またギターを聴く。
Extreme – Cupid Is Dead (1992)
Album: III Sides to Every Story
Released: Sep 22, 1992
℗ 1992 A&M Records
℗ 1992 A&M Records
Extremeアルバム評第三弾『III SIDES TO EVERY STORY』
(㊟この文は腐るほど長いです)
大成功した『Pornograffitti』の後、皆が待ち望んだExtremeの3作目は三部構成の大作でした。さて…このアルバムはね…評価が難しい。実はアメリカであまりうけなかったんです。どうしてでしょう。
アルバムそのものはBillboard 200のアルバムチャートで10位。これは『Pornograffitti』が同じく10位だったことを考えれば決して悪いようには見えない。しかしこのアルバムの実際の売り上げは70万枚 (Wikipedia)だったそうで、ダブルプラチナム(2百万枚)売り上げた『Pornograffitti』には遠く及ばなかったんですね。
シングルの結果はもっと明らか。「Stop The World」が95位。「Rest In Peace」が96位。なんと50位内にも入らなかった。
200万枚を売った大ヒットアルバム『Pornograffitti』の後で、当然次作での成功も期待されたはすなのにどうして売れなかったのか? グランジが出てきて周りの環境が変わったという話もありますが、問題はそれだけではないですね。そのあたりを書きます。
私が当時このアルバムを買って聴いた最初の感想は「???」でした。
『Pornograffitti』の元気元気元気元気天才ヌーノ君の大ギター盛り上がり大会路線が、このアルバムでずいぶんおとなしくなった。音の印象がなんとなく以前と違うのはすぐにわかった。
1「ギターの音が足りない」
まずこれ。これでびっくりというかがっかりというか…。Extremeのアルバムにはもっとガンガンにギターがうるさい奴を期待していたんですよ。だから「あれ?」と思った。
2「ギターが少ないせいか楽曲の勢いもなくなった」
なんとなくそんな感じ。前作の『Pornograffitti』では、規格からはみ出すようなギターをキャッチーな楽曲に埋め込むのが天才的に上手くて面白かったのに、ギターの音が減ったらなんとなく曲の魅力もなくなった。勢いがなくなった。…要は、Extremeの楽曲から早弾きファンクギターを無くしたら普通のポップソングになってしまった。楽曲は悪くないんだけど、Extreme独自の特出したものがなくなった感じ。
3「アルバムの尺が長い」
コンセプトアルバムで三部作…無駄に長い印象。曲数は前作から1曲増えただけなのに、前作にあったようなピリッとしまった感じがなくなって冗長。実は個々の楽曲の尺も長い。コンセプトものにしたことで前作の「おもちゃ箱的な驚き」もなくなった。
3「歌詞が真面目すぎる」
私が思う一番の問題はこれ。当時英語がわからないながらも「peacemaker」や「politicalamity」などの言葉に疑問を感じたのは事実。なんで急に政治のことを歌い始めたんだろう…? 今回英語がわかるようになってあらためて聴き直したら、まーこのアルバム、いやになるくらい優等生風味全開。うわーどうしちゃったの?
