----------------------------------------------------------------------------
『The Age of Innocence』(1993)/米/カラー
/2h 19m/監督:Martin Scorsese』
-----------------------------------------------------------------------------
まだまだ続く『エイジ・オブ・イノセンス』祭り。その3回目。
この映画は一旦はまってしまうと色々なことが気になって、また見直せば新しく気付くことが出てきて、なかなか止められない。旦那Aが原作を読み始めたので、それでまた食事中によくこの映画のことを話しているのだけれど、気になったことが出てきたので早速購入したBlu-rayを見てみることにした。
人物達について、また新たに付け加えたいことが出てきたので書いておこう。1回目と2回目の感想で気付かなかった(文に書けなかった)人物の印象を改めて書き加えておきたい。自分用のメモで映画のストーリーを追っているので文章が長いです。年寄りは文章が長い。
この映画(小説)の面白さは心理描写の巧みさ。男女二人がゆっくりとゆっくりと近づいたり離れたりする…その様子をまったりと見る話なので退屈だと言えば退屈。しかし鑑賞する者が年齢を重ねていれば(物事を時間をかけてじっくりと見ることができれば)その心理描写の巧みさには心の底から驚かされる…そのような映画。100年以上前に書かれた小説なのにその心理描写のリアルさに本当に驚かされた。
★全篇ネタバレ注意
◆ エレン/マダム・オレンスカは誘う女だったのか?
ここに以前書いた感想で私は1回目は「エレンに色気が足りない」、そして2回目は「いや彼女はただただ孤独な悲しい女なのだ、傷ついた小鳥のようだ」と書いた。…しかしやはり彼女はそれだけでもなかったですね。
Blu-rayを見直したら彼女はかなり大胆な女性でもあった。そこがこのエレンの複雑なところ。
実際にエレンの内面は(ここで2回目の感想で書いた通り)ボロボロに傷ついている…欧州の生活に馴染めず、救いを求めてNYに帰ってきたらNYの社交界にも拒絶されてしまった。彼女はどこにも行き場所がない。ニューランドを「明日5時にうちに来てね」と突然家に招いて会話をしていたら、すぐに本音が出てエレンは彼の前で泣いてしまう。彼女は驚くほど弱ってます。
しかし表面では…社交の場での彼女は、お堅いNYの人々が眉をひそめるほど大胆で型破り。オペラのドレスも相応しくない。(まだ再会したばかりの)ニューランドにも突然「子供の頃あなた私にキスしたのよ」と茶目っ気たっぷりに笑いかける。
街の有力者が彼女をパーティーに招けば、派手なドレスを着て悠々と遅刻してやってくる。そしてあちらで男性と会話をしていたかと思えば、部屋の向こう側に顔見知りのニューランドを見付けて自ら部屋を横切りニューランドと二人きりになって話し始める(ルール違反の行動)。そしてニューランドと話し始めれば「メイとは本気なの?」などと失礼でストレートな質問をする(NYではありえない質問)。彼女は本音しか言わない。そしてニューランドにたしなめられるとエレンは一瞬で傷ついた顔になる。
彼女はあまりにもストレート。正直で感情もすぐ顔に出る。その正直でストレートな性格は、お堅い保守的なニューヨークの社交界には受け入れられない。そのことを彼女もわかっていて苦しんでいる。
パーティで彼女はまた大胆にも突然「明日5時に待ってるわ」とニューランドを家に招き、翌日は二人きりで腹を割って会話をする(これもルール違反だろう)。そして自分は「ニューヨークに受け入れられていない」こと、ニューヨークは「道路が真っ直ぐなように人ももっと正直だと思ってた。誰も本音を言わないの?」ニューランドが「皆あなたを助けようとしている」と言えば「私がめんどうを起こさなければね、本当に寂しいのは優しい人達も私にいい人のふりをするよう要求してくること…(意訳)」と突然涙をこぼす。
彼女は感情がふらふらと揺れていて予測不可能。精神的に崖っぷちに立っているのだろう。
