能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

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2023年7月6日木曜日

映画『オクトパスの神秘: 海の賢者は語る/My Octopus Teacher』(2020):中年の僕がタコ先生に癒される話



YouTubeに日本語字幕の映像も出てます


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『My Octopus Teacher (2020)/米/カラー
/1h 25m/監督:Pippa Ehrlich, James Reed』
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またまた旦那Aのオススメで見た映画。以前見て面白かったから見ろと言う。最近は見る映画のほとんどが旦那Aがらみだ。いかんね。見たいものは自分で探さなきゃ。

原題の直訳は『僕のタコ先生』。Netflixにて。この作品は2021年度、第93回米アカデミー賞の長編ドキメンタリー映画賞を受賞。その他各種受賞。


この映画、私はてっきり海洋生物学者の実験モノだとばかり思っていた。そのような動物もののドキュメンタリーはよくある。動物学者たちは昔はゴリラに手話を習わせていたし、犬や猫はもちろん、カラスにゲームをさせて知能のテストをしたり、オウムやインコに芸をさせたりする。このタコ先生の話もタコにそのような実験をし、観察して記録したドキュメンタリーなのだろうとばかり思っていた。もちろん主役はタコ。あくまでもタコの映画だろうと思っていた。

ところがこの映画は違った。主役はあくまでも中年のおっさんだ。中年のおっさん/クレイグ・フォスターさんが(たぶん)Midlife Crisis/中年の危機で落ち込んでいた時に海で素潜りをしていたらタコに出会い、1年をかけてそのタコ先生と親しくなる間に元気を取り戻したという話。あくまでもおっさんのリカバリー/再生の物語である。

気になったのはその語り口だけなのですけどね。最初は戸惑った。「僕が、僕が…」と主人公のおっさんが身の上話をしているので「私は何を見ているのだ、実験は?早くタコ先生を出せ」と思いながら見た。そしてクレイグさんが海に潜り始めてタコ先生に出会う。その頃には美しい映像に魅了されていたけれど。


★ネタバレ注意

あらすじ
南アフリカ出身のクレイグ・フォスター氏は元々野生動物を撮影する映像作家。以前はアフリカのライオンを撮ったりしていた。カメラ機材にも触りたくないほど気持ちが沈んだ時期があって、癒しを求めて海に潜り始めた。そこで出会った不思議な生物・タコ。タコへの興味が彼をまた撮影に向かわせた。1年をかけて毎日観察を続け、撮影が終わった後にはクレイグさんはすっかり回復していた。


PROS

映像が美しい。それだけでも見る価値がある。タコ先生もいいが、それ以上に南アフリカの海の中の風景がとにかく素晴らしい。Kelp/昆布の林を抜けて泳ぐ景色にうっとり。まるでスターウォーズの映画の風景かと思うような異世界。とにかく美しい。

最近はやっていないけれどシュノーケリングは私もやる。ハワイの海は色々と潜った泳いだ/浮かんだが、あの青い水の中を泳ぐ心地はなかなか他とは比べられない。水が肌に馴染み、目に見える景色の美しさに心奪われながら、同時に(身の危険への)恐れを常に頭の隅に感じ続ける。自然に浸り、心を無にして神経を集中させる。確かに海の水に馴染むことは心の状態を良くする効果があるのだろうと思う。この映画のクレイグさんもスキューバのタンクを背負うことに違和感を感じてシュノーケルのみで潜っていたけれどその気持ちはわかる。自然を邪魔しないようにひっそりと海に馴染む。いいですねぇ。あの昆布の林は泳いでみたい。

全編、美しい海を見てうっとりする。撮影もプロのチームだから映像の全てが美しい。海がとにかく綺麗。それだけで十分OK。

タコ先生との友情も(100%信じられるとは思わないが)かなり面白い。信じて感動するというよりも「本当だろうか」と驚いたり疑ったり。素直に受け取れないのは私の中にある偏見のせい。これが脊椎動物・魚やペンギンやラッコとの友情ならもっと納得したと思う。しかし相手がタコ先生だからこそこの映像は特殊で貴重。


