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『Lincoln(2012年)/米・印/カラー
/150分/監督;
Steven
Spielberg』
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この話は日本人には難しいです。
舞台はアメリカ、南北戦争の時代。大統領はリンカーン。あの有名な「人民の人民による人民のための政府…」のお方。アメリカでは一般的に、奴隷制を終わらせた素晴らしい大統領として知られている。もちろんこの映画もその話っぽい…。
ところで私のアメリカの歴史の知識は皆無に近い。それに普段から、どちらかと言えばアメリカ人の愛国主義的なものが苦手なので、こんな映画もいつ「アメリカ万歳」をやり始めるかと気が気でしょうがない。鑑賞中のそんな心配を減らすため、昔聞きかじった浅知恵を元に、ちょっとだけ旦那Aをちくっと刺してみることにした。
「リンカーンと北部は奴隷解放だけのために南と戦ったんじゃないのよね。政治的な理由なんでしょ。あの時代の白人が、奴隷の事を心から心配したなんてありえないよね。奴隷解放は、北が勝った結果としてついてきただけでしょ。リンカーンも人種を超えた平等を信じたわけではないよね。」(←大きく間違っているが0点ではない)
そしたらすぐに食いついてきた。また喧嘩(いや討論)。彼が言うには「南北戦争の大きな理由の一つはまず奴隷解放である。よってリンカーンも奴隷解放を実現させた英雄」(←大きく正しいが100点ではない)なのだそうだ。…そんなこんなでまた討論を小一時間…。二人ともこれが楽しいのだからしょうがない…。じゃあ映画を見てみようじゃないのよ…と二人で見に出かけた。
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アメリカの南北戦争(1861年 - 1865年)とは、産業によって栄えた北と、農業によって栄えた南とが、経済・社会・政治的な違いから仲たがいをして分裂しそうになったことから起こった内戦。農業に支えられた南は労働者として奴隷を必要とし、奴隷の必要がなかった北は奴隷制を廃止しようとした。北に異を唱えた南部の11州が1861年に合衆国(議会)を脱退。北を攻撃したことから開戦。両軍60万人の戦死者(米国史上最大)を出し、北が勝利した結果、奴隷制も廃止されることになる。
ちなみにYahoo百科事典によると、南北戦争の本質とは「北部と西部の資本家・労働者・農民が、南部のプランター(農園主)貴族を国家権力の座から追放した社会的大変革であった」とある。)
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さてこの映画は、南北戦争の基本的な知識の無い私のような者には非常に難しかったです。まず言葉が分からない。使用される政治の用語も難しいし、旦那Aによると「19世紀独特の言い回しが多くて外国人には難しいだろう」とのこと。それに史実の基本的な知識が無いと分かりずらい展開も多い。私も後で説明してもらってやっと理解したことが多かった。勉強不足である。
例えば日本の歴史をよく知らぬ外国人が、大政奉還、薩長同盟、坂本龍馬や西郷隆盛を知らずに、当時を題材にした映画を見てもさっぱり分からないのと同じだ。そんな風に正直難しかったのが事実なので、分かったことと個人的な印象だけを書こうと思う。
あらすじ(ネタバレというより解説です。史実なのでネタバレでもないと思う)
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南北戦争も佳境に入った頃(北がほぼ勝利している)、大統領リンカーンはなんとか戦争が終わる前に奴隷制の廃止を(憲法の修正条項として)制定したい。制定は議会での投票によって行われる。可決するには3分の2の票が必要。現在南部は合衆国を脱退している。戦争が終了し、南の政治家たちが議会に戻ってくれば、奴隷制の廃止の可決は不可能だ。南不在の間(戦争が終わる前)に、北だけで可決させたい。戦争はほぼ終わりに近づいている。もうあまり時間が無い…。彼と政治家達の奴隷制廃止の可決をめぐる葛藤と戦いの数ヶ月。」
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とにかく真面目に作られている。スピルバーグさんの映画にはほぼ裏切られない。いつも真面目に真面目な映画作りをしてくれる監督さんだと思う。そもそも非常に知的な人だと思うので、この映画にも私が危惧したような「アメリカ万歳」の印象はなかった。
リンカーンの映画というよりも、アメリカの議会の映画という感じだ。リンカーン本人は信念を持って奴隷制廃止を願っているが、彼一人の力ではどうすることも出来ない。廃止を可決するためには議会で3分の2の票が必要。(奴隷の必要が無い)北部の政治家達とはいっても、時代は19世紀。奴隷制を全員一致で積極的に廃止したいなどとは思ってない。奴隷制度廃止という理想はあっても、正直多くの者にとってはどうでもいいことなのだろう。そこでリンカーンは反対派の政治家達を説得していく。これが話の主軸。可決までの道のりを描く。
そもそもこの映画は、リンカーンを奴隷解放の父=英雄としてのみ描いた話ではない。南北戦争の話ですらない(戦闘シーンはほんの少しだけ)。むしろ(内容に関係なく)一国のリーダーがいかに難しい状況の中、反対派を説得して国を正しい道に導くのかという話だと見た(オバマさんにもがんばっていただきたい…)。
このリンカーンさんを見ていて思ったのは「人たらし」(たぶん使い方を間違ってますね。大変カリスマに溢れた魅力的な人物というつもりでした)ということ。史実かどうかは全く知らないが、この映画で描かれる彼は非常に魅力的だ。一見物静かだが口を開けば冗談を言う。決して押しが強いようには見えないが、強い信念のもと、話を始めればいつの間にか皆彼に同調してしまう。まるで彼の人としてのカリスマと魅力が、相手の心にも火を灯すかのよう。そんな人物に描かれている。
ダニエル・デイ・ルイスさんはリンカーンさんを非常にリアルに演じている(のだろうと思う)。こんな人は実際にいそうだ。映画の中で1度たりとも俳優ダニエルさんが顔を出すことはなかった。役になりきってます。もしかしたら来年のアカデミー主演男優賞かも…(旦那Aは間違いないと言っている)。周りの役者も超ハイレベル。
そんなこんなで、分からないながらも納得して映画館を後にした。重厚で非常に質の高い真面目な歴史映画。しかしこの映画は、よほどアメリカの歴史に詳しくないと、100%は楽しめないだろうと思う。まさにアメリカ人のアメリカ人によるアメリカ人のための映画である。
ところで、リンカーンが一個人として人種間の平等を信じていたのかどうかの答えは描かれていない。むしろこのような映画なら描く必要もないのだろうと思う。理想的な理念を強く信じた政治家としてのみ描いている。彼の個人的な人種に関する考えには意図的に触れていないようにも見えた。(なぜなら多くのアメリカ人にとってリアルな人種問題の描写は地雷だからだ)
リンカーンを過剰に現代的な英雄に描くわけでもなく、かといって19世紀的な人種問題のリアリズムを描くわけでもなく、ただ一途に信念を貫いた真摯な政治家として描いた映画だと思う。
日本の方には下調べをすることをお勧めしたい。そのほうがもっと楽しめると思う。私も住んでる国のことは、もう少し学ばないといかんな…と思った。
↓ネタバレ注意
奴隷に(将来)参政権を与えるかどうかの質問に議員全員が「No.」
女性に参政権を与えるのかの質問には全員が「NOOOOOOOOOOOO!!!」と言う場面に爆笑。