欧州帰りのエレンは、当時のNYの上流階級の…本音と建前を使い分けるのが当り前の社会…全てがよそよそしく、会話も社交辞令ばかりで誰も本音を言わない。そしてその裏側では皆がひそひそと噂話をして、決してよそ者を受け入れない…そのような社交界に馴染めず苦しんでいるのだ。
ここでの2回目の感想で私は「彼女はもともと太陽のように明るい女の子だったのだろう」と書いた。子供の頃から大胆でよく笑う明るい女の子だったのだろう。子供の頃なら彼女もその陽気さでNYの大人達にも可愛がられたのだろうと思う。
しかし大人になった今、彼女はただただマナーを知らない、外国帰りの、異質の、問題を起こしそうな、ふしだらな、そして離婚しそうでスキャンダラスなアウトサイダーになってしまった。NYの狭い社交界は彼女の帰郷を歓迎していない。彼女は社会の平和を乱す問題のある女だと受け止められている。
彼女がニューランドを大胆に家に誘ったり、突然彼の前で涙を流す姿を見て、「エレンは婚約者のいるニューランドを誘う悪い女なのか」と受け取る人もいるかもしれない。しかし私はそう思わない。彼女のあの…男性に戯れかけるような誘うような笑顔は、長年の欧州での寂しさからいつの間にか身についた習慣、癖のようなものだろうと思った。
彼女は美しい。彼女が笑いかければ優しくしてくれる男性はいくらでもいる。欧州の生活でとても孤独で友人もいなかった彼女は、いつしか優しそうな男性を見かければ花のような笑顔で笑いかけ、その場限りの浮ついた会話をすることが癖になってしまったのだろう。
…私には見えるのだ。彼女が欧州の貴族ばかりの集まるパーティーで、誰にも相手にされずにぽつんと一人ソファーに座っている姿が。そんな時にたまたま声をかけてくれた親切な優しい男性に最高の笑顔で笑いかければ、とりあえずはその場の会話の相手を確保することも出来たのだろう。
だから、彼女のニューランドに対する大胆なアプローチは、彼女にとって最初はそれほどの意味はなかったのだろうと思われる。彼女はただ正直に本音が言える友人が欲しかっただけ。幼馴染のニューランドなら彼女も心を開いて正直になれる…友人として話ができると思ったのだろう。
最初に彼女がニューランドを意識したのは「黄色い薔薇」だろうか。ニューランドの最初の訪問時に、彼女は涙を流した。その後ニューランドは親切心で薔薇を贈ったのだが、エレンはその薔薇のことをメイに話していない。
そして今度は弁護士のニューランドがエレンの離婚に関するアドバイスをすることになった。ニューランドはまたエレンの家を訪ねる。そこでエレンは厳しい現実(NYで離婚をするのは世間体が悪くエレンは社会的立場を失うこと)をニューランドから告げられる。エレンはまた傷ついた顔をする。しかしまた同時に、ニューランドが(弁護士として)彼女の欧州での問題の全てを知ったことは、彼女がニューランドにますます心を開くきっかけにもなった…「ニューランドには何も隠すことはない」。
その後のある夜に皆で芝居を見ている。その日、メイは冬の寒さを避けてフロリダのSt. Augustineに滞在中で不在。ここでエレンは初めてニューランドを意図的に誘う。「あの芝居の恋人は彼女に黄色い薔薇を贈るのかしらね?」ニューランドも「そう考えてました」と戸惑いながら告げる。「メイがいない時は何してるの?」(←完全に誘ってます)。「仕事してます」と戸惑いながら答えるニューランド。そしてエレンは「あなたには感謝してるのよ」とニューランドを見つめながらすがるように告げる。エレンはこの場面でニューランドを誘ってます。誘惑してる。
ニューランドはその夜、黄色の薔薇を彼女に贈ろうとするがあいにく花屋に黄色の薔薇はなかった。直ぐに連絡をするがエレンからは返事が来ない(←彼女は相手を押して、引いて、焦らして…)。そして3日後にカントリー・ハウスにいるエレンから手紙が届いた「あなたがここにいればいいのに」。直ぐにニューランドはいそいそとエレンに会いに行く。
この家の中で、エレンはニューランドの後ろから近づいて手を繋ぐ。ここで彼女もニューランドに情が移ったのだと思った。
その後突然、ニューランドはフロリダで休暇中のメイを訪ね結婚を急ごうと話をしている。真面目な堅物の彼も自分の心の動きに大変迷っているのだろう(後述)。
