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『Industry』 (2024) TV Series-Season3/英・米/カラー
/約50分・全8話/
制作:Mickey Down, Konrad Kay』
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英国BBCと米国HBOの制作。米国での放送は HBO チャンネルで2024年の 8月11日から9月29 日まで。全8話。
面白かったです。近年見たドラマの中で一番面白いし一番わくわくした。いいドラマ。世間での評判もシーズンを重ねるごとに良くなっているらしく、最終話の放送のあった昨日、すでにシーズン4も決まったと発表されたらしい。あっぱれ。よくやった!
難しい専門用語
しかしとにかく難しいドラマだ。金融の専門用語が山のように出てくるので素人には本当にわからない。
ただわからないならわからないままでも「これはポジティブね、これはダメなのね、で、この契約が無くなったのね、儲けが出なかったのね…」ぐらい理解できればなんとか見続けることは可能。しかしこのドラマの本当の面白さは、その内容をいかに理解するかにかかっているとも言える。内容が全て理解できればもちろんもっと面白い。
シーズン毎に変わっていったドラマ
それにしてもシーズンを追うごとにこのドラマは随分変わった。シーズン1 の意図は、新入社員の目を通した金融業界の(ステレオタイプ的)魑魅魍魎の実態を見せる…その間に新入社員たちは湯気を出して組んず解れつ…不毛なセックスシーンが多いので鼻白んだ。しかしシーズン3 でのセックスはストーリー上で意味があるもののみ。今シーズンのドラマのメインは、金融業界の緊張するストーリー展開。…大人になったね。ほんと。
その変化を見ていて想像した。
脚本家はシーズン3 を…金融業界の本質に迫ったドラマに大きく飛躍させようとしたのだろうと思った。もう若者達のサイド・ストーリーでお茶を濁さない。生き馬の目を抜くと言われる厳しい業界の現実をドラマとして描こうとしたのだろう。
脚本はもう業界の専門用語を説明することさえ一切せず「分からなかったらネットで調べてね」と言わんばかりに専門用語が雪崩のように降りかかる。すごいですよ。全然わからないもん。アルファベットで略された言葉ばかりで難しいのなんのって…。とうとう脚本家が視聴者を信じ始めた…業界用語は難しいけれど視聴者はなんとか受け止めてくれると思ったのだろう。
それがシーズン3の面白さの要。わからないことが多いからもっと知りたくなる。まるで脚本家から挑戦されたように感じる。受けて立とうじゃないか…金融専門用語チャレンジドラマ。だから字幕をオンにして掘り下げて何度も巻き戻し言葉を確認しながらじっくりと見る。そしてわかればもっと面白い。そして次の週が待ちきれなくなる。
毎週、ドラマは日曜日に放送されるので私はすぐに見る。なんとか話の流れを掴んだ上で、次の週末に旦那Aを連れてきて一緒に見る。そして内容を質問攻めする。わからない言葉を全部説明をしてもらう…1時間のドラマを見るのに毎回2時間以上かかる。それを毎週今まで7話続けた(最終話はまだ一緒に見ていないが大丈夫)。感無量。本当に面白かった。ドラマなのにものすごい労力を必要とするチャレンジ。学ぶ喜び。面白かった。
金融メインの話が面白くなるにつれて個々の人物達のドラマも面白くなった。シーズン1では新入社員たちがわけもわからず振り回されていたけれど、シーズン3では皆が人生と仕事に踏み込んだ話をしているのでドラマとしてもかなり緊張する。ストーリーのスピードが早く一言も台詞を聞き逃せない。だから字幕を出して何を言っているのかをチェックしながら見る。
それにしてもよく詰め込んだものだと思う。会社の問題と個人のプライベート、社会の問題とが絡まり合い、レイヤーにレイヤーを重ねて内容が濃くみっちり詰まっている印象。たった1時間のドラマで8話しかないのに、なんだか大河ドラマを見た気分。昨日は見終わったら背伸びをして「やった~終わったー」と安堵。大きな山を登りきった気分。金融界隈のことがよく学べた。ものすごく知識が増えた。達成感で心地よい。おもしろかった。
脚本、俳優の演技、全てがハイレベル
もう一つ。脚本がよければ俳優の演技が輝く。特にシーズン1で新入社員を演じた3人の飛躍に目を見張る。シーズン3ではそれぞれのキャラクターが彼ら以外には考えられないほど馴染んでいた。彼ら/彼女達も役と共に大きく成長した。エリックやアドラー、リーシなどのキャラクターにもそれぞれに見せ場がある。話が進むにつれてサイド・キャラクターのストーリーも掘り下げ、ドラマ内の世界がもっとリアルにもっと大きく広がっていった。
★ネタバレ注意
シーズン3は、沈没寸前の船・Pierpoint 社の運命を追うストーリー
