ここ数年で私が一番よく見ているTV番組は、BBCのインタビュー番組『HARDTALK』だった。この数年間、毎日番組を録画して(出来るだけ)見ようとしていた。この番組は今の私が物事を考える上での大きな判断基準であった。この番組が私の正気を保ってくれていた。
そのBBC『HARDTALK』が3月いっぱいで終わってしまう。番組の打ち切りである。
私は2週間前ぐらいにそのことを知ってとにかく残念で残念で残念で…。3月いっぱいで終わりだと言うので「なにごとか」といくつか情報を見てみたのだけれど、私には納得がいかない。インタビュアーのStephen Sackur氏も納得していない模様。出てきたインタビューをここに貼っておこう。
★ The G2 interview/ガーディアン誌
‘I feel really, really cross at incredibly dumb decisions’: Stephen Sackur on the end of HARDtalk – and leaving the BBC
★ Stephen Sackur: How the BBC killed HARDtalk
https://www.youtube.com/watch?v=cpxRYYGwk0Y
Stephen Sackur氏はBBCから一方的にクビ/解雇を言い渡され『HARDTALK』も終了。BBC側の理由は、予算削減と、この番組の視聴率が低いことからだという。
ところが Sackur氏によると、その判断は決してフェアなものではない。『HARDTALK』の予算はBBC内で削減されるべき予算の5%しか使われておらず比較的少額で、また判断の基準になった視聴率は英国内のみの数字。そして番組の英国での放送は真夜中0時過ぎと午前4時からの2回のみ…(誰もテレビを見ない)放送時間での視聴率での判断らしい。
現実には、この番組は世界的な人気番組で、海外の視聴者(ラジオも含む)は1週間で1億7千万人。その質の高さから世界中の人々に愛され信頼され称賛され、BBCにとっても「信頼できるジャーナリズム」の番組として実績のある看板番組であった。それにもかかわらず、BBCはこの番組を打ち切りとした。Sackur氏によると、BBCの上部のマネジメント側はこの番組の世界的な評判と価値を理解していないのだろうとのこと。
本当に残念です。まずSackur氏がクビ/解雇になったというのが信じられない。私はてっきり彼が61歳であることから、御本人がそろそろリタイアしたいと思ったのかと思っていた。いやいや彼はまだ続けたかったらしい。40年間もBBCと共に、現在局を代表するスター・ジャーナリストであるにも関わらずSackur氏がクビになるとは…。信じられない。
この『HARDTALK』のなにが面白かったのか。
Sackur氏御本人が仰っているように、このインタビュー番組はできるだけ政治的なバイアスを入れないようフェアであることを信条としていた。インタビューの前には内容に踏み込むためにリサーチを怠らず、実際のインタビューでは、相手の人物に対して直接的な(時には厳しい)質問をしてそれぞれの正直な意見を導き出す。…言葉巧みな政治家の裏と嘘を暴き、戦争が起これば両方の陣営に意見の場を提供する。そしてそのインタビューへの判断は視聴者に任せ、決してBBC側が視聴者に意見を押し付けることはない。
例えば…
ロシアがウクライナに侵攻すれば、数か月おきにロシア側とウクライナ側両方へのインタビューを試みる。そしてロシアの周辺国の政治家へのインタビューも度々行われた。ロシア側の代表の言葉、それからウクライナ側の代表の実際の言葉は大変貴重。ロシアの周辺国、また欧州の政治家の言葉は現地の人々がどのような状況にいるのかの実際の様子を知るのにも貴重な情報だった。
イスラエルでの紛争ではイスラエル側(追記・元首相 Naftali Bennett氏と Netanyahu首相の元首席報道官 Mark Regev氏と他の数名)とパレスチナ側の代表(駐英国パレスチナ代表団長 Husam Zomlot氏)へそれぞれインタビューを行い、またガザでの苦しい状況がニュースにになれば、 UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の長官(Philippe Lazzarini氏)にインタビューを試みて現地での様子を聞く。
これらがなぜ(私が物事を判断するために)貴重な情報なのか…
例えば…
今どきの米国の右寄りの情報/噂には「UNRWAの全てはハマス寄りである」との意見がある。しかしそれらの情報/噂を広める人々が、UNRWAの長官によるガザの現場のリポートを実際に聞いているとは思えない。(信頼性のないSNSの偽情報も含めて)右寄りのメディア情報を鵜呑みにして満足し、 UNRWAのガザでの実質的な救済活動の全てを拒絶してしまう態度に公平さはあるのか。
そしてまた同時にイスラエル側の主張、戦争の理由、戦争はどこへ向かっているのか、その意図や目的も知りたいと思う。両方の意見を聞きたいと思う。
イスラエル側であれパレスチナ側であれ、またロシアとウクライナの状況であれ、知りたいのは世界で何が起こっているのかの事実。事実を把握するために様々な立場の人々の主張を彼らの言葉で聞きたいと私は思う。
なぜなら人物のインタビューの映像は、その人物の言葉以上に大きな情報を明らかにするからだ。私達は「言葉を発する人物」の表情やボディーランゲージで言葉以上の様々な情報を読み取ることができる。質の高いインタビューでは、視聴者が言葉巧みな政治家の嘘を見透かすことも可能。インタビュー映像は、編集された活字の記事以上にその「言葉を発する人物」の本質が見えることも多いのである。
『HARDTALK』は様々な要人への貴重なインタビューを放送してくれることによって視聴者が自分で判断する機会を与えてくれていた。主題に踏み込んだリサーチをベースに、あくまでも対象に対しフェアであることを信条にした「HARD/厳しい」インタビューは、他では見られない貴重なものであった。この番組は今の(様々なことが動いている)世の中で私の正気を保ってくれる数少ない番組の一つであったと思う。本当に惜しい。
これから Sackur氏は本を書かれるそうだ。そして彼がこれからどこに行くのかは「まだ話せない」とのことだが、またどこかでメディアに出てこられるのだと思う。それにしても彼がBBCと切れたのは惜しい。彼のインタビューもBBCの看板があるからこそ出来たものも多かったはず。Sackur氏にとってもBBCにとってもいい番組だったのになぜ終わらせてしまったのか理解できない。これからSackur氏がどこに出てくるのか、注目していこうと思う。
昨日は様々なことを思いついてうだうだと書いていたけれど主題から外れるので削除した。この『HARDTALK』の終了で私はかなり upsetであることは間違いない。