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2025年2月13日木曜日

DHT Play★『マスタークラス/Master Class 』





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Master Class
Written by Terrence McNally
Date premiered November 5, 1995
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ホノルルのコミュニティー・シアター Diamond Head Theater(DHT)で先週の週末、プレイ『マスタークラス/Master Class』を見てきた。

昨日、マリア・カラスのことを長々と書いたのはこの芝居を見たことによる。色々と思うところはあったのだが、まずはマリアカラスのことを知らなければこの芝居のことは語れない。それで自分でも色々と彼女のことを調べて新しく学ぶことがあったので書き留めておこうと思ったのが昨日の文章。


この芝居はTerrence McNally作の1995年の作品。内容は…1970年代、歌うことをやめた後のオペラ歌手マリア・カラスがNYジュリアード音楽院で若い歌手を指導する様子を描く。このマリアカラスのジュリアードでのマスタークラスは実際に行われた話で(YouTubeに音声も残っている)、その設定をベースに全編ほぼマリアカラス役の女優さんの一人芝居でマリア・カラスの人生を描く内容。


感想をまず一言。
DHTにしてはずいぶん大きな挑戦。チャレンジ。ずいぶん思い切ったものだと思った。

というのもこの芝居、主役のマリアカラスがどういう人物なのかを知らなければ…どうだろう、あまり面白くないのではないかと思ったから。


…マリアカラスはギリシャ系のアメリカ人でニューヨーク生まれ。13歳でギリシャに移住し声楽を学んだので、彼女のアイデンティティはヨーロッパにあったのではないかと思う。その後オペラ歌手として大成功し20世紀を代表するスーパースターになった。同じギリシャ人の世界的な大富豪オナシス氏と交際したが結婚することはなかった。そしてオナシス氏はカラスと別れてジャッキー・ケネディと結婚する …ということは昨日の文章にも書いた。

それらのマリアカラスの人生話が、主役の女優さんのモノローグで延々と語られるのだけれど、この芝居、マリアカラスのことを知らずに「とあるオペラシンガーの話」として見て面白いかなと疑問に思った。


そう思った理由は、私達の後ろにいた男性が隣の人に「マリア・カラスって誰?」と聞いていたのが聞こえてきたから。そして答えた隣の女性は「オペラ歌手よ。イタリア人の」…つまりマリアカラスのことを知る観客はあまり多くなかったのではないかと思った。

観客は見事に白髪ばかり。ハワイにもオペラのシアターはあるので、まさかマリアカラスを知らない人ばかりでもないのだろうと思ったが…実際はどうだろう。


大きなチャレンジだと言ったのは、この芝居は主演の女優さんがいかにマリアカラスとして納得できる芝居ができるかどうかにかかっていると思ったから。ただ芝居が上手いだけでは足りない。マリアカラスの再現の芝居なのであれば、演じている女優さんを見て観客が「あのマリアカラスって実際にこういう人だったのかな」と思わなければ面白味は半減する。


この芝居、例えばニューヨークのブロードウェイでの公演なら…、
観客はほぼ全員マリアカラスのことをわかっている人ばかりだろう(この話はオペラやマリア・カラスに興味がなければ見たいと思うストーリーではない。ニューヨークなら他の芝居やミュージカルも沢山ある)。普段からThe Metropolitan Operaでオペラを見ていてオペラ界隈の歴史もわかっている観客が多いだろうと思う。
そして場所がNYのブロードウェイであるのなら、例えば演じる女優さんが有名なベテランの女優さんであれば、演じるマリアカラスのキャラクターそのままに「若かった頃の、あの頃の私…」の一人芝居も、演じるプロの女優さんの人生と照らし合わせて芝居ももっと興味深いものになるのではないか。実際にブロードウェイでこの主役を演じた女優さん達は皆有名なスターの女優さん達が多かったと聞く。

つまり、この芝居はただ芝居を脚本どおりに上手く演じればそれでいい…タイプの作品ではないのだろう。だからハワイのコミュニティー・シアターで取り上げる作品としてはかなり難しい作品で、大きな挑戦だと思った。


このDHTの女優さんは確かに上手い人。しかし彼女には、ニューヨークで舞台に立ったプロの女優さん達ほどのキャリアも名声もカリスマも無い。スターのオーラも評判も経験もない彼女は、単に「脚本に書かれた芝居」をするしか方法がない。その状態でこの役を観客が納得できるように演じるのはかなり難しいと思う。

実際、私がこの芝居を見て思った正直な感想は、この脚本で書かれたマリアカラスがかなり気難しいキャラクターであることから…「かなり意地悪で気の強いなんだか嫌な感じの学校の先生が、ただただ自分語りをべらべら喋るだけの芝居を2時間も見た」そのような感じ。マリアカラスには見えなかった。しかしこれは決して女優さんのせいではない。


マリアカラスが恋人の船舶王オナシスのことを語る場面で、彼女はアリストテレス・オナシスのことを「アリ」と呼ぶのだけれど、この場面でオナシスのことを知らなければ、彼女が何を話しているのかさっぱりわからないだろう。それにオナシス氏が少しガラが悪いように描かれていて、何度か F 言葉が出てきたけれど、これも戸惑う人は多かったと思う。実際、前の方の席で1幕が終わった後で帰ってしまったカップルがいたのもしょうがないと思った。

こんなことを書いている私も、実際わからないことがとても多かった。昨日書いたジョーン・サザランドのことも「ジョーン」の名前だけで何度も話に出てきたそうだ。全くわからなかった笑。


よかったのはマスタークラスの「生徒」役の3人のシンガーの方々。皆大学で声楽を学んで、今は地方のオペラやコーラスで歌っていらっしゃる力のある方々だそう。小さなシアターで聴くオペラ歌手の歌はとてもよかった。キャラクターもそれぞれ面白くて、この3人がいたから見てよかったなと思ったほど。


いや~ま~なかなか辛口ですが、でもこれだけマリアカラスのことが学べたのはよかったなとは思う。旦那Aとも週末に散々長々といろんな事を喋りつくし…私はほぼ文句を言っていたが、旦那Aは「いいチャレンジだと思うよ、だってこんなに長い間芝居の後で喋ったことなんて今までなかったじゃん。前回見たミュージカルなんて覚えていないもんね。この芝居はずーっと記憶に残ると思うよ」…うん、確かに。いろいろと考えさせられたのは本当。確かに確かに。そうだな。