2018年4月3日火曜日

映画『The Death of Stalin』(2017):英国インテリの傲慢、侮蔑的視線

 
 
 

 
 
 
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The Death of Stalin2017年)/英・加・仏・ベルギー・米/カラー
107分/監督:Armando Iannucci
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コメディ調に味付けした旧ソ連・政府内部事情。

週末に見た映画。政治もの。旧ソビエト連邦政府の内部事情コメディ調だそうだ。旦那Aが見たいと言う。あまり面白くなさそうだ…と思ったけれど、とりあえず見に行くことにした。

こういう史実を元にした話は、ネタバレもなにもなかろうと思うので、ストーリーを事前に調べた。英語版のWikipediaには全ストーリーが載っている。70%ぐらいは理解した。ともかく内容がわかっていれば映画も楽しめるだろうと思った。

見た。とりあえず理解はできた。


★あらすじ
1953年.ソビエト連邦の第2代最高指導者スターリンが死去。その後政府内で政治家達がパワーをめぐってドタバタと争う。


最初の感想は…
…やっぱり旧ソ連の政府の内部事情に興味が持てなかった。映画として…面白いのか?…いやなんだか嫌な気分。…しかしそれは旧ソ連の政治に興味を持てない私の側の問題なのだろうとも思った。

しかし何かが変だ。どうも嫌な気分。コメディ調だけれどこれ本当に面白いか? それからこの映画は、またまた西洋のインテリ批評家達が大絶賛中なのだけれど、

これってそんなにいい映画なのか?
 
どうも気持ちが悪い。しかし上手く言葉にできない。というわけで「IMDB/Internet Movie Data Base」に人の感想を読みに行く…。

ロシアの人々が大変な剣幕で怒っているぞ。

…それでなんとなく最初に感じた違和感が理解できた。


この映画、史実を元にした旧ソ連の政府内部の話なのだけれど、外国人(監督は英国人)が、ロシアの国に対してもロシアの人々に対してもリスペクトゼロの上から目線で、史実を茶化して歪めて面白おかしく演出したように見えることが問題なのだと納得した。


全体のトーンはコメディ調。ドライなユーモア。非常に暴力的で深刻な話なのにサラッと話を進めるのは『パルプ・フィクション』風とでも言うべきか? 

人物達は…英国下町訛りのガラの悪いスターリン。フルシチョフにスティーヴ・ブシェミ。暴力的でマフィアのような国防次官ジューコフ。悪代官のようなNKVD長官べリア、凡庸なマレンコフ…これら実在の人物達がまるで漫画のキャラのよう。深みは全くない。確かに個々の人物達のやりとりはコメディ調で可笑しい。皆で騒がしくドタバタやっている。しかしそのドタバタの間、多くの市民が無残に処刑されていく。


この映画の時代は今から65年前だそうだ。それほど遠い昔ではない。当時のソ連で生きる恐怖を、生き残った家族から直接聞いた人々も多く存在する。過去の時代とは言ってもまだ人々の痛みは癒えていない。ロシアの人々がこのコメディ調の映画を大変侮辱的だと憤慨するのは理解できる。

確かに西洋にはPolitical Satire(政治風刺)というエンタメのジャンルがある。しかしちょっと内容を選んだ方がいいんじゃないか…これはちょっと不謹慎じゃないか?…ということです。それはロシアの歴史に興味のない私にさえ居心地悪く感じられるほどだった。

俳優さん達は素晴らしいと思うJason Isaacs の暴力的なGeorgy Zhukovが特にいい)。配役もうまくはまっている。コメディとして面白い場面も確かに多い。しかし見ていて居心地が悪かったのは扱った素材があまりにも陰鬱だから。

とある国の数多くの国民が、数名の政治家達の都合/不都合から理不尽に処刑された恐ろしい時代。その様子を、別の国の人間が上から目線で揶揄し嘲笑してもいいのだろうか?


(私個人の経験では)英国の人々は常識的で親切な人が多いと思う。しかしながら英国のメディアの記事の中には、どういうわけかよその国に関する論調に非常に趣味の悪いものも少なからず存在する。英国には「外国を蔑んで笑う娯楽」が存在する…と私は感じた。「アメリカ人は馬鹿。ドイツ人は変人。北欧人はのろま。フランス人はカエルを食う。日本人は残酷…」そのような(聞き捨てならぬ)他所の国へのステレオタイプというのが…英国には確かに存在する。そういう論調の外国の旅行記などを英国人はエンタメとして喜んで読む。まぁたいていは無害な娯楽目的だから、そういうものを英国国内で消費するのは構わないと私個人的は思うけれど…。

…とはいえ、1953年当時のモスクワの実情を知る筈もない若い世代の(監督は1963年生)上から目線のインテリ英国人が、同じような調子で(無神経に)冷戦時代の敵国ソ連の恐怖政治を茶化して映画化し世界に発信するのはいかがなものかとも思う。

政治風刺は、作家が自分の国の政治家を自虐的に揶揄するから知的でセンスが良くて面白いわけで、外国に対して同じ事をすれば意味が違ってしまう。中途半端にやれば相手の国に対する侮辱になりかねない。


原作は映画と同じタイトルのフランスのグラフィック・ノベル(漫画)La mort de Staline。この漫画の原作はユーモアがゼロ。大変深刻なものらしい

映画の監督はイタリア系英国人(オックスフォード大)Armando Iannucci氏。政治風刺/political satireの作風で知られ、過去に米国の政府を扱ったVeep、英国の政府を揶揄したThe Thick of ItなどのTVシリーズ、英米両国政府を扱った映画In the Loop (2009)で有名。この映画『The Death of Stalin』はフランスの映画会社から、政治風刺で知られる同監督へのオファーで実現した作品。


英国のインテリが旧ソ連の政治家を揶揄してコメディを作ったけれどユーモアがドライ過ぎ、不謹慎過ぎて笑えない。個々のパーツは面白いけれど、史実があまりにも深刻過ぎて笑うに笑えない。英国インテリの、よその国に対する傲慢さが露呈している。それをアメリカの似非インテリが取り上げて「この映画が楽しめるオレ様はインテリで偉い」とまた胸を張る…。結局なんだか気分の悪い映画。悪趣味。私はこういう偏見に満ちた映画をあまりいいとは思わない。

俳優さん達は素晴らしいのにもったいないですね。