能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

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2024年2月27日火曜日

NHK BSプレミアム・プレミアムドラマ『仮想儀礼』全10話



TV Japanにて。NHK BSプレミアム4Kの「プレミアムドラマ」枠で放送されたテレビドラマ。オリジナルの放送は2023年12月3日から2月11日 まで。


面白かった…深い、interesting…興味深いと言うべきか。これほど予想に反する展開になっていくとは思っていなかった。軽い気持ちで見始めたら(時々疑問を感じながらも)どんどん引き込まれて抜け出せなくなったのはまるで私も新興宗教に入ったような気がするほどだった。珍しいタイプのドラマだと思う。



★ネタバレ注意


最初はコメディだと思った。だって設定からおかしい。そんなのがうまくいくわけないじゃん…と笑いながら見ていたと思う。

主人公は元・エリート公務員・鈴木正彦(青柳翔)。そしていいかげんな男・元・ゲーム会社社員・矢口誠(大東駿介)。この二人が職を失って収入がなくなったことから、とりあえず金儲けのために新興宗教を立ち上げる。もちろんうそ。全部うそ宗教。なんちゃって宗教。最初はそんな「なんちゃって」に溢れた面白い系のコメディだとばかり思っていた。

ところが大変深刻な話だった。いや私にはかなりホラー系。最後まで「これってどうなの?リアルなのか?マジか?」首を傾げながら見続けた。否定しているわけではない。すっかり引き込まれているのに信じたくないような話…とでも言おうか。考えさせられる話だった。


主人公の二人が新しく起こした新興宗教の教団名は「聖泉真法会(せいせんしんぽうかい)」。教祖様・鈴木正彦 は元々は大変真面目で常識的な人物で、その穏やかな語り口のせいなのだろう、教団を立ち上げてから次第に人々(特におばちゃん達=石野真子・峯村リエ)を信者にしていく。確かに正彦が真面目な好青年のうえ、お顔もちょっといい男なのもリアルなのだろうと思った。おばちゃん達が訪問販売に来たハンサムな若者にちょっと嬉しくなるのと同じようなものだろうか。そんな風にほのぼの和気あいあいと、このなんちゃって教団が信者を増やしていくのも楽しく見ていた。

雰囲気が変わったのは、高校生・竹内由宇太(齋藤潤)が事件を起こした時。殺人…これはもう後戻りできない内容。「どうするんだこれ」と驚いた。もうコメディではないだろう。ところが由宇太の事件の後も、 鈴木正彦と矢口誠は何事もなかったように教団を運営し続ける。由宇太の話も出てこなくなったままストーリーは進む。その辺りに違和感を感じながら見た。

殺人事件が出てきたらもうおしまいじゃないのか?

…そこでドラマがおしまいにならならなかったのは、その時点ですでに主人公達ももう後戻りが出来なかったからなのだろう。いやしかし…もうやめた方がいいよと毎回思いながら見続けた。気分もよくないのでもう見るのをやめようかな…と何度も思った。殺人をスルーしてまで続ける話じゃないだろうと思った。


ところがドラマにはますますハマっていく。私もドラマから抜けられなくなる。次はどうなるのだろうと思って次も見る。そして話も深みにはまっていく。全部見終わって今思い返せば、おそらくドラマとしてもうまいのだろうと思う。まさか、そりゃないだろうと思いながらも次が見たくなる。やめられなくなる。

結局その後も話は進んでますます深みに嵌っていき、また犠牲者、最後は急カーブをするように話がかなり深刻に…仲間割れして信者の暴走、また犠牲者が出る。もう見ていられないほどの苦しさ。しかしだからこそ最後まで見届けたいとすっかり話に飲み込まれた。

最終…正彦と暴走した信者達は罪を償うことになる。


しかしなぜ彼らは途中で止められなかったのだろう。高校生・由宇太の事件の時に止めておくべきだったのに…。 しかし正彦も誠も真面目な人達だったからこそ、その時点ですでに教団を信じてくれている信者たちに「これは全部嘘だ」と真実を告げる勇気はなかったのかもしれぬ。信者たちをがっかりさせたくなかったのだろう。そして愚かにも「なんとかなる」と自らを過信していたのかもしれない。まるで(信者たちを騙している側の)正彦と誠も、自分達の起こした新興宗教に絡めとられて抜け出せなくなったかのように。それが怖い。

人の弱さを描いた話なのかもしれぬ。救いを求めた信者達だけではない。嘘をつき続けた正彦と誠も、間違いだとはわかっていても教団を解散して終わらせることができなかった。それも人の弱さ。なんとも言葉にするのも難しいほどの深いテーマだと思う。終わった後も色々と考えさせらる。


俳優さん達が皆素晴らしい。特に主人公のお二人、青柳翔さんと大東駿介さんがすごかった。最初はコメディかと思ったドラマが、同じ俳優さん達によって最後に「怖い」話に変わっていく様子がすごいと思った。

最後にカウンセラーを目指す元信者・徳岡雅子(松井玲奈)に希望が見えた。如月秋瞑(美波)はこれからどうするのだろう。そしてあれだけのことを経験しながら元の教団に戻った島森麻子(河井青葉)には何とも言えない気持ちになる。さて伊藤真実(川島鈴遥)の最後はどういうことだろう???わからなかったぞ。

彼らにとって宗教はなぜ必要なのだろう?