地元の大学で音楽や演劇を専門に学ぶ大学生(米国本土の大学で学んでいて夏休み中に帰郷してこの地の舞台に立つ人もいる)、また彼らを教える大学の先生が同じ舞台に立つこともある。高校生や中学生、小学生も舞台に上がる。今までに見た演者の方々の中には米軍で働いている方、看護師さん、弁護士さんなどもいたのを覚えている。


● シアターの醍醐味はコミュニティーシアターにあるのかも

プロではないこの地のコミュニティー・シアターの演者の方々。しかし舞台の質は高い。このシアターに関わる全ての人々が情熱をもって舞台に臨んでいる。その様子を見ていて、私は舞台の本当の楽しさはこのDHTのような小さなコミュニティー・シアターにあるのではないかとも思い始めた。

以前ロンドンでは本場のよく知られたミュージカルをいくつか見た。しかし大都会の芝居はチケット代が高い。だから大きな劇場では3階の席で舞台を遠くから眺めることも多かった。舞台の演者は主役から末端の端役に至るまで皆全国から集まった中のトップクラスの人々でルックスも声も最高。オーケストラもバンドも最高レベル。しかし舞台は遠い。

舞台上で繰り広げられる華やかな世界を、階上の暗闇から見下ろし、小さく光り輝く箱庭を眺めるように舞台を鑑賞する。しかし私はそのように見たロンドンでのミュージカル体験にあまり感動しなかった。「あ、あれを見た、とりあえずあの有名なやつを見た」というようなよそよそしく軽い感想を持つことが多かった。そして財布は軽くなる。


ところがハワイのコミュニティー・シアターDHTに通うようになってからミュージカルへの考えが変わった。まず財布の中身が減らない(今は32ドル~62ドル)。だから何度見ても苦しくならない…そしてミュージカルは何度も経験して慣れてきてこそ面白さがわかってくることも知った。そしてショーは、シアターが小さいから舞台が近い。後ろの席でも舞台が近い。演者の顔がはっきりと見える。演者の一生懸命な熱が生で伝わってくる。観客が笑ったり泣いたりなんらかの反応をすれば、それが直接舞台の演者たちにも影響する様子を何度も目にした。観客と舞台が一緒になる瞬間も何度もあった。 もしかしたら舞台芸術の楽しさとはそういうことなのじゃないか。

全体のクオリティーはもちろん都会の大舞台とは比べ物にならない。このコミュニティー・シアターの演者はルックスもスタイルもダンスも声も皆それぞれさまざま。皆バラバラな外見や声の質、上手い人もいればそこそこやまあまあの人も確かにいる。舞台上のセットは全て手作り。スタッフさんがペンキを塗ってトンカン釘を打ってセットを作っている。お金をかけた豪華なものではない。

それでもこのシアターの舞台は楽しい。それは舞台上のショーが情熱と愛で作られ演じられているからなのだろうと思う。この劇場で沢山のショーを見てそれがわかった気がする。小さなシアターならではの醍醐味なのだろう。