NHKの 趣味どきっ!…の『読書の森へ』本の道しるべ シリーズ。去年の12月から今年1月にかけての放送。録画を放送の後すぐに見たのだけれど、とても面白かったのでメモしようと録画を残していた。心に残ったものを記録しておく。
第2回
生物学者 福岡伸一さん
日本での初回放送日: 2022年12月13日
TV Japanにて
福岡伸一(1959年9月29日 - )
日本の生物学者。青山学院大学教授。ロックフェラー大学客員教授。専攻は分子生物学。農学博士(京都大学、1987年)。京大農学部食品工学科卒。分子生物学を研究し、遺伝子関連で積極的に発言する。著書は、生命の根源を問う『生物と無生物のあいだ』(2006年)のほか、『動的平衡』(2009年)などがある。わかりやすく書いた科学エッセイも多い。
------NHKの番組で時々お見かけした福岡さん。このインタビューで、福岡さんのお好きな分野が私の興味のある分野と重なると思いながら拝見。好きな分野だからお話しも楽しかった。それから先日感想を書いたヤマザキマリさん、鹿島茂さんのインタビューの内容とも少し重なる部分があると思った。面白い。
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●原点
・昆虫図鑑
子供の頃から虫が好き。今も自然科学の専門古書店に通う。蝶が専門。
-----虫の好きな少年。ヤマザキマリさんも虫愛ずる少女でしたね
●古書店のお宝
・アルシド・ドルビニ
/Alcide Charles Victor Marie Dessalines d'Orbigny
『万有博物辞典』(1849年)
芸術品のような博物図鑑 全16巻。現在は古書店で120万円するそうだ。
大学の研究室で手に取る本は 思想の基本
・クリフォード・ドーベル/Clifford Dobell
『レーベンフックの手紙/Antony Van Leeuwenhoek and His Little Animals』天児和暢訳
レーベンフックの(自作の顕微鏡による)細菌を含めた微生物の観察に関する手紙
・石川良輔 『うちのカメ』
カメの日常生活を綴った観察日記。人間と他の生物との理想の関係
-----これは読みたい!
昆虫を調べることで、世界の成り立ちを知ろうとした
・原色図鑑 世界の蝶 中原和郎/黒沢良彦
蝶の原寸の図鑑
本は未知の世界の扉、入口
図書館に行けば、本の背表紙が呼んでくる
●少年時代の愛読書
・ヒュー・ロフティング/Hugh John Lofting
『ドリトル先生/Doctor Dolittle』シリーズ
『万有博物辞典』(1849年)
芸術品のような博物図鑑 全16巻。現在は古書店で120万円するそうだ。
大学の研究室で手に取る本は 思想の基本
・クリフォード・ドーベル/Clifford Dobell
『レーベンフックの手紙/Antony Van Leeuwenhoek and His Little Animals』天児和暢訳
レーベンフックの(自作の顕微鏡による)細菌を含めた微生物の観察に関する手紙
・石川良輔 『うちのカメ』
カメの日常生活を綴った観察日記。人間と他の生物との理想の関係
-----これは読みたい!
昆虫を調べることで、世界の成り立ちを知ろうとした
・原色図鑑 世界の蝶 中原和郎/黒沢良彦
蝶の原寸の図鑑
本は未知の世界の扉、入口
図書館に行けば、本の背表紙が呼んでくる
●少年時代の愛読書
・ヒュー・ロフティング/Hugh John Lofting
『ドリトル先生/Doctor Dolittle』シリーズ
全12巻 井伏鱒二訳 ←訳者!山椒魚!びっくり!
