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2019年8月25日日曜日

米ドラマ FX『Pose』(2019) シーズン2-1990 感想その②辛口批評編


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『Pose』 (2019) TV Series-Season 2/米/カラー
/約60分・全10話/
製作:Steven Canals, Brad Falchuk, Ryan Murphy』
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というわけでシーズン2が終わりました。面白かった。楽しめた。
そのことは、

米ドラマ FX『Pose』(2019) シーズン2-1990 感想その①褒める編

で書いた。しかし…たぶんドラマとしての質は落ちた。その事を書こう。ここからが本題。


今シーズンは全体にドラマとしてかなりガタガタしている。スムーズじゃない。メッセージが前面に出過ぎてドラマのスムースな流れを邪魔している。大きな問題。

このドラマは欧米のメディアでは高評価なんですよ。確かにシーズン1は素晴らしかった。しかしこのシーズン2はまとまりに欠ける。シーズン1が素晴らしかったので、もしかしたらシーズン2に期待しすぎてしまったのかもしれないとも思う。…というわけで今回は辛口批評


ネタバレ注意


★流れが悪い

このシーズン2はシーズン1に比べて、それぞれのエピソードがバラバラで一話完結の話が多くエピソード同士のつながりもスムースじゃない。全体の流れがギクシャクしているように感じた。それがとても気になった。

例えば、あるエピソードでは2つのグループが暴力沙汰になるほど敵対心を燃やしているのに、次のエピソードでは急に仲直り。あるエピソードでは誰かが深刻な病状で苦しんでいたのに、次のエピソードでは何事も無かったように元気になっていたり。その反対に、誰かが元気一杯だったのに次のエピソードでは冒頭から病気になっていたり…。それぞれのエピソードの繋がりがスムーズじゃないのがとても気になる。

シーズン1は、制作者がおそらく長い間アイデアを煮詰めてやっと形にしたのだろう…全体が大きなストーリーとして綺麗にまとまっていた印象。ところがこのシーズンは、エピソード毎に伝えたいメッセージ(お題)があって、そのメッセージを描きたいがために全体の流れが不自然になっているように見えた。

LGBTコミュニティーの苦悩と主張が大きい

シーズン2では個々の人物達のパーソナルな話よりも、1990年代のLGBTコミュニティーの苦難に焦点をあてている。

差別される、区別される、社会にまともに扱ってもらえない。偏見のためにキャリアでつまづく人物達。そしてHIVAIDSの問題も彼らの生活に大きな影を落とす。このシーズン2では1990年代のLGBTの辛い現実を主に描こうとしたのだろう。そして彼らの辛い現実は彼らを内省的にする。

…なんというかな…このシーズンの彼等のエネルギーは内側に向っているんですよ。LGBTは苦しんでいる…敵は社会であり、偏見に満ちた人々であり、それらの人々は警察や弁護士であり、不動産のオーナーであり、ファッション業界やクライアントであり…。世の中には敵が沢山いて、こういう苦しさがあって…という話があまりにも多い。外の世界は敵ばかり…それがまず話の前提になっている。そしてそのことをかなり主張している印象。そんな主張が前面に出ているために、個々の人物達が日々何をやって、何を思い、何を経験して、どう生きて、どう努力して、どう進歩して…などの人物達のパーソナルなストーリーが雑になっている。

★ストーリーがブツ切り

シーズン1ではもっと日々のストーリーの流れを大切にしていた。エンジェルちゃんとヘテロ既婚のスタン君のあいまいな関係。ブランカの冷たい家族とお母さんの料理本の話。それにデーモンが家族を離れて上京し、ブランカに出会いダンス学校で先生と出会い…成長する。プレイ・テルが恋人を亡くし、また元気を取り戻す…等等、個々の人物達の日常や経験が丁寧に描かれていた。だから視聴者も人物達に心寄せることができた…のだけれど、このシーズンではそんな継続したドラマの流れは少ない。エピソード毎に事件を描写してブツ切り。それが一番戸惑った。これはあまりいいドラマじゃないんじゃないかとさえ思った。

特に3話のエレクトラの話は論外。警察に相手にされないからと言ってああいう話にするのは現実味が無い。ほぼコメディ。そしてその後もその話を投げ出してそのまま…とても気になる。4話のキャンディの話もほぼストーリーは無い。(2回目に見たら)確かに人物達の会話の内容は悪くない。それなのに(1回目から)心に響かなかったのは事件があまりにも唐突だったから。こういう話にするのなら事前にキャンディの人となりをもっと描いてほしかった。それにキャンディがなぜ、どういう経過でそういうことになったのかもドラマとして描くべきではないのか?あまりにも突然の事件のため、人物達の会話の内容の良さも宙に浮いている。この2つのエピソードには違和感しかない。

5話でデーモンとリッキーの夢と頑張りを見せたのはいいが、6話はプレイテルの事件と内輪のチャリティー。その中で不動産屋のおばさんとの関係が変わっていくのも唐突。7話ではプロテスト活動8話は個人の生活に踏み込んでいたが、9話は突然趣を変えて『Sex and The City』風バケーション(←これは面白くて楽しかった)。そして10話でいきなり8ヶ月後。9話との繋がりは全く無い。ブランカはどうした?最後はボールで華やかにわいわいやってうやむやに終わった。なんだか全体に雑じゃないかな。事件プロテスト活動苦難が多すぎて、肝心の彼らの日常がスムーズに描かれてませんよね。

★外の社会との関係は?

