スポーツ観戦というのはのめり込めばのめり込むほど終わった後の喪失感も大きい。そもそもスポーツは結果が出れば終わるもので、その後には感激と記録以外はなにも残らないのがあたりまえなのだけれど。しかし心の空虚を埋めるために何か考えたい。何か出てこないかと思った。無理やり色んなものを持ってきて私なりの理屈を捏ねたい。というわけで考えた。メモする。
WBCの日本の初戦は3月9日。初戦を覗くぐらいのつもりで見始めたら朝の4時まで見ることになった。そして次のゲーム、次のゲームと日本チームが勝ち続けるものだからついつい見続ける。そしてとうとう昨日3月21日の決勝まで日本は戦い続けることになった。結果は日本チームの優勝!最高の結末。
あ~面白かった。日本の野球は見れば見るほどハマる。日本のプレイヤー達のお顔とお名前も覚えた。日本チームはうまいし強いし皆かわいいし面白くないわけがない。
私は普段はこの地でTV放送のあるLAエンゼルスの試合と、秋のワールド・シリーズしか見ないのだけれど、今回のWBCでの日本チームの野球はとても面白かった。
日本のチームは野球が巧み。丁寧な野球と言えばいいのか、皆野球がうまい。投手陣は層が厚いのだろう、投げるピッチャーが皆上手いし速い。そしてバッターは打つ。よく打つ。やっぱり日本のベストメンバーは世界一野球が上手いんだねと感心する。
その上に日本のチームは家族のように皆仲がいい。野球をわきあいあいと楽しんでいるようにも見える。(もちろんこのWBCで日本チームが一度も負けなかったこともその理由だろうけれど)ベンチ内ではメンバーが皆笑顔。みんなかわいい。本当にかわいい。
若い選手たちの様子を見ていて、思わず大昔に私が日本に置いてきた「友人や同僚との楽しい慣れあい」を思い出した。いいな。すごく楽しい。皆で楽しんで皆で笑顔。大谷さんがチームの親分として皆を鼓舞し、ヌートバー君がアメリカの風を吹き込んでくれれば、経験豊かなダル様がお父さんのように若い選手を励ましアドバイスをしてチームをまとめていらっしゃったと聞く。いいなぁ。そんな「仲間と一緒に何かを成し遂げる楽しさ」を日本のチームは思い出させてくれた。彼らが仲のいい様子を見るのが楽しかった。
日本以外のチームはそれほど見ていないのだけれど、このWBCでは中南米のチームにも見惚れた。彼らは本気。いつもはアメリカのMLBでプレイしている彼らが、それぞれの出身国のプライドを背負って必死に戦っていた。メキシコ、ベネズエラやプエルトリコ、ドミニカ共和国…彼らは本当にかっこよかった。
一方アメリカは勝つことを最初から予想されていた。バッターは最強のラインナップ。絶対に勝てなさそうなメンバーが並ぶ。誰も(本音では)アメリカが勝つことを疑っていなかったと思う。実は私もその一人。普段からMLBの大柄な選手達を見ていて「この人達と小柄なアジア人が戦って勝てるのだろうか」と思った。スポーツは身体の大きさと体力…そんなスポーツの暗黙のお約束を私も無意識に信じ切っていた。
それでも日本はアジア/パシフィック圏のプールA,Bで勝ち続けた。一つ一つ試合を見ているうちに「彼らはMLBの選手とは違うゲームのやり方で戦っている」と思い始めた。日本のチームには技がある。丁寧な野球。訓練に訓練を積んだ選手達の技。投げても打っても上手い。守りも上手い。そしてチームのメンバー達の仲の良さ。チームの結束の強さ。明らかに日本の野球はアメリカの野球とは違っている。
試合が進むにつれて、日本が勝ち進んでプールC,Dのチームと対峙すれば、それはきっと「技と力の戦いになる」と思うようになった。日本の巧みな野球はパワーのMLBに勝てるのか?
