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2022年3月28日月曜日

米ドラマHBO 『The Gilded Age』(2022) 全9話:金か家柄か?人の社会の本質





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『The Gilded Age』 (2022)
TV Series/米/カラー
/約50分・全9話/
制作:Julian Fellowes』
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シーズン1を見終わった。面白かったです。
 

1880年代、ニューヨークのマンハッタン。ドラマの主軸は、

ニューマネーかオールドマネーか?

新興成金か旧家か?

金か家柄か?


それです。そういうドラマ。社交界とビジネス界で、新と旧がそれぞれ札束と家系図を持ち出して殴りあう。そのようなドラマ。
 

テーマはゴシップ系/下世話な人と人のドラマなのですけど、だから面白い。結局は今も昔も人は人を格付けしあって争う…そのようなドラマ。「個人の心理を繊細に掘り下げて人間の真理を描く」などという高尚なドラマではないのだろう。どうかな。

大変ゴージャスでお金がかかっているので、最初はなんだか高尚なお話かと期待したが、内容はぶっちゃけ女子高の女の子達のいじめやライバル同士の戦いとそれほど変わらない。

しかしながら1880年代の米国ニューヨークの歴史など今まで全く興味を持たなかった事柄が知れたのはとても嬉しい。いい脚本。俳優さん達もうまい、大変うまいうまい…見事。素晴らしい。そして富で彩られた画面は大変美しい。楽しい。美術が綺麗。すごく気持ちのいい画面。あの宮殿みたいなインテリアはどこで撮影したのだろう?豪華な衣装。それにニューヨークのあの旧い街並みはどれがセットでどこからがCGなのだろう?…と非常に楽しかった。



★ネタバレ注意


さて話は、家柄か札束か?
      伝統か現実か?



主人公の新興成金の夫婦・ラッセル家。この夫婦は(2月にこのブログでこのドラマのことを書いた時にほんの少し書いた)ニューヨークの大富豪ヴァンダービルト/Vanderbilt 家(アンダーソン・クーパー氏の母方の祖先)をモデルにしているらしいです。このドラマに関するメディアの記事を検索したらいくつか出て来た。
 

Screenrant.comGilded Age True Story: How The Real Vanderbilt Family Was Different 金箔の時代/ギルディドエイジの実話:本当のヴァンダービルト家はどのように他と違っていたのか
Vogue.comThe Real-Life Socialite Rivalry That Likely Inspired The Gilded Age ギルディドエイジをインスパイアしたであろう実際の社交界のライバル競争
Vogue.comThe Obscenely Lavish Vanderbilt Ball That Inspired the Season Finale of The Gilded Age ギルディドエイジの最終回をインスパイアした不愉快なくらい豪華なヴァンダービルト家の舞踏会
E! Online comThe Real-Life Socialites That Inspired Julian Fellowes' The Gilded Age ジュリアン・フェロウズのギルディドエイジをインスパイアした実際の社交界の名士達
Untapped New YorkGILDED AGE FIGHT FOR QUEEN BETWEEN MRS. ASTOR AND ALVA VANDERBILT アスター夫人とアルヴァ・ヴァンダービルトのギルディドエイジ女王の戦い


史実でもヴァンダービルト家は(このドラマの時代に)新興成金、またその手荒いビジネスのやり方から泥棒男爵(robber baron)などと呼ばれて、(実在の)アスター家を始めとするオールドマネーの人々から仲間はずれにされ、ずいぶん冷たく扱われたらしい。しかしそれをものすごい富…札束で皆の顔をバシバシ殴って階級の戦いに勝っていったのだそうな。すごいね。このドラマのラッセル家のバーサ・ラッセルは、ヴァンダービルト家アルヴァ・ヴァンダービルトをモデルにしたそう。

そんなわけで1880年代、オランダ系の旧家のアスター夫人を頂点に存在するニューヨークの上流社交界。このアスター夫人はニューヨークの名士400名のリストを作り、そのリストに入らない新興成金は歯牙にも掛けない。そこに桁違いの大富豪=新興成金・鉄道王のラッセル家が切り込んでいくストーリー。


私の心の奥深くに存在する本音「アメリカは結局…商売人の国」…そのような私個人の偏見があるものだから、以前のエントリーでも私は「オールドマネーとどんなに威張っていても、米国の金持ちは結局本物のヨーロッパの貴族とは元が違うではないか、そんな浅い歴史のアメリカ式富裕層が、新しくやって来た成金を馬鹿にするなんて馬鹿馬鹿しいわ。どっちもどっちだ」などと書いたのですけど、そのせいかどちらに肩入れするわけでもなくどちらの主張も「なるほど」と拝見。むしろ初めて知る事も多く目から鱗。そしてお金ってすごいものだねと驚く。

さんざん社交界から仲間はずれにされ「芋堀り人の娘」と馬鹿にされ嘲笑われて、毎回ほぞを噛むバーサ・ラッセル夫人。しかし彼女の頑張りは賞賛に値する。確かに札束でなんでも動かそうとするのは品がいいとは言えないのだろうけれど、そんなことは言っていられない笑。彼女にとってはオールドマネーの嫌味な女性達に「すみません」とか「ごめんなさい」を言う事は社交的な「死」と同じ。とにかく何が何でも石に齧りついてでも、この社交界の格付けバトルに勝つ。何度も何度もお金をばら撒いて「どうだどうだどうだ…」と、富で買える力を誇示。