LGBTの日常を描くのなら話題はいくらでもあるはず。彼らの人生はプロテストや抵抗、苦難ばかりではないはず。人物達の日常そのものを描いて大きな流れのドラマにすることは可能なはず。それなのにこのシーズン2では、各エピソードで事件やイベントばかりやっていて大きな流れを感じづらかった。

流れがあったのは、エンジェルちゃんのモデルキャリアとパピ君の話。ブランカの不動産屋との喧嘩。…シーズン1のスタン君は完全に消えたし、エレクトラの元恋人との関係…エレクトラのあいまいなセルフ・アイデンティティの話も消えた。デーモンの成長を助けてくれたダンス学校の先生もシーズン2にはほとんど出てこなかった。このシーズン2コミュニティの中の内輪の話が多くて、外の人々/外の社会との交流のエピソードが少なかった。…もう少し彼等/彼女達が外の世界に出て行く話も描いて欲しかった。

外の人との関係で唯一いい感じだったのは、エンジェルのモデルキャリアの話。彼女の才能と可能性を見抜いてサポートしてくれたフォード・モデル・エージェンジーのフォードさんとの話はよかった。

★なぜシーズン1が素晴らしかったのか? 

なぜシーズン1が素晴らしかったのか? それは、シーズン1では、人物達のLGBTならではの苦悩を、個人のパーソナルな問題として描いていたから。実の家族との不和。青年が都会に出て行って大きな夢を抱く。恋人との意見の相違と別れ。既婚者と恋に落ちる運命の出会い。傷ついた者達が集まって新しい家族を作る。恋人との死別。それらのストーリーは何もLGBTに限った話ではない。誰もが共感できて心を寄せられる普遍的なストーリーだった。脚本がそのように描いていた。

このシーズン2では、そのような普遍的な話が少なかったように感じた。LGBTの人々に起こった特殊な事件(特に3話、4話、7話)を遠くから観察しているような視点を感じた。視聴者が人物達に共感できるようには脚本が描いていなかったのではないか。

★視点がおかしくないか?

ともかくこのシーズン2で気になったのはLGBTのコミュニティーの人々を、特殊な世界の特殊な人々として描いている…ように感じたこと。「LGBTは苦しんでいる…こんな酷い目にあって、こんなに辛いこともあって…外は敵ばかり」…確かにそれは事実なのかもしれないけれど、そればかりを強調すれば、一般の視聴者が彼等に共感するのは難しくなってくる。

(個人的な意見ではあるけれど)LGBTコミュニティーの人々をテーマにしたこのドラマでは、彼等/彼女達のことを「特殊なコミュニティーの中で生きる変な人々不運な人々」として強調して描くべきではないと私は思う。LGBTだからこんな話…ではなくて、人物達の成長や迷い、喜びや哀しみ、希望など、人としての普遍的な話を描いてほしい。今シーズンのように、彼等/彼女達のこと「一般人とは違う特殊な人々」だと見世物のように描くことは、社会の彼等に対する偏見を取り除くための助けにはならないと思う。このドラマはそもそも彼等に対する偏見を取り除く目的で作られていたのではないのか? 

★音楽が残念

シーズン1はドラマの内容と1987年の流行の音楽の使い方が絶妙だった。以前このブログでも何度かそれらの曲をとりあげたのだけれど、今回はドラマと音楽の繋がりをほとんど感じられなかった。MadonnaVogue5話くらいひっぱっているのは手抜きだろう。サントラも使用曲が必ずしも1990年からの曲ではなく、80年代初期や70年代後期の曲が使われたりしていて曲の同時代性がほとんどない。ああ考えているな…と思ったのは、8話の最後のブランカのシーンで流れたMariah CareyLove Takes Time(1990) ぐらい。当時の時代を反映した巧みな音楽の使い方を今シーズンは殆ど感じられなかったのは残念。シーズン1Kate BushRunning Up That Hill」やSwing Out SisterBreakout」、WhitesnakeIs This Love」など鳥肌が立つほど素晴らしかったのに。



このドラマはシーズン3も決まったそうです。ライアン・マーフィーがライフ・ワークと言っているそうなのだけれど、どれくらい続ける予定なのだろう? 

海外のドラマは最初に何シーズンやるかが決まっているわけではなくて、1シーズンやって評判が良ければ23…と続いてくものらしい。90年代後半から2000年代前半に人気のあった米ドラマ『Sex and The City』も、まずメインの登場人物4人のキャラクターを紹介して、一話完結型のエピソードを沢山やって評判になった後、後のシーズンで女性達の人生の変化(大きな流れ)を描いたんですよね。このドラマもそうなっていくのかもしれません。


もう十分人物達を好きになっているし、これからもドラマが良くなる可能性は無限。センセーショナリズムや政治的主張のみに囚われることなく、人物達全員のそれぞれの心の内面と、人としての成長を、人物達に寄り添って丁寧に描いて視聴者の心に触れるドラマにしていって欲しい。

来シーズンにも期待しましょう。



米ドラマ FX『Pose』(2019) シーズン2-1990 が始まりました