物語の面白さ、ストーリー・テリングの楽しさを教えてくれた
ドリトル先生の助手になる少年トミー・スタビンズ君に憧れる
ドリトル先生はスタビンズ君を子ども扱いせずに「Mr.スタビンズ」と彼を呼ぶ。先生は他の大人のように命令したり抑圧することはない。スタビンズ君が求めれば答えてくれるし、教えてくれる。スタビンズ君を公平に自分と対等の人間として扱ってくれる。
後に福岡さんは『ドリトル先生航海記』の翻訳をなさった。
楽しかった。翻訳は究極の精読。
とある一節から…
旅から帰ってきた先生の荷物の少なさに驚いたスタビンズ君に先生は答える
「旅に沢山の荷物など本当は必要ない。そんなものはかえって邪魔になるだけだよ。人の一生は短い。荷物なんかに煩わされている暇などない。…いや、実際、人生に荷物など必要ないんだよ、スタビンズ君」
福岡さんが笑う…これだけ(本を)抱えてしまったので身につまされてます。
-----私も同じです笑。プチ・コレクター気質で物を持ちすぎている。反省。
●科学の世界と出会った本
・『SF名作シリーズ』(1967年)全26巻 岩波書店
SFの特徴は奇想天外なありえないことを物語として作る時、魔法を使ってはいけない。「科学技術というものをもとに物語を作る」という論理構造がある。そこが私は科学少年であったので、そういうものを使った物語がつくられるということにすごく共感した。
挿絵も豪華 --- 横尾忠則 和田誠 田名網敬一 真鍋博
-----私も。若い頃にSFをよく読んでいた理由は多分そこなのだろうと思った。いかに(その時代の)人間の知恵を使って「嘘」を本物らしく描くのか。その創造性/クリエイティビティにドキドキする。私に科学の知識がなくても「嘘」が本物らしく描かれていれば楽しい。
この岩波のSF名作シリーズは面白そうだ。検索したら全26巻のタイトルも出てきた。あとで調べよう。
…余談だけれど、そういえば私は人と人の関係=事件を扱ったミステリーものにはハマらなかった。学生の頃にアガサ・クリスティをいくつか呼んですぐに飽きた。人と人のゴタゴタにあまり興味がないからだろうと思う。
その後福岡さんは大学で分子生物学を専攻
大学院を経て1988年に28歳でアメリカへ留学
研究三昧の日々 結果が出ない焦り 人間関係の難しさに苦しんだ
競争に負けることの方が多い。研究も95%ぐらいは思ったようにいかない。失望の中からどうやって希望を見つけてくるかが大事になってくる。その答えを小説に求める。
-----ここ。ここがヤマザキマリさんの「読書を糧に」の話と重なると思ったところ。問題の解決を本に求める
●失望の中で導いてくれた本
・松本清張「石の骨」短編集『張り込み』所収
アカデミズムに受け入れられず姿を消す学者を描いた作品。歴史上の大発見をしながらも、認められなかった実在の考古学者をモデルに。
勝者の物語ではなく 敗者の物語。成功の物語はつまらない。負けてしまった者の思いの方にこそ、本当のことがある。そこに開かれた問い。そこから考えることがたくさんある。
敗者の物語から見えてきたことは?
敗者の悲哀を共有するというのは、世界に対して「謙虚」になることであって「謙虚さ」というのは「自己懐疑」でもある。「自分自身がこれでいいのだろうか?自分が言っていることは正しいのだろうか?」でも謙虚さとか自己懐疑ということが、実は「知的」であるということの一番大事なことだと思う。自分を疑えないのは最も知的でない。自分が無謬(むびゅう:理論や判断にまちがいがないこと)であると考えるのは最も知的ではない。そういうことを物語にしてくれている小説家は松本清張。
研究者としてのあり方を小説が気付かせてくれた。