「あたしは絶対に負けない!」


その意思の強さが潔い。だんだん彼女を応援したくなる。というのも、そのアスター夫人を始めとするオールド・マネーの女性達が、

驚くほど底意地が悪い


そんなオールド・マネーの彼女達の気持ちもわからないではない。人間とは3人集まれば格付けしあう…そういうもの。しかし嫌な感じなのですよ。しかしこれも人間の本質なのだろう。

世で言う「伝統」や「格式」というものは「新しい風を排除する力」である程度は保たれているという事実も否定するつもりはない。オールド・マネーの彼女達もそれをやっているだけ。それまで(ヨーロッパの貴族をコピーしながら)アメリカの地で数百年培った伝統や品性や格式、それによって保たれる社会の秩序、そして信頼できる馴染みの顔ばかりの社交界での平和と調和を、…荒い手を使って成り上がってきた新興成金(ラッセル家)や社会的ルール違反をした不徳者(チェンバレン夫人)には乱されたくない。だから極端なくらい新入りやルール違反者には排他的になる。それもなるほど確かに理解できる。

一件ゴシップ的な下世話なドラマ…だとは言いながらも、このドラマは実は人間の社会の本質を描いているのかもしれませんね。この文章を書き始めるまでは考えもしなかったけれど。


私はラッセル夫人も、ガチガチにお堅いヴァン・ライン夫人(アグネスおばさん)もどちらも嫌いじゃない。どちらの気持ちも解かるしどちらの立場もリスペクトする。外野から見る限り…もしそれぞれのキャラクターに自分がなったとしても、彼女達と同じように振舞うのだろうと想像する。もちろん彼女達のあの世界の中に入りたいとはみじんも思わないが。

ただよく頑張っているのはラッセル夫人。その頑張りが潔くもありみっともなくもあり。それが彼女の人間臭い魅力にも思えてくる…気が強くて激しくてぶしつけで傲慢に振舞えば振舞うほど彼女が魅力的に見えてくる不思議。応援したくなる。彼女は肉感的でセクシーだし。

楽しめた。ドラマとしてすごく面白かった。


ところで若いキャラクターマリアン・ブルックと優秀な黒人女性ペギー・スコットの話はあくまでもスパイス的なサイド・ストーリーでしょう。マリアンの恋の行方で視聴者はハラハラし、ペギーの話ではポリコレの箱をチェックする。

マリアンとトム・レイクの恋バナは…怪しいとは思っていたが…。最後はトムを(昨日のアカデミー賞のウィル・スミスばりに)平手打ちをして打ちのめして欲しかったわ。こちらも鼻息が荒くなった。ジュリアン・ソレルか。ああいう男には消えて欲しい。自滅してほしいね。しかしもちろんシーズン2にも出てきそうだ。(余談ですけど私は昨日のウィル・スミスは超最高かっこいいと思う。奥さんを守った男の中の男だわ。『Drive My Car』おめでとうございます)

それからペギー・スコット。正直な話ペギーの存在は少し無理があると思った。(ハリウッド的に)ポリコレの箱をチェックするために無理に押し込んだキャラかと思う。もちろん優秀な彼女が問題だということではない。当時から米国にはブラック・エリートと呼ばれる人々が存在し、彼女のような優秀な女性が当時のアメリカで認められていた歴史があったこと(e.g.: 学校の先生で小説家のJulia C. Collinsなど)を知る事ができたのはよかった。彼女の話だけで別のドラマがつくれますね。

The Grio.comWhat’s the real story behind The Gilded Age’s Black heroine? ギルディドエイジの黒人ヒロインの本当のストーリーとは

しかし当時の現実を考えれば、あのお堅いヴァン・ライン夫人(アグネスおばさん)が、有色人種のペギーを優しく受け入れて秘書として雇い信頼しながら、一方で通りの向かいの白人の新興成金・ラッセル夫人を忌み嫌うのは、どうもリアルではない。私には100年以上前のアメリカの上流階級の白人が有色人種を同等に扱ったなどとはみじんも信じられない。未だに存在する白人至上主義の現実に対するプロテストを踏まえて書いておこう。もちろん個人的な意見で、フィクションのドラマとしてはなんの問題もないけれど。これはもう少し調べる必要がありますね。1880年代当時、実際に有色人種に親切なハイソな白人は存在したのだろうかと思う。


というわけで様々な思いが頭の中を駆け巡った面白いドラマでした。メインの主人公たちは架空の人物だけれど、描かれた社会は1880年代当時ニューヨークに存在していたもので、実在の人物や家系もいくつか出てくる。まずそんなニューヨークの歴史を少し知ることができたのは大変有り難い。調べるともっといろんな事が出て来て面白い。ドラマがゴシップ的で多少下世話に感じても、結局歴史はいつの時代でもあなたや私と同じ「人間」が作っていく。それが時代物の面白さでもある。このドラマは米国でも高評価でこれからシーズン2、3と繋がっていくのだろう。シーズン1で答えが出なかった話も沢山ある。これからどのように話が繋がっていくのか楽しみに待ちましょう。