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『Industry』 (2020) TV Series-Season1/英・米/カラー
/約60分・全8話/
制作:Mickey DownKonrad Kay』
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やっと録画を見終わった。
英国BBCと米国HBOの制作。米国での放送はHBOチャンネルで去年2020年の9月9日から12月21日まで。日本ではスターチャンネルで3月に公開されている。全8話。脚本のMickey Down氏とKonrad Kay氏のロンドン金融業界での経験を元にしたドラマ。ちなみにお二人は業界に馴染めずに辞め(クビになり)脚本家に転身したのだそう。
ドラマは去年録画して最初の2話だけ見てそのままになっていた。今年の5月になってからやっと再度見始めた。
去年まず1話を見たときは面白いと思った。スピードが速いし、(そもそも私は金融に興味がないので完全に理解していたとは言い難いが)意外に面白かった。そして2話を見て、おそらくわからなくなったのだろうと思う(覚えていない)。それで食指が動かないまま半年間も録画をそのままにしていた。最初の2話は見たあとで録画を消してしまい、内容をおおかた忘れてしまっていたので、辻褄がよくわからないまま3話から見始めた。
全8話を見終わって最初の感想は…金融10%、社内派閥争い等の社内事情30%、新入社員の性生活60%だろうか?…これはゴミだなと思った笑。
舞台はロンドンの金融街・シティ。架空の投資銀行「Pierpoint & Co」に5人の新卒が入社してくる。インターン期を終えたら彼らの半分がクビになる。さて誰が勝ち残るのか?
新卒の若者達は5人。
●Harper Stern: ハーパー
アフリカ系アメリカ人 小柄な女の子 頭がよく才能もあるが学歴を誤魔化して入社。
●Yasmin Kara-Hanani:ヤスミン
裕福なレバノン系の家庭出身の女の子 スペイン語とアラブ語、フランス語を話す 美人
●Robert Spearing:ロバート
労働者階級から努力してオックスフォード大学卒 世間知らず
●Gus Sackey:ガス
アフリカ系 イートン校~オックスフォード大学卒 古典文学専攻 ゲイ
●Hari Dhar:ハリ
ヒンズー語を話す努力家のインド系
この5人が投資銀行に入ってからのサバイバル・ゲーム。全員若い人達なので色恋が盛んなのは理解できる。しかし…全体に散りばめられたソフト・ポルノがあまりにも多すぎる。毎回毎回全エピソードで男女が裸になってベタベタと湯気を出す。残念ながら全然よくない。描写があまり綺麗じゃない。生々しく不快。ストーリーにはものすごく邪魔。 そもそも(個人的に)自分の子供(より若い)世代の若者達の性生活に興味が湧くはずもなし。
そんなわけで3話目4話目ぐらいから「もう見るのやめようかな」と思ったのだけれど、とりあえず見続ける。そうしたら最後の6話7話8話あたりで社内の派閥争いの話が少し面白くなってきた。最後は「あれ…?これ面白いのか?もしかして…」
「それならもう一回見てみよう」と3話から再度見直す。セックス・シーンは全部早送り。というわけで一気に見たら結構楽しめた。よ~く見ればそれぞれの人物達の心理描写も面白い。
★ネタバレ注意
主人公のアフリカ系の小柄な女の子ハーパー。その上司・中国系のエリックとの関係がいい。それが話の軸。
エリックは米国ニューヨーク出身の中国系。おそらく名門校は卒業していない。業界では叩き上げで今の地位に上って来た。彼は学歴だけの無能な者達を馬鹿にしきっている。年齢は40代後半だろうか。
現在エリックはPierpoint 社のManaging Director of Cross Products Sales。 その彼が、学歴を誤魔化して入社してきたハーパーを可愛がる。ハーパーは頭がいい。彼女の才能と将来性を見抜き、エリックは彼女を一人前に育てようとする。第1話で取引に成功したハーパーにエリックが言う「この気持ちを忘れるな」。そのシーンがいい。
