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『A Late Quartet(2012年)/米/カラー
/105分/監督;Yaron
Zilberman』
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派手な話ではないけれど、じっくりといい俳優さん達の名演を見る…というような映画。いい感じの小作品です。
国際的に活躍し、結成25周年を迎える「弦楽四重奏団」。ずーっとずーっと公私共に常に一緒だった4人の音楽家達。その中の1人が病気で続けられなくなってしまう。そこから少しずつこのカルテットを繋ぐ糸がほつれてくる…と言うお話。
こういう映画というのは、最初からいろんなことが明らかにはされない。淡々と4人の登場人物の日々を追いながら、玉葱の皮を1枚1枚剥くように話が進んでいく。その進み具合がとてもゆっくりなので、じっくりと辛抱強く話を追う。そして次第に話が形を現してくるのを楽しむような映画。
世界的に有名な音楽家達の話だが、内容は誰にでも起こり得るような日常のいざこざが主題。個々のエゴや、男女間の問題、母と娘、友人でありながらライバルでもある仕事仲間との関係のバランス。誰が誰を好きで、誰を尊敬して、嫉妬して…。
今まで25年間、それぞれが「美しい四重奏曲」の一部としてバランスを保ってきたのに、一人が続けられなくなったことから、他の3人も少しずつ不協和音を奏で始める。その不協和音を追ったドラマ。
ちょっとネタバレかも
何よりもいい俳優さん達をじっくりと観賞できる映画。
フィリップ・シーモア・ホフマンさんがね…もう上手いですよねこの人。この俳優さんはあまりに上手すぎて、役がそのまんま本人に見えてしまうので怖いくらいの役者さんなんだけど、今回もじっくり見せてくれます。この人が嫌な役を演じるとそれだけでトラウマになってしまうぐらいで、それが嫌で(上手すぎるから)決してオープンに好きになれない俳優さんなんだけど、とにかく上手い。今回も「いろいろと不満で、不安で…それでもカルテットのために状況を甘んじて受け入れてきたちょっと哀しい男」を実にリアルに演じてます。こういう人いると思う。ちょっとかわいそうだ。
それからキャサリン・キーナーさん。まずこの女優さんの青い目と黒髪のコントラストがなんとも言えずミステリアスでいい。薄い目の色はどことなく哀しみを湛えてヨーロッパ映画にもいそうな雰囲気。今回の役は意志の強い芸術家の女性。でも決して嫌な女には見えない。カルテットの他の男性3人をこの人の視点から「一人を愛し、一人をパートナーとし、一人を欲している」と表現したのが印象的。黒いサンローランのドレスが素敵です。
もう一人の俳優Mark Ivanirさんは今まで知らなかった。いい味です。大変いい男なんだけど、こういう白髪の多い落ち着いた外見の人が年下というのは非常に気が滅入る…(笑)。
さてクリストファー・ウォーケンさん。この人のファンです。昔から妙な役が多い方だけど「ディア・ハンター」や「天国の門」「戦争の犬たち」のころは素敵でした。今回のこの役を見ていて、ふと思い出したのは高倉健さんの言葉。「俳優は生き方が画面に出る。黙っていてもカメラは俳優の日常の人となりを写し取る。」とおっしゃっていたのだけど、今回のウォーケンさんを見ていてそれを思い出した。
今回の役は四重奏団を率いてきたベテランのチェリスト。25年間も一緒のグループで他の3人の父親的なリーダーとして存在している。非常に上品な紳士。芸術を愛し、日々楽しみ、音楽家としての豊富な経験を若い世代に伝えている。この人物にはエゴが無い。ただただ芸術に人生を捧げた人物。私にはこのキャラクターにウォーケンさん本人を見る気がした。
ウォーケンさんはニューヨーク出身。子供の頃からステージに立ち、20代半ばから映画に進出。どんな役も受けて淡々と途切れることなく職業俳優を長年やってきた。賞をとってもエゴに染まることなく、「どんな役にも必ず学ぶことがある」と謙虚に、ただただ来た役を淡々と引き受け続けて来年で70歳。ユーモアに溢れ、俳優という仕事を愛し続けた日々。まさに全てを芸術に捧げた人生。業界でも愛され、大変尊敬されているこのお方は、ご本人も非常に素敵な紳士ではないかと思う。そんな彼本人がこの映画のキャラクターと重なる気がした。カクカクした台詞回しのこのお方が、上手い俳優さんなのかどうかは今もって分からないが、この映画の彼は素敵です。
最後は意図的に(だと思う)あやふやなまま終わる。ショーは続いていくのか、それともカルテットを繋ぐ糸はほつれたままなのか…は観客の想像次第。ベートーベンの「A
Late (String) Quartet(後期弦楽四重奏曲)」作品131を聴きながら余韻を残して映画は終わる。ゆっくりと静かな大人の小作品。それぞれの人物の台詞が心に染みます。