-----------------------------------------------------------------------------
『Marie Antoinette (2022) Season 1 – 8 Epsode/仏/カラー
/1話52 m/脚本:Deborah Davis』
-----------------------------------------------------------------------------
18世紀フランスの宮廷。王妃マリー・アントワネットのなんちゃって伝記大河ドラマ。
制作はフランスCanal+と英国BBC。脚本は英国人、監督はベルギー人と英国人他。英語劇。俳優は欧州各国より集合。
米国での放送は公共放送ネットワークPBS(Public Broadcasting Service)。オリジナルのリリースはフランス2022年10月31日、英国12月29日、米国2023年3月19日。
シーズン1はアントワネットの子供時代から彼女の長男の誕生(1781年)までを全8話で描く。
歴史の再現を楽しむドラマではない。「18世紀のベルサイユにタイムスリップした現代の女の子」のようなドラマ。またいつもの軽薄なマリー・アントワネットを描く作品。既に何度もリサイクルされている彼女の評判を、またカジュアルなマリー・アントワネットのファンに向けて再構築。今回も結構酷い。
今まで様々なフランス18世紀関連の映画やドラマを見てきたが、マリーアントワネットに関して歴史にリスペクトを込めて作られた作品を今までほとんど見たことがない。いったいどういうわけだろうかと思う。あれほど彼女の人生はドラマチックなのに。
そもそもイギリスやハリウッドには何も期待していない。しかしフランス産のドラマや映画もあまりいい作品の記憶がない。
(今の)だいたい60歳前後世代の日本の女性はフランス革命に比較的詳しい人が多いと思う。それは(私を含む)その世代の女性の多くが、子供の頃に池田理代子氏の『ベルサイユのばら』を読んでいるから。その世代の人々の中には、漫画とアニメと(もしかしたら)宝塚などでストーリーに親しんだのみならず、漫画をきっかけにフランスの歴史に興味を持った人も多い。「フランス革命オタク」と呼んでもいい層もかなりいると思う。たぶん私も(カジュアルではあるが)その一人。
オタクになったら探求するのみ。本を集め資料を漁り、果てはフランスのベルサイユやパリにその歴史の痕跡を求め旅をし、少しでもその時代の名残りを身に感じようとする。時間をかけて探求してきたから素材に対する知識もある。(人によって得意分野は分かれるだろうが)そんな「フランス革命/フランス史オタク」の興味の対象は歴史の流れのみにとどまらず、歴史の登場人物たちの人となりやその時代ならではのしきたり、慣習、ゴシップ、18世紀当時のファッション、美術品、文化に至るまで果てしなく広がり続ける。歴史を愛し探求する者は皆、その歴史の時代の空気を少しでも感じたいと願う。
そのような「18世紀フランス歴史オタク」を映画やドラマなどで喜ばせるのは、実際にはかなり難しいのだろうとは思う。
しかしそれにしても実在の歴史上の人物を描くのならせめてその人物に敬意を払い、史実からはあまり外れてほしくないと思うのは求め過ぎだろうか。
マリー・アントワネットとは、激動の時代を生きた彼女の人生そのものが他に比べられないほどドラマチック…映画やドラマを作るのなら何の脚色もいらないほどの素材。歴史をそのまま再現すればそれだけでかなり面白い話が描けるはずなのに、このドラマはまた…「おつむが足りないウブな現代風の少女が18世紀のフランス宮廷にやってきた」…話をまた繰り返している。もうそのような軽薄なものはコッポラの映画で十分なのに。
そして(近年の欧米の歴史ものドラマではいつものことではあるが)性に関する描写も必要以上に多い。18世紀の宮廷が性にゆるかったのはわかるが、それをマリー・アントワネットのドラマで見せる必要はなし。不快。女性同士の嫉妬心やライバル心などによる争いごとも必要以上に強調されているのも不快。
