こちらの日本語ケーブルTVでもBS時代劇『薄桜記』をやっている。どうやら日本と同時進行らしい。毎回自動録画したものを見ているが今週5回目だった。
初回から脚本がいいと思った。早速クレジットを見るとジェームス三木さん。このお方は昔『独眼竜政宗』を書かれたんですね。それに『葵徳川三代』とか本格大河時代劇の大御所。私は昔時代劇を見なかったので作品をきちんと見たことはないのだけど、時代劇ファンになってからこの方のお名前はネット上でもよくお見かけした。なんとこのドラマ、ジェームス三木さん脚本の時代劇なのだ。これは嬉しい。
さっそく第1回から見ている。ああ言葉のレベルが全然違う。このドラマは江戸元禄時代の話で言い回しも江戸の時代劇の様式美にのっとったものだと思うのだけど、まず言葉に痺れる。「狼藉を働いた」とか久しぶりに聞いた気がする。細かい台詞回しにいちいち痺れる。今回第5回は紀伊国屋さんのウサギと亀の掛け合い、それに浅野(津川さん)と上杉(草刈さん)の編集バトルが面白かった。言葉の職人芸のよう。すごく面白い。なんだかこんな風に時代劇の言葉で心を動かされるのって久しぶりな気がする。
全体の雰囲気もすごくいい。地味なの。だけどそれがいい。主人公丹下典膳と元嫁千春のシーンはしっとりとしてとてもいい。第1回目からいいと思ったが5回目でますます良くなってきた。
ほんとに微かなものなのだけど山本耕史さんの千春を見る表情がなんとも言えない。この二人にはケミストリーがあると思う。すごくいい。山本さんは今年の大河ではマンガのキャラのようだったが、このドラマでは落ち着いていて男らしくてすごくいい。声もいいのだと初めて気付いた。この俳優さんはバラエティなどで見かけると実年齢よりも若くてそれが欠点にもなりかねないと思ったのだけど、いやいい俳優さんですね。顔は若いのだけど、この役では非常に落ち着いて見える。背も高くて姿勢もよく全身のバランスが綺麗。この人もどこか細胞から綺麗で清潔な感じ。こんなに魅力的だとは思わなかった。千春さんを見る目は非常に優しいです。
千春さんの柴本幸さん。最初誰だか分からなかった。あの『風林火山』の姫様だとは全く気付かなかった。当時は若すぎたのか非常に表情が硬くて、潔癖な感じはしても女性的な柔らかさが皆無でどうしたものかと思っていたが、今回はなんと優しい女性になったんだろうと思った。女性は化けますね。表情がほんとに柔らかくなった。ちょっと昭和な感じのする美女なのはお母様の真野響子さんに似ているからだろうかと思う。はにかんだ感じや初々しい感じ、一途な感じが実にいい。目に涙をためながら典膳を見つめる表情では思わずほろっとさせられた。初回は明るい無邪気なお嬢さんという感じだったけど、今の思いつめたような表情もいい。佇まいが時代劇にすごくいいと思う。近年に多い目ばかり大きい小顔の現代的美人の女優さんには絶対に出せない雰囲気がある。時代劇にあう女優さんだと思う。こういう女優さんがいるととても嬉しい。
話はいかにも江戸の人情物らしいです。原作は全く知らないけど既に雰囲気にはまってしまった。演出もカメラワークも奇をてらっておらず普通なのだけど、そのため台詞や芝居に集中出来て落ち着いて見れる。もちろん今年の大河と比べて言ってます。
結局は脚本に尽きると思う。演出が普通でも俳優さん達の演技や表情で話を紡いでいるので、人のドラマとして惹きこまれる。一見地味なドラマだけどしっとりと落ち着いて見れるのがとても楽しい。
私は普段から多少日本文化にホームシック気味なので、好みが近年の一般的な時代劇のスタイルよりもずっと保守的ではないかと思うが、このドラマはとても楽しんでいる。何よりも脚本に痺れる。どこか古きよき時代の日本の時代劇という感じなのだ。千春さんの静かな佇まいも、丹下典膳の古風で律儀な性格もすごくいいと思う。とても懐かしい感じ。
まわりのキャラもいい。堀江安兵衛はコミカルで憎めない役。可愛いお豊が身売りするのもいかにも江戸の人情話。これから涙かな。それから大昔はバタ臭くて人気だった草刈正雄さんが、すっかり時代劇俳優になったのも面白い。この人にも渋みが出てきた。それに今回第5回目は、津川雅彦さんや江守徹さんなど大御所も登場。なんだか俳優陣からしてレベルが違うのかも。気合が入ってます。すごく楽しみ。
このように丁寧に作られた時代劇を見ると、ますますこういう古典的な日本のものを大切にして欲しいと思ってしまう。俳優さん達の殺陣を見ても(私は本当の殺陣を知らないのだけど)正しい殺陣が出来るのはそれだけで文化。着物の裾捌きもそれだけで文化。正しいお茶のいただき方も着物の着方も全部文化なんです。例えば殺陣でも所作でも決まっているだけで時代劇のドラマにも深みが出ると思う。
昔は日本全国で男の子達が普通に剣道を習っていたもの。だから今の中年以上の俳優さんなら殺陣もそれなりに出来る人が多いだろうと思う。そういう子供のための伝統芸を学ぶ機会は今もあるのだろうかと心配になる。これから日本はこういうものを本当に大切にしていって欲しい。こういうものこそ西洋がどんなに真似をしても真似出来ないからです。世界でグローバル化が進むからこそ日本の伝統を見直して欲しい。