その後、祖母のミンゴット夫人の家でエレンとニューランドは一瞬すれ違い、すぐにまたエレンの家での密会。ここで二人はしっかりと抱き合う。エレンは「欧州の夫から離婚をすれば、メイとニューランドの家族の家名に傷をつける。自由になれない。しかしそれは辛い。でもニューランドは私を助けてくれた」と泣く。
そしてニューランドとメイの結婚が決まる。
◆ 真面目な普通の人ニューランドは戸惑い迷い優柔不断(リアル)
まずこのキャラクターの特徴は真面目なこと。とにかく真面目で堅物。彼は(何事も変わることのない安定した、しかし窮屈な)NYの上流階級で育った真面目な男、職業もお堅い弁護士。きちんとした家で育ち成績も優秀。良家の娘メイとの結婚も決まっていて、最初は自分の安定した人生になんの疑問も抱いていなかったと思われる。冒頭のオペラの後の舞踏会でも婚約者のメイをとても愛している様子が描かれている。彼はまさになんの濁りも無いまっとうな人生を歩き始めようとしていた。
そこにエレンが現れる。エレン/マダム・オレンスカは彼の婚約者メイの従妹。欧州帰りの型破りでルール破りな彼女は彼の幼馴染だった。オペラ座でエレンに久しぶりに再会した時、エレンは突然「あなた子供の頃私にキスしたのよ」とニューランドに笑いかける。ニューランドはただ戸惑っている。ちょっとドキッとしたかもしれない。しかしその場面はそこまで。
次に街の有力者のパーティー。エレンは(NYにあまり友人がいないからだろう)ニューランドを遠くに見つけると、それまで話していた男性から離れて部屋を横切ってニューランドに会いに来る。ニューランドはドキドキしている。そこで二人は昔からの友人のように親しく話し始める。彼女の言葉はストレート。上品とも言い難い内容。欧州からのゲストの悪口を言って笑い、そしてニューランドに「婚約者のメイとは本気なの?」と失礼なほど直接的な質問を投げかける「メイとの結婚はアレンジされたわけじゃないの?(意訳)」。その言葉にニューランドはびっくりして言葉を返す「ここではアレンジなんてことはないんですよ」。その言葉を「拒絶」だと受け取ったエレンは一瞬で傷ついたような顔をする。それを見てエレンに謝るニューランド。彼はあくまでも紳士なのだ。
この時のニューランドの表情が秀逸。まるで綺麗なお姉さんと嬉し恥ずかし…初めてお話しをする中学生のような顔をする笑。エレンの隣で照れて照れてにやにやと薄笑いを続けている。上手い役者さん。エレンの振舞いのひとつひとつに驚きながらもやっぱり彼は綺麗でエキサイティングなエレンとの会話がとても嬉しいのだろうね。
パーティーの最後でエレンは彼に「じゃあ明日の5時に待ってるわ」と急に告げる。あまりにも急な申し出にびっくりするがニューランドは断れない。なぜなら彼は紳士だから。彼は軽く会釈をする。エレンには驚かされることばかり。
そして翌日の午後5時、ニューランドはエレンに会いに行く。家でエレンの帰宅を待っている間、ニューランドは彼女の部屋の様子を眺めている。彼女の部屋は彼が今までに見たことのない興味深い物で溢れている。初期の印象派とも呼べる絵(イタリアの画家Giovanni Fattori)や、ブロンズ製のお面などが部屋を飾る。ソファーの上にはエキゾチックな布。彼女はそれらを欧州から持ち帰ったものだと言う。異国趣味に溢れる部屋にニューランドはとても興味を引かれる。そしてミステリアスなエレンにも興味を持ち始めているのだろう。
前日のパーティではニューランドは中学生のようににやにやしていたけれど、この場面のニューランドの話し方はかなりお堅い…よそよそしいほどの真面目な口調で話しているように聞こえる。エレンと二人だけになって緊張しているのだろうか。しかしその堅苦しさもエレンの涙を見て変わっていく。彼はエレンに近づき「マダム・オレンスカ」と話しかけ、直ぐに「エレン」と呼びかけて手を握る。彼は真面目で優しい男なのだ。泣く女性を目の前にして少し彼の心が動いたと思う。いやこの場面こそが、ニューランドの心が大きく動いた時なのだろうと私は思った。そしてその帰り道でニューランドはエレンに黄色い薔薇を贈る。あくまでも思いやりから。
