能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

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2024年4月8日月曜日

映画『ワインは期待と現実の味/Uncorked』(2020):夢を追う若者





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『Uncorked (2020)/米・仏/カラー
/1h 44m/監督/脚本:Prentice Penny』
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私が今まで全く知ろうともしなかったワインの世界。去年のクリスマスにブルゴーニュ風ビーフ・シチューに使ったことで出会ったアルベール・ビショー/Albert Bichot 社のブルゴーニュ赤ワイン。それからネットで調べてワインのことに少し興味を持ち始めた。(フランスの)ワインには見分け方の基本があるんだねと。

ブドウの種類、ブドウが育つ土地の土の質、その地方の気候…。それらの条件でその土地特有の味のワインができる。ワインの名産地には歴史があって、その土地に特有のブドウが育ち特産品が生まれる…。

そのようなワインの基本の基本を知ることができたことがすごく嬉しくなった。そのきっかけを作ってくれたアルベール・ビショー社にも愛着が沸いた。感謝の気持ちも込めて。

先日も同社の米国のサイトを見ていた。そうしたらこの映画の記事が出てきた。アルベール・ビショー社のワイナリーがこの映画に撮影協力をしたらしい。え、そうなんだ。見たい。というわけで先週の週末にNetflixで視聴。


早速映画の冒頭から同社のワイン・メイキングのシーンが出てくる。お、いきなりですかと喜ぶ。ブドウの育つ様子、収穫の様子、工場でのプロセス、ステンレスのタンク、職人さん達が働く様子、そして工場でボトル詰めされているのは「Chablis」。映像を止めて「これこれ、このラベルよ」とまた喜ぶ。

アルベール・ビショー社が出てくるのは、この冒頭のワイン・メイキングの様子と映画の半ばで主人公が同社の見学に行くシーンで建物の外側が一瞬映るのみ。建物の中に入る様子は描かれていない。

それでもちょっと満足。なんだか知り合いが映画に出ているような気分。嬉しいわ。


いい映画です。監督はPrentice Pennyさん。今までテレビドラマのプロデューサーを多くなさっているアフリカ系の監督さん。

主人公はテネシー州メンフィスのワイン好きのアフリカ系の青年イライジャ。ワインショップでバイト中。父親ルイはローカルで人気のバーベキュー・レストランのオーナー。父親は息子にレストランを継いで欲しいが、イライジャはワインを真剣に学びたいと言う。


子供が家業を継ぐのか、それとも自分の生きたい道を選ぶのか…の父と息子の物語。どのような職種でもこのような話は有り得る。漆の職人さんの息子さんが美大に行ってアーティストになりたいと言うとか、農家の息子さんがエンジニアになりたいと言う…。そういえばちょっと前にうちの壊れた窓を直してくれた職人さん親子もそうだった。お父さんは窓修理の職人。しかし息子さんはカリフォルニアに行ってワインを学ぶ予定だと言っていた。このような親子の話は沢山あるのだろうと思う。

映画はイライジャ君が、世界的な資格「マスター・ソムリエ/Master Sommelier」の試験に合格するために努力を重ねるストーリーを追う。お父さんは最初は渋い顔。しかしお母さんが助けてくれる。イライジャ君は学校に通い始め、後にフランスに学びに行くチャンスもやってくる。夢を叶えるために頑張る若者の物語。いい話。イライジャ君を応援しながら見る。


アフリカ系の家族の明るさがいい。皆で集まってディナーの日、イライジャ君が皆に初めて「ソムリエになりたい」と夢を語る。皆のリアクション「え、アフリカのソマリア?」の会話のリズムが最高。ゲラゲラ笑う。すごくにぎやかで明るい家族。

