能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

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2025年4月15日火曜日

英ドラマ Netflix『アドレセンス/Adolescence』(2025) リアリズムを極めた実験作






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『Adolescence』 (2025) TV Mini Series/英/カラー
/1話51–65分・全4話/
クリエイター:Jack Thorne, Stephen Graham』
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Netflixのドラマ。話題になっていたので見た。2週間前に見終わった。忘れる前に感想を書かなければ。


これは様々な意味で実験作。

まず第一にカメラワーク…
全4話の各エピソードが 1話ワンカットで撮影されている。1話目からずいぶん長いカットだとは思ったのだが、1話を通して全部だとは知らなかった。本当か?すごいと思う。

Netflixに短い「Making Of …」があったので見たけれど、カメラマンがカメラを手で持って役者と共に移動し、そのままカメラをクレーンで吊ったりドローンに運ばせたりして撮影を続けている。恐ろしいほどのハードワークだと思う。画面の中に映る全てが計算されて撮影されていることに驚く。

例えば…カメラが人物Aと共に廊下を歩いて進み、角を曲がる時にはカメラの目線が別の人物Bを追い始めて、その後Bと共に人物Cの待つ次の部屋に移動しそのままBとCの会話を聞く…全て事前に役者全員のアクションを計算して画面が作られている。まさか全てがワンテイクだとは思っていなかったので後で知って驚いた。これ、役者さんが途中で台詞を言い間違ったりしなかったのだろうか?

そのワンテイクの撮影のおかげで、映像がとても生々しい。カメラマン(見ている視聴者の目線)が役者さんと共に部屋の中にいてその場で何が起こっているのかをライブで目撃しているような気分になる。静かな会話の時には人物達の隣にいてその話を聞いているようだし、人物が野外で大声を出せばそれを近くで目撃しているようだ。私達視聴者は、ストーリーの中の人物達と常に一緒に行動している。彼らが見ているものを私達も一緒に歩きながら見る。人物が泣けば彼が目の前で泣いているように悲しくなる。

このワンテイクのカメラワークがまずこのドラマでの一番大きな achievement であり特徴なのだろうと思った。そしてその生々しいカメラワークのおかげで、役者さん達の素晴らしい演技や台詞がますます生々しく感じられる。まずそのリアリズムがすごいと思った。

脚本も俳優さん達の演技も演出も素晴らしい。これがドラマであることを忘れてしまうほどだ。


そしてもう一つは話の構成…
「13歳の少年が殺人を犯した」話であるにもかかわらず、予期されるようなドラマの流れではなかったことも、私にはリアルで実験的だと思えた。そのリアリズムが視聴者を唸らせる。「もしこれが私に起こったらどうすればいいだろう?」と考えさせられる。

答えのない苦しみ…。私はこのドラマの父親の目線に近い位置で見たのだと思うが、最後はただただ悲しかった。本当に悲しい話だった。本当にどうすればよかったのだろう。答えはない。




★ネタバレ注意




ドラマはたった4。最初に「少年の殺人事件」だと聞いてドラマを見始めたときには、私はこの手のドラマによくある話の結末を予想していた。

まず
誰がやったのか?本当に少年がやったのか?冤罪?なにか裏の話があるのではないか?(推理小説のような)びっくりするオチがあるのではないか?「ああなるほど」と思えるような答え合わせを期待した。

● そしてその原因はなんだろう?少年と被害者の関係は?友達は?なぜそうなったのか?環境か?

● そして(まず私が一番最初に思ったのは)少年と親との関係。もしかしたら幼少期に親との関係がこじれていなかっただろうか。第1話目を見て「親が虐待していた」等の可能性はないのだろうと思ったが、それでもなおこの少年が事件を起こすまでになにか心理学的な理由があったのではないかと考えた。

そのような予想をしながら、1話、2話と見続けた。リアルな脚本と上手い役者さん達の演技と、それを捉える親密なカメラワークでどんどん話に引きこまれるようだった。3話目の法廷心理学者と少年の面会の場面では「さぁきたきた」と思ったが決定的な答えは出ないまま。それなら4話目に種明かしがあるのだろうと期待した。本当に最後まで、私は自分が予想した推理小説のような種明かしを期待していた。