そして日本が勝った。感無量。技の野球が勝った。
アメリカはなぜ負けたのだろう?バッターは最強クラスが並ぶ。しかし最初の頃の試合を見ていて、アメリカは投手陣が弱いと気付いた。おそらく各球団がレギュラーシーズンの前に貴重なピッチャーを無駄に疲れさせたり負傷させたくないという理由で上手いピッチャーを出し渋ったのだろう。
いやそもそもアメリカ国内でWBCがそれほど注目されていないらしい。
それは理解できないわけではない。アメリカとは…アメリカ人がアメリカ人としてのアイデンティティを定義するのが非常に難しい国。アメリカ人は「アメリカ人」という言葉にはよく反応するが、それは「アメリカ人」という抽象的な概念に対するもので、(オリンピックや戦争等の特殊な状況でもない限り)彼らが「我々はアメリカの国のアメリカ人だから」と認識する機会は少ない。国が大きすぎて具体的な実感が掴みにくいのだろうと思う。(私が知る限り)アメリカ合衆国とは(それぞれが国のような)州が集まって出来た国であり、人々のアイデンティティや気質は州の地域性やお国柄/土地柄と繋がっていることが多い。例えば東海岸沿いのアメリカ人にとっての西海岸の人はまるで外国人。州やエリアが変われば国が違うのと同じようなもの。
そのような状況でアメリカの国内には、各地方に30のMLBのチームが散らばって存在し、それぞれのチームにはその土地のファンがついている。アメリカの野球ファンは「俺の地元のチーム」は応援するが、地元以外のチームには興味を示さない。
「チームUSA」はそのようなMLBの状況から作られたチーム。(元々しっかりと目標を持たなければまとまるはずもない)メンバーを募ってチームを作り、とりあえず強力なバッターが揃えば中南米やアジアは楽勝…ぐらいに考えていたのではないか。
ところが中南米やアジアは思った以上に強かった。その理由はそれらの国のチームの結束力。日本もベネズエラも国民がチームに大きな声援を送っている。普段はメジャーリーグでプレイする各国の選手たちも、ここぞとばかりに国を背負って「目指せ打倒アメリカ」を目標に真剣勝負。彼らは勝つ気満々。やる気満々。
WBCでは、そのように団結した各国のチームが(各チームから寄せ集めの)アイデンティティのあいまいなUSAチームと戦うことになった。
違いはチームの団結力の差。USAチームはベンチでの様子を見ても、あまりまとまっているようには見えなかった。チームのピッチャーが上手くなければ、それをバッターが面白くなさそうに見る。ピッチャーは追い詰められる。監督さんは優男であまり牽引力のある人にも見えない。
このWBCでのアメリカのチームは…「俺が一番、俺に打たせろ、俺が一番目立ちたい」そんな巨大なエゴを持つ暴れ馬のような個人主義の選手たちが、最後までうまくまとまらずモチベも完全にあげられないまま決勝に勝ち進んだようにも見えた。
アメリカの選手は自分のために野球をやる。
決勝戦の最後に大谷さんがピッチャーで出てきた時、アメリカのバッター達がざわめいたように見えた。スーパー・スターの大谷翔平…が投げることになったとたんに、アメリカのバッター達が勇むように感じた。彼らはなぜ「強い敵」が出てきてやる気を出すのか?
…その理由は、もし彼らが(あの)大谷翔平から打って点をとれば、打った自分がヒーローになれるから。彼らの様子を見ていて、アメリカのスター選手たちはなによりもまず「自分がヒーローになる」のが目的の人達なのだろうと思った。自分が輝けばチームも輝くし、結果的にチームの結束も強まる…それが彼らの戦い方=アメリカMLBの強いチームの戦い方なのだろうと思った。 そういえばそのような雰囲気は以前からワールド・シリーズに出るチームを見ていても感じていた。
彼らは好敵手が現れればやる気を出す。難しい局面になるともっとやる気を出す。また自分のチームの他の誰かが脚光を浴びれば「じゃあ俺も負けるものか」と仲間に対してさえライバル心を燃やしてやる気を出す。皆自分が一番のスターになることだけをモチベーションに戦っているようにも見える。
「自分が輝けばチームも輝く」…それがアメリカのチーム・スポーツの戦い方なのかもしれぬ。彼らは「チームのために」などとは思わないのかも。自分が一番。まずは自分を輝かせる。
…それはもしかしたらアメリカ流の人の生き方、生きるための技でもあるのかもしれない。アメリカでは何事も人は勝ってなんぼ。勝つ人物だから他人にも尊敬される。勝つ人物だからこそヒーローになれる。
その結果…そうやってアメリカはどのような分野でもスーパースターを生み出してきた。普段から個人同士が競争をしてどんどん全体のレベルを上げていく。競争で勝った勝者がヒーローになるシステムだからこそ、アメリカのスーパー・スターは桁違いの巨人になっていく。
WBCのアメリカの野球を、そんなことを考えながら見ていた。アメリカのスポーツの世界はかなり厳しい世界なのだろうと想像する。
しかしそれに比べて日本のチームは「チーム全員で上っていこう」…そのような雰囲気。普段は違うチームで戦う日本の選手達が、わきあいあいと家族のように馴染んでいるのが微笑ましい。彼らは皆で一緒に勝利の階段を上っていった。
私が日本のチームを見ていて楽しくなったのはきっとそんなところなのだろうと思う。侍ジャパンはメンバー全員で目標に向かって一丸となることの楽しさを思い出させてくれた。(私個人はあまりチームワーク向きの人間ではなかったのだけれど)
この先もアメリカのチームは個人の力の集合体として戦うのだろう。今回のWBCに負けたことで(負けず嫌いのアメリカは)ますますやる気を出したと思う。次回は間違いなくうまいピッチャー陣がチームに加わるだろう。バッターも最強レベルが並ぶだろう。アメリカは今度はプライドをかけて勝ちにくるはず。
メンバー同士のエゴがぶつかる化学反応で勝ち進むアメリカと、国を背負う中南米のチーム、そして家族的チームワークで皆で一緒に勝とうとする日本のチーム。それぞれのキャラクターが面白いと思った。今後もどうなっていくのかゆるく見守っていこうと思う。
余談…(この地ハワイはアメリカ本土と違って雰囲気が違うのでいいのだけれど)…私は勝つことが全ての人は苦手だわ。そんな生き方も苦手。そんな人生は苦しいもんね。負けてOKで生きてる。