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エリックがかっこいいですね
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…しかし邪魔も入る。社内での派閥争いにも巻き込まれる。女性上司ダリア(ハーバード・ビジネス・スクール出)は威張り散らすエリックが面白くない。また金融業界の男社会を変えようとする女性上司サラもいる。彼女達がパーパーを自分達の目的のためにチェスの駒のように操る場面もある。その話が出始める5話あたりからだんだん面白くなってくる。
他の新卒のメンバーはどうなのか…
● 最初から頑張りすぎたハリ。
● 語学堪能で社交的で人当たりもいいが、その恵まれた出身と女性であることで上司に散々苛められる、「No」と言えないヤスミン。
● エリックに文系の高学歴であることを馬鹿にされ、Pierpoint社には自分の居場所がないと言うゲイの男の子ガス。
● 周りに飲まれやすく同僚に進められるままドラッグに手を出し(他の皆もやっているが)、同僚のヤスミンに鼻の下を伸ばし、落ちぶれた上司には幻滅、混乱し、女性上司には無能だと苛められる世間知らずのロバート。
…彼ら4人がサイドを飾る。
キャラクター達ひとりひとりを見ればそれなりに面白い。 しかしあの生々しいセックス・シーンは何とかならないものかと思う。あまりにも多すぎ。そもそもヤスミンとボーイフレンドや、ハーパーと元彼とのシーンはメインのストーリーには全く関係ないだろう。その上でロバートとヤスミンとハーパーが三つ巴になりかけたり、ガスと同僚(大学時代の友人)とのゲイセックス…等等あるわあるわ…あまりに多すぎ。
キャラクター達ひとりひとりを見ればそれなりに面白い。 しかしあの生々しいセックス・シーンは何とかならないものかと思う。あまりにも多すぎ。そもそもヤスミンとボーイフレンドや、ハーパーと元彼とのシーンはメインのストーリーには全く関係ないだろう。その上でロバートとヤスミンとハーパーが三つ巴になりかけたり、ガスと同僚(大学時代の友人)とのゲイセックス…等等あるわあるわ…あまりに多すぎ。
そして過剰なドラッグのシーン。
このドラマの主人公達は金融業界に入ってきた新入社員の20代前半の若者達。だから制作はターゲットの視聴者を大学生ぐらいの若い人達に設定したのかもしれぬ。
そこで大量のセックスとドラッグのシーンを投入。というのも一般の20代の若者は、金融業界なんて1ミリも興味がないだろうから。金融業界の話で釣れないから、刺激的な男女のからみや薬のシーンで若い視聴者をつなぎとめる…そういうことなのだろう。
また80年代からよく言われてきた「金融業界は乱れている…日々札束が舞い、薬や女や酒でやりたい放題」というステレオタイプをなぞっているだけのようにも見える。それさえ描けば一定の視聴者は興味を示してくれる。デカプリオの『ウルフ・オブ・ウォールストリート/The Wolf of Wall Street』などの前例もあることだし。
そもそもこのドラマ、派閥争いや人物達の心理描写はあるけれど、実際の金融の取引は(ハーパーのいくつかのシーン以外)ほとんど描写されない。金融業界についての『Industry/業界』とタイトルをつけたドラマを制作しながら、結局金融を描かない…描けないのであれば残念。なぜなら社内の派閥争いや、上司と部下の関係、仕事上の失敗、師弟の関係、社内恋愛その他諸々…等の会社の内部事情を描いたドラマなら、金融以外の…例えば、広告業界や商社の設定でも成り立つからだ。金融業界のドラマである必要はほぼ無い。
またこのドラマは現代のロンドンのシティの様子を描いたドラマなのだけれど、シティを知る人によれば、このドラマで描かれたキャラクター…パワハラ気味の上司エリック、モラハラ上司のケニー、セクハラ上司ヒラリーの振る舞いは、今から10年~20年ぐらい前の業界の様子を極端に誇張して描いたものだろうと言う。今どきこのドラマで描かれたような極端なモラハラや、(#MeTooの今の時代に)セクハラもまさかないだろう。
それから叩き上げの優秀なエリックのような人の数も減っている。今はほぼ高学歴しか金融業界には入れないのだそう。80年代までは大学を出ていない人が金融業界に入ってきて大成功する話もあったらしい。ヤッピーの時代の話。
