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2021年9月13日月曜日

映画『アーロと少年/The Good Dinosaur』(2015): 野生動物ドキュメンタリーのパロディ風






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『The Good Dinosaur (2015)/米/カラー
/1h 33min/監督:Peter Sohn』
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いい映画。面白い映画。動物好きならニヤニヤする場面が沢山。この映画、子供向けアニメなのだろうけれど実際には大人が楽しめる「野生動物ドキュメンタリーのパロディ」だと思う。だからちょっと毒がある。それがまたおかしい。


恐竜の生きる時代…もし恐竜を絶滅させた巨大隕石が地球にぶつからなかったら…? そしてそれから長い年月が過ぎた。恐竜は進化して頭脳を持ち、哺乳類も恐竜の脇で独自に進化した。原始の人間もいつの間にか進化していて恐竜と同じ時代に暮らしている…という設定。


面白かったです。テーマは「かわいい子には旅をさせよ」的な話かな。弱々しい子供が旅をして大きくたくましく成長する話。そんな話は他にも『母をたずねて三千里』、『ニルスのふしぎな旅』なんてあった。そういえば同じような旅の冒険話では動物ものもあった。『三匹荒野を行く』とか『名犬ラッシー』もそうだっけ? もっとあったような気がするけど何があったろう。子供の旅の話は結構古典的なテーマではないか。

というわけでこの映画も、気の弱い末っ子の草食恐竜アーロ君が旅をして家に帰ってくる話。


内容の前にひとつ。この映画、風景がとても綺麗です。それから水の透明感の描写。それはそれは美しい。風景はほぼ実写のよう。しかし実写と違って画面の隅から隅までギチギチにピントが合っているので違和感がないわけではない。完璧すぎる。それでもとても綺麗な風景。



ネタバレ注意

さてどこから始めようか。この映画の世間での評判が知りたくて、またいつものようにIMDb/International movie databaseを覗いてみた。ユーザー・レビューを見てみたら、驚いたことにものすごい酷評の嵐。10点満点で1点や2点と評価する人も少なくない。一番多いのは「ピクサー/Pixarの映画としては凡庸」という感想だろうか。それから怒り狂ったアメリカの母親達…彼女達の小さなお子さん達(4歳や5歳)が、この映画をとても怖がって悪夢を見るようになった。酷い酷い…などと文句を言っている。

皆さんピクサーには常に傑作を期待するのだろう。私は最近のピクサーは見ていないのでよく知らないのだけれど、確かに昔からピクサーは良かったですもんね。まぁ~それにしても怒り狂う母親達というのは怖い。完全に頭に血がのぼってます。しかし彼女達は4歳の子供を「恐竜の映画」を見に映画館に連れて行って何を見せるつもりだったのだろう?


これは小さい子供向けの映画ではない。

制作陣の頭にあったのはおそらく「野生動物ドキュメンタリーのパロディ」。そんな動物ドキュメンタリー風の場面が沢山出てくる。それがいい。最高。その意図がわかれば、この映画はかなり面白い。時々出てくるブラックユーモアも楽しい。

そもそも野生動物のドキュメンタリーというのは…結構残酷なものなのですよね。可愛い小動物がぱくっと食べられたりするのは普通(ネズミを狩るキツネなど)。テレビ用のドキュメンタリーでは特に残酷な場面はカットしてあるようだけれど(大型イヌ科の群の狩りは残酷)…肉食動物が草食動物を捕まえて食べる…これは野生の基本。その事実がこの映画ではオブラートに包むことなく描かれる。それがいけなかったのだろう。確かに4歳の子供にはきつい。怖いと思う。

しかし動物もののドキュメンタリー(BBCのデイビッド・アッテンボロー関連)が好きな大人にはそこが面白い。いかにも野生動物ドキュメンタリーらしく、非常に美しく、ストレートな表現で、即物的。制作陣はおそらくそれを目指したのだろうと私は思う。この映画はだからこそ面白いのですよね。


またアメリカの母親達が不機嫌になったもう一つの理由は…、主人公の旅の仲間になる人間の子供が完全に子犬として描かれていることもありますね。少年スポットは、5歳のお子さんなら一番心が寄せられるはずの愛らしいキャラ。ところがその少年がまるで野犬の子犬。リアルな犬。四足で歩き、鼻を鳴らし、狩をして、身体を震わせ、遠吠えをする。地面に落ちて発酵した果物を犬のように直接食べてラリってしまう笑。それは…小さいお子さんを持つお母さんとしては、とても困るものなのだろう。自分の子供があの野生児の真似をし始めたら…どうする笑。

その小さな男の子の存在もまた動物ドキュメンタリーのパロディです。人間の子供が野生の狼や野犬の子犬そのままに振舞う。私にはそれが最高におかしかった。個人的にかなりのツボ。この小さな男の子が可愛くて可愛くて…そしておかしくてゲラゲラ笑った。愛しいです。本当にかわいい。トカゲや虫を捕まえて食べるほどの野生児なのに、主人公のアーロと家族の話をする時は繊細な表情。イノセントで本当にかわいい。ちょっと涙が出そうになる。最後の別れの場面も泣いた。


そんなわけで私にはかなりツボ。とても好き。いい映画。テレビで録画して見たのだけれど、結局連続で3回も見てしまった。


唯一残念だったのは…主人公アーロのキャラクター・デザインかもしれない。アーロはまず草食動物でなければならない(ブロント・サウルスだろうか)。アーロの家族が農業を営む家族であること、父と子の関係、少年スポットとの関係、それからティラノ・サウルスのカウボーイとのやりとりを考えても、キャラの設定としてアーロは草食恐竜でなければならなかったのだろう。草食恐竜なら竜脚類の恐竜の造形が一般的に一番わかりやすい。ところが…あの形はあまりかわいくないのですよね。デザイナーがどうがんばっても…あの竜脚類の恐竜をかわいらしくデザインするのは難しい。実際アーロにもアーロの家族にも華がない。あまり魅力的ではない。そして映画全体を通しての美しい背景…リアルな自然の風景に比べて、アーロ達の姿が微妙に雑なデザインに見えるのも違和感がある。制作陣は草食恐竜のアーロのデザインに苦労したのではないか。

かわいいのは野生児の少年スポットのほう。あの子は本当にかわいい。

もしかしたら主人公アーロのデザインが微妙なことも、この映画の評価が最高点ではないことの理由かもしれません。主人公のキャラクター・デザインはとても大切。


しかし私にはとても面白かった。楽しい映画。ジャック・パランスみたいな超強面のティラノのブッチがカウボーイそのまんま。肉食恐竜が牧場を営む…なども捻りがあっておかしい。この映画…全部がパロディなのですよねきっと。すごく面白かったです。いい話でした。