能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

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2024年1月24日水曜日

英ドラマ Netflix 『ザ・クラウン/The Crown』(2016 - 2023) 全シーズン:感無量 お疲れ様でした 大きな拍手






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『The Crown』(2016-2023) TV Series
/英・米/Netflix/カラー/39–72 分
Creators: Peter Morgan
No. of seasons: 6シーズン
No. of episodes: 60話
Release: 4 November 2016 – 14 December 2023
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怠け癖がついてなかなか文が書けない。風邪はなんとかおさまった。もう咳はほぼ出ない。どういうわけか体温が午後に37度になることもあるが風邪によるものでもないかもしれぬ。PCに向かって文章を書かなければ、普段からやり残していた家の仕事がいくらでも目に入る。これもやらなきゃあれもやらなきゃ、あ、でも熱があるから今日は休もう…などと言っている間に1月ももうすぐ終わりだ。そろそろ趣味の感想文を書きを始めなければ。



さて去年の年末に見終わったNetflixによる英国のドラマ『The Crown』。とうとう終わってしまった。英国王室を描いたこのドラマ・シリーズのスタートは2016年。ワンシーズン10話を数年毎に続けて、去年の年末に6シーズン目、全60話で完了した。とうとう終わってしまった。感無量。


ドラマの開始は1947年…英国王女エリザベスがフィリップ・マウントバッテン/エディンバラ公と結婚した頃からドラマはスタート。父・ジョージ6世の後を継いで王女は、1952年にエリザベス2世として戴冠し英国の女王となる。そしてそれから6シーズン60話を経て時代は2005年頃、女王が80歳になる頃を描き完結する。

なんと大きなプロジェクトであったことか。

この製作チームはこのとてつもない大河ドラマをとうとう完成させた。一度も力を抜くことなく、王室へ敬意を払いながら、様々な歴史的エピソードを再構築、実在する人物達の個々のエピソードを取り上げて再現し、(フィクションではありながらも)それらの人物達の心の中を覗くような脚本で多くの観客が納得するストーリーを描き上げた。お見事。これほどの作品が現実に制作されたことにまず驚く。ものすごい大作。ものすごい力技。このような大掛かりなドラマはもう2度と見ることはないだろうと思う。


人物たちが全て実在する王室の方々であることから、このドラマがゴシップ的な再現ドラマであることは事実。しかしまた同時に、この英国王室の50年以上を描いたドラマは、英国の20世紀の現代史のドラマでもあった。エリザベス2世の一生は英国が歩んだ歴史でもあった。

「国を描くのであれば、まず国民を納得させる」

このプロジェクトは最初からNetflixにより全世界に配信されることが前提で製作されたのだろうが、まず製作が心を砕いたのは英国国民にこのドラマをどう納得させられるかということだったのではないかと思う。ドラマのテーマは英国の現代史。今でもロイヤリストの多い英国国民をまず納得させなければ、彼らの愛する王室とエリザベス女王を描くこのドラマ・シリーズはおそらく成り立たなかっただろうと思われる。

結果は成功だったのだろうと思う。シーズン6のダイアナ妃をめぐるエピソードは賛否両論だったらしいが、それでも6シーズンに及んだこのシリーズ全体を悪く言う人はあまりいないのではないか。


視聴者の記憶に残る過去50余年の時代を再構築し実在の人物達を描くドラマが、製作にとっていかに難しいチャレンジであったのかは想像を絶する。視聴者それぞれに思い入れや記憶のある現代を描くドラマだからこそ視聴者はドラマに魅了される。その内容にゴシップ的な意味もあれば、人々はますますドラマに夢中になる。

例えば現在80歳の英国人がこのドラマを見れば、ほぼ全編が彼らの記憶に残る馴染みのあるストーリーだろうし、また1980年生まれの人であれば、シーズン6の時代は彼らのティーンから20代半ばの時代の再現になる。そのようなドラマに人々が魅了されないわけがない。しかしそれだけ視聴者を惹きつけるのであれば、もちろん批判や批評も多くなるだろうことは予想される。製作は心を砕いて「いい作品」を目指したのだろうと思う。

そして堂々60話の大河ドラマが完成した。もうそれだけで大きな拍手。とにかくものすごい力技。



まずシーズン1と2が特に素晴らしかった。主演のクレア・フォイさんがエリザベス女王に見えた。小柄。白い肌。濃い色の髪。大きな青い目。歯切れのいい口調。ユーモアを湛えた眼差し。エリザベス女王の若い頃の映像は今も残っていて私達も見ることができるが、このクレア・フォイさんは若いエリザベス女王として納得の配役だった。美しい若い女王の佇まいが完璧だった。