CONS

前述の誤解のせいで最初は随分戸惑った。語り口が「自由に生きるタコ先生に救われる僕のストーリー」だからだ。実際にはタコの観察日記なのに語り口があくまでも人の回復の物語なので、BBCあたりの動物モノのドライなドキュメンタリーに比べると随分ウェットでセンチメンタルな印象でそれに暫く慣れなかった。「おっさんが癒される話」がメインならそういう話だと事前に知っておくべきだったのかもしれぬ。

International Movie Data Base(IMDB)でスコアを低くしたレビューアーの文を読むと、同じような印象を持った人は私だけではないらしい。彼らの中には「タコ先生とトモダチになったのなら、なぜタコ先生がサメにやられるのを助けなかったのか」と憤っている人もいるがそれは私は気にならなかった。BBCのドキュメンタリーなどを思えば、自然の弱肉強食の様子を撮影するのはあたりまえ。動物モノの映像はドライに撮影するのが普通なので、クレイグさんもプロとして自然をそのまま撮影したのだろう。確かにそのような自然の動物の撮影のドライさと、「僕のタコ先生」への愛情の表現が、度々入り乱れるため多少混乱させられるのは事実。

個人的にもっと気になったのは、この話がどこまで脚色でどこまでが本物だったのかが不明なことだろうか。語り口はあくまでもクレイグさんとタコ先生の…一人と一匹の話なのだけれど、現実にはクレイグさん以外にも撮影スタッフがいることは明らか。彼の泳ぐ様子を、スタッフが近くから遠くから撮影している映像が度々出てくる。

また映画の詳細を見たら、脚本があるのですね。もちろん監督もいる。当り前の話だけれどこの映画は、「男性がタコとの友情を独白するドキュメンタリー」のように見せながら、実は数名の撮影スタッフが常に一緒にいて、(クレイグさん御本人ではなく)監督がいて脚本があって…と、意図的にストーリーが作られた(編集された)ドキュメンタリーなのだろうと後から知って少し萎えた。

この映画は、おそらく『人とタコ先生の友情物語』のパーソナルな語り口がエンタメとして観客を魅了したことで結果沢山の賞を受賞することになったのではないかと想像するが、私個人的にはその「作られた部分」がむしろ気になった。

例えば最後にタコ先生が繁殖期に入る前、クレイグさんと別れのハグをする様子があったけれど、あれはまさか本当じゃないだろう。「餌を持ってるんじゃないか」と勘ぐった。申し訳ない。

動物モノのドキュメンタリーは、私はあまり人間の「意図や感情」が出てこないほうがいい。だからBBCのドライな自然モノのドキュメンタリーやNHKの『ダーウィンが来た!』の方が単純に感動したりする。


というわけで語り口の好みの問題で多少は戸惑ったけれど、それでも十分面白かったです。映像がとても綺麗だった。

タコは頭がいい生き物だということは以前から聞いていた。もしかしたら将来はタコかイカが陸に上がって知的生物として闊歩する時代もあるかもしれぬ…というドキュメンタリーを以前(これも)BBCで見たけれど、本当にそうなら実際にタコの知恵も見てみたいものだと思う。ゲームの実験などできないものだろうか。

それから、知恵と感情は別のものだと思うので、この映画で実際にクレイグさんとタコ先生が本物の友情を育んだのかどうかは私には信じられなかった。やらせ…の言葉が頭に浮かんだのは致し方なし。だってタコが人間を好きになるかね?友情を感じるのか?そもそもタコに友情のコンセプトなど理解できるのか? その辺りの本当のところも知りたいものだと思う。

文句を言いながらもこれだけ色々と考えているということは、動物モノのドキュメンタリーとしていい作品のだろうと思います。もう1回見ようかな。