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『The Squid and the Whale』(2005)
/米/カラー
/1h 21m/監督・脚本:Noah Baumbach
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去年のクリスマスの頃に見た映画の感想を書くのが遅れている。今の政治が気になってそのことで気持ちが落ち着かないせいなのだけれど。なんとか思ったことだけでも記録しておこう。
クリスマスの頃…「家族が無いから」と気分が落ちていた時。とにかく何か問題があったら「問題」をカーペットの下に掃きこんで忘れるのではなく、もっと掘り下げてみる。いい機会だから今回のクリスマスは「家族というもの」について考えてみようではないかと思い、暗い気持ちのままクリスマス仕様の家族映画をいくつか見てようと試みた。
これもNetflixのタイトルページに「おすすめ」で出てきたもののひとつ。離婚する夫婦の話らしいけれど家族の話ならいいだろうと視聴開始。
時代は1986年。舞台はニューヨークのブルックリン。お父さんはジェフ・ダニエルズ、お母さんはローラ・リニー、息子はジェシー・アイゼンバーグ…上手い俳優さんが並ぶならいい映画だろうと見てみた。いや~これは…苦しい映画だった。予告にあるようなコメディの雰囲気は微塵もない。深刻な映画だと思う。前知識も全くなく、現代の映画だと思って見始めたら俳優さん達が若い。調べたら2005年の映画だった。
まず見終わった後で調べた情報を書いておこう。この映画の脚本と監督はノア・バームバック/Noah Baumbach氏。この映画は彼の自伝的なストーリーだそうだ。時代は1986年ニューヨーク。1969年生まれのバームバック監督が16歳の頃、両親の離婚で傷ついたトラウマを映画にしたもの。この映画で彼はゴールデン・グローブ賞とアカデミー賞にノミネートされて注目を浴びた。
今までにバームバック監督が関わった映画は多数…Wes Anderson監督の『The Life Aquatic with Steve Zissou (2004)』『Fantastic Mr. Fox (2009)』の脚本を担当、その後『Frances Ha (2012)』『Marriage Story (2019)』で脚本と監督、『Barbie (2023)』では脚本を担当、最新作『Jay Kelly (2025)』では脚本と監督をつとめた。
私は『Marriage Story』を見たけれど、あれも離婚の話だった。ここに以前書いた感想を読み直したら絶賛していた。そうそう…夫婦の問題がリアルに描かれていてうんうんと頷いた。『Barbie』も見たけれど、あの映画は女性の話としてはかなり頭でっかちに理屈を捏ねていて…少し違和感があったのは、男性であるバームバック氏が脚本を担当していたからだろうかとも思った。
ともかくこの監督は、家族だとか離婚だとかがライフワークなのかもしれませんね。この映画はその元になった彼の高校時代の両親の離婚を描いたもの。
感想。とにかくこの両親が酷い酷い酷い酷い…。とんでもない毒親。はぁ~溜息が出るほどに酷い親。あれじゃあ16歳だったバームバック氏の一生もののトラウマになったのも納得だし、彼の弟さんは行動までおかしくなっていてかなり心配になってしまう。あの話は本当なのだろうか。あれは弟さんの立場なら、公表されたら嫌なエピソードですよね。大丈夫だったのか?
