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『Certain Women(2016年)/米/カラー
/107分/監督:Kelly Reichardt』
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原題の訳は『ある女』。日本のタイトルが『『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』とはまたずいぶん意味をもたせたものです。こういう邦題はマーケティングをやりやすいように考えられたものなのかな。
短編のオムニバス映画です。アメリカ北西部モンタナ州の田舎町に暮らす3人の女性達のそれぞれの日々を描く。原作はマイリー・メロイの短編小説。それぞれのストーリーに関連性はほとんど無い。3つの短編小説を見るような映画。
短編オムニバスの映画は、それぞれの話が短くて長編映画のようには強く心に残らないことが多い。3つ4つのストーリーを連続で見ることになるので印象が薄まってしまう。
ところがこの映画、かなり心に沁みた。私は3話目の牧場守の女の子の話に特に引き込まれた。
孤独です。
こんなにも寂しさをリアルに描いた映画も珍しいかもしれない。彼女の孤独が心に突き刺さるようだ。1年前に見た映画なのに今でも強い印象に残ってます。
旦那Aと結婚をしてからもう20年以上も過ぎているので、お一人様で寂しいとか孤独…などというものを今の私は多く語れるわけではない。しかし20代に東京でシングルの一人暮らしをしていた頃はかなり寂しかった。いや当時は寂しいとは思わなかったけれど、実際あれはかなり寂しかったのだろうと思う(仕事が忙しかったから気付かなかっただけ)。そのせいか孤独や寂しさの描写には今でも敏感に反応してしまう。あの頃の不安な気持ちをよく覚えているからなのだろう。
孤独や寂しさとは本人がそう思わなければ感じないもの。一人が好きな人間は、一人でも充実できる時間の過ごし方をよく知っている。この映画の3話目に登場する牧場守の女の子ジェイミーも、おそらく普段は孤独な人ではないのだろうと思う。短いからあらすじを書いておこう。
★ネタバレ注意
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●あらすじ・3話目のみ
主人公ジェイミー(リリ・グラッドストーン)は20代後半だろうか。彼女は冬の間だけ牧場のオーナーから雇われて住み込みで馬の世話をする牧場守の女性。牧場には何頭かの馬と犬と彼女一人。毎日早朝に起きて馬の世話をし、夜はTVで宇宙のドキュメンタリー(だったと思う)などを見て過ごす。彼女の日々の生活はそれなりに充実しているのだろう。
ある日近くの町に出かける。夜間の学校に迷い込んで「教育関連の法律?」のクラスに出席してしまう。クラスを教えるのは若い先生ベス(クリステン・スチュアート)。綺麗な若い女性。ジェイミーと同世代だろうか。
「法律」なんて全く興味もないのに、ジェイミーはクラスに毎週通うようになる。ベス先生に会いたいから。クラスが終わると先生とダイナーによって少し話す。ジェイミーにはそれが嬉しい。ある日ジェイミーは学校に馬をつれてやってきた。学校からいつものダイナーまでベスを馬の後ろに乗せていく。
ところが翌週先生は学校に来なかった。片道4時間の学校に通うのは大変だからと辞めてしまったらしい。ジェイミーは学校を飛び出すとそのまま衝動的に車を運転し4時間かけてベスの住む町を訪ねる。ベスの働く弁護士事務所の外に車を止め夜を明かし、朝出勤してきたベスをつかまえる「もう会えないかと思って…」。驚き戸惑うベス…それで全てを察しジェイミーはその場を離れる。振り返らない。そしてまた一人牧場の静かなに生活にもどる。
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●感想・3話目のみ
ジェイミーちゃんはやっぱり寂しかったのね。切ないな。
西洋のメディアではジェイミーのベスに対する執着を同性愛だととらえたものもあったけれど、必ずしもそうではないでしょう(どちらでもいい)。ジェイミーは牧場でひと冬をほとんど人と接触せずに暮らしているわけで(その仕事が嫌いではないとはいえ)やっぱり人恋しくなったんだろうと思う。彼女は単純に同世代のお友達が欲しかっただけ。
ひと冬の間、人との接触のない牧場守の仕事をひきうけるぐらいだからジェイミーはもともと一人が嫌いなわけではないのだろう。一人で静かに豊かな時間を持てる人。どちらかといえば人付き合いが苦手なのかもしれない。
それでも冬は寒くて長い。話しかけるのは犬と馬だけ。さすがに人恋しくなってきた。そこで町に出かけて、たまたまベスのクラスを受講してしまう。ベスは同世代。綺麗な女の子。お友達になりたい。
ところがジェイミーはもともと内気で普段から人づきあいに慣れていないことから、ベスと友達になりたくても自然な会話さえ出来ないのね。牧場で修行僧のような生活をしているから、ゴシップのような20代の女性の普通の会話さえも出来ない。お友達になりたいのに会話もままならず、目の前のベスを無言で見つめるだけ。
馬を学校に連れてきたのは、大好きなベスに自慢の馬を見せたかったから。これも不器用ですよね。うまくお話しは出来ないけれど自分の大切な物を見て欲しい。子供がお友達に一番好きなおもちゃを見せるのと同じ。
大好きなベスを自分の後ろに乗せてジェイミーは嬉しい。上手な馬の扱いもベスに見てもらえる。ベスも喜んでくれているかな?
ところがベスにとってはびっくりなんですよ。ちょっと迷惑。普通の先生の格好で学校にきているのにいきなり「馬に乗って」と言われても困る。すごく変。だから戸惑うベスの気持ちもよくわかる。そのベスの戸惑いもジェイミーには通じていない。人に慣れていないから、自分の好意が相手に負担になっていることにも気付けない。ジェイミーのぎこちないコミュニケーションにベスは戸惑うばかり。
もう可哀想なのね。ジェイミーの孤独な心、ベスと親しくなりたい切ない気持ち…しかしどうやって友達になっていいのかわからないぎこちなさ…見ていて辛い。
急に来なくなったベスを探してベスの住む町まで4時間も車を飛ばすジェイミーの気持ちも痛いほどよくわかる。「さよなら」も言ってないのに…。そしてつかまえたベスは明らかにひいている。そのまま踵を返してジェイミーはまた一人の牧場に帰っていく…。
辛いわ。
この女の子はどうなんでしょうね。ネイティブ・アメリカンの女の子だと思うんだけれど、冬が終わったら家族の元に帰るんだろうか。彼女はきっと子供の頃から馬が好きで、毎日馬の世話をする生活が好きなんですよね。仕事は辛くない。だけどさすがにひと冬たった一人は寂しい。そんな彼女の心に触れたようですごく苦しかったです。心に残った。
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1話目と2話目も静かな話です。
1話目はトラブルを起こしたクライアントの男性を救う女性弁護士(ローラ・ダーン)
2話目は老人から家の建築材の石を買おうとする女性(ミシェル・ウィリアムス)とその家族。
3話目が一番心に残ったのはジェイミーの暮らす牧場での生活に少しだけ憧れるからというのもある。あれほどの孤独は私には無理だろうけれど、馬の世話をする自然に近い暮らしには少し憧れる。
空気が綺麗だろうな。
この映画はモンタナが舞台だそうですが、3話ともそれぞれ空気がとても冷たい様子が印象的。映像だけなのに気温が低くて寒いのがよくわかる。ツーンと鼻が痛くなるような寒さ。
あの牧場の静かで綺麗な空気にはちょっと憧れる。