能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

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2022年6月14日火曜日

映画『糸』(2020):もっと若者のユーモアとエネルギーを!





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『糸(2020年)/日/カラー
/130分/監督:瀬々敬久』
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TV Japanにて。今年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で義経を演じた菅田将暉さんがご出演なさっているとのことで鑑賞。それに菅田さんは共演の小松菜奈さんと今年4月にご結婚なさったそうだ。きっとこの映画がきっかけなのだろう。おぉそれならとゴシップ的な興味もあって見てみようと思った。

綺麗な映画。ファンタジーかな。原案は中島みゆきさんの曲「糸」だそうだ。

「平成元年に生を受けた2人の男女が出逢いと別れを繰り返し、平成の終わりに再び出逢うまでの18年間の軌跡を壮大な愛の物語」。



★ネタバレ注意


Pros


映像の美しさ
明らかに映像の美しさが魅力の一つ。どのロケーション、人物達の存在するどの場面も美しく撮られている。北海道の広大な台地、草原、夏の花火、雪の風景も、東京のタワマンからの眺めも、沖縄の風景も、エキゾチックなシンガポールも…、全てが綺麗。

今の若い人の夢見るお洒落な…
現代の若者のストーリーなのですよね。設定がお洒落。若い人達(特に若い女性)が憧れる風景や職業が山のように出てくる。驚くほど沢山の夢の実現…。

中学でわけあって離れ離れになった幼馴染の男の子・高橋漣(菅田将暉)と女の子・園田葵(小松菜奈)。 8年後に友人の結婚式で二人は再会。葵はモデル風美女になっていた。葵の恋人は金融界のやり手…東京での豊かな暮らし。その後沖縄へ移住…優しい風景。そしてエキゾチックなシンガポールでの暮らし…彼女自身も事業主として成功。その間に北海道に残った漣はチーズ作りで成功

…これだけありとあらゆる「若者が憧れるようなこと」をたった十数年の間にやり遂げる。今どきの「若者のやりたいこと」をこれほど山積みにしてよく話を成り立たせたものだと驚く。正直詰め込みすぎだが(後述)、綺麗なイメージビデオ的なものとしては十分楽しい。葵さんのキャバクラでさえなんだか東京の華やかなかっこいい仕事に見えてしまう。それは俳優さん達が美しくてお洒落で映像が綺麗だからでしょう。

俳優さん達が上手い
豪華なキャスト。上手い俳優さん達を集めた。この映画の俳優さん達を見ると、ああ日本にもいい俳優さん達のプールがあるんだなと思う。特に主人公の高橋漣の菅田将暉さんは上手い。繊細な演技をなさる役者さん。TVで義経を見た後でもう一度菅田さんの演技を確認したかった。見てよかった。彼の子供時代を演じた南出凌嘉さんもいい。それから演技で印象に残ったのは、榮倉奈々さん、二階堂ふみさん。ベテランの役者さん達がうまいのはもちろん。若い役者さんたちもみんないい。

ファンタジー?
最初から歌『糸』の歌詞がアイデアの元なので、主演のお二人が結ばれるのは予想できる。驚きはないけれど…そこは制作の意図に乗って気持ちよく楽しめばいい。私は今の日本の若い人々の生活がわからないので、それが見れただけでも楽しかった。

Cons


若者向けの美しいファンタジーにリアリティ・チェックで文句を言うのも無粋だけれど、とりあえず思った事を書いておく。

冒険が多過ぎて話にリアリティがない
女性客をターゲットにした映画のせいなのか、女性主人公の園田葵のストーリーがあまりにもドラチック過ぎて現実味を感じない。この映画、尺が長くて2時間強なのだけれど、それにしても10代から31歳までのたった十数年の間の葵さんの人生は色々とあり過ぎ。確かにそれぞれの場所で綺麗な風景は撮れるし、映画としてはそれぞれ楽しく見られるのだけれど、ずいぶん詰め込んだ印象。そして個々の話は薄い。十分に掘り下げていない。イメージビデオを並べたようにも見えてくる。リアリティがなければ、感情移入も難しい。

苦労話を詰め込む
高橋漣のストーリー。地元に残ってコツコツと職人の技術を磨く青年が、20代の間に結婚してパパになるのはリアルだと思う。しかしその奥さんが亡くなってしまうのはドラマチック過ぎ。漣の20代にそれほどの苦労を詰め込む必要があるのか?そして彼には子供までいる。そんな男性がいつまでも中学時代に別れた女の子への気持ちを引き摺るのかも疑問。現実的ではない。

葵さんは落ち着けるのだろうか?
一番の疑問。「何があっても糸で結ばれた二人」はこの映画の主題なので、ここでリアリティをつついてもしょうがないことはわかっているのだけれど。気になるので書いておく。個人的意見。

故郷を出て広い世界を知った葵…自由に生きてきた葵が、一度も地元を出なかった職人肌の漣と小さな町でこれから上手くやっていけるのか???

葵が故郷を出てから長い時間が過ぎた。葵は様々な場所に住み、外国でビジネスも成功させたような活発で勇敢な女性だ。彼女が今まで故郷に帰らなかったのは前を向いて生きてきたからだろう。前を向いて生きる人はホームシックにもならない。長い間外の世界で自由に生きた葵が、辛い思い出しかない故郷の町に帰って来て落ち着けるのか?葵はまだ31歳。またシンガポールに行ってやりなおしたいと思わないのだろうか?

そもそもこの二人は離れ離れになってからの18年間ほとんど交流もしていない。そんな二人が出会ってすぐに結婚する…あまりリアルではないだろう。そこがファンタジー映画なのだろうと思った。

もったいぶり
全体にペースがゆっくり。ゆるい。テンポが悪い。役者さん達の会話のペースが落ち着いていて、そして言葉と言葉の「間」が多い。そのせいか人物達に覇気がなく見えてしまう。だから退屈になる。全体の尺も長い。 しかしそのゆっくりなペースは意図的なものだろう。おそらくこの映画を「深刻で、芸術的な、美しい映画に仕上げたい」という制作の意図があるからではないかと思う。真面目過ぎる映画。

表情を丁寧に捉えるカメラワークも、人物の顔のアップを中心にして浮くようにゆっくりと動くカメラも、(台詞に「間」が多いからなのか)ただでさえぎこちない雰囲気をますます強調する。「日本人てこんなにゆっくりと会話するんだっけ?」と首を傾げた。

そのような間延びした雰囲気を作っているのは脚本。それにしても若い人達の話なのだから、もう少し楽しく気楽で、時には滑稽で微笑ましくおもしろおかしいシーンがあってもいいのにと思った。どうも全体に不自然なくらい雰囲気が重苦しくペースが単調。確かに美しい映画なのだけれど。


しかし見てよかったです。

菅田将暉さんがいい役者さんだということが確認できてよかった。これからも楽しみな役者さん。そして(ゴシップ的に)主役のお二人の小松菜奈さんと菅田さんに化学反応があるかなぁ…などと見れてそれも楽しかった。お互いに微笑みあう場面の笑顔はやっぱりお二人とも嬉しそうなのですよね。いいですね。お幸せに