能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

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2017年3月5日日曜日

映画『ムーンライト/Moonlight』(2016):少年の成長を見守る監督の優しい目・美しい映画








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Moonlight2016年)/米/カラー
111分/監督:Barry Jenkins
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静かな映画です。とても美しい映画。心に沁みる。

いい映画というのは感想を書くのが難しい。映画が終了して10分以上も過ぎてから涙がジワジワと湧いてきた。目尻がヨレヨレになる。


★大きくネタバレ注意
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孤独な少年の話です。おとなしくてシャイで、まわりの腕白坊主達にいじめられても言い返す事ができない男の子。おどおどしていつも下を向いている。小さい身体のためについたあだ名は「Little/チビ」。

このシャロン君が可愛い。小さな丸い頭が繊細な細い首の上に乗っている。いつも下を向いていて上目遣いに人を見る。不安なのね。ぎゅっとハグして「大丈夫」と言ってあげたい。

…とある日の午後、いじめっ子に追いつめられていたところを優しいおじさんに助け出される。このホアンおじさんが助演男優賞をとったマハーシャラ・アリさん。優しい。彼は心を閉ざすシャロンを食事に連れ出し、自宅に呼んでご飯を食べさせ…ことあるごとに可愛がってくれる。おじさんが与えてくれるのは父親のような温かい愛。

おじさんはシャロンに言う「…you gotta decide for yourself who you're going to be.自分が何になるかは自分で決めるんだ」

やがて少年は成長しティーンになっている。ティーンになってもおどおどした内気さは変わらない。常に不安なのは家庭が安定していないからだろう。クラスメートには相変わらずいじめられるし、母の薬中毒はますますエスカレートしている。子供の頃から仲の良かったケヴィン君が唯一の友達。

シャロンとケヴィンのビーチのシーンは美しい。孤独だった少年が受け入れられ心を開く瞬間「ああよかった」と心から思う。

時は流れる。シャロンは成人し「Black」と呼ばれている。あのガリガリで小さかったシャロン/Littleは随分大きな男になった。子供の頃に可愛がってくれたホアンおじさんと全く同じ事をしているのが泣ける。彼はずーっとホアンおじさんに憧れていたのね。

大人になったシャロンは一見自信に溢れた強い男…周りにやられない為に自分で身体も鍛えた。タフな男として振舞う事も出来る。それでも過去の傷は癒えていない。時には悪夢で過去がよみがえる。

ある日、10年間も連絡が途絶えていた幼馴染のケヴィンが電話をかけてきた。昔、たった一人の友人だったケヴィンにシャロンは会いに行く。見上げるような大男のシャロンの表情に、小さくて繊細な「Little」の顔が見えてくる…。
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俳優さんたちの演技が素晴らしいです。助演男優賞受賞のアリさんだけではない、ほかの俳優さん達も素晴らしい。薬物中毒の母親、友人のケヴィン、子供の頃、ティーンの頃、それに成人したシャロン…一見無表情に見えるのに内で感情が大きく動いているのがわかる。無言でも嬉しそうだったりがっかりしているのがよくわかる。

美しい画面。どの場面も絵画のように美しい。

カメラワークが生々しい。冒頭は乗り物酔いしそうになるほど揺れる。多くの場面ではカメラがシャロンの見ているものをとらえている。ホアンおじさんに泳ぎを教えてもらっているシーンでは、画面の半分が水に浸かっている。人物達と一緒に水の中に入っているような映像。どの場面でもカメラは常に人物達のすぐ側にいて彼らを親密に見つめている。

人物達の顔のすぐ近くまで迫っていくカメラ。息遣いが聞こえるほど近いから、台詞がなくても人物達の心が読み取れる。台詞が少ない映画だけれど説明不足だと感じることはない。むしろ台詞がないから人物達の表情に集中できる。

芸術的な撮り方をした映画は、表面は美しくても中身が無いことがあるものだが、この映画はむしろ中身に集中する為に芸術的な表現をとった…人物の心を表現するために台詞を少なくしているようさえ見える

心で心を直接感じる映画

人物の哀しみ、苦しみ、もどかしさ、焦り、不安、とまどい、安堵…を俳優の演技と表情だけで感じることができる…シャロンの心を心で感じることができる。だから心に響く。

じわじわと心に響いて、後から涙が出る映画は珍しい。この文を書いている今も、場面を思い出すだけで目尻が緩む。なんとも説明し難い不思議な感覚。脳が事柄を理解する前に人物の感情が直接心に沁み入ってくるそれがこの映画のすごいところだろうと思う。


アカデミー賞は当然でしょう。

 実はこれほど素晴らしい映画だとは期待していなかった。ポスターの印象はかなり悪い。本当に大きな誤解。こんなに繊細で美しい映画なのに、暴力映画だとばかり思っていた。


アカデミー賞の受賞を見て、週末の土曜日に鑑賞。

この映画が賞をとって本当によかったです。「ラ・ラ・ランド」が作品賞を取っていたら私はものすごく怒っていただろうと思う。
バリー・ジェンキンス監督のインタビューをいくつか見たけれど非常に知的な方。繊細な感性を持った優しい方だろうと思います。現在37歳だそうです。この映画は(今まで不当にチャンスが与えられなかった)アフリカ系の優れた映画業界の人々に多くの扉を開くきっかけになるのだろうと思う。

シャロン君のとてつもない孤独に心が締め付けられるようだ。うちにつれて来てご飯を食べさせてしっかりとハグしてあげたい。「大丈夫だよ」と言ってあげたい。彼に幸せになってほしい。