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2024年4月2日火曜日

米ドラマ FX『将軍/Shōgun』(2024) 第6話 Ladies of the Willow World :歴史を元に脚色が巧み



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『Shōgun』(2024) TV Mini Series
/米/Hulu, FX/カラー/55–70 minutes
Creators: Rachel Kondo, Justin Marks
Based on Shōgun by James Clavell
No. of episodes: 10話
Release: February 27, 2024 – April 23, 2024
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米国 FXにて。オリジナルの放送は2024年3月26日。


なんと『将軍』ももう6話、後半に入った。このドラマは全部で10話なのであと4話しか残っていない。この頃は何事も時間が過ぎるのが早い。

このドラマは英国人ジェームス・クラベル氏の1975年の小説『将軍』が元になっているのだけれど、史実の「関ケ原の戦い」頃の史実を元にしながらも脚色を加え設定を変えながらドラマにしているのがなかなか上手いものだと感心する。フィクションのドラマとしても十分面白いけれど、ストーリーの元になった史実がどう変えられているのかを見てもかなり面白い。このドラマはむしろ三浦按針の話というよりも、按針の目線から描く「日本の(史実をもとにした)ドラマ」。メインは日本の歴史…だから日本人にも面白いと思う。

それからまた(特に)按針の扱われ方には、原作が書かれた当時の1970年代の欧州人による目線が感じられるのも面白い。今なら首を傾げるような話も1970年代ならこれでありなのだろうとも思える。第1話で私は「エキゾティズムが強調されていて…やっぱりなんちゃって時代劇か」などと文句も言っていたけれど、今はすっかりこのドラマのリズムに慣れた。楽しんでます。

特に真田広之さんがプロダクション全体に目を光らせてくださっていること、現場に多くの日本人の方々が関わっていること、それから俳優さん達が皆日本の方々であること…により日本人がメインのパートはかなりいい。かっこいい戦国日本の様子は、ハリウッド式にお金をかけていることもあって見ごたえがある。お金をかければこれだけかっこよくなるのだねとあらためて感心する。俳優さん達も本当にかっこいい。惚れ惚れ。

特に今回は落ち葉の方の二階堂ふみさんがよかった。彼女は独特のオーラがある。先日ジェシカ・ラングのことを「女の情念が…」などとここで書いていたのだけれど、二階堂さんにも「怖い女」のオーラが見える。もちろん彼女の演技の力。怖い女と言えば…そういえば黒沢監督の『乱』の楓の方を演じた原田美枝子さんも凄かった。ああいう感じ。情念とか、気の強さ、ちょっと狂気をはらんだような女優さんの演技に私は惹かれる。二階堂さんのオーラはかなりのものだと思った。



★ネタバレ注意





日本の歴史を元に脚色


●鞠子と落ち葉の方の過去

このドラマの人物達は歴史上の人々を元にしているのだけれど、史実を元に(海外の人にも)わかりやすく脚色しているのが面白い。
今回は鞠子さん(アンナ・サワイ)と落ち葉の方(二階堂ふみ)の過去に触れていた。鞠子さんのモデルが細川ガラシャであり彼女の父親が明智氏であることは今までにも語られていたが、今回は落ち葉の方の背景が語られていた。

落ち葉の方のモデルは淀殿…史実では織田信長の妹・お市の方と浅井長政の娘で信長の姪。しかしこのドラマでは落ち葉の方(瑠璃姫)が黒田信久=織田信長の娘であった設定になっている。そして鞠子とその瑠璃姫が安土城で育ち幼馴染だったということだそうだ。

史実で細川ガラシャが淀殿と幼馴染であったことはないと思うが、このドラマが二人を幼馴染の設定にしているのであれば、鞠子さんは虎永側、落ち葉の方は石堂側と、後に大きな戦になった時に彼女達が敵同士になる。それがドラマチックで都合がいいということだろう。なるほど脚色として上手いものだと思う。

●文太郎はそれほど悪人ではない

鞠子の夫・戸田文太郎広勝
(阿部進之介)は、史実では細川忠興で細川ガラシャの夫。この細川忠興のキャラクター・文太郎は、前回はかなり乱暴者に描かれていたけれど、彼は「鞠子があまりにも冷たく心を開いてくれない」と実は悩んでいた。なんと文太郎は鞠子さんを愛している。じゃあなぜ鞠子さんは文太郎に冷たいのか…その理由は、彼女が明智氏の娘で戸田氏よりも位が上だったから…などという説明もされている。なるほど。

