2025年12月20日土曜日

映画『セッション/Whiplash』(2014) :よく出来た映画、しかしスパルタ式には向き不向きがある





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『Whiplash』(2014)
/米/カラー
/1h 46m/監督・脚本:Damien Chazelle』
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昨日鑑賞。Netflixの映画リストで見つけて、これも2時間以内だったので見てみようということになった。2015年の米アカデミー賞では最優秀助演男優賞を含む3部門で受賞。そのこともあって以前から見ようと思っていた映画。

映画としてとても面白かったです。

緊張感がいい。複雑にならずにストーリーを先生と生徒の話に絞ったのがいい。1時間50分以内でピリッと緊張を保ったままストーリーの軸がブレなかったのがとてもよかった。(こういう映画は色々とサイドストーリーを広げて2時間以上にすると焦点がぼける).



ストーリーの主軸は、

生まれ持った才能のある生徒/その自覚もある/努力家で真面目/真剣で勤勉だが/尊大で/大きなプライドと/アティチュード(気概)もバリバリの…若いドラマー。

アンビシャスな教師…自分の特殊な指導方針が「歴史に名を残す偉大なアーティストを育てることが出来る」と心の底から信じている傲慢な教師。

この二人が1時間以上をかけて戦い戦い戦い続ける映画。その戦いが面白いから…それぞれのエネルギーが上になったり下になったりするので…目が離せない。大変緊張するし、心つかまれる映画。よくできてます。



どうだろうな…、この映画を見て「世界的なアーティストを育てるにはこれぐらいの昭和のスポコン的な「しごき」が必要のか」と感心する人はいるのだろうかと思った。それでも最後はいい気持ちで見終われるのでね。映画にもいい印象が残ります。



しかしあの鬼教師の指導方法はダメやろう…と年寄りの私は思った。

あのやり方ではほとんどの生徒が潰れますね。実際にそのような話も出てくるわけで。「あれが音楽のいい指導方法か」という問いには全く同意できない。あれはダメです。

あの先生はナルシストでしょう。「俺だけがこの卵を可愛がって…叩いても叩いても立ち上がってくる、俺についてこれる奴だけが世界に通用するアーティストになれる」…などという信念を長い間信じ続ける男というのは、生徒を育てることよりも、自分の指導方法を無理矢理無垢な生徒に押し付けて悦に入ってるサディストでしょう。

あの教師は最初から最後まで下衆野郎。 
芸術のために全てを捨てた…とても歪んだ人物に見える。

それは私が年寄りだからわかる。

あの教師は今までにもあの abusive な指導方法で問題を起こしているはずなのに、決してあの指導方法を止めない。それは彼がナルシストだから。「俺にしか本物の才能は見えない。俺のやり方でしか抽出できない才能がある」と思いこんでいる自己満足。


この映画を見ていて思い出したのは軍隊の指導教官。映画なら『フルメタル・ジャケット/Full Metal Jacket』『愛と青春の旅立ち/An Officer and a Gentleman』の教官のしごき。しかしあれは軍隊の話。ミリタリー・スクールは軍人を育てる学校…厳しいトレーニングで軍人の強靭な精神力を導き出す目的がある。だから軍隊には厳しいトレーニングも必要なのだろうと思う。
…旦那Aによると、この映画のような厳しいトレーニングはスポーツならいい結果が出ることも多いそうだ。アメリカのテニス・コーチに有名な鬼指導員がいたらしい。スポコンですね。


しかしこの音楽学校はミュージシャン、アーティストを育てる場所。クリエイティビティを育てる場所。あのような虐待で生徒を叩いても、あまりいいものは出てこないと私は思う。

どうでしょうね。私が今書いていることが正しいのかどうかもわからないけれど…。しかし音楽の指導に(いや芸術の全てに)私は abuse/虐待が必要だとは思わないのよ。歴史に名を残すほどの天才の才能は、虐待をしなくても出てくるときには出てくると思うから。モーツァルトの才能が酷い虐待から生まれたとは思えない(よくは知らないが)。そもそも天才は世の中にそれほど多くいるわけでもない。

この映画を見ていてそのようなことを考え続けた。
芸術の才能は叩いて虐待して出るものじゃないと私は思う。


この先生を見ていると…もし(今の)私が彼の生徒だったら、ただ反抗、抵抗しかしないと思う。人をあのように扱う人間には怒りしか湧かない。今の私なら徹底的に言葉で戦ってたぶん殴る。しかしもし18歳だったらきっと恐怖で萎縮する。


この映画は、あくまでも教師と生徒のバトルの話。最後にいい結果になったのは、鬼教師と生徒の相性がよかったからだろう。確かにあの生徒の馬鹿力は引き出せたわけで目的は達成。会場で観客を無視してソロを続けさせるとか…あまりリアルではないと思うけれど、それでもとてもいい気持ちで映画を見終わることが出来たのはいい。ファンタジーとも言える。


それにしてもあの生徒もなかなか傲慢な若者で…友人だか親戚だかとの食事会でも、傲慢かまして鼻持ちならない。おじさんに「友達はいるのか?」と聞かれて「友達はいらない。俺は世界一の…」等々と言い返していきり過ぎ。「おれは世界一のドラマ―になるから他の奴らはみんなゴミなんだよ」的なことを考えてるし、人前で口にもするし…なかなかアンビシャスな若者で… 君、あおいね笑。 

いやいやいやいや…彼の若さからくる傲慢さを否定するわけではない。若い時はそれくらいの傲慢さも必要。それが頑張りの活力になる。


彼が先生に殴りかかったのはすっきりした。あのような下衆野郎は殴ってよろしい。もしそれで学校を追い出されたら、西海岸の学校に入り直せばいいんじゃないの? 彼は元々の才能があるんだから。一つの学校、一人の教師に人生を賭けてこだわる必要はない。

まぁ色んな事を考えさせられました。とても面白かったです。
音楽学校を出たプロのミュージシャンの感想も聞いてみたい。


青年よ、大志を抱け!!!