その後彼の弁護士事務所がエレンの離婚に関わるケースを扱うことになった。事務所とエレンの家族からは「エレンが離婚をしないように」アドバイスするように言われている…なぜなら、メイの従妹のエレンが離婚をすれば家族にとって世間体が悪いから…それはメイの家族、そして夫になるニューランドの家族も傷つけることになる。
ニューランドはエレンを再訪。玄関に入ると、エレンの(親しすぎる)友人のボーフォートの声が聞こえてきてがっかりする。立ち去るボーフォートが「今度アーティストを招いて食事でもしようか」などとエレンに言うのを聞いて、ニューランドは「私も画家なら知ってる…」と会話に割り込んでいる。ここでニューランドは、明らかにボーフォートに嫉妬しているし、多少ライバル心も芽生えている。それにピンときたボーフォートが彼を笑う。
そして二人はエレンの離婚について話をする。ニューランドは真面目な男なので、離婚をしたいと言うエレンに「離婚は勧められない」と伝える。離婚をすれば彼女自身が傷つくことになると諭そうとする。しかしそれはエレンには通じない。離婚をすればエレンは自由になれるが、NYの社交界では生きていけなくなる、そしてエレンは欧州には戻りたくない。ニューランドは弁護士として、友人として、彼女に離婚は勧められないと言うものの問題は簡単ではない。ニューランドはエレンを救いたいが、家族のしがらみ、それからエレンのためにも離婚は進められない。そのことで彼は悩む。なぜならニューランドはあくまでも真面目で親切な男だからだ。最後にエレンは「おやすみ従兄弟さん」と言葉をかける。
その後また皆で演劇を見に行く。そこでニューランドはボックス席にエレンを訪ねる。エレンは「あの(劇中の)恋人はあの後黄色い薔薇を送るのかしらね?」とニューランドに話しかける。戸惑いながらニューランドは「私もそれを考えてました」と言う。ああ、ここでとうとうエレンが一歩踏み出していて、ニューランドもそれに答えてますね。そしてエレンは(メイがフロリダで休暇中であることから)「メイがいない間、何してるの?」と聞く。戸惑いながらニューランド「仕事してます」と言う。このぎこちないやり取りのまぁリアルなこと。
ニューランドはあくまでも真面目な男。だから「メイがいない間、何してるの?」と聞かれても「じゃあ今度二人だけで会おうか」とは決して言えない。言わない。彼は堅物だから。遊び人のボーフォートなら間違いなく言っていただろう。
そしてその夜、ニューランドはすぐに黄色の薔薇を探すが見つからず、エレンに連絡をするが返事はない。やきもきしていたら3日後にエレンから「カントリーハウスにいるの。あなたがここにいればいいのに」などと手紙がきた。
もうこの時点でニューランドは自分を抑えられなくなっている。いそいそとエレンに会いに出かけるニューランド。そして二人とも恋人同士のように親しく話をする。ニューランドはなんと…エレンが彼を後ろからハグしてくれないかと妄想までしている笑。彼はとうとうエレンを好きになってしまったらしい。窓に立つニューランドに後ろから近付いたエレンは、そっとニューランドの手を握る。ああ。
ところがすぐ後にボーフォートがやって来て二人の時間は台無しになってしまう。ボーフォートもすでにニューランドの気持ちに気付いているのだろう。
その夜、ニューランドは家に帰って来てからもイライラし続ける。ボーフォートに嫉妬しているのだ。ニューランドの揺れる心。ボーフォートと親しく付き合うエレンにもまた腹を立てている。しかし彼はこのまま運命に流されてしまうことも危惧してもいる。「自分の未来に生き埋めにされそうな気がする」とさえ思う。エレンがメッセージを書いて「会いたい」と言ってくるが、ニューランドはそれを握りつぶす。
そしてニューランドはフロリダで休暇中のメイを訪ねる。そして「結婚の予定日を早めよう」などと言っている。ところがメイは勘が鋭い「誰かいるの?」などと聞いてくるのでニューランドはドキッとする。薄笑いをしながら「誰もいない」と言ってメイを落ち着かせるが、どう見ても彼は結婚を進めて問題(あいまいなエレンとの仲)を終わらせ過去のものにしたいと思っているように見える。