-----Constructive self-criticism/建設的な自己批判でしょうか。このことを私は英国で学んだ。30代の半ばに美大にいきなおそうと大学の予備科/基礎課程(foundation course)に通って学んだ。その時そこの先生達に(物を作るにあたって)Constructive self-criticismを決して忘れるなと何度もうんざりするほど言われた。自分の作品の凡庸さは自分で見つけろということだ。
そのような「英国式教育」の影響は、その後英国人の気質にも感じた。新聞の歯に衣着せぬ政治家への批判、世情や自国のあり方への批判…「己を信じすぎてはいけない。自信を持ちすぎるな」…それが英国の知性と思慮深さなのだろうと受け取った(個人的意見)。
物語の面白さ、ストーリー・テリングの楽しさを教えてくれた
ドリトル先生の助手になる少年トミー・スタビンズ君に憧れる
ドリトル先生はスタビンズ君を子ども扱いせずに「Mr.スタビンズ」と彼を呼ぶ。先生は他の大人のように命令したり抑圧することはない。スタビンズ君が求めれば答えてくれるし、教えてくれる。スタビンズ君を公平に自分と対等の人間として扱ってくれる。
後に福岡さんは『ドリトル先生航海記』の翻訳をなさった。
楽しかった。翻訳は究極の精読。
とある一節から…
旅から帰ってきた先生の荷物の少なさに驚いたスタビンズ君に先生は答える
「旅に沢山の荷物など本当は必要ない。そんなものはかえって邪魔になるだけだよ。人の一生は短い。荷物なんかに煩わされている暇などない。…いや、実際、人生に荷物など必要ないんだよ、スタビンズ君」
福岡さんが笑う…これだけ(本を)抱えてしまったので身につまされてます。
-----私も同じです笑。プチ・コレクター気質で物を持ちすぎている。反省。
●科学の世界と出会った本
・『SF名作シリーズ』(1967年)全26巻 岩波書店
SFの特徴は奇想天外なありえないことを物語として作る時、魔法を使ってはいけない。「科学技術というものをもとに物語を作る」という論理構造がある。そこが私は科学少年であったので、そういうものを使った物語がつくられるということにすごく共感した。
挿絵も豪華 --- 横尾忠則 和田誠 田名網敬一 真鍋博
-----私も。若い頃にSFをよく読んでいた理由は多分そこなのだろうと思った。いかに(その時代の)人間の知恵を使って「嘘」を本物らしく描くのか。その創造性/クリエイティビティにドキドキする。私に科学の知識がなくても「嘘」が本物らしく描かれていれば楽しい。
この岩波のSF名作シリーズは面白そうだ。検索したら全26巻のタイトルも出てきた。あとで調べよう。
…余談だけれど、そういえば私は人と人の関係=事件を扱ったミステリーものにはハマらなかった。学生の頃にアガサ・クリスティをいくつか呼んですぐに飽きた。人と人のゴタゴタにあまり興味がないからだろうと思う。
その後福岡さんは大学で分子生物学を専攻
大学院を経て1988年に28歳でアメリカへ留学
研究三昧の日々 結果が出ない焦り 人間関係の難しさに苦しんだ
競争に負けることの方が多い。研究も95%ぐらいは思ったようにいかない。失望の中からどうやって希望を見つけてくるかが大事になってくる。その答えを小説に求める。
-----ここ。ここがヤマザキマリさんの「読書を糧に」の話と重なると思ったところ。問題の解決を本に求める
●失望の中で導いてくれた本
・松本清張「石の骨」短編集『張り込み』所収
アカデミズムに受け入れられず姿を消す学者を描いた作品。歴史上の大発見をしながらも、認められなかった実在の考古学者をモデルに。
勝者の物語ではなく 敗者の物語。成功の物語はつまらない。負けてしまった者の思いの方にこそ、本当のことがある。そこに開かれた問い。そこから考えることがたくさんある。
敗者の物語から見えてきたことは?