というわけで…投資銀行の新入社員たちの迷いや戸惑いをメインに、仕事の内容はほとんど描かず、社内の内部事情を少しだけ描き、余った隙間に若者達の不毛なセックスを散りばめて全8話の尺に伸ばしたドラマ。 「得体の知れない金融業界の人々…魑魅魍魎」を冷めた目で描くのがテーマだろうか。一見シリアスでスタイリッシュだが、実際は…いかにも金融業界ステレオタイプ的な極端な状況描写をブツ切りにして並べただけで、人物達の描写も薄い。
このドラマの主人公達は金融業界に入ってきた新入社員の20代前半の若者達。だから制作はターゲットの視聴者を大学生ぐらいの若い人達に設定したのかもしれぬ。
そこで大量のセックスとドラッグのシーンを投入。というのも一般の20代の若者は、金融業界なんて1ミリも興味がないだろうから。金融業界の話で釣れないから、刺激的な男女のからみや薬のシーンで若い視聴者をつなぎとめる…そういうことなのだろう。
また80年代からよく言われてきた「金融業界は乱れている…日々札束が舞い、薬や女や酒でやりたい放題」というステレオタイプをなぞっているだけのようにも見える。それさえ描けば一定の視聴者は興味を示してくれる。デカプリオの『ウルフ・オブ・ウォールストリート/The Wolf of Wall Street』などの前例もあることだし。
そもそもこのドラマ、派閥争いや人物達の心理描写はあるけれど、実際の金融の取引は(ハーパーのいくつかのシーン以外)ほとんど描写されない。金融業界についての『Industry/業界』とタイトルをつけたドラマを制作しながら、結局金融を描かない…描けないのであれば残念。なぜなら社内の派閥争いや、上司と部下の関係、仕事上の失敗、師弟の関係、社内恋愛その他諸々…等の会社の内部事情を描いたドラマなら、金融以外の…例えば、広告業界や商社の設定でも成り立つからだ。金融業界のドラマである必要はほぼ無い。
またこのドラマは現代のロンドンのシティの様子を描いたドラマなのだけれど、シティを知る人によれば、このドラマで描かれたキャラクター…パワハラ気味の上司エリック、モラハラ上司のケニー、セクハラ上司ヒラリーの振る舞いは、今から10年~20年ぐらい前の業界の様子を極端に誇張して描いたものだろうと言う。今どきこのドラマで描かれたような極端なモラハラや、(#MeTooの今の時代に)セクハラもまさかないだろう。
それから叩き上げの優秀なエリックのような人の数も減っている。今はほぼ高学歴しか金融業界には入れないのだそう。80年代までは大学を出ていない人が金融業界に入ってきて大成功する話もあったらしい。ヤッピーの時代の話。
というわけで…投資銀行の新入社員たちの迷いや戸惑いをメインに、仕事の内容はほとんど描かず、社内の内部事情を少しだけ描き、余った隙間に若者達の不毛なセックスを散りばめて全8話の尺に伸ばしたドラマ。 「得体の知れない金融業界の人々…魑魅魍魎」を冷めた目で描くのがテーマだろうか。一見シリアスでスタイリッシュだが、実際は…いかにも金融業界ステレオタイプ的な極端な状況描写をブツ切りにして並べただけで、人物達の描写も薄い。
そもそも脚本家二人が金融業界に馴染まず辞めた人達なわけで、エンタメのために業界の人々を極端に歪めて描くのも(業界内の人々には)フェアではないだろうと思う。金融業界の人々は、実際にはほとんどが真面目で、プロフェッショナルで、常識的な、普通の人々であることも、このドラマでは全く描かれていない。
それにこれは新卒の若者のドラマ。それならもう少し若い人ならではのユーモアや子供じみたおかしさがあってもいいのにとも思う。もっとみんな若者らしくしていてもいい。 ドラマ全体が重苦しく、怒鳴られたり苛められたりセクハラされたり…、誰一人として登場人物達が魅力的に描かれていないのは大きな問題ではないか。
結局人物達に心を寄せられなければ、どんなにドラマのカメラワークや音楽が凝っていてかっこよくても、薄っぺらい印象のままで終わってしまう。面白いドラマになる可能性は沢山ありそうなのに、全体の印象が軽薄なのはもったいないなと思う。
さてこのドラマは2シーズンも決まったそうだが、…どうかな…見るかな。どうかな。