決して1日中テレビの前に座ってBBCを見ているわけではないのだけれど、1日に1度は今の英国で何が行われているのかをチェックしている。以前から録画予約をしているBBC『HARD talk』の時間帯が今週はエリザベス女王のトリビュートになっている。今の英国で行われている日々の儀式の様子が30分にまとめられているので毎日それを見ている。
昨日は女王様の柩が空軍機でスコットランドからロンドンに帰ってくる様子を映していた。今までの数日間、厳かな儀式の様子を見ながら度々泣きそうになった。なぜなのかは自分でもよくわからない。「あの私の知る英国の時代」が終わった悲しみなのだろうかと思う。
この文を書き始めた時間は、英国の9月15日の午前1時過ぎ。今ウェストミンスター・ホールで女王様の柩のLying-in-Stateが行われている。BBCがYoutubeでその様子をライブ中継している。
Lying-in-Stateとは〔著名人の〕遺体/柩の一般公開。前回英国で行われたLying-in-Stateは、エリザベス皇太后/国王ジョージ6世のお妃でイギリス王妃/エリザベス女王のお母様Queen Motherの時の2002年。
今回のエリザベス女王のLying-in-Stateも同じウェストミンスター・ホールで行われている。英国に住む人々が何時間も行列に並んで女王様に敬意を表しにやってくる。Lying-in-Stateの始まりは9月14日の午後5時。最終は9月19日の午前6時30分まで。毎日24時間行われているそうだ。
前回2002年のQueen Motherの時には私と旦那Aもウェストミンスター・ホールを訪ねた。当時はPimlico駅の近くのフラットに住んでいて、ウェストミンスターは歩いていける距離だった。
フラットを出てテムズ川沿いをウェストミンスターに向かって歩いていく。3月で外が暗かったので午後6時は過ぎていたと思う。行列の最後尾はLambeth Bridgeの真ん中辺り。そこから列に加わった。列はなかなか進まなかった。やっと橋が終わって右に角を曲がり街路樹の下にいたら頭上から鳥の糞が落ちてきた。列はゆっくりと進み、ホールにたどり着いた時は、列に並び始めてから2、3時間が過ぎていたと思う。午後6時ぐらいに並び始めてQueen Motherの柩の前にたどり着いたのは10時ぐらいではなかっただろうか。
天井の高い大きなホールに入ってからも列はゆっくりと進んだ。建物の中では誰も話さず静か。人々はカーペットの上を歩き長い間立ち止まることは許されない。照明が落とされていてホール内は薄暗く厳粛な空気が流れていた。外国人の私が皇太后様の柩からたった数メートル離れた場所で最後のご挨拶が出来ることに驚きまたその事実に圧倒された。静かに頭を下げた。そしてまた行列はゆっくりと進み、ホールの外に出てそのまま家まで旦那Aと二人で歩いて帰った。「歴史的な時間」のその場にいたのだと話し合った。
そして今エリザベス女王様のLying-in-Stateが行われている。ライブ映像では大勢の人々が建物の真ん中に置かれた女王様の柩を両側から囲むようにゆっくりと進んでいる。度々衛兵が入れ替わっているようで、その儀式の間は列が止められているようだ。衛兵の赤い制服が大変美しい。全てがおとぎ話のように美しい。
英国にいる人々が女王様に最後の挨拶をして敬意を表し皆で女王様を天国に送り出す。何から何までしきたりと決まりごとで固められた英国の王室の儀式に私はいつも心動かされる。伝統はしきたりと決まりごとを繰り返し行っていくことで次の世に繋げられていく。
英国政府公式のサイトで情報を調べると、Youtubeの「Her Majesty The Queen's Lying-in-State | Queue Tracker」というライブ映像で、現在の列の最後尾がLondon Bridgeまで伸びていると出ている。およそ2.9マイルは4.6キロの長さ。ものすごい距離。普段はウェストミンスターからロンドン橋まで歩くことはめったにない。のろのろと進めばホールにたどり着くまでどれぐらいの時間がかかるのか想像もできない。人々は平日の午前2時でさえ長い時間列に並んで女王様に敬意を表しにやってきている。
国民に愛された英国の女王様。私も映像を見ながら度々手を合わせている。