直ぐにメイの祖母のミンゴット夫人を訪ねて結婚を進める相談をするニューランド。ここでミンゴット夫人はニューランドの複雑な気持ちに気付いているらしい。「エレンはまだ結婚しているのよ」とニューランドに釘を刺す。困ったような顔をするニューランド。そこへエレンが訪ねてくる。別れ際にニューランドはエレンに「会いたい」と囁く。
この辺りの矛盾した彼の行動で、ニューランドがいかにも迷っているのだろうと思わされる。ニューランドは、エレンに明らかに惹かれているのに深入りすることを恐れ、また遊び人のボーフォートとつき合うエレンに腹を立て、わざわざフロリダのメイを訪ねて「早く結婚しよう」などと伝えている。彼が自分を迷わすトラブル(エレン)から逃げてさっさとメイと結婚して落ち着きたいと思っているのは事実でもあるのだろう。あくまでもニューランドは真面目で保守の男なのだ。道を踏み外すこをと何よりも恐れているのだ。
しかしエレンを見かけるとまた反対の行動をしてしまう。「会いたい」と彼女に囁き、エレンの家を訪ね、二人だけの親密な時間を過ごす。ここでニューランドは初めて(メイが言うところの)「誰か」がエレンであることを本人に告げる。二人は涙ながらに抱き合う。
そこへメイから「結婚を早く進める」ことを告げるメッセージが届いた。ニューランドは予定通りメイと結婚する。これでニューランドの人生は決定してしまった。
ニューランドとメイが結婚して、エレンはワシントンDCに移住している。その後ニューランドは結婚してしばらく落ち着いたように見えたが、次第にメイとの結婚生活に退屈してくる。メイは何事にも用心深く新しいことを好まないのだ。
記憶の中のエレンは、欧州帰りでエキゾチック、言葉もストレートで正直でエキサイティング。エレンの家には興味深いアートが溢れ、彼女は文化の教養にも優れ、なによりも彼女との会話のキャッチボールは刺激的で楽しい。キラキラと聡明で刺激的なエレンと退屈なメイを比べてニューランドは絶望している。
その後エレンとニューランドは2度ほど会うのだが物事は進まない。NYに帰ってきたエレンとの馬車の中での密会もその時だけで何も進まない。ニューランドはますますエレンを熱望する。
メイとの結婚生活に退屈し、ニューランドは自らが「死んでいる」などと思っている。(異国の文化の)浮世絵の本を眺めながらメイの笑顔にもうんざりしている。
映画の後半で、ニューランドがメイに本音を告げようとする場面の緊張感は秀逸。妻に本音を告げようとするニューランドの勇気は、毎回メイの言葉に潰されてしまう。次第にメイが恐ろしい怪物のように見えてくる。ニューランドがなんとかエレンに近づこうとするたびに、妻のメイもNYの狭い社会もそれを阻む。そしてとうとうエレンはNYを離れ欧州に帰ることになった。そうなるようにメイが全ての流れを作っていたのが最後に明らかになる。
メイは戦いに勝った。地に足をつけて夫を縛り付けた。見事。
そしてニューランドはとうとう普通の男の人生を受け入れ、まっとうな男として、夫として、父親として模範的な一生を送ることになる。
しかし映画を見終わった後で私は考えた…ニューランドにはそもそもエレンと共に道をはずれる勇気がなかったのではないかと。
人とはそういうもの。ほとんどの普通の人々とはそういうものだと私は思う。ニューランドは真面目で親切で紳士的で優しくて…しかしそんな真面目な人だからこそ彼は冒険をすることができなかった。細やかな心理描写で驚くほどリアルな、普通の…不器用な人々の悲恋もののストーリー。自分を抑えたり勇気を出せなかったり…大抵の普通の人とはそういうものだろう。
だからこの話は色褪せない。
Blu-rayで見てみたら、Netflixより映像も音もクリアで驚いた。とても綺麗。セットや衣装に凝った映画なのでこれからも何度も見直すだろう。手に入れてよかったと思う。エクストラも沢山…スコセッシ監督や共同脚本家、舞台監督、衣装デザイナーのインタビュー、そしてメイキング・オブの映像もあってとてもいいパッケージだった。
・映画『エイジ・オブ・イノセンス/The Age of Innocence』(1993) :2回目の鑑賞で本質を知る…傑作でしょう