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『Vertigo (1958)/米/カラー
/2 hours 8 minutes/監督:Alfred Hitchcock』
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コロナ禍が始まってまるまる3年。今もまだ映画館で映画を見るまでに至っていない。
コロナ禍以前に映画館に行っていた時は、まず新作の映画の宣伝を見てそれをRotten Tomatoesなどの映画評サイトでチェックし、良さそうなら映画館に行ってみようか…という具合だったのだが、その習慣もすっかりなくなってしまった。
その代わり、今は思いついた時にテレビで昔の映画を録画して見たり、Netflixやアマゾンプライムでドラマや新作を見ている。 それにしても配信サービスの新作なら世間一般で流行っている時に見ることも出来るのに、実際には勝手な時間に勝手なタイミングで見ることの方が多く、そんなわけで全体的に「今が旬の映画作品」を見ることはほとんどなくなってしまった。
去年の年末は大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の感想を書くことに時間を取られていて、見た映画の感想も書かずにそのままになってしまっていた。そろそろ書き留めておこう。
ヒッチコックの『めまい』は1958年の作品。出演はジェームズ・ステュアートにキム・ノヴァク。名作だそうだ。そういえばこの映画は今まで見ていなかった。たまたま年末にテレビでやっていたので録画して鑑賞。
昔のハリウッド映画です。ヒッチコック作のサスペンス映画。原作はフランスのミステリーだそうだが、映画の舞台は米国サンフランシスコ。
タイトルは『めまい/Vertigo』。主人公のスコティ(ジェームズ・ステュアート)の高所恐怖症によるめまいの症状から。彼のめまいがストーリーの大きな鍵。
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映画の感想の前にアメリカのニュー・シネマについて書いておこう。
アメリカの映画は1970年以前と以降ではまったく別のものに変わる。
(今調べたのだけれど)1968年以前、アメリカの映画界にはヘイズ・コード/Hays Codeというものがあり、それにより様々な表現の規制があったのだが1968年以降にその規制がなくなった。また同時期には欧州を中心に「ニューシネマ運動」が世界中で起こっていて、映画の表現方法が若い世代により実験、開拓されていた。
…だから私が子供時代から見ていた70年代以降のアメリカの映画は暴力的でリアルでセクシーで生々しいものだったのか…
『イージーライダー』『真夜中のカーボーイ』『明日に向かって撃て!』『キャバレー』『チャイナタウン』『カッコーの巣の上で』『大統領の陰謀』 それらの60年代後半~70年代に名作と言われるリアルで荒々しい表現の映画は、それ以前のキラキラしたハリウッド映画とは全く別もの。1960年代半ば生まれの私は、そのような70年代の名作映画を見て「映画とは生々しくリアルであればあるほど良い、リアルで生々しい表現こそが映画の醍醐味である」と信じて育った。それらの映画は日本では「アメリカン・ニュー・シネマ」などと呼ばれ、また英語圏では「New Hollywood」「The Hollywood Renaissance」「American New Wave」などと呼ばれている。
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このヒッチコックの映画は、その「New Hollywood」以前に制作された映画。
いかにも作られたフィクション。おとぎ話。人が亡くなる事件を扱ったサスペンスなのに、画面はキラキラと美しい。ミステリアスな女「マデリン」を演じる女優さんは(英国人ヒッチコックの好みなのだろう)骨太大柄ギリシャの彫刻のような男顔美女キム・ノヴァク…彫刻のように美しいが頑丈な印象の女優さん。そしてフリーの探偵「スコッティ」を演じるジェームズ・ステュアートはスタイリッシュでお洒落。美男美女が出てくるマーダー・ミステリー。あまりリアリティはない。
この映画に1970年以降のリアリズムを求めて文句を言うのは意味がない。最初からリアリティなどは無い前提で作られている映画。事件があって展開があって捻りがあって、終わったかと思ったらまた先があって…としっかりフィクションとして書かれた脚本はまるでミステリー小説/本を読んでいるかのよう。この映画の人物達に繊細な感情の動きなどを求めてはいけない。俳優さん達は台詞を喋って、行動して、それにより何かが起こって…と、まるで舞台劇のようにストーリーは進む。
…だから私が子供時代から見ていた70年代以降のアメリカの映画は暴力的でリアルでセクシーで生々しいものだったのか…
