またまた感想を書こう。
★久夫君と晴美ちゃん
二人の子役さんが素晴らしかった。久夫君と晴美ちゃんが上手い。お二人ともたまらなく可愛い。お二人の演技を引き出す脚本も演出も素晴らしい。
久夫君は昭和の子供…いや戦前の子供。子供なのに大人。まだ小学生なのに母親と妹と別れて、亡くなった父の家の跡取りとして生きていくと決心した。それを母親に告げるために一人広島から電車に乗って呉の北條家にやってきた。自らの立場をしっかりと理解しているのね。大人びた顔で戸惑う母親を諭すように「お母ちゃん聞いてくれ…離縁はどうしようもない。(父方の祖母と母は)一緒には生きられん。黒村の家を継ぐ」と宣言。
そして翌朝、久夫君はきちんと真っ直ぐ立って家族に別れを告げる。
「では失礼します」祖母とすずに向って「母と晴美をよろしゅうお願いいたします」そして一礼をして一人で坂を降りていく。もう振り返らない。
久夫の後ろ姿を目で追う径子。蝉の声が一瞬止まる。そのまま久夫を追って坂を駆け下りる。いい場面。
径子が追いつく。振り返った久夫は泣いている。それでも径子が久夫に駆け寄って抱き締めることはない。駅まで一緒に行こうと手を繋ぐ。久夫が静かに泣く。
…これはいいドラマです。あの時代の日本人はたとえ自分の子供でも簡単に抱き締めたりはしなかったのだろうと思います。そして久夫君も久しぶりに会ったお母さんに子供らしく甘える事はない。母親との別れがどんなに悲しくても久夫君は必死に涙をこらえてきちんと挨拶をして立ち去ろうとする。あの時代の男の子はあのようにしつけられていたのだろうと思います。
男だから泣かない。人前では涙を見せない。お世話になった人々には親戚でも感謝を忘れない。子供でも大人のように振舞う。久夫君だけではないのだろう。あの時代の子供達は早く大人になるように育てられた。
家に帰ってきた径子が働きに出ると言い、すずに「晴美のことたのむね」と告げると、晴海ちゃんが問う「うちはええん?お兄ちゃんの取り合いしとるけど、うちはええん?」声を詰まらせる。彼女もお兄ちゃんが去ったことが悲しいんですね。径子も泣く。思わずもらい泣き。
今回の久夫君、晴美ちゃんとお母さんの径子さんの話は丁寧に描かれてましたね。久夫君が尋ねてきた夜、径子さんがすずに替わって台所に立とうとするのは、久しぶりに訪ねてきた息子に手料理を食べさせてあげたいから。取っておきの缶詰を出してくれたのはお婆ちゃんの思いやり。久夫君が晴美ちゃんに料理を取り分けてあげるのをみて、径子さんが泣きそうな顔をする。台詞での説明がなくても母の思いはしっかりと描かれています。
★周作の過去
すずちゃんはよく気がつきましたね。りんどうか…よくわかったなぁ。りんどうよりも周作君の書いた文字でわかるかと思った。すずちゃんはまだ周作のくせ字を覚えていないのかな。
周作君はすずちゃんの4つ年上だそうです。ということはすずちゃんが18歳なら彼は22歳。なるほど…それなら彼のりんさんとの恋は若者の熱病のようなものだったのかも。しかしながら俳優の松坂さんの年齢は29歳。だからこのドラマの周作もどうしても20代後半に見えてしまう。そのせいなのか、このドラマの周作とりんさんの過去の恋は妙に色っぽいものに思えてきますね。20歳前後の若者なら遊女との火遊びにわけもわからず夢中になって…というのもわからないではないけれど、27歳ぐらいの男と遊女の関係なら禁断の大人の恋ですよね。ちょっとそういう風に見えてしまうのも面白い。(すずちゃんの想像の中で)周作君と一緒に微笑むりんさんは幸せそうでしたね。
しかしりんさんが北條家のお嫁さんになることはなかったでしょう。あの時代、普通の家が遊女を嫁に迎えることはありえなかっただろうと思います。悲恋ですね。りんさんは辛いな。それでもすずちゃんの事を知って騒いだりしないのは、彼女が自分の立場をわかっているから。りんさんと一緒になりたかったのは周作君の方なんだろうな。彼も優しい人ですからね。それを家族や世間がとめたのだろうと思います。
それでもすずちゃんと周作君の夫婦はやっぱり仲がいいです。すずちゃんは本当に可愛いし、周作君の優しい目もいい。このお二人も最初の遠慮がちな様子に比べると、ずいぶん打ち解けてきたように見えますね。お風呂の窓から周作君が顔を出してすずちゃんに話しかける場面では、夫婦として馴染んできたなと思う。そういう演出も脚本も上手い。
近所の友人、志野さんの話もよかった。彼女の夫は戦地にいる。夫が戦地に行く前に子供を持てなかった事を彼女は悔やんでいる。彼女には彼女の…皆それぞれのストーリーがある。
ところであの時代にトマトを生で食べたのだろうか?