アメリカのTVでは、昨日もプリンスさんのニュースが流れていた。もう4日も過ぎたのにまだ心が落ち着かない。
1月にDavid Bowie氏が亡くなって、今度はプリンスさんなんて今年はどうしたんだろうと思う。たった4ヶ月ほどの間に若い時に大好きだったスターが2人もいなくなるのは悲しい。
高校生の頃初めて聴いたプリンスの曲は「I Wanna Be Your Lover」。最初に買ったアルバムは『1999』。その頃からファンになって『Parade』まで新しい作品が出るたびにアルバムを買って聴いた。
1983年の『1999』は全米9位。その翌年1984年には、自伝的映画『Purple Rain』のサントラが全米で1位になる。その後も1985年の『Around the World in a Day』、1986年の『Parade』と傑作を連続して発表。作品も売れに売れてプリンスは世界クラスのスーパースターになった。この時期をファンとして過ごすことが出来たのは幸運だった。
当時学生だったこともあって、多くの時間とエネルギーを彼の作品や情報を集めることにつぎ込んだ。発表されたアルバムはもちろん、過去の作品を遡って『Dirty Mind』『Controversy』も買った。プリンスをめぐるミネアポリス界隈のアルバムも漁った。Sheila E.の『The Glamorous Life』、Time『What Time Is It? 』『Ice Cream Castle』、Vanity 6『Vanity 6』、Apollonia 6『Apollonia 6』などをレンタルレコード屋で借りて聴いた。プリンスの関わった音作りは独特で、それまで聴いていたイギリスのバンド、米の普通のロックが全て色あせてしまった。
当時から彼は天才だと様々なメディアが書いていた。どのアルバムも殆ど捨て曲がなかった。バンドRevolutionも本当にかっこよかった。ギターのウェンディ、キーボードのリサが素敵だった。特にリサの声はプリンスの作品に独特の色を添えていた。大好きだった。
プリンスは1986年9月に初来日。会場は横浜スタジアム。9月8日と9日両日とも参戦。気になって当日のセットリストを調べたらなんと出てきた。
★1986年9月8日 横浜スタジアム
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1. Around
the World in a Day 2. Christopher Tracy's Parade
3. New Position
4. I Wonder U
5. Raspberry Beret
6. Delirious
7. Controversy
8. A Love Bizarre (Sheila E. cover)
9. Do Me, Baby
10. (How Much Is) That Doggie in the Window? (Patti Page cover)
11. Lady Cab Driver
12. Automatic
13. D.M.S.R.
14. When Doves Cry
15. Little Red Corvette
16. Paisley Park
17. Under the Cherry Moon
18. Anotherloverholenyohead
19. 17 Days
20. Head
21. Pop Life
22. Girls& Boys
23. Life Can Be So Nice
24. 1999
--------Encore:
25. Mountains
26. Kiss
--------Encore 2:
27. Purple Rain
★1986年9月9日 横浜スタジアム
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1. Around the World in a Day
2. Christopher Tracy's Parade
3. New Position
4. I Wonder U
5. Raspberry Beret
6. Delirious
7. Controversy
8. A Love Bizarre (Sheila E. cover)
9. Do Me, Baby
10. (How Much Is) That Doggie in the Window? (Patti Page cover)
11. Lady Cab Driver
12. Automatic
13. D.M.S.R.
14. When Doves Cry
15. Little Red Corvette
16. Do U Lie?
17. The Ladder
18. Condition of the Heart
19. Under the Cherry Moon
20. Anotherloverholenyohead
21. ♥ or $
22. Head
23. Pop Life
24. Girls& Boys
25. Life Can Be So Nice
26. 1999
--------Encore:
27. America
28. Kiss
--------Encore 2:
29. Sometimes It Snows in April
30. Purple Rain
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…うわ凄いセット。9日は30曲もやったとは今まで知らなかった。いいものを見たんだなぁ。これはライブの音源が残っていないのだろうか。欲しい。あったらいつか公式にリリースしてほしい。
ツアーは『Parade』ツアー。前座はSheila E.。プリンスのライブが始まって数曲目、ウェンディとリサが「I Wonder U」を歌う。二人の篭ったような声の、もあ~っと湯気の出るような感じにうわーっと圧倒された。興奮のあまりこのコンサートのことはよく覚えていないのだけれど『Girls& Boys』で手をくねくねクロスさせて回りのみんなと一緒に踊ったのは覚えている。最後は『Purple Rain』で、スタジアム中の観客全員が催眠術にかかったようになった。
あのライブがバンドRevolutionとして最後のライブだったことは後から知った。
後日、雑誌『Rockin’ On』のライブ・レビューで(たぶん)渋谷さんが「プリンスのライブは彼と観客が一人一人直接繋がっているような…」と表現していて、ああなるほどと思った。確かに9日最後の「Purple Rain」には、催眠術にかけられたような、全身が痺れるような不思議な感覚があった。
スタジアムでのライブなのにどこか秘密クラブの集会のような雰囲気、異様に密度の濃いショー…あの日の濃い空気は、バンドからのエネルギーと観客の熱意が一緒になって起こった化学反応だったのだろうかと今になって思う。
1986年になっても日本での一般的なプリンスのイメージは、まだどこか「キワモノ」だった。だからあの横浜のライブに集まったのは「俺にはわかる」「私には彼の事が理解できる」…そんな濃いファンばかり。それぞれプリンスに対して特別な思い入れのあるファンがあの日かなりの数集まっていたのだろうと思う。
そしてその日はバンドにとってもRevolutionの最後の特別なショーだった。
あれから数多くのスターのライブを見たけれど、あのような全身が痺れるようなライブはあれ以来一度もなかったかもしれない。あのライブで何かが完結した。Revolutionも解散した。全ての事があいまいでいろんな事に馬鹿みたいに夢中になれる学生時代もおしまい。翌年私は社会人になった。
その後時代も変わった。プリンスも通好みのキワモノアーティストから、東京ドームを埋める誰もがよく知るスーパースターになった。彼のライブも、ボディコン姐ちゃんの群集が踊るバブルにふさわしいイケイケなイメージに変わった。1990年の東京ドームと横浜スタジアムのショーは行ったはずなのに殆ど覚えていない。そのあたりから私はプリンスの音楽を聴かなくなってしまった。
アイドルとの濃い時間を過ごしてもいつかは終わる時が来る。そして振り返らないまま時は流れた。それでも思い出が消えることはない。学生時代にプリンスに夢中になっていた頃のことは忘れない。彼と彼の音楽は特別だった。かっこいい音。素敵なリズム。溢れる才能。圧倒されるほどに濃く妖しくパーソナルでディープな世界。突き刺すような視線の綺麗な目。身体をくねらせながら歪んだギターを弾く彼は本当に素敵だった。そんな彼を綺麗な女性達が常に取り巻いていた。あれほど苦しくなるほどかっこいい人もめったにいない。
買い集めた初期のアルバム。オールナイトの映画館で連続4回見た『Purple Rain』。ディスコでも彼の曲が流れていた。熱気むんむん横浜スタジアムのParade Tour最終日。どれも素敵な思い出。彼の音楽を、彼の創りだす世界を追いかけるのは本当に楽しかった。
プリンスさんありがとうございました。
ご冥福をお祈りいたします。
・Wendy &Lisa -Honeymoon Express (1987)