その答えは…たぶん最後まではっきりとはわからなかった。おそらく決定的な理由が描かれたわけではないのだろうと思う。

「13歳の少年の殺人」…主人公の少年ジェレミーが殺人に至るまでの様々な理由らしいものはドラマ内で示された。しかしどれも決定打ではない。


ジェレミーはどちらかと言えば弱々しく(かわいいけれど)、思春期の女の子達が好むようなルックスではないのだろうか。どちらかと言えば幼い外見(まだ13歳だからこれから成長するのに)。しかしネット上の情報は13歳の少年の自意識に残酷な現実を突きつける。彼はまだ13歳なのに既に性的な内容のネット情報を閲覧し、できれば25歳の男性のようにかっこよく力強く女の子にモテたい…そうあるべきだとのプレッシャーを感じている。13歳ですでに「これから一生ガールフレンドができないんじゃないか」とさえ悩んでいるのだろう。

思春期の子供たちは(個人差もあるだろうが)男女ともに不安定。少年達がプレッシャーを感じているのなら、少女達が迷うのも同じ。ジェレミーを馬鹿にして笑いものにした女の子ケイティ(被害者)も深い意味なかったのだろうと思う。しかし(まだ子供だからこそ)思慮のない彼女の言動は、繊細な少年には辛いものだったのだろう。

折からネット上では、そんなあいまいな立ち位置の少年たちが陥りやすい場所が存在していた。事件を調べる警部補ルーク・パスコムは息子からその情報を得る。

被害者の少女ケイティはインスタグラムの投稿でジェイミーを「インセル」と呼び、彼に対するネットいじめを主導していた


 Incel:involuntary celibate(インセル)とは
インターネットカルチャーの一つ。自らを「異性との交際が長期間なく、結婚を諦めた結果としての独身」と定義し、女性蔑視を行うインターネットコミュニティのメンバー(主に白人、男性、異性愛者)。  "involuntary"(意図したわけではない)と"celibate"(禁欲、不淫)の2語を組合せた混成語。主にアメリカ合衆国やカナダなどで使用されている。

 Manosphere(マノスフィア)とは
男らしさ、女性蔑視、反フェミニズムを推進するウェブサイト、ブログ、オンラインフォーラムなど、男性中心のコミュニティー。女性を単純な性的ステレオタイプに還元したり、男性の孤独や社会的挫折の原因がフェミニズムにあるとするなど、女性蔑視的な見解がしばしばみられる。


そのように…思うようにならない状況から、ネット上の「女性蔑視」に繋がりかねない情報に触れる少年も多いのだろう。



第1話では少年ジェレミーが警察署へ連行され拘留室に収監される様子が描かれた。

視聴者は第2話で荒れた中学校の中で追い詰められたジェレミーの状況を知らされる。またジェレミーの友人ライアンがジェレミーにナイフを渡したことも出てくる。ケイティの親友ジェイドがライアンを責めるが、その理由ははっきりとは示されていない。

第3話は事件から7か月後、法廷心理学者のブリオニーとジェレミーとの面会。ここでジェレミーの激しやすい性格、そしてジェレミーの孤独を知る。数秒ごとに変化するジェレミーの言葉遣いや表情に驚かされる。

私は第4話で「なぜジェレミーが殺人を犯したのか」の種明かしがあると思っていたのだが、第4話の場面は13か月後。ドラマはジェレミーの家族の日常を描いている。そこに「事件」の種明かしを示すものはない。ただ少年の家族がその後どのように過ごしているのかを描くのみ。彼らの様子を見ていて、ミラー家の家族に事件の原因となるような裏話はなかったことを知る。彼らはただ「普通の幸せな家族」だった。

最後まで「なぜジェレミーが殺人を犯したのか」のはっきりとした種明かしはない。


ストーリーはただ「起こったこと」の「その後」を描写するのみ。様々な理由は少しづつ示されたけれど、よくある推理小説のような「実はこれこれで…」などという説明はない。

このドラマは普通の家族に起こった「事件」を、ただただ次に何が起こっていくのかのリアルな描写のみで完結させている。

この「少年の殺人」に納得のできる理由付けはない。決定打もない。この種明かしをしない話の構成が殺人事件を扱ったドラマとしては実験的なのだろうとも思った。


そして実はこれが現実に近いものなのかもしれないともあらためて思わされた。

…何がいけなかったのか、なにが原因だったのかわからない。

「もしクラスメイトがそうなったら」「もし自分の子供がそうなったら?」「もし同じ町の近所のお子さんがそうなったら…」などと考えさせられる。


私は最後まで…いや、今も、もしかしたら犯人はジェレミーではないのではないか…とさえ思っているほどだ。ドラマなのに生々しくて、ミラー家の人々がまるで知り合いでもあるかのようにさえ感じた。最後のお父さんの涙はとにかく悲しい。

悲しい。ただただ悲しい。どうにもできない。理由も無い。納得もできない。

ただ現実に事件は起こってしまった。

納得のいく説明がないから、気持ちだけが宙に浮いたまま。
涙を流すお父さんの気持ちがわかって最後はただただ悲しかった。