その大変おおまかなあらすじ
● 貴族の末裔サー・ヘンリー・マックは環境にやさしいエネルギー会社 Lumi 社を運営。株式公開を目指す。
● ロンドン・シティーの投資銀行 Pierpoint 社のセールス部署…エリックの率いるチーム(ロバートとヤスミン)は、Lumi 社の株式公開をサポート。株式公開の初日は成功するが、Lumi 社は始めから経営困難に陥っていた。結局 Lumi 社との関係は失敗に終わる。
● Lumi 社の失敗はそれを推進した Pierpoint 社の業界内での評判に関わる。またそれとは別に Pierpoint 社は数年前から良識的投資(ESG)を推していたものの、その分野は成績が振るわなかった。おまけに5年前に発行した Pierpoint の社債が満期を迎えようとしていた(元本を返済しなければならない)。
● Pierpoint 社の経営困難を嗅ぎつけたハーパー・スターン(Pierpoint 社の元社員)は自らの経営するヘッジ・ファンド会社 LeviathanAlpha 社で、Pierpoint 社の株を大量に空売りし利益を得ようとする。…それが Pierpoint 社の株価を暴落させる。
● Pierpoint 社の陥った状況とは…
① Lumi 社株式公開での失策で、社の評判を落とし、
② たまたま社債が満期になり元本の返済が迫る
③ 折り重なる ESG 投資への失策、他の株式公開でも失策を重ね
④ そこにハーパーの会社による社の株の大量の空売り
…により Pierpoint 社そのものが存続の危機に陥る。
● 藁をもつかむ思いで Pierpoint 社は、社外からの救済を募り社の存続を画策する。
話の主題は Pierpoint 社の運命。以前は主役だった人物達は、Pierpoint 社没落のストーリーを飾るサイド・キャラクターでしかない(もちろんそれぞれにも興味深いストーリーはあるが)
主要な人物達
● 藁をもつかむ思いで Pierpoint 社は、社外からの救済を募り社の存続を画策する。
話の主題は Pierpoint 社の運命。以前は主役だった人物達は、Pierpoint 社没落のストーリーを飾るサイド・キャラクターでしかない(もちろんそれぞれにも興味深いストーリーはあるが)
主要な人物達
● Pierpoint社のセールス部署を率いるエリック・タオはこのシーズンで社のパートナー(経営側)に昇進。彼はミッドライフ・クライシスの真っ只中。妻とは離婚協議中。このシーズンでの彼の行動は不安定。しかし彼は全力で沈みゆく Pierpoint 社を救おうとする。見どころは第7話、8話。
● 元 Pierpoint 社の社員・ハーパー・スターンは独自にヘッジ・ファンドの LeviathanAlpha 社を立ち上げ(彼女らしく)攻撃的に利益を求める。そのターゲットは沈みゆく Pierpoint 社だった。社の利益と元同僚ヤスミンとの友情の板挟みになる。見どころは第6話の最後のヤスミンとの会話。恐ろしいほど棘のある台詞の脚本。
● Pierpoint 社に残るヤスミン・カリ・ハナニは、出版会社を倒産させた父親の影に悩みながら日々を過ごしている。貴族ヘンリーとの関係と同僚ロバートとの友情の間で揺れ動く。見どころは第8話。
● 労働者階級出身+オックスフォード大卒の(自信に欠ける)ロバート・スペアリングは懇意にしていた大型投資家の後ろ盾を失い、Lumi 社での尽力も無駄に終わり、Pierpoint 社では捨て駒として使われ途方に暮れている。
シーズン3の話のレイヤー
お馴染みの人物達
たった8話にもかかわらず大量の情報が詰め込まれている。前シーズンからお馴染みの…エリックの迷いと苦悩、ハーパーの攻撃性、ヤスミンの迷い、ロバートの苦悩、そしてもう一人… Pierpoint 社のトレーダー、リーシ・ラムダニのギャンブル癖も第4話で描かれる。
Pierpoint 社救済の緊急ミーティング
…にはトップが集う。30年間 Pierpoint 社と共に生きたFICCヘッドのビル・アドラー、そして同じく30年間勤めたエリック、外部から経営改善のために雇われたCEOのトム・ウォルジー、女性CEOウィルヘルミナ。等々…Pierpoint 社トップのメンバーが、社の救済場面であるにもかかわらず尚もそれぞれの個人のエゴを通そうとする場面も描かれる。速い展開にハラハラする。
外部からは
● 若い貴族サー・ヘンリー・マックは Lumi 社の経営者。
● ハーパーと共に LeviathanAlpha 社を立ち上げたやり手の女性ペトラ・コーニヒ。
● 投資家・オットー・モスティンはハーパーとペトラの LeviathanAlpha 社に大型投資。
社会の上層部
