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『Pose』 (2021) TV Series-Season 3/米/カラー
/約60分・全7話/
製作:Steven Canals, Brad Falchuk, Ryan Murphy』
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アメリカでは5月2日からFXのドラマ『POSE』のシーズン3 が放送されてます。先週の日曜日に第4話が放送された。私はこのドラマの大ファンでシーズン1 から感想を書いているのだけれど…、今回はなんとファイナル・シーズンだそうだ。なんだもう終わっちゃうのね。
シーズン1は傑作だと思った。そしてシーズン2では「質が堕ちた、方向が変わった」と私はこのブログで文句を書いた。こういうテーマならもっといいドラマができるはずだと期待した。去年は新型コロナのために撮影が出来ず、放送もなかった。そして今年はファイナル・シーズン。
今回は既に良作の兆し。今4 話まで放送されているのだけれどとてもいい。シーズン2 で気になった「彼らを見つめる冷たい外からの目線/面白いものを外から観察する目線」が減って、今シーズンはまた(シーズン1 のように)個々のキャラクターに寄り添って彼らの内面を描く内容になっている。よかった。
特に先週の第4話/エピソード4 は素晴らしかった。 内容は…ビリー・ポーターさんの演じるプレイ・テルのAIDSの病状が悪化。そこで彼が(随分前に離れた)彼の家族に会いにいく。プレイ・テルが実家に帰ってお母さんやお姉さん達、幼馴染に会う話。
唸りました。このエピソード4 だけで一つの短編映画のようだと思った。特に劇中のビリーさんの歌「This Day」はTVの画面に釘付けになった。彼は本物。本当にすごい歌のアーティスト。今まで見た中で最高の歌い手じゃないかとさえ思った。 そのことを書こう書こうと思っていたら、昨日ビリー・ポーターさんのニュースが聞こえてきた。
『POSE』のプレイ・テル、そしてブロードウェイ・スターのビリー・ポーターさんは、14年前の20017年にHIV陽性者だと診断されていた。
日本のYahoo!ニュースで知った。このニュースが海外のメディアに今出てきたのは、もしかしたら『POSE』のエピソード4 が放送されたからかも知れぬとも考えた。というのもプレイ・テルの話は、ビリーさん御本人がHIV陽性者であることと平行しているから…だからあんなにリアルだったのか。だからあんなに苦しくなるほどの熱演だったのか。だからあれほど心を動かされたのか。
私が最初に『POSE』でのビリーさんを見ていて「あっ」と思ったのは、3年前のシーズン1 でのシーン…プレイ・テルが初めてHIV陽性者であることを医師から告げられる場面だった。検査の結果を告げられたプレイ・テルが一人病院の部屋に残って椅子に座り…押さえ切れず彼の感情と涙があふれ出す場面。彼は一人泣く。そして感情をなだめ心を整えて部屋から出る。そして外で待っている友人達に「大丈夫だったよ」と笑顔で告げる。嘘をつく。 …その一連の場面が心に残った。そこから私はビリー・ポーターさんに注目するようになった。
あのシーンの表情は…ビリーさん御本人の過去の経験からくるものだったのだ。本物だったのだ。そんなことを昨日のビリーさんのニュースを見て考えた。
私は正直未だに(おそらく)HIV、AIDSのことをよくわかっていない。1983年にクラウス・ノミが、1991年にフレディ・マーキュリーが、1992年にティナ・チャウが、ああそうだ1990年にはキース・ヘリング、1989年にはロバート・メイプルソープの記事も見た。1985年にはロック・ハドソンのニュース。1993年にルドルフ・ヌレエフもそうだったとは…今まで知らなかったかも。どうだったろう。
あの頃、80年代半ばから90年代にかけて、それらの海外のニュースは確かにメディアから聞こえてきていた。記事を目にしていた。そういえば1991年にはマジック・ジョンソンがそうだとも聞いた。 しかしその後、いつの間にか日常でHIV、AIDSのことが話題になることはなくなっていった。1995年以降にはHIV、AIDSの大きなニュースを見た記憶もなかった(と思う)。その後その病気のことがどうなっていたのか私は全く知らなかった。
一番最近でHIV、AIDSのことを聞いたのは、米国のリアリティ・ショー『Rupaul’s Drag Race』のシーズン1 のエピソードだった。コンテスタントのオンジャイナ/Onginaさんが、番組内でHIV陽性者だと明らかにした。そしてぼんやりとではあるけれど「HIVも最近はいい薬があって以前ほど命に関わる病気ではないらしい」ということも同じ頃に知った。マジック・ジョンソンさんは今もお元気だとも聞いている。
(病気の詳しいことはわからないが)だからビリーさんがHIV陽性者であると聞いても今心が重く沈むことはない。彼はお元気だしきっと大丈夫。今はきっといい薬があるのだろうと思う。
それにしても昨日のビリーさんのニュースを聞いて、『POSE』のプレイ・テルのキャラクターの設定がHIV陽性者であることは最初から意図したことなのだろうかと思った。第4話を見ればわかる。ビリーさんはプレイ・テルを全身全霊で演じていらっしゃる。
このドラマで私が見たいのは人間のストーリー。彼らがゲイだからトランスジェンダーだから…という前提だけのストーリーではないのだろうと思う。人であるなら誰もが経験する事柄…人生での戸惑い、家族や友人との絆や友情、そして仲たがい、人との関係での喜びや、また苦しみ…そんな普遍的な話が見たい。
今回のシーズンは完結編。それぞれのキャラクターのストーリーをまとめようとしているようにも見える。第1話はシーズンの華やかなオープニング…1994年のボール・ルームの様子。第2話はプレイ・テルのアルコール過剰摂取の問題。そしてブランカがボーイフレンドの家族を訪ねる話。第3話はエレクトラと彼女の母親との過去。そして第4話はプレイ・テルの家族。 シーズン2のように「世間 VS 私達のコミュニティー」のテーマよりも…個々のキャラクターをめぐる人と人の関係の話が多い。個人の心の話、個々の心情や、過去を掘り下げた話…そう、私はこういう話がシーズン2でももっと見たかった。
それにしてもこれで最後のシーズン。シーズン1が1987年で、2が1990年、今回3が1994年ならば、そろそろ終わりなのも納得。 しかしこういう話は1987年で始まったのなら、毎シーズン1年ずつ進んで全部で5シーズンぐらいやってほしかった。もっともっと個々のキャラクター達の家族や、子供時代、学校での経験や、アイデンティティの意識の流れ、出会い、愛、そして友情。そして彼らならではの生き辛さや困難。また彼らに理解を示してくれた(外の)人々との関係などなど…もっともっと掘り下げて欲しかった。このキャラクター達のストーリーがもっと見たい。
『POSE』シーズン3 は全7話。米FXにて日曜日に放送中。残り3話。
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