敗者の悲哀を共有するというのは、世界に対して「謙虚」になることであって「謙虚さ」というのは「自己懐疑」でもある。「自分自身がこれでいいのだろうか?自分が言っていることは正しいのだろうか?」でも謙虚さとか自己懐疑ということが、実は「知的」であるということの一番大事なことだと思う。自分を疑えないのは最も知的でない。自分が無謬(むびゅう:理論や判断にまちがいがないこと)であると考えるのは最も知的ではない。そういうことを物語にしてくれている小説家は松本清張。
研究者としてのあり方を小説が気付かせてくれた。
-----Constructive self-criticism/建設的な自己批判でしょうか。このことを私は英国で学んだ。30代の半ばに美大にいきなおそうと大学の予備科/基礎課程(foundation course)に通って学んだ。その時そこの先生達に(物を作るにあたって)Constructive self-criticismを決して忘れるなと何度もうんざりするほど言われた。自分の作品の凡庸さは自分で見つけろということだ。
そのような「英国式教育」の影響は、その後英国人の気質にも感じた。新聞の歯に衣着せぬ政治家への批判、世情や自国のあり方への批判…「己を信じすぎてはいけない。自信を持ちすぎるな」…それが英国の知性と思慮深さなのだろうと受け取った(個人的意見)。
ここで福岡さんが仰っている「自分を疑えないのは最も知的でない」…自己の間違いを見つけ、それを正しながら次に進む…ことは人が生きていく上でも大切なことだと思う。
●読書の新たな楽しみ方(コロナ禍の日々の中で)
現代社会では、すごくファストを求められていて、とにかくあらすじを早く知りたい。それがビジネスにも繋がるみたいな風潮がある。私はそれに反対したい。小説、本の面白さっていうのは、あらすじとか結末とか、プロットじゃないわけです。そのひとつひとつのプロセスが大事だし、それをどう書いているかっていう、パズルの一つ一つの結びつきが大事なんですね。だからやはり読書は、ゆっくり読まなきゃいけないし、じっくり味わうべきものだと思う。
-----このお言葉は、このシリーズ第7回の鹿島茂さんの「大長編を読む」のお言葉にも通じますね。とにかく全部読む。読書はそのストーリー/プロット以外にも楽しみがある。読み進むプロセスが大切だと。
●読書の新たな楽しみ方(コロナ禍の日々の中で)
かつて自分が読んで素晴らしいなと思った本を再読すると、より豊かな読書になることに気付いた。
・丸谷才一『笹まくら』
緻密な構造をもって作られた構築的小説。戦中、戦後と時代を行きつ戻りつしながら主人公の人生を描いた。入り組んだ小説。笹まくら年表を作ってみた。作家の創作を追体験しながら読むことができた。面白さ、緻密さを再発見できた。じっくりと読む楽しみ。
●これからどんな読書をしていきたいですか?
・丸谷才一『笹まくら』
緻密な構造をもって作られた構築的小説。戦中、戦後と時代を行きつ戻りつしながら主人公の人生を描いた。入り組んだ小説。笹まくら年表を作ってみた。作家の創作を追体験しながら読むことができた。面白さ、緻密さを再発見できた。じっくりと読む楽しみ。
●これからどんな読書をしていきたいですか?
現代社会では、すごくファストを求められていて、とにかくあらすじを早く知りたい。それがビジネスにも繋がるみたいな風潮がある。私はそれに反対したい。小説、本の面白さっていうのは、あらすじとか結末とか、プロットじゃないわけです。そのひとつひとつのプロセスが大事だし、それをどう書いているかっていう、パズルの一つ一つの結びつきが大事なんですね。だからやはり読書は、ゆっくり読まなきゃいけないし、じっくり味わうべきものだと思う。
-----このお言葉は、このシリーズ第7回の鹿島茂さんの「大長編を読む」のお言葉にも通じますね。とにかく全部読む。読書はそのストーリー/プロット以外にも楽しみがある。読み進むプロセスが大切だと。
また「じっくりと読む」ということは、ヤマザキマリさんの…本の難しい箇所も「飛ばさないで立ち止まって反芻してみたり」という読み方にもつながると思う。
…読書の楽しみ方を言葉にしてくださることで、私も刺激を受けました。たしかに。たしかにそのとおり。読書の楽しみ…なんとかしなければ。元々本は好きな人間だったのに、ここのところ何年もまともに本を読んでいない。大変な問題。
そういえば動物ものが好きだったのに『ドリトル先生』は読んでいなかった。この番組を見てさっそく『ドリトル先生』をkindleで購入。読み始めた。
そういえば動物ものが好きだったのに『ドリトル先生』は読んでいなかった。この番組を見てさっそく『ドリトル先生』をkindleで購入。読み始めた。