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『Peterloo(2018年)/英/カラー
/154分/監督:Mike Leigh』
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米国でのリリース日は今年4月5日とあるので、おそらく私が劇場でこの映画を見たのも今年の春~初夏の頃なのだろうと思う。感想を書くのをすっかり忘れていた。
さて映画『Peterloo』は、1819年の英国マンチェスターで発生した民衆弾圧事件「ピータールーの虐殺/The Peterloo Massacre」を描いた作品。事件から今年で200年になるそうだ。
歴史を題材にした映画やドラマを批評する観点は2つ
1.
史実を正確に再現しているか? 過去に実際に起こった事柄を(歴史上の)実在の人物達へのリスペクトを込めて真摯に描いているか?製作者の歴史に対する姿勢が問われる。歴史ファン、歴史好きの視点。
2.
(歴史であれフィクションであれ)どのような映画でも、まず映画作品として…脚本や俳優の演技、ストーリーの流れ、主題の見せ方…等等が優れたものであるのか?映画ファンの視点。
さてこの映画は、
1の観点から見れは最高。
2の観点から見れば、
…65点ぐらいかな…?どうかな?
もしあなたが歴史映画を歴史の忠実な再現として見るのなら間違いなくいい映画。無骨に、何の飾り気もなくただただ淡々と、200年前の英国に生きた普通の人々の日常と、その人々に起こった悲惨な事件描き出す。もしあなたが映画ファンであるよりもまず歴史ファンであるのなら、この映画は最高の贈り物。
有名な俳優はほとんど出ていない。英国の中堅の実力派の俳優の方々なのだろうと思う。俳優のスター性がないから全体の印象は地味。エンタメとしての華やかさは殆どない。しかし、だからいい。これはあくまでも史実の再現。
この映画の主旨は、あくまでも「ピータールーの虐殺/The Peterloo Massacre」を再現するためのもの。事件に至るまでの経過も詳しく見せてくれる。しかしその史実を描くことが目的であるため映画としての華は少ない。男女が出会って恋に落ちるとか…そういう飾りは一切ない。「史実はこうであったのだろう」という観点から、出来るだけ史実に正確に事件に至るまでの人々の日々が淡々と描かれるのみ。
そんな風に市井の人々の日常を描いた後で、最後に圧巻の「ピータールーの虐殺/The Peterloo Massacre」の再現。この映画は、この最後のシーンを見せるためだけに2時間以上を費やしたのだろうと思わせられる。ものすごい迫力。
それまでの映画のトーンが静かだからこそ、事件の暴力性には少なからずショックを受ける。騎馬隊が馬を並べ壁をつくり迫ってくる様子は恐ろしい。カメラは民衆の中に入り、軍隊による民衆への攻撃を、民衆の側から撮る。銃の音が鳴り響き、剣は振り下ろされる。人々はなぎ倒され、幼い子供も投げ出される。その上を騎馬隊が容赦なく襲ってくる。その様子を民衆の目線で目撃する。
恐ろしい。圧巻です。ものすごい迫力。その弾圧のシーンの迫力で、息が浅くなり心臓が大きく鳴り始める。どうしよう、怖い、もうやめてくれ。怖い。怖い…。
歴史的な事件を経験する…と言った方がいい。そういう映画。監督と製作側が、弾圧の恐怖の再現をこの映画の目的としていたのなら、成功している。
これが…エンタメ映画も好きだが歴史の再現もそれ以上に好きな私のこの映画の感想。機会があったらまた見たい。歴史が好きだから、歴史の再現を見たいと思うから…200年前の人々の生活を覗き、彼らに起こった悲劇を目撃し、経験させてもらえるのを有り難いと思うから…この映画はいい映画だと思う。大きなスクリーンで見て本当によかった。
しかしながら、あなたがもし歴史に興味がないのであれば退屈な映画だろうと思う。事件に至るまでの2時間は、歴史の再現を楽しむ目的がなければ地味過ぎる。顔の知られた俳優もいないのだから退屈だろう。
歴史好き/歴史オタクにはたまらない映画。タイムマシンで200年前のマンチェスターに降り立って、人々の声を聞き、会話をし、その時代の空気を感じて、彼等と共に過ごす時間を楽しめるのなら、この映画は本当に最高。しかし、映画としてそれなりにワクワクドキドキさせられて、誰かの恋話も盛り込んで、ああ…彼は彼女に会えないまま死んでしまうのねぇ…かなしーシクシク…というようなものを望むのなら、そんなものは一切ない。それはそれはもうとんでもなく退屈…見始めて30分で熟睡できるような映画だろうと思う。
両方喜ばせるのは難しいですね。