…だってこのバンド、前作までは「スージーちゃんはペロペロ大好き」とか「周り中Hばかりで困った」とか20代の男の子らしいふざけた歌も歌ってたんですよ。だからこんなに180度も印象が変わったらついていけない。これほんと。
そこなんですね。1作目『Extreme』のレビューで「ゲイリーさんは真面目だと思う」と書いたのもそこ。2作目までは若い男の子の等身大の正直な歌を歌っていたのに、アルバムが大ヒットしたら急に心を改めて真面目な優等生路線に変更。世界平和とか人類皆兄弟なんて言い始めた。おいおいおい。
Extremeはもともと真面目な人達だったんですね。多くの人に自分達の歌が届くのなら「いいメッセージ、正しいメッセージ」を歌おうと思ったんでしょう。なんと純粋な…。
ところが当時の一般的なメタルファンはExtremeにそんなものを期待していないわけですよ。私も含めてExtremeの多くのファンが聴きたかったのは、ノリのいいパーティ・ソングかスージーちゃんの歌…前作と同じようなギターのうるさい元気のいい音楽。正しいメッセージなんていらない。いや正しいメッセージなんて無茶苦茶胡散臭い(笑)。だってExtremeがいきなりそんな歌を歌っても説得力がないですもん。
結局アルバムが売れなかった一番の問題はそこだったんだろうと私は思います。売れたことで優等生路線をやりたかった彼らの気持ちは理解できる。コンセプト的なものを目指したのもわからないわけではない。70年代にQueenやプログレなんかを聴いて育ったのなら、ああいうものもやってみたかったんだろうと思う。しかしExtremeの良さはQueenとは全く違うところにある。真似しちゃいかん。
その上、周りの流行とも相性が悪かった。当時ウケていた音楽が「俺は俺がきらいだー」的なグランジであったらやっぱりこのアルバムは場違いです。こんな説教臭い歌がウケるわけがない。宗教的なものを持ち出してきたらもうお手上げ。それがExtremeみたいなバンドで聴きたい歌の内容か?
今思えば、当時のExtremeはメンバーも20代後半で経験も積んで、実力派のライブバンドとしても最高の状態だったのに、このアルバムで頭でっかちになり過ぎて、もっと大きな成功のチャンスを自ら潰してしまったような印象。もったいない。本当にもったいない。
当時の周りの流行がどうであれ、あとアルバム2枚分ぐらいは気負わず直球のExtreme印の元気のいいアルバムを出してコアなメタルファンの心をしっかりとつかんでおけば、数年後…アルバム5枚目6枚目あたりにこういう毛色の変わったコンセプトアルバムを出しても何の問題もなかったのではないかと思う。変化球を出すのが早過ぎた。
…それでもこのアルバム、『Pornograffitti』ほどの勢いは無いけれど、場違いな歌詞を無視すれば楽曲はそれほど悪くないです。この「Cupid Is Dead」が勢いがあって一番いい。リズムがいい。元気がいい。
皆当時のファンはこういう元気がいい曲をもっと聴きたかったんだよな。
とにかく前作の『Pornograffitti』が良すぎた。今回久しぶりに聴いたけど、どんなバンドでもあのアルバムのような前作を超えるのはおそらくほぼ不可能に近いと思う。あのアルバムはモンスターアルバム。このアルバムと聴き比べるとそれが本当によくわかる。あのアルバムのエネルギー量は本当にとてつもない。むしろあのアルバムが特殊だったのかとも思い始めた。
さてこのアルバムのライブはもちろん見に行きました。\(^o^)/ヤッター
1993年3月30日(火)・31日(水) at 武道館。30日はアリーナで31日は1階。1階の方がよく見えた。楽しかったな。あの時はExtreme全盛期だったのかも。予算にも余裕があったのかツアーにホーンセクションをつれてきてました。ステージ上にコンガがセットしてあってヌーノ君が時々叩いてた。たぶん31日にアンコールでCheap Trickの「Surrender」を演奏したと思うんだけど確認できない…。とにかく当時のヌーノ君はアイドル❤。ギターを弾きながら前後に身体を揺らして踊ってて、綺麗な髪がそのたびに揺れて素敵だった。(*^_^*)
★アルバムの曲別評。歌詞の意味とその印象を書いてます。なぜうけなかったのかの理由として歌詞を分析しているのでネガティブな感想が多いので注意。
YOURS---------------------------
#1.Warheads:今聴くとテロリストの歌に聴こえる。曲も勢いはあるんだけどなんだか全体にきな臭くて素直に楽しめない。「弾頭になりたいか?俺が奴らを地獄へ吹っ飛ばすとき」なんて歌詞も物騒でそのまんま。
#2.Rest In Peace:このギターは好き。リズムは流石です。キャッチーなメロディ。だけど歌詞が真面目すぎる「戦争をせずに愛し合おうなんて言葉は馬鹿馬鹿しい…だけど身近なところから俺たちの平和を始めようよ」
#3. Politicalamity: Aメロのギターはいいけど全体に曲に勢いが無い。PoliticalamityとはPolitical(政治の)とCalamity(災難)をあわせた造語でしょう。「共産/独裁/民主/偽善…民主党ロバ/ソ連熊/共和党象…」なんて政治がらみでグダグダ言ってる。何だ?