様々な事柄が起こるのだけれど、特にお父さんとイライジャ君の関係に心動かされる。お父さんいい人。これは本当にいい親と子、家族の話よ。  

さて「試験はどうなるのか?」イライジャ君と家族を追ってストーリーに引き込まれる。いい映画。


ヒップホップのカルチャーで育ったアフリカ系の男の子が、世界的なワイン・ソムリエの資格を取るために努力をする映画。正直な話、私は最初はいまどきのポリコレ系の映画として、このアフリカ系の若者が人種のために苦労をする様子が描かれるのか…人種による困難にぶつかっても諦めずに頑張る若者の話が描かれるのかと思っていた。

ところがこの映画、人種に関する場面は一切出てこない。この映画は今どきの「説教型のポリコレ映画」ではない。ここで描かれるのは、人種の問題は一切関係なく…ただ一人の若者が夢を追って努力を重ねるストーリー。

それで考えさせられる。監督さんのPrentice Pennyさんはアフリカ系の方。このお方は意図的に「人種」をストーリーに盛り込まなかったのではないかと。これは一人の若者の話。若者が夢を追う話。だからこの映画を見る人が白人であってもアジア人であっても、皆がイライジャ君の話を自分のことのように見ることが出来る。映画のテーマ「父と息子、家業と夢」の話はどの文化圏の人が見ても理解できる話だろう。

メンフィスでもフランスでも、彼の周りの友人も、ワインの学びの仲間も…イライジャ君のストーリーに「人種」がお題に上ることは一切ない。彼のワインの学びの仲間はハーバード出身のエリート、(たぶん)インド系の女性、(たぶん)イタリア系の青年、そしてバイト先のワインショップのオーナーは白人で頼りになる相談相手。そして学校の先生やフランスで出会う人々も…。

私が個人的に人種のことを「心配」したのは、きっと私が今までに多少の人種関連の「経験」をしてきているからだろう。「もしイライジャ君がここで無視されたらどうしよう?」と必要もなく心配してしまったのは、私の中にも白人に対するバイアスがあるということだ。

「人種」を一切お題に上げない若者の物語。私はそこにもちょっと感動した。そうだよね。これが普通であるべきなんだよね。この話は静かに世の中の「理想」を見せてくれているのだろうと思った。ありがとうと思った。


最後は賛否両論だそうだ。私はこのエンディングだからこそいい話だと思った。これでいい。いい気持で見終わった。


余談だけれど…
実は知り合いに「マスター・オブ・ワイン/Master of Wine」の資格を持つ女性がいる。ロンドン時代の旦那Aの同僚の奥さん。彼女は20代から勉強を始めて、たぶん合格するのに5年以上(もしかしたら10年近く)かかったのではないかと思う。とにかく取るのが大変難しい資格だと聞いている。そのマスター・オブ・ワインの今の資格保持者は世界で416人。そしてこのイライジャ君が目指しているマスター・ソムリエは世界でたった274人。決して簡単に合格できる資格ではない。その彼女の旦那さんも、彼女が合格するまでに大量のワインを買わなければならなかったと言っていた。

昨日調べたら、彼女は今業界でかなり有名なワイン評論家になっていることを知った。本も出していてWikipediaにも名前が出てくる。かなりの大家になっているらしい。ひ~驚いた。そのような資格保持者は世界中のどこに行ってもひっぱりだこ。彼女達はロンドンの後、旦那さんの転勤で日本やシンガポールにも住んだのだけれど、企業との仕事はもちろん、時には大富豪のワインコレクションのアドバイザーとしても雇われたことがあると言っていた。そういえば「日本人は高いワインを実際に飲むのよね」などとも話していた。西洋では高いワインはコレクションをする人が多いそうだが、日本人は飲むのだそうだ。すごいね、日本の大富豪。


私はこれから少しずつ20~30ドルくらいのブルゴーニュとボルドーのワインを「これはどうかな~」と試していこうかなと思っている。フランスのワイナリーのストーリーを(飲みながら)学んでいきたい。…フランス革命の頃に始められたワイナリーなんてちょっと浪漫…。