一話を使って金ケ崎の戦いを描く。
★あらすじ 1570年4月
信長(染谷将太)は諸国の兵を従えて越前の朝倉攻めを開始。敦賀まで順調に勝ち進むが、金ケ崎城で背後を守る
浅井長政(金井浩人)が裏切ったことを知る。前に一乗谷の朝倉。背後に浅井。信長は挟み撃ちにされる。
光秀(長谷川博己)の説得により信長は退却する。
一話全部で金ケ崎の戦い。俳優さん達の熱演に次ぐ熱演。熱い回。政治状況の説明の回ではないので、話がシンプルなだけに俳優さん達の熱演とドラマチックな演出が光ります。
この金ケ崎の戦いは有名で大河でも何度も描かれているのですが、時間を追ったストーリーと図解などで戦いの状況がわかりやすかった。私はあの辺りの土地の様子がわからなかったので、今まではなんとなくこの戦を描いたドラマを見ていたのだけれど、今回は地図で織田軍と越前・朝倉、背後の浅井の位置関係がよく理解できたのがありがたい。信長がどう攻め、どう退却したのか?秀吉が殿を務めたのはどのあたりなのか?…がよくわかった。納得です。
こういう有名事件は、どうしても以前に見た大河と比べてしまう。1996年の『秀吉』では、渡哲也さんの信長がお市様からの袋入り小豆を見て、「おのれ長政裏切ったな」と袋を切り裂くシーンに痺れました。さあ今回はどう描くか。
●弱い信長
このドラマの一番興味深いところは…信長が信長らしくないこと。彼は弱いです。とにかく精神が弱い。おそらく天才的な人物でひらめきと思い切りはすごいのだけれど、心のコアの部分にどうも弱さがある。何事をやるにも自分以外の人からの評価を気にしている人物。モチベーションの元が人からの評価にある。天才だから戦に勝つことも多いのだろうけれど、負ければ異常に落ち込む。武将としてはあきれるほど精神が弱い。それが面白いところ。
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信長・まーすごいお顔。クリムゾンキングの宮殿実写版かと思った
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最初は戸惑いました。だって渡さんの信長が大好きだったのだもの私。しかしこの信長は、あの強い強い父親的大きな信長の
正反対。同じタイプの信長を描こうとはしていないのですね。
この
信長はピュアなお子ちゃま。朝倉との戦のモチベは
帝からの応援。帝に
褒められれば嬉しい。頼りにされれば頑張る。そして過去の朝倉と浅井の繋がりも考えず浅井は味方だと信じて
疑わない。浅井に裏切られれば
逆上し(負けることは明白なのに)朝倉を攻めると言う。それを光秀に止められる。
一人になって号泣。キレる。キレる。号泣。浅井に裏切られた
ショックで立ち直れない。気を取り直してなんとか脱出。なんとか逃げ帰るが、帰蝶や帝、幕府に
負け戦をどう説明しようかと悩む。それを光秀が子どもをあやすように慰めると、
すぐに機嫌をなおしてあははははと満面の笑み。嘘みたいに純粋で弱いお子ちゃま信長。ほんとにこのお方はどうなっていくのだろうと心配になる。注目ですね。
●苦労人の秀吉/藤吉郎 またまた『秀吉』と比べて申し訳ないが、竹中秀吉は織田軍の武将たちに受け入れられていた。しかし
このドラマの秀吉は信長の家臣たちに受け入れられていないのですね。どんなに頑張っても出自のせいで受け入れてもらえない。だから殿をやりたいと言う。命がけで戦って皆に認められたいと訴えて泣く。「わしは飛ばぬ虫で終わりたくない!」ちょっと泣けた。秀吉はいつも明るかったのに実は悩みの多い苦労人。
佐々木蔵之介さんの熱い芝居がすばらしかった。迫力の一人芝居。このお方もすごい表情。
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藤吉郎・この虫はわしじゃ |
しかし彼はなぜその訴えを光秀に言うのだ?…あ、そうか光秀が信長に後を任せるって言われたからか。…それから浅井が迫ってるのに妹の話をしてる場合ではないと思うぞ。
●左馬助(間宮祥太郎)
のがんばり 左馬助君が浅井の裏切りの情報を持って来る。この人は有能なのね。以前から光秀のために情報を集めてましたね。このドラマではお市様の小豆の袋は出なかった。しかし信長が光秀から浅井の情報を得るのも変? ところで左馬助くんは『リモラブ』で五文字君なのね。印象が違うのでびっくりです。ずいぶん荒々しく戦ってましたよ。
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左馬助・あの赤いのはウサギの耳かしら |
●家康(風間俊介)
はやっぱり頭がいい あの可愛かった竹千代君は、農民の扮装をした光秀と干し柿のことを覚えていたのね。「待つとはどういうことか、耐え忍ぶとはどういうことか、我々武士は何のために戦うのか。争いごとのない戦のない世を作る」=「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず」だな。落ち着いてますね。彼が麒麟なのね。
●松永(吉田剛太郎)
も頭がいい 手筒山が苦戦したのに、金ケ崎が簡単に落ちたことでおかしいと先を読んでました。
●朝倉(ユースケ・サンタマリア)
の「ちがう」 が怖い朝倉と浅井…の家と家の絆を信じる不気味さ。こわいですね。 かっこいいわ。
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朝倉義景・ちがう |
●光秀は便利屋 浅井裏切りの情報を持って来るし、信長が朝倉を討つと言えばそれを止め、逃げろとアドバイス。秀吉とともに殿を務め、無事逃げ帰った後、秀吉が「やっぱり他の武将たちに認めてもらえない」と泣けば、織田の家臣達を叱り飛ばす。「負けたのを帰蝶や帝にどう伝えよう」と悩む信長をうまくなだめて持ち上げ喜ばせる。過去には家康に耐えることを教えていた。まー光秀君は忙しい人だ。
しかし光秀といえば、越前の朝倉に10年間も世話になったのに、そのあたりの葛藤はないのか?信長は疑わないのか? それに光秀は今も将軍奉公衆なのか信長の直接の家臣なのかちょっとわかりづらい。Wikipediaを見たけれどよくわからなかった。
●信長の幕府の縛り
1570年の1月に「信長は五か条の覚書を突きつけてきた」とありましたが、これは1569年の「殿中御掟」21か条への5か条の追加項目。信長からの義昭への厳しい将軍権力・政治権限規定だそうだ。
このドラマはいつもの有名な戦国三大スーパースター達のドラマではなくて彼らは脇なのですね。だから有名な戦や事件なども描かれなかったりする。このドラマでは(光秀を中心に据える事で)幕府や朝廷、朝倉などとの関係が描かれる。視点が違うので面白いです。