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2022年8月11日木曜日

映画『AI崩壊』(2020):大作にありがちの欲張りな映画+詰めが甘い







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『AI崩壊(2020年)/日/カラー
/131分/監督:入江悠』
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少し前にTV Japanで放送されたものを録画していた。


どこかで聞いたような話(2001年、火の鳥)だとはいえ、人がスーパーコンピューターに管理される未来…いつかはそのような未来にならないとも限らない…と今の時代は皆が感じているのではないか。日本のマイナンバーの話も聞こえてくれば、これからの日本はこういう方向に行くのかと思えなくもない。SFのテーマとしては大変面白い。このテーマの作品は私が知る以上にもっとあるのだろうと思う。
 

あらすじ
2030年。人々の生活を支える医療AI「のぞみ」。しかし突然「のぞみ」が暴走を始める。警察は「のぞみ」の開発者の桐生浩介(大沢たかお)を、「のぞみ」のAIを暴走させた犯人だと断定。日本中に張り巡らされたAI監視網が逃亡者・桐生を追い詰める。



★ネタバレ注意


最初の40分ぐらいは面白かった。設定もいい。映像もCGも美しい。2020年代のテクノロジーの進歩を速いテンポで見せるのも心地良い。そして理想的な未来の様子を見せた後で、スパコン「のぞみ」が突然暴走を始める。最初の40分ぐらいを見ていて、これはタイトルの「AI崩壊」そのままに「パニック映画」なのだろうと思っていた。

「タワーリング・インフェルノ」「ポセイドン・アドベンチャー」。あの類のパニック映画を期待した。こういうテーマの映画やドラマで期待するのはあくまでも「パニック映画」であること。阿鼻叫喚が見たい。グロを避けながらも(←大切)人々のパニックの様子が恐ろしくリアルであればいい。「パニック映画」にはそれを期待する。サイドストーリーもあるけれど「タイタニック」もその類の映画だろう。

というわけで「AI崩壊」で東京にどのようなことが起きるのだろうと見ていた。ところが始まって40分を過ぎたあたり…「のぞみ」が暴走し始めてすぐ後に、ストーリーは「主人公の逃亡劇」になってしまう。逃走する主人公の桐生を、警察のスパコンに繋がった監視カメラが追う。SWATチームが桐生を追いかける。その間に「AI崩壊」も継続して起こっているのだけれど、話の中心はあくまでも桐生の「逃亡劇」。

最初からパニック映画を期待していたので、長々と詳しく描かれた桐生の逃亡劇で次第に退屈し始めてしまった。様々な問題が起こっているはずの街の様子、社会の様子はほんの少ししか描かれず、画面は警察の地下施設でのデータの分析と桐生の逃亡の様子を交互に映すばかりになってしまう。

桐生の逃亡劇が30分以上続いたために集中できなくなった。逃げる桐生を追うテクノロジーは、監視カメラもドローンも大変面白いのだけれど…さて果たしてこれはスパコンの暴走の話ではないのかと頭をひねった。


内容を確認するために再度見た。理屈では理解できたが色々と無理に内容を詰め込んだ印象は否めない。

まず「AI崩壊」のコンセプトがあって、医療をはじめとするインフラがやられて街にパニックが起こる。 そして近年、中国などで開発/実行されているらしい顔認証システムと監視カメラの連結。それを駆使したビッグ・ブラザーが見ている的「逃亡劇」も盛り込む。 そして暴走したスパコンの社会の効率化のための大量殺人計画を追加。その3つのテーマが見えてくる。

① AI崩壊のパニック(インフラの崩壊)
② 顔認証システムと監視カメラから逃げる人物/犯人
③ スパコンの大量殺人計画

それぞれのテーマで別の映画が撮れると思う。
①は街の阿鼻叫喚を描く+専門家チームの頑張り
②は何かの事件の犯人の逃亡劇と最新テクノロジーを使う警察の戦い。
③はプログラマー/ハッカーと暴走スパコンとの戦いの室内劇。

昔なら3つの映画を撮っていただろう。昔の映画がシンプルでわかりやすかった理由はそれ。上記のパニック映画「タワリング・インフェルノ」や、スピルバーグのただ逃げ続ける「激突!」、ただ宇宙人に会いにいくだけの「未知との遭遇」モンスターに襲われる「エイリアン」。90分の間に見せたいモノを集中して見せる。だからインパクトが大きいしわかりやすい。

この映画の軸がブレて見えるのは盛り込みたい内容が多すぎたからではないか。上記の①②③のそれぞれのシーンはよく出来ているしアイデアも面白いので、全部同時進行させる事で焦点がぶれたのはもったいないと思う。


テーマの詰め込み過ぎの上に、リアリティの上で細部の詰めが甘いのも問題。
桐生の逃亡がうまくいき過ぎて嘘に思える。東京を逃げ回り、仙台を目指して東京の港から貨物船に乗り込み警察のヘリに攻撃されて海中にジャンプ。もうダメだと思ったら運よく漁師に救われる。そして閉鎖された昔の研究所に行けばまだ電気が通っている。東京から突然やってくる弟・悟。その後桐生はいつの間にか車で東京に帰ってくる。渋滞はどうなった。

警察のSWATチームはAIの暴走を止められるはずの「のぞみ」の設計者・桐生を射ち殺そうとする。まず彼に話を聞かなければ…。日本の小さな道路でのカーチェイス。ああいうシーンはハリウッドの真似でしょう。

桐生の娘こころをスパコン部屋に閉じ込めるのも、最後に「観客を感動させるためのツール」にしか見えない。閉じ込められた部屋の温度はマイナス4度。小さな子供が何時間も中にいたら凍死する。

最後に、プログラムをこころの小さな鏡に反映させて「のぞみ」に伝える展開も茶番。その後「のぞみ」が美しい開発時の過去を思い出しておとなしくなる…というのも情緒的過ぎで甘過ぎる。

その後全て丸く収まって世の中は元通りになった。平和が訪れたようなのだけれど。あの「AI崩壊」の間に亡くなった人々は大勢、インフラが崩壊して壊れてしまったものも多かったはず。復旧にも時間がかかる。人々の「のぞみ」への不信感や不満も溜まっているはず。危機ががすぐに収まるとは思えないのに、桐生は笑顔でシンガポールに帰っていく違和感。

そういえばこれと同じような詰めの甘さを少し前のドラマ・TBS系『日本沈没』でも感じた。



こういう映画を撮るのなら必ずしもハッピーエンドにする必要はないのではないかとも思った。キューブリックの「Dr. Strangelove/博士の異常な愛情」は最悪のエンディング。なのに記憶に残る。なぜならそれがショッキングだから。恐ろしいから。このような映画は、もしかしたら近未来に起こるかもしれない危機を描いているのだから、警告の意味も込めてもっと怖いエンディングでもいいのではないかと思った。


テーマと部品はいいのに「お題」を詰め込み過ぎてブレた印象。パーツはお金をかけていてよく出来ているし映像も迫力があっていいのに、全体にリアリティの詰めが甘くてもったいない映画。でもこのテーマは面白いので、またこういう映画が見たい。日本ならではのSFを頑張ってほしい。