印象にのこっているのは戴冠式の回/第5話。夫のエジンバラ公が戴冠式で、妻/女王の前に跪くのを嫌だと言う「ただ妻の側に立っているだけではいけないのか?」 (自らがアイデアを出した)テレビ放送で全世界にその姿(夫の自分が妻に跪く姿)が放映されるのを恥ずかしいと思ったのだろうか。しかし女王は夫のわがままを許さない。戴冠式は予定通り厳かに行われ、全世界の見守る中、エジンバラ公は女王に跪き忠誠を誓う。

小柄な若い女性の肩に、ほぼ千年に及ぶ王家の歴史とそれを守る責任がのしかかる。その姿にエジンバラ公も圧倒されたのだろう。その場面に私は言いようもないほど感動した。今回そのシーンを見直したがまた涙が出そうになった。そのシーンだけでもこのドラマが作られた意味があると思うほどだ。名場面。クレア・フォイさんが女王を演じたのはシーズン2まで。


女王が中年になったシーズン3と4で女王を演じたのはオリビア・コールマンさん。このキャスティングは大きな間違いだとすぐに私は思った。あまりにも女王御本人と違い過ぎるルックスと声、佇まい。このオリビア・コールマンさんは最悪のミスキャストだと思った。

なぜ茶色い目の女優さんを女王にキャスティングしたのだろう。せめて青いコンタクトレンズはできなかったのか。声が特にいけない。早口過ぎるし響きも悪い。姿勢も悪い。高貴な印象がない。あまりにも雰囲気が違い過ぎる。オリビア・コールマンさんのイメージは親しみのあるユーモラスな下町のおばさん風。女優さんに問題があるわけではない。完全にキャスティングのミス。威厳に満ちて高貴で硬質でいながらウィットに富み歯切れのいい口調のエリザベス女王とは似ても似つかない。全く許しがたい。オリビア・コールマンさんは撮影当時非常によく売れていたので、その人気からキャスティングされたのではないかと思うが、どう見てもミスキャスト。

それでもエピソードが進むにつれて コールマンさんもそれらしく化けていたのですごいものだとも思った。他のキャスティングは相変わらず素晴らしい。アン王女もダイアナ妃も似ている。さずがにサッチャー総理をジリアン・アンダーソンさん、マーガレット王女をヘレナ・ボナム・カーターさんが演っているのは妙だと思った。


そしてシーズン5と6。女王を演じるのはイメルダ・スタウントンさん。威厳に満ちてお堅い女王の雰囲気はいい感じだ。多少重苦しくユーモアに欠ける感じなのは、彼女の演じた時代が王家にとっての危機の時代だったからだろうか。

ダイアナ妃を演じたエリザベス・デビッキさんは驚くほど似ている。ドディ・アルファイドのカーリッド・アブダラさんもよく似ている。ジョン・メイジャー首相もカミラ王妃もよく似ているが、プリンス・チャールズ/チャールズ3世はあまり似ていなかった(いい役者さんだけれど)。

そのように、ついついゴシップ的に誰が誰に似ている、似ていないというのもこのドラマの楽しみでもあった。特に私にとって英国に暮らした頃のシーズン5と6の頃は、当時の記憶をたどりながら見るのもとても楽しかった。


(女王の老年を描いた)シーズン6の最終エピソードは、2022年の女王の崩御の後に脚本が書き換えられたらしいということを後で聞いた。女王が80歳の誕生日を前に、彼女の国葬の計画を立てる話が描かれ、実際の葬儀の最後にバグパイプで奏でられた曲「Sleep, Dearie, Sleep」が選ばれた様子も描かれる。

ドラマはもちろんフィクションで脚本も創作であることはわかっているが、エディンバラ公が王室についてのシビアな現実を「このシステムは外の人々にとっても我々内にとっても意味をなさなくなった。人間に関するものは全て朽ちるものだ。その運命が来たら君主も従わなければならないだろう。We're a dying breed, you and I. 」と女王に話していたのが印象的だった。

いやいや…、私は古からの歴史との繋がりを今も守り続けるその「システム」をこれからも大切に残していって欲しいと思います。心から願います。

本当にいいドラマでした。
またシーズン1を見直そうかと思う。


(以前から度々ここにも書いてきた)私がエリザベス2世を尊敬しているという話。それはなぜか? 「文化的な遺産」という意味で、誰が君主であっても王室は大切なものだと私は思うけれど、しかしなぜ私はエリザベス女王を特に尊敬しているのか‽ 

それは彼女が先祖から与えられたとてつもなく大きな「義務」を、一生をかけて文句を言わずに完璧に成し遂げたからだ。祖先から与えられた「義務/責任/役目/務め」を一生をかけて律儀に守り続けたからだと思う。

人間とは誰でも何らかの「義務」と共に生きなければならないもの。それならば常に文句を言いながら「義務」を行うのか、それとも自らの置かれた立場や状況を受け入れて「義務」を全うするのか…人の生き方としてどちらが正しいのか? …女王の長い人生を考えるたびにそのようなことを私は思う。それが私が彼女を尊敬する理由なのだろうと思う。