最後まで本当にいい小作品にまとまりましたね。
忠臣蔵の結末は誰でも分かっているし、原作は知らなくても典膳が亡くなるというのはネット界隈で分かっていたけれど、オチが分かっていても料理が上手ければいい作品になりますね。
あ~泣いたわ。
最後はただただ悲しい。千春さんが倒れた典膳を見つけて傘をぼとっと落とし、駆け寄って、状況を分かりながらも「目を開けてくださいませ」と言った後は声にならない。ただ寄り添って顔を寄せる様子で泣けました。悲しい悲しい…。
そこに被さるように吉良家の門を写し、12月15日未明…の文字。中からは騒ぎが聞こえてくる。とうとう始まった…。一瞬安兵衛が暴れている様子が写る。これも悲しい。
暫く時間がたったのだろう、もう一度カメラが雪の上に横たわる2人を捉える。そこは二人が出会った谷中の七面社。静かな場面。おそらく討ち入りも成功して、吉良の殿様も亡くなった頃。
この話は悲しい。今まで慣れ親しんだ登場人物のほぼ全員が亡くなっているんですね。吉良の殿様も小林平八郎さんも、多くの家臣も、助けに来ていた上杉家の家臣もそうなのかな。みんなあの日あの時に亡くなってる。典膳さんも千春さんも雪の中。それに後日、浅野の四十七士も切腹。これまで楽しんで会話を聞いていた方々がほぼ全員亡くなることになる。そんな事を考えたらまた涙。
最終回の吉良様がよかった。典膳との会話での言葉はそれだけで哲学。ちょっと長いけどまた記録したい。
茶会は遊びではない。心と心を通い合わせる場じゃ。思いやりの場じゃ。月を見たい見せたいと思う心が尊いのじゃ…。
(もし討ち入りがあったらという典膳の問いに)…飛び入りの座興とでも思えばよかろう。やるかやられるかで怯えて暮らすのは愚の骨頂じゃ。そこもとはどうじゃ、敵と味方の探りあい、我慢比べだけで生涯を終えるつもりか…。
一つぐらいは優雅な嗜みを持ったらどうじゃ。嗜みは楽しみにすぎず。心の中に楽しみの種を植えるのじゃ。水をやって育てれば、やがて花も咲こう。楽しみさえあれば、人はあくせくすることもなく、ゆとりを持って生きていける。
こういうのは脚本家ジェームス三木さんの人生観なんだろうなと思う。いい言葉です。長塚さんも素晴らしい。ステキです。
大きなドラマではない。忠臣蔵という歴史的にも有名な事件をめぐって、その時代に生きた人々の話。あくまでもその時代にたまたま居合わせた人物達の話。だから大石内蔵助も出てこなかった。吉良の殿様も歴史の事件の駒ではなく、あくまでも一個人。典膳と千春、安兵衛のパーソナルな話がメインで、有名な事件は後ろに流れる川(その川が最後に氾濫して全員飲み込まれてしまった)。だからこそ人物達に寄り添ってあの時代を見てきたような気持ちになれた。時代がうねるような話ではないけれど、心にいつまでも残るようないいドラマだった。
たった11回の中で、夫婦愛、理不尽な状況にも義を見て生きる男達、捨てきれない友情、静かに状況を受け入れて達観する殿様…など、それぞれの人物達が非常に魅力的で心に染みるドラマだった。吉良の殿様の言葉はしばらく心に残りそうだ。
★1日過ぎて追記:男が男らしい時代劇。男が不器用に真面目に生きた時代の時代劇。典膳さんは優美な剣豪でステキだけど実はすごい頑固者。安兵衛の無骨な男っぽい感じもとても良かった。皆心が男らしいの。虫一匹殺せないような草食現代男子が、右に左にヨロヨロしてメソメソ泣くような時代劇はもうたくさん!そんなのは現代劇でやればよい。嘘でもいいから時代劇では強い男を見せて欲しい。それにそんな男性に従う控えめな女性が見たい。女がピーピー出しゃばる時代劇ももうたくさん!私は女だけど時代劇の女性達には一歩下がった古風な美、出しゃばらない芯の強さを見せて欲しい。千春さんもお三さんもステキだった。もう強い男や一歩下がった女なんて現実には存在しないんだから、せめてドラマの映像の中だけでも残して欲しい。本気でお願いしたい。