父親Bernard Berkman…
ぱっとしない作家/大学の講師。文学の博士号を持っているせいなのか子供の学校の先生を子供の前で馬鹿にする傲慢な男。自分勝手。過去に2度離婚している。
母親Joan…
やっと雑誌に記事が載るようになり、いい評価を得るようになった新進作家。子供のことを放っておいて心の向くまま好き勝手に生きている。その行動と言葉で子供を酷く傷つける。この人も自分勝手。
とにかく酷い親。この話が事実に近いのなら…1986年と言えば私が学生だった頃。バームバック氏が1969年生まれなら私とそれほど大きな年齢差はない。
あの頃1986年頃は、米国で女性解放運動がそれなりに形になって落ち着いてきた頃。その少し前の1970年代後期の米国では、女性の自立を謳い『An Unmarried Woman (1978)』やKramer vs. Kramer (1979)』などの映画がヒットしていた。当時は女性が自立をすること、妻の立場を捨てて自由になることがかっこいいこと…離婚が「女の自立」としてポジティブな行動であるとメディアが謳っていたのだろうと思う。
しかしながらそのような時代に自分勝手に生きることを「自由だ」と勘違いした女性もかなり多かったのではないかと私は思う。特にアメリカの女性達。このストーリーの母親ジョーンがあきれるほど自分勝手なのに驚かされる。
…どうなのでしょうね、私は古いタイプの日本の女なので、特にこの母親ジョーンのキャラクターには憤りを感じた。本当に酷い女。「自由」を謳歌して自分勝手なだらしない行動をして子供を傷つけながら…さらには特に子供が見ている状況で「あなたが養育費を出したがらなかったのは…」と夫を怒鳴りつける場面にはものすごい嫌悪感を感じた。あれは言ってはいけない。どれだけ子供が傷つくのか考えられないのか。
父親のバーナードはとにかく傲慢。自分の本がうまくいかないからイライラしているのだろうけれど、子供に「いい親であること」や「模範」を見せようとする意志は皆無。この人も恐ろしいほど自分勝手。ただ私が(この父親に)まだ救いがあると思ったのは、彼は最低限、子供の前では正直であることだろうか。どうかな。大学の女生徒との話は子供をますます傷つけただろうし…。
子供に暴力を振るうほどではないとはいえ、この両親は父親も母親も人として最低だと思う。「自由」を謳歌しながら子供をネグレクトで傷つけ続ける母親。その傲慢さで子供に「嘘をつくこともOK」だと教えてしまう(これも)ネグレクトな父親。二人とも…子供を相手にしながら全てにおいて自分を優先する醜さ。最低。本当に二人とも最低の親だと思う。
唖然としながら最後まで見たけれど特に着地点があるわけではない。最後はなんとなく煙に巻かれたような気分で見終わった。それが悪いわけではない。監督・脚本のバームバック氏は、ただ「あの頃の自分に何があったのか」を記録したかったのだろうと推測する。両親の離婚の記録…最悪の親の行動の記録…それだけでも大きな価値があるのだろう。
見ていた私達夫婦の反応で面白いと思ったのは、旦那Aが父親のバーナードを強く非難していたこと。彼の中に「正しい父親」の像があるからだろうと思う。私は反対に母親のジョーンに言いようもないほどの怒りを感じた。私の中にも「理想の母親」の姿があるからなのだろうか。
私の両親は私が多感なティーンの頃によく喧嘩をしていたが結局離婚せずに最後は落ち着いて仲良くなった夫婦。一方旦那Aは1980年代初期に両親の離婚を経験している。彼にとってこの映画はかなり胸に迫るものだったらしい。
私が個人的に思ったのは…あの時代の「自由」を求めたアメリカの女性達は(メディアに煽られたこともあって)かなり自分勝手な人が多かったのではないかなという印象。私が今まで出会ったアメリカの女性…特にベビー・ブーマの女性達の中にかなりアクの強い人がいて驚いたことが何度かある。
アメリカの女性達の中には…育ちのいいお嬢さんだった人ほどモンスター級に自分勝手な人がいて驚かされることもある。ここにも以前そのような人のことを書いたことがある笑。彼女達はとにかくアクが強い。「自由」と「自分勝手」、「自立」と「自信」と「自己中」と「傲慢」を混ぜてしまったような人々は…まぁあまりお友達にはなりたくない。
この映画は私は父親よりもとにかく母親ジョーンのキャラクターに腹を立てた。
しかし子供を育てるのは難しいものなのだろうとも思う。どうすればいいのか…子供を持たない私に答えを見つけることはできない。
バームバック監督は映画界で成功しているし、彼の弟さんは現在コロンビア大学の比較メディアセンターの准教授をなさっているそうだ。よかったです。