文太郎は「鞠子が自分に心を開いてくれない、それなのに按針と仲良くしているから気に入らない」と言う。なるほど…なんだかちょっと文太郎がかわいそうになってきた。文太郎は悪い人ではない。それに彼は強い武将なのですよね。酔っぱらっているのに弓を引かせたら的を外さない。この人物は戦でヒーローになるのだろう。

●石堂の野心・邪魔者は消せ

史実の五大老の設定が、このドラマではわかりやすく脚色…史実の五大老と五奉行がまとめて「五大老」となっていて、石堂和成(平岳大)=石田三成が五大老のリーダーになっている。石堂は吉井虎永=家康(真田広之)を失脚させ、今度は伊藤輝鈍=宇喜多秀家(篠井英介)を五大老に据えようとしている。しかし大老の一人・杉山如水=前田利家?(トシ・トダ)がそれに反対する…そこで石堂は大坂を離れようとした杉山を殺害。なんとなんと…。

●落ち葉の方はなぜ虎永を嫌うのか・家康黒幕説

落ち葉の方と石堂との会話で、彼女がなぜ虎永を嫌うのかも明かされた。彼女は彼女の父・黒田信久=信長の暗殺が虎永=家康によって謀られたと思っている。実行したのは明智氏だったけれど黒幕は虎永だったと。なるほど。これはある程度歴史に詳しい人でないと思いつかない話だと思う。実際そのように考察する学者もいる。秀吉だという説もあるし。 この虎永が黒幕…そのように落ち葉の方が思っている設定が原作にあるのなら、クラベル氏はかなり歴史をリサーチしたのだろうと思った。

●紅天は大坂夏の陣か

大坂城を命からがら抜け出した戸田広松=細川藤孝(西岡徳馬)が網代へたどり着く。そして大坂の今の様子を虎永に伝える。そして杉山の死の情報が伝えられると、虎永と武将達は「紅天」…大坂城を攻め落とし虎永が天下を取る=将軍になる…を実行するときが来たと決心する。…ということは、この脚本ではもしかしたら関ケ原をとばして一気に「大坂夏の陣」に突入するのかもしれませんね。これも原作にあるのだろうか。だとしたらなかなか上手いものだと思う。


按針パート・1970年代の西洋人による目線

西洋の目線で面白エキゾチック・ジャパンを描いたパート。しかしこの『将軍』の話はもちろんあくまでも1600年頃に英国人が日本にたどり着いたらどのような感じなのかを描くドラマでもあるわけで、それならエキゾチック・ジャパン描写は避けられない。しかしそれ以上に原作が描かれた時代が1970年であることも忘れてはいけない。

今回面白いなと思ったのは、ジョン・ブラックソーン/按針(コスモ・ジャーヴィス)が前回の「キジ事件」から「日本の人の命の扱いが到底受け入れられないから故郷に帰りたい」と虎永に告げれば、「それならすこし女遊びをしてこい」と虎永が按針に遊女をあてがう内容。…これを見ていて思った。これってもしかしたら大昔1970年代に「仕事で日本に来た西洋のビジネスマンが交渉相手の会社から接待として女性をあてがわれる」…そのような1970年代当時の話を聞いたクラベル氏が面白話として盛り込んだのではないかと。それともクラベル氏がそのような経験をしたのか笑。本当かどうかは知らないが昔の日本のそのような話は私も聞いたことがある。

そして面白いのは、按針君がいかにも現代の英国人的というのか…やたらと女性に対しては気おくれして居心地が悪そう…Awkward(気まずい、ぎこちない、ぶざまな)様子で、それがすごくおかしい。按針君眉毛が下がって困り顔。その困り顔がまるで小学生みたいに「え、女の人ですか…え、ぼくどうしよう…」と言っているよう。この俳優さんのキャラクターではないかと思うが、按針君が子供みたいな顔をしているのがすごく面白かった。英国にはこういう人いる…男同士でビールをガンガン飲んでサッカーに興じ、パブで子供みたいにオイオイ大騒ぎして自由で悪ガキのようなのに、ガールフレンドや奥さんの前では「Yes, ダーリン」としゅんとしておとなしくなる男。いるいる 笑。

娼館のマダムと鞠子さんの会話、それからミステリアスでセクシーなお菊さんの場面をかなり長い時間をかけて描いているのも西洋受けの話なのだろうと思う。

按針君が大変いい思いをしたそうで大変恐縮している様子がおかしかった。よかったね。それから彼は神奈川に土地を与えられて大砲や水軍を任されることになったらしい。すごいな。