『イージーライダー』『真夜中のカーボーイ』『明日に向かって撃て!』『キャバレー』『チャイナタウン』『カッコーの巣の上で』『大統領の陰謀』 それらの60年代後半~70年代に名作と言われるリアルで荒々しい表現の映画は、それ以前のキラキラしたハリウッド映画とは全く別もの。1960年代半ば生まれの私は、そのような70年代の名作映画を見て「映画とは生々しくリアルであればあるほど良い、リアルで生々しい表現こそが映画の醍醐味である」と信じて育った。それらの映画は日本では「アメリカン・ニュー・シネマ」などと呼ばれ、また英語圏では「New Hollywood」「The Hollywood Renaissance」「American New Wave」などと呼ばれている。
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このヒッチコックの映画は、その「New Hollywood」以前に制作された映画。
いかにも作られたフィクション。おとぎ話。人が亡くなる事件を扱ったサスペンスなのに、画面はキラキラと美しい。ミステリアスな女「マデリン」を演じる女優さんは(英国人ヒッチコックの好みなのだろう)骨太大柄ギリシャの彫刻のような男顔美女キム・ノヴァク…彫刻のように美しいが頑丈な印象の女優さん。そしてフリーの探偵「スコッティ」を演じるジェームズ・ステュアートはスタイリッシュでお洒落。美男美女が出てくるマーダー・ミステリー。あまりリアリティはない。
この映画に1970年以降のリアリズムを求めて文句を言うのは意味がない。最初からリアリティなどは無い前提で作られている映画。事件があって展開があって捻りがあって、終わったかと思ったらまた先があって…としっかりフィクションとして書かれた脚本はまるでミステリー小説/本を読んでいるかのよう。この映画の人物達に繊細な感情の動きなどを求めてはいけない。俳優さん達は台詞を喋って、行動して、それにより何かが起こって…と、まるで舞台劇のようにストーリーは進む。
ひとつひとつの場面は絵画のように美しい。画面上のレイアウトや演出、カメラワークは冒険的。色彩も鮮やか。画面の中の色の配置がいちいちデザインされている。しかしそれがますます「嘘っぽさ」を強調しているようにも思える。
★ネタバレ注意
(ネタがなんぼの話なので未見の方はお読みになりませぬよう)
そしてストーリー。
ミステリー小説をそのまま映像化した…というのか舞台劇風というのか、ストーリーもいかにもフィクション。それでも女主人公マデリンがスコッティを騙そうと仕掛ける様々なトリックがいかにも嘘っぽいとわかっているのに、観客もいつのまにかそれを信じ始めてスコッティと共に騙されそうになるのが面白い。ふむふむと頷きながら見る。
そして一旦ストーリーは落ち着いて次のパート…マデリンにそっくりなジュディが出てきた時からまたまた嘘っぽさが増加。マデリンとジュディは明らかに同じ女性なのにスコッティがいつまでも騙されるわけがなかろう笑。スコッティさん騙されすぎ。
その嘘っぽさがいかにも昔のハリウッド映画で、それはそれで楽しめばいいのだけれど、どうしても「なんだよそれ~」と笑いが漏れるのはしょうがない。
そして最後はああそうか…そうなっちまったか…とふむふむ、そうかそうかと頷いて見終わる。そうですかそうですか。
やっぱりこういう嘘クサい話というのはどうものめりこめない。たぶん世代的なものもありますね。ワタクシは映画を沢山見過ぎた年寄りなのでこういう「いかにもな作り話」を素直に楽しむことはできなくなっているのかもしれぬ。この映画も18歳ぐらいの時に見たら間違いなく感動していたと思います。名作は若い時に見るべし。
見てよかったか?よかった。なぜ?あのヒッチコックの『めまい』だから。一度見ておいて損はない。じゃあ映画として面白かったか?うん。しかし感動はしない。ああそうか…とオチにもあまり心動かされず淡々と見終わった。結構尺が長い。何が良かったか?画面が絵みたいに綺麗。画面が美しくデザインされている。演出、カメラワークも冒険的で面白い。芸術的な価値があると思う。昔の観客にはかなりショッキングな映画だったのだろうと思う。衣装が綺麗。キム・ノヴァクはギリシャ彫刻のようだ。ごついけど。英国人の男には一定数ああいう彫刻のような大柄な女性を好む男がいますね。いるいる。
それにしても、あのスコッティがマデリンにそっくりなジュディを見つけた後「面倒をみてやる」と言いながらジュディにマデリンの髪型をしろだの、マデリンと同じ服を着ろだの、ジュディ本人を全く見ることなく、マデリンのコピーを作ろうとしているところには腹が立ちましたねぇ。最低の男でしょう笑。最悪だな。そんな男は殴ってさっさと逃げ出しなさいよジュディちゃん。
というわけでヒッチコックの名作は一度見ておいて損はない。古い名作はイノセントな若い時に見るべし