脚本を担当したのが、英国のアン女王を不快極まりなく描いた『女王陛下のお気に入り/The Favourite』のDeborah Davis氏であれば、ああなるほど…期待してもしょうがないかと思う。この脚本家の視点は基本的に品がない。そういう下世話なことにしか興味のない人なのだろう。
★ネタバレ注意
第1話を見て「またか」とがっかりし、その後あまり真面目に見ていなかったのだけれど、それでも気になった点を挙げておこう。録画を残してないので確認できないが、おかしな場面はもっとあったと思う。
---------------------------------------------------------------
● 大食漢で大柄なはずのルイ16世が瘦せ型の長身の青年に変わっている。
● フランスでもオーストリアでも宮廷ではお堅いマナーやエチケットが当たり前だったはずなのにこのドラマの宮廷はゆるゆる。身分の上下関係もあまり感じられない。
● マリー・アントワネット(以下アントワネットで)が最初からデュ・バリー夫人と親しく会話をし、果てはキスの手ほどきを受ける場面で怒り心頭。バカか。
● その後なぜかあの有名なデュ・バリー夫人への「話しかけ」の場面も再現されるが、野外で数名が突っ立っているだけの珍妙なシーンに変わっている。
● デュ・バリー夫人が不自然に前に出過ぎ。安易なアントワネットのライバル設定だろうが笑止千万。
● アントワネット付きの女官長・ノアイユ伯爵夫人のアントワネットに対する態度はあれでいいのか?
● アルトワ伯はどこ?
● ポリニャック公爵夫人は宮殿で3P。不快。
● ウブなルイ16世が女性の扱い方がわからないので娼婦から性の手ほどきを受ける?ばかばかしい。あれは身体の問題だったはず。
● アントワネットは妊娠のために昼間から半裸で脚を中に浮かせる。はしたなく不快。
● どの俳優も欧州各国から調達したせいか、英語の台詞での芝居に慣れていない俳優も多いのではないか。欧州俳優の訛りを優先したのか。だったら最初からフランス語でやればいいのに。
● アントワネットの肖像画の問題(大問題!)後述。
---------------------------------------------------------------
ネタバレ終了
歴史の人物たちに対してリスペクトを感じられない。純情な女の子が政略結婚で遠方の外国(敵国)の宮廷に嫁ぐ話ならそれだけでも十分ドラマチックなのに、このドラマはそんな基本の話さえ女同士の争いごとやゴシップに変えてしまっている。宮廷でガチガチのルールやしきたり、決まり事の中で生活するからこそ人と人の関係の乱れが歪なバランスで興味深いのに、このドラマは全てがゆるくて品がなく、いつまでこのようなぐだぐだを見せられるのかと途方に暮れる(それでも見るけれど)。
一番呆れたのは、アントワネットから彼女の母親/オーストリア君主マリア・テレジアへ送られたアントワネットの肖像画。間違ってますよそれ。その絵はポリニャック公爵夫人の肖像画。この映画の制作チームは恥を知れ。誰か注意する人はいなかったのだろうか。これがフランスのプロダクションだとは信じられない。
…とかなんとか言いながら、第2シーズンも制作決定だそうです。このドラマは軽薄で下品な茶番。しかし素材は個人的に好きすぎる、愛着がありすぎる。だからまた来年も見ると思います。セットや衣装は豪華で綺麗だし。
それにしてもこの英国人の脚本家は、18世紀のフランスの政治に全く興味がなさそうだけれど、これから当時の世の中が緊張してきて、王妃が歴史の激流に飲み込まれていく様子をまともに描けるのかどうか甚だ疑問。革命は軽い気持ちで描けるような素材ではない。いったいあの血なまぐさい時代をどう描くのだろうと違う意味で興味がわく。そこまでシリーズが到達できるのかどうかも疑問だけれど。
というわけで日本の「フランス革命オタク」の方々は、このドラマにはあまり期待しないほうがよいとだけ書いておこう。とはいえ私も最後まで見たので見ればそれなりに楽しめるかもしれません(回が進むにつれ次第にドラマの雰囲気にも慣れてきて違和感も減り見るのが楽しくなったのは事実)。
またフランス歴史熱がぶり返すかな?また読もうかな。