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『Rocketman(2019年)/英・米・加/カラー
/121分/監督:Dexter Fletcher』
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エルトン・ジョンの伝記映画。子供時代からの彼の人生を、上昇~堕落~そして復活まで描いた映画/ミュージカル。
芯のあるいい伝記映画でした。とても見ごたえがあった。彼の人生の様々な問題に踏み込んで描いていてかなり感動できます。子供時代のトラウマと、成人してからの孤独、桁外れの成功によるプレッシャーから薬や酒で自分を失いかけた人物が、不死鳥のように蘇える話です。力強い。大きな拍手。傑作かも。
映画は、彼の(薬物中毒とアルコール依存症から立ち直る為の)リハビリ・センターへの入所から始まる。そこから過去を振り返る形でストーリーは進む。
神童と呼ばれた少年(本名)レジナルド・ドワイト君の子供時代。11歳で英国王立音楽院に合格するほどの才能に恵まれるが、ティーンの頃から有名ミュージシャンのバックバンドを勤め、次第にポップスターに方向転換。音楽出版社への売り込み活動。その頃に作詞家にもめぐり合う。マネージャーを雇い入れ、1970年のLAでのアメリカ公演の成功。そこからスター街道を一気に駆け上る。しかし次第に(当時のロックスターが誰でもそうであったように)Sex,
Drugs, and Rock 'n' Rollに溺れていく。
ミュージカル・ファンタジー映画と宣伝されているが、それらしいシーンはあまり多くない。歌よりも芝居の割合が多い。かなり真面目な伝記映画の印象。
まず主人公のエルトンを演じ歌いきったタロン・エガートン/Taron Egertonさんに大きな拍手。彼は全編歌ってます。どうやらエルトンさん御本人が、彼を演じる俳優には口パクではなく実際に歌ってほしいと希望したらしい。結果は最高。エガートンさんが(歌声も含めて)全力で主人公を演じきっていて観客はストーリーに引き込まれるので、彼の顔や声がエルトンにそれほど似ていないことはほとんど気にならない。俳優が人物を演じること/人物の心を演じることに真剣に取り組み、脚本も監督もその人物の人生を真摯に描こうとしている。いい作品です。感動します。 …ところでエガートンさんは3Dアニメ『シング/Sing』のゴリラのジョニー君だそうだ。おーっI’m Still Standingじゃないか。びっくり。
他の役者さん達もいい。
エルトンの作曲のパートナー、彼の全作品の歌詞を書くBernie
Taupin を演じたJamie Bellさん。いかにも長髪の70年代の若者。あーノスタルジー…素敵ね。70年代の長髪の若者はいいよなぁ…と思ったら、Jamie
Bellさんはなんとあの『ビリー・エリオット』のバレリーナ少年ビリー君だそうだっ!うわーびっくりした。
エルトンのマネージャーのJohn
Reidは、Queenの映画『ボヘミアン・ラプソディ』にも出てくる人物なのですが、この映画ではずいぶん性格が違うぞ。演じる俳優はRichard Maddenさん。このお方はエロいね…英国にはこういう顔が多い。何人かこういう顔が思いつく。StranglersのJean-Jacques Burnelに似てない?あ…彼は仏系か。 Richard Maddenさんは英国のドラマ『Bodyguard』の主役。いい男です。
エルトンの母Sheilaを演じたBryce Dallas
Howardさん。目の色の薄さが印象的な女優さんですが…大きくなった。役を作ったんですかね。『The Help』や『Jurassic World』のスリムな女優さんの外見が大きく変わっていたのでびっくりした。米国人なのに英国アクセントも完璧ないい女優さん。
この映画が米国でR指定での公開になったのは、どうやらゲイ・セックスのシーンらしいのだけれど、それほど驚くようなものではない。マイルド。ゲイに関する事柄はエルトンさんのアイデンティティの基本なのだから必要な事柄。うやむやにしなくて正解。R指定の理由は米国の保守派のキリスト教徒からの反応を予想してのものなのだろうか。(追記:薬物とアルコールがいけないらしい)
ところで私は日本のBLというものには全く興味がない。このブログでは以前から『Rupaul’s Drag Race』や、米国のドラマ『POSE』などの女装の男性達=トランスジェンダーやゲイの方々のことをよく書いているので(BL関連が好きだと)誤解されるかもしれないけれど、私が惹かれるのは彼らの心。
