涙なくして見られない大傑作回。感動しました。
★あらすじ
1555年 秋 父道三VS息子高政 長良川の戦いに至るまで 人々それぞれの心 光秀の決意
感動しました。これは…いいドラマ。この年になって…2020年にもなって、こんなに素晴らしい歴史大河ドラマに出会えるとは。ただただ言葉もなく感動。嬉しいです。
脚本が素晴らしい。断言してもいい…いいドラマは脚本が要。全てはいい脚本があってこそ。人生の大先輩・池端俊策様の脚本の台詞のひとつひとつに毎回心震えております。
そして俳優さん女優さん方々の真剣勝負。いい芝居はいい脚本から。いい脚本が名優を生み出す。
そして俳優さん達の全力投球を、最高の演出でドラマ化してくださるNHKの皆様。今年は文句のつけようがないです。大きな拍手と感謝。とにかくかっこいい。
俳優さんのお顔に接近して撮るカメラは人物の心を写し取る。俳優さんの目の虹彩に光が透けるのが見えるほどのアップ。それぞれの目に心の動きが映し出されるのを意図的に撮っているのだろうか。
それから光の効果的な使用…例えば今回光秀に「大きな国…信長」の言葉を告げる道三は逆光の中。道三の後ろから射す朝日の光は、道三を見上げる光秀の顔を明るく照らしだす。まるで光秀が道三の心を受け取めたかのように。
そして場面を盛り上げる音楽。
そして場面を盛り上げる音楽。
セットもいい。建物もいい。力を蓄えた戦国の武将は頑丈で大きな城に住む。力強く美しい。カメラも建物が大きく見えるように撮っているのだろうと思います。以前の道三の稲葉山城の場面は天守閣ですね。今回は天守に高政が入ってました。
巧みなストーリー展開。感動させられる台詞の数々。俳優さんの本気。その演技を捕らえるカメラのアングルも、効果的な光も、音楽も、美しいセットも…本当に素晴らしい。現場の皆様の、いい作品を作るための本気が見えます。感動してます。
今回は、斉藤家の父道三VS息子高政…長良川の戦いに至るまでのそれぞれの人物達の思いを描いた回でしたが、最後の主人公は光秀でした。光秀の学びを描いた回でした。
光秀は現在20代半ば。真面目です。優等生。まず頭が先に動く。理屈が先に来る人。だから道三と高政の争いもやるべきではないと言う。兵の数(道三3000未満×高政10000越え)を見て勝敗が明らかであること。それから美濃の国衆同士が争った結果、国が乱れることもよくない。優等生の光秀は優等生らしく理屈で無駄な戦はするべきではないと思うんですね。
ところが、叔父の光安、そして道三の話を聞いて
世の中には理屈よりも大切なことがある
ということを学ぶ。戦国の世とはそういうもの(いや違うか…儒教なら江戸時代か。昭和の時代劇調と言ったほうがいいかな)。優等生の生真面目な男が、叔父と主君の言葉から、人生には理屈や計算、損得よりももっと大切なものがあることを知る。義を通す。そうやって戦争にいくわけだ。だから悲しいんですよ。泣
21世紀の今の時代にはあまり通じない理屈です。負けるとわかっている戦に出て行くことはもちろんやるべきではない。そんなことはわかっている。しかし私も古い人間なのだろう。こんな昭和風なドラマにはどうしようもなく心動かされてしまう。
光秀の心を動かした二人の人物達の言葉
●まず光安叔父さん。
彼は道三が立ち上がったと聞いて、縁側で可愛がっていたメジロを逃がす。おじさんの寂しい背中に泣く。なぜなら光安叔父さんは、戦に行けばもう二度と家には帰ってこられないだろうと思っているからです。お世話が出来なくなったから、かわいがっていた鳥を野に放す。
鳥好きの優しいおじさん |
「明るいうちに逃がしてやろうと思ってな。…飛んでった」としょんぼりと肩を落とし「兄上から預かった領地を守れそうにない。私が非力ゆえ。牧殿にも面目がない。」と泣く。「美濃が新しい国になるという。それもよかろう」しかしその後、強い口調で決意を語る「しかしあの高政ごときに、わしの命を預けようとはゆめゆめ思わぬ。わしは大桑城に行く。道三様のためなら、心おきなく一踊りできる。行かせてもらうぞ!」
この光安叔父さんは先日、高政の稲葉山城での酒宴で、道化のように踊っていたのですね。それも明智の荘を守る為。ところが高政から領地替えを告げられて、叔父さんは高政を相手に戦う決心をした。彼の誇りは兄(光秀の父)から託された明智の荘とともにある。それを取り上げられるのなら致し方なし。