ヘンリーの属するプライベート・メンバーズ・クラブには、大型投資家、ヘンリーの貴族の叔父/伯父で出版社の経営者ノートン卿、首相を目指す女性政治家、(過去には)元出版社経営のヤスミンの父などが出入りしていて、英国社会の上層部の内輪で取引が行われている様子も描かれる。
英国社会の様々なレイヤーが描かれている
投資会社の内部…上(CEO)から下(新卒社員)までのそれぞれの様子、政府の内部と金融界とのかかわり、英国社会上層部の集いがそのままビジネスや政治上のコネとして繋がっていく様子…等々がみっちりと描かれている。
…そしてその上で、お馴染みの登場人物達の個々の日常の問題も描かれていて、ま~驚くほど密なドラマ。
脚本…意図的なサプライズ
そして脚本の展開は、意図的なサプライズが満載。金融に関する動きも、会社の行方も、個々のキャラクター達の選択も…、驚くほどのサプライズが続いて驚かされる。ストーリーを追っていてまるで裏切られたように感じるほど話が急展開していく。
例えば、Pierpoint 社救済に出てくる銀行は3社…たった1話(第7話)でどんどん状況が入れ替わる。その場面に関わるエリックとアドラーの関係はどう変わるのか。また Pierpoint 社が沈みそうになれば、若手の社員たちはどのような動きをしているのか。LeviathanAlpha 社のハーパーとペトラの関係はどうなるのか。大型投資家はその様子をどのように見ているのか。人物のたった一言の台詞で状況がひっくり返ることに何度も驚かされる。本当に一言たりとも台詞を聞き逃すことが出来ない。密な密なドラマの脚本が見事。一瞬も気が抜けない。
主なキャラクター達への感想
私はハーパー・スターンのキャラクターが好きだ。頭がいい。頭がいいからどこでどのように動けば最高の利益が出るのかを直ぐに思いつく。そしてそのチャンスに飛び込むことを全く躊躇しない。友人を利用したことで多少戸惑ったとしても、結局彼女は利益の方を優先する。生き馬の目を抜くような業界内でも彼女の決断力は飛びぬけている。このキャラクターが小柄な女性であるのが楽しい。もしこのキャラクターが男性だったとしたら、私はこれほどまでにワクワクしないだろうと思う。小さな愛嬌のある笑顔で、百戦錬磨のエリックを苛立たせる様子は見ているこちらもニヤニヤしてしまう。
エリック・タオ。元々は一番好きだったキャラクター。しかしこのシーズンのエリックは変わってしまった。私が好きだった昔のエリックは、彼本人が叩き上げの実力者で、(まだ粗削りの宝石のような)新卒のハーパーに大きな未来を見る…父親的な人物。そして会社では猛烈社員なのに家庭に変えればいい夫と父に変わる…そんな人物だと思っていた。それなのに、このシーズンのエリックは迷って迷って血迷うばかり。妻とは離婚協議中。ヤスミンの弁護士と薬でふらふら。部下にもよろめき…いったいどうしたのだろうと思った。全然違う人物じゃないか。ただ俳優さんKen Leungさんがすごくいい役者さんなのでこれからも目が離せない。…いやどうだろうね。彼は来シーズンにもドラマに残っているのだろうか???
ヤスミン・カリ・ハナニ
父との愛憎。それが彼女に付きまとう。このキャラクターは父親との歪んだ関係から、出会う男性達とまともな関係が築けない…人との関係性に問題を抱えた人物として描かれている。美人で、何処に行っても男性に人気だが、本人は「男性に “私が彼らを好き” だと思わせるのが得意だけれど、私は誰かを本当に愛したことがあるのだろうか」と話す。最後の彼女の決断には驚いた。もしかしたら現実とロマンスを完全に分けた…ようにも見えた。全シーズンで唯一 愛のあるセックス…思い出だけは…と考えたのだろうか。これから妊娠か…どうなりますかね。
ロバート・スペアリング
父親との関係が問題だったのか(前シーズンのことでよく覚えていない)、それとも(頭はいいが世間知らずで)階級の違う人々との関りでどうしていいのかわからないのだろうか。彼は常に自信が無さそうで心配になる。このシーズンでは母親との関係にも触れられていた「母親がTyrant/暴君的だった」などと言っていたが、過干渉の母親だったのだろうか。常に弱々しい人で彼に起こる様々な禍を見ていると彼がかわいそうになる。ただ純粋な人物であることは間違いない。どのような悲しみが襲ってきても彼は静かに受け入れる…いつも静かに戸惑うばかりのロバート。彼にはこれからなんとか人として大きくなって欲しいと願う。
第8話が終わってほっとしているが、なんともうシーズン4が決定したそうだ。驚いた。今シーズンの最終話で、それぞれのキャラクターの方向が変わることが予想される展開だったので、私はこれでこのドラマシリーズも終わるのだろうとばかり思っていた。
ハーパーは米国に帰国するのか?シーズン4ではジェシーがまた出てくるのだろう。ロバートは今どこにいるのか?ヤスミンは仕事をやめるのではないのか?エリックはあそこで引退だろうか。さてこれからどうなるか。
ますます目が離せなくなる。これからも期待したい。