…自らのアイデンティティに戸惑い、悩み、社会や家族からさえも「変わり者」と拒否される人々の心に私は興味を持つ。彼らが自分を受け入れ、自分なりの幸せを模索し、パートナーにめぐり合い幸せを手に入れる…そんなストーリーに元気をもらったり勇気づけられたりする。応援したくなる。
…自らのアイデンティティに戸惑い、悩み、社会や家族からさえも「変わり者」と拒否される人々の心に私は興味を持つ。彼らが自分を受け入れ、自分なりの幸せを模索し、パートナーにめぐり合い幸せを手に入れる…そんなストーリーに元気をもらったり勇気づけられたりする。応援したくなる。
このエルトンさんの映画も、悩みの多い人物が紆余曲折を経て力強く立ち上がる話。 I’m
Still Standing. 感動します。
★以下ネタバレ注意
余談だけれど、この映画をQUEENの『ボヘミアン・ラプソディ』と比べてしまうのは自然なことだろう。どちらも70年代に活躍したゲイのロックスターの話。この二つの映画の魅力はそれぞれなので、どちらがいいのかを論議するものでもないのだろうと思います。しかし私にはこの映画の方が心には沁みた。
『ボヘミアン・ラプソディ』はロックバンド・QUEENの映画で、フレディ個人の話はサイドストーリー。私があの映画の主演のラミ・マレックさんを「物真似がうまいね」と言ったのも、あの映画のフレディの描き方がそれほど踏み込んだものには見えなかったからなのだろうとこの映画を見て改めて思った。
この映画は、エルトンさんの人生と心にしっかり踏み込んだ映画。彼の子供時代のトラウマから描いているのだからその違いは明らか。桁外れに成功しても彼はなぜ悩み続けたのか、なぜ薬や酒に溺れていったのか…、冷たく厳しい軍人の父親、彼がゲイである事をうちあければ「あなたはまともに愛されないわよ/You'll never be loved properly」と言う母親、彼の心を弄ぶマネージャーとの関係が、どのように彼の心を蝕んでいったのか。なぜ彼が(一度は)女性と結婚をしようとさえ思ったのか…。そして何があっても途切れることのなかった作曲のパートナー/作詞家Bernie Taupinとの友情。本当によく描かれた映画だと思います。
…作詞家Bernieへの友情から、エルトンが彼に思わずキスをしそうになる。そしてBernieに「おい、おい」とひかれてしまう場面。エルトンの届かない想いが切ない。
それにしても、エルトンさんのあの派手な衣装はどうなのよ。すごいのね。思わず笑ってしまう…しかしかっこいいぞ。はじけてます。いいなぁ…好き。
前述のように私は米国の女装リアリティショー『Rupaul’s Drag Race』のファンなのですけれど、この映画を見ていて、エルトンさんはもしかしたら女装をしなかった
ドラァグクイーンなのかも
と思った。おそらくエルトンさんの派手衣装とドラァグクイーンは、本質は一緒なのではないか。…本当の自分のアイデンティティに不安が残る…だから彼はもっともっと派手に豪華に毒々しく自分を飾り立てる。そして、
「人々はレジー・ドワイトを見にくるんじゃない
エルトン・ジョンを見にくるんだ」と言い放つ。内気なレジナルド・ドワイト君は、派手な衣装を纏いスーパースター・エルトン・ジョンとして、2倍3倍、いや100倍もの大きさになって…ロケットマンとして宇宙に飛び立つ。かっこいいよなぁ。泣ける。一流のエンタテイナーは舞台で爆発する。好きだわこういうお方。大好きだ。
エルトンさんは現在、3年間に及ぶ人生最後のツアー『Farewell Yellow Brick Road』を開催中。彼は去年2018年の1月に、次のツアーを最後に舞台からリタイアすると宣言。その最後のさよなら公演の世界ツアーは去年の9月からスタート。現在はヨーロッパをツアー中。ショーのスケジュールは来年2020年まで続いていて、現在決定しているショーだけでも全部で300公演以上あるのだそうだ。エルトンさんは今年72歳。お元気です。すごいな。
おそらくこの地に来てくださることはもう無いだろうと思う。2015年にエルトンさんのショーが一度だけでも拝見できてよかった。彼のキラキラのスパンコールのジャケットがかっこよかったな。これから過去のレコーディングを掘り起こして、少しずつ歌詞も見ながら彼の作品を聴いてみようと思います。