#4. Color Me Blind:音楽は非常にキャッチー。流石ですね。Picture the world without any
color…からのコーラスも素晴らしい。…しかしこれ歌い出しから「I had a dream…」なんてガチの人種問題についての歌です。ちょっと説教臭い。
#5. Cupid's Dead:曲は最高。Extreme印。ギター最高。真ん中あたりのギターとベース最高。いいぞもっとやれ。この曲が一番いい。…キューピッドが死んだ=愛が死んだ…ということらしい。この歌詞は違和感はなかったけど、なんだか深刻。
#6. Peacemaker Die:この曲の一番いいところはMartin Luther King, Jr.さん御本人の"I Have A Dream" スピーチの部分。この歌はPeacemaker=キリスト、ガンジー首相、キング牧師、ジョン・レノンへのトリビュート曲らしい。…しかしこういうバンドがこういう話題を歌うことの薄っぺらさがちょっと嫌。なんだか意図的に作られた感じがしてリアリティがない。音は好き。サビPeacemaker die…のコーラスも綺麗。
MINE---------------------------
#7. Seven Sundays:なんとワルツです。最初からストリング多用。ギターは不使用。多重コーラス。こういう歌も馴染んでこなれてきました。やっぱりQueenが好きなのね。「1週間ずっと一緒にいたいね」という愛の歌。綺麗です。
#8. Tragic Comic:ギターがいい。リフでのリズムは流石。「彼女の前では何をやっても失敗する」という可愛い歌。しかしExtremeってそういうバンドだっけ?という疑問は残る。
#9.Our Father:これはキャッチーな正統派ハードロック。好き。メロディも綺麗なExtreme節。コーラスもいい。「お父さんおいていかないで」という歌詞ですが、このお父さんはキリスト教の神様の意味もありますね。
#10.Stop The World:普通に聴けばとてもいい歌です。「この世がこのままの状態なら全てを止めてくれ」と悲観的。ずいぶんシリアスな内容。Extremeとしてはちょっと退屈。
#11. God Isn’t Dead?:これはまんまQueen風。いや音のパクリ。ここまで露骨だとさすがにゲンナリ。「皆苦しんでいる。神は死んだのか?」って言いたいことはわかるけど、先輩の音をそのまんまパクってそんな大層な話をしないで下さいよ。深刻過ぎ。寒い寒い。このアルバム、過去に何度も聴いたのに、今聴きなおすまで全く覚えていなかった。それぐらい楽曲の印象が薄い
TRUTH---------------------------
Everything Under The Sun
#12. -I. Rise 'N Shine:好きです。綺麗な歌。このメロディは記憶に残る。内容も前向きでやっと明るくなった。ちょっと宗教のニュアンスがありますね。ビートルズ。
#13. -II. Am I Ever Gonna Change:音の響きはいい。ドラマチックな「自己反省」の歌。やっぱり真面目な人だな「自分でいることが嫌になった。自分を変えたい。」途中はまんまプログレですね。音楽は好き。
#14. -Who Cares?:「Tell
me, Jesus,…」から始まるこの歌も宗教もの。神様(自分)に話しかけてます。しかし宗教になるととたんに胡散臭くなる。寒い。音もQUEENのパクリ。なんだか違うよな。自分達が元々どういうバンドだったかってことをサッパリ忘れてしまったのか? 不快な自己愛の印象の方が大きい。嫌だ。
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・Extreme - Midnight Express (1995)
・Extreme - No Respect (1995)
・Extreme - Cupid Is Dead (1992)
・Extreme - He-Man Woman Hater (1990)
・Extreme - Get The Funk Out (1990)