…領地替えを言われて主君に背く。おおっと光秀…
●そして斎籐道三。
戦を止めに来た光秀に思いを語る場面。あまりに素晴らしいのでそのまま台詞を書いておこう。
「高政はわしが父だとわかっておる。されど土岐頼芸様が父だと言い触らし…。高政は人を欺き、自らを飾ろうとした。人の上に立つ者は、正直でなくてはならぬ。偽りを申すものは必ず人を欺く。そして国を欺く。決して国は穏やかにならぬ。」
「わしはこれまで戦で幾多の家臣を死なせてきた。毎夜眠りにつくとき、その者たちの名を唱えてみる。それが近頃、その名が出てこぬ。わしの命を救うた家臣の名が何人も出てこぬようになった。忘れてしもうたのじゃ。わしは老いぼれた。もはやこれまでと家督を譲ろうと思うたのじゃ。しかし譲る相手を間違えた。間違いは正さなくてはならぬ」
傾いた坊主頭を描くのって異様に難しいことがよーくわかったうーん… |
「わしはこれまで戦で幾多の家臣を死なせてきた。毎夜眠りにつくとき、その者たちの名を唱えてみる。それが近頃、その名が出てこぬ。わしの命を救うた家臣の名が何人も出てこぬようになった。忘れてしもうたのじゃ。わしは老いぼれた。もはやこれまでと家督を譲ろうと思うたのじゃ。しかし譲る相手を間違えた。間違いは正さなくてはならぬ」
「皆の者、集え、城より打って出る!」
それから昔、道三が父親から「近江も大和も皆ひとつになればよい。豊かな大きな国なれば誰も手出しが出来ぬ。わし一代では出来なかったことをお前がやれ」と言われたことに触れ、
「わしも美濃一国で終わった。しかしあの信長という男は面白いぞ。あの男から目を離すな。信長となら、そなたやれるやもしれぬ。大きな国を作るのじゃ 誰も手出しのできぬ大きな国を。さらばじゃ」
…痺れる。感動しましたねぇ。本木さん素晴らしかった。道三も道三の義を通す。息子高政は嘘つき。弟達も殺した。これからも人や国を欺くだろう。そんな息子に家督を譲ったのは間違いだった。だから間違いを正す。戦っても勝ち目はない。しかし息子のことは認めない。自分の意志を示し息子と戦って散り、夢を娘・帰蝶が嫁いだ尾張の信長に託す。
叔父さんと道三が今回のMVPかと思っていたら、最後の最後に光秀も立ち上がりました。彼も勝ち目のない戦に出る決心をする。叔父と道三の言葉から、光秀も自分なりの義を通す道を選んだのでしょう。道三には恩がある。先祖から受け継いだ桔梗の紋に恥じない選択をする。一生懸命考えてやっと結論を出した。最後は光秀の話になってましたね。
光秀がんばれよっ |
「叔父上の後を追う。鶴山へ! 敵は…高政様!」
キャーッ ミツヒデ! …テキ ハ―ホンノ~
やっぱり長谷川さんは戦う場面になると活き活きしてる。
最後に煕子さんに光を。彼女は光秀とのフワフワした恋心のエピソードもないまま、いつの間にか明智家に馴染んで奥さんをつとめていますが、この回で彼女の存在がわかったと思った。
煕子さんの人生は旦那さんを黙って支える人生。何があってもどんな状況になっても、旦那さんを支える。それをよーくわかっている奥さん。
ひろ子さんに幸せを |
高政から領地替えを言われた光秀が、そのことを煕子さんに伝えれば
「美濃のために良いことなら、十兵衛様についてまいるだけ」
おお。彼女は旦那さんを支えて「私は大丈夫だから。心配しないで」と夫に伝えているのですね。転勤族の奥さん。いやー今回は彼女にちょっと感動したのです。だって私も転勤族の嫁(のようなもの)でしたもん昔(私は文句を言いましたけど)。
そして戦に行くか迷う光秀に対し「皆、既に覚悟を。あとは十兵衛さまのお心のままに」
煕子さんは光秀の気持ちを邪魔しないように100%彼を支えていると光秀に伝えている。帰蝶さんとは正反対。帰蝶さんは自分の人生を自分で掴み取って行く女性。しかし煕子さんの人生は、全て旦那さんの光秀次第。昔の女性の生き方ですよね。
何があっても冷静に夫と家族のために最善を尽くす。できることをやる。そんな人生が性に合う女もいる。結局自分の人生を男に託した女はそうするしかない。私も同じだ。彼女のようにしおらしくはないけれど。私も自分の人生を自分で選べない人生を自分で選んでしまった。後悔はない。だからちょっと親しみを感じる。煕子さん応援するわ。