2025年12月18日木曜日

DHT Musical★『Piney Needlesmith and The Road Less Traveled』初演






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Piney Needlesmith and The Road Less Traveled』
Book, Music & Lyrics: Roslyn Catracchia, Pete Seibert
Director: Joseph Morales
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少し前に、またまたホノルルのコミュニティー・シアター Diamond Head Theater(DHT)でクリスマス・シーズンのミュージカル『Piney Needlesmith and The Road Less Traveled』を見た。このミュージカルはこのDHTで世界初の公演…初演です。

オリジナルのミュージカル。まず作曲は…ハワイ在住のプロの作曲家 Roslyn Catracchiaさん。そしてブロードウェイや映画、ドラマなどでの有名な作品を手がける作曲家 Pete Seibert さん。監督は『Hamilton』のシカゴ・プロダクションに参加し、また『Hamilton』の2018年の全米ツアーの主役を務めたJoseph Moralesさんが担当。

ハワイのコミュニティー・シアターで新しいミュージカル作品の初演…こういうこともあるんだねと驚いた。ブロードウェイ・クラスのプロがやってきて作曲やプロダクションに関わっての初公演。その作品を見ることができた、とてもいい経験が出来たと思う。



タイトルの『Piney Needlesmith and The Road Less Traveled』の…「The Road Less Traveled」の言葉にピンとくる人は多いと思う。この言葉は有名なセルフ・ヘルプ/心理療法/精神成長のためのガイドブック…の本のタイトル。作家はM. Scott Peck氏で初版は1978年。現在出ている日本語訳のタイトルは『愛すること、生きること:全訳「愛と心理療法」』だそう。

この本『The Road Less Traveled』は米国人なら知らない人はいないのではないかと思う。それぐらい有名な言葉。私も結婚したときに旦那Aの友人に貰って読んだ。おそらくその友人は「人の親になるなら読んだ方がいい」とプレゼントしてくれたのだと思うけれど、この本は(私が親になるというよりも)私自身の心を救ってくれたと思う。ま~この本は私の人生を変えました。この本でモノの見方が変わった。親と子の関係などなど…それまでわからなかった事の答えが全て書いてあった。自分探しの本とも言えるのかな。

そのような本のタイトルをつけるくらいだから…と思いながらパンフレットを読めば、なるほど「社会にうまく馴染めない主人公が、同じような仲間と冒険をする話」などと書いてあった。やっぱりね。自分探しの冒険か。いいですね。面白そうだ。


12月の公演らしくストーリーもクリスマス・シーズン。北極にあるエルフ(妖精)の街。サンタクロースもそこの住人。彼らは日々クリスマスの準備をしている。問題の多い松の木の妖精 Piney Needlesmith が拘留施設に送られる。そこで世界中から送られてくるサンタへの手紙の整理をするよう言われる。拘留施設には数名の同じような仲間達もいた。彼らのことをまとめて「はみ出し者」と言っておこうか。手紙を読んでいたらクリスマスを嫌う男の子ティムの手紙を見つけた。Piney Needlesmith は他のはみ出し者の仲間達と共にティムを探す冒険の旅に出る。


作品全体の曲がとてもいい。流石にプロの作曲家の作品だと思う。DHTの俳優さん達はほどんどがアマチュアであるにもかかわらず、いつも芝居、歌のレベルが高い。そして今回のショーはかなりお金のかかった豪華なステージだった。オーケストラピットを閉じて、バンドはステージの後ろの高いステージ上。広くなったステージの全体を使い、場面によっては丸い回転式のステージがあったのにも驚いた。大がかりなセットが楽しい。ライティングでの演出も巧み。コミュニティーシアターとは思えないほどの野心的な作品だと思った。楽しかった。面白かった。
 

ただしストーリーはかなりカオスだと思った笑(だから面白かったというのもある)。登場人物が多く、サイドキャラに大変あくの強いキャラがいて目を奪われる…彼女の名前はアガサ。北極のエルフの街のリーダーだと思われるが、アガサ役のオペラシンガーがピチピチのレザーパンツを履いて大声を張りあげるのが強烈。彼女の声が大きすぎて何を言っているのか全く聞き取れない笑。それでも彼女の派手派手な姿を見ているだけでもすごく面白い。

タイトルに The  Road Less Traveled がくっついていて、主人公とその仲間ははみ出し者だし、その彼らが自己発見の冒険に出る…そのような話だと思っていたけれど、全体にカオス過ぎて自己発見の主題などみじんも感じられなかったぞ笑。

上記の大声のアガサの存在感や、(クリスマスの嫌いな男の子)ティムの住む街がなぜか19世紀の「ロンドンタウン」、それなのに人物達はスマホを使っている、エルフ達の旅になぜかYeti(雪男)が参加するとか、そのエルフの仲間全員でロンドンの舞台に立って劇をしてしまうとか…?????? なんだかものすごいカオスでわけがわからなくなって…それが面白かった。こんなにカオスだからもう難しいお題なんて忘れてもいいよネ…と思った笑。

私はいつものように楽しかったです。しかしこれ、もしブロードウェイや全米を目指すなら、もう少しストーリーをまとめたほうがいいのではないかとも思った。かわいい主人公の松の妖精 Piney Needlesmith の自己発見の旅とか、The Road Less Traveledのテーマをほとんど感じられなかったのは少し問題だろう。それとも、あのなんでもありのケオス感を売りにしてドタバタ劇にしてしまうのもいいのかもしれぬ。しかし「The Road Less Traveled」はかなり「重いラベル」なのでこのままの内容で観客を納得させるのは…むずかしいかなぁ。どうかな~。面白かったですけどね。私は見てよかったです。十分に楽しめた。


DHTは今の私にとっては救いなのですよ。とても大切なものなの。私はティーンの頃からとにかくどのようなジャンルでも舞台でのショーが大好きなのよ。ギグもライブもコンサートも芝居もミュージカルも歌舞伎もパフォーマンスも、なにがなんでも舞台のショーが好きで好きで好きで…。

ところが今のハワイにはショーが無い。先日も知り合いと話した「ハワイは誰も来なくなったよねぇ」。そうなの…アリーナにもコンサートホールにもジャズ・クラブにも、今は本土からアーティストが全く来てくれない。Hawaii Opera Theatreのシーズンも未だ再開されていないのです。見たいショーがほとんどない。だから人生がつまんない~。少し前に暗くなっていた時は「もしかしてハワイに来たのはまずかったのか…」などとまで思った。だって私…人生の長い間、ショーを見るのが生きがいだったし、本当に今ショーがないんだもん。

そんな今、このDHTだけが唯一私を救ってくれるショーになっている。本当にありがたいのです。ありがとうありがとうありがとう。心から感謝してます。