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『Her(2013年)/米/カラー
/126分/監督:Spike Jonze』
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人間とA.Iの恋。あー…これはね、SFの永遠のテーマだな。いかにも星新一さんが書きそうな話だ。…そうそう星さんが60年~70年代にショート・ショートSFを書いていた頃は、今のようなスマホもPCもインターネットもiPadも無かったんですよね。当時のこの手の話は、人間とロボット…コンピュータらしきものとの関係の話でした。
一昨年、映画『素敵な相棒~フランクじいさんとロボットヘルパー/Robot and Frank』を見たときに、人間とロボットのもっと現実的な関係を描いた映画を誰か撮ってくれないものか…と書いたんだけど早速出ましたね。今回はロボットではなくオペレーション・システムの声です。機械の声と人間との関係。
近未来の設定ですが、これみよがしのSF風ではなくいかにも普通の風景。たぶん今から20年、30年後の未来という感じかな。歩いてる人の服装も、街の風景も今と殆ど変わらない。普通。ものすごくリアルなほんのちょっと先の近未来の設定だと思う。
主人公は離婚寸前の寂しい会社員ホアキン・フェニックス。このお方もオジサンになりました。普通のさえないオジサン風。さて問題のOSガールの声の主はスカーレット・ヨハンソン。この女優さんのハスキーな声がセクシーなのかどうかは私にはよく分からないが、セクシーな声を見た目がセクシーと言われる女優がやることもなかろうに…。私はこのおっぱい女優があまり好きではない…。
それはともかく、これはワタクシすごく好きなテーマ。まさに星新一さんが今の時代に書きそうな話…いや彼はHな話は書かないんでしたな…。それでも十分に星さんの描くライトな近未来の雰囲気はあると思う。こういう機械と人間の話は今でもドキドキする。
内容の感想に行く前に、まず映画として面白いところ、いい所を書きとめておきたい。
1. ホアキン・フェニックスが上手い
今年のコメディ・カテゴリーのゴールデン・グローブ主演男優賞はデカプリオが取ったらしいですが、まーあのレオ君の『Wolf of Wall Street』のぶっちぎれ演技ならしょうがないでしょう。しかしね、このホアキンさんはいいですよ。ものすごく自然。ものすごくリアルな寂しいオジサンです。奥さんと別居中でもまだ未練タラタラ。忘れられないのね。仕事は手紙の代筆業(?)。客のために手紙を創作して書き上げるお仕事。一日中コンピュータに向かって誰かへの手紙を入力する。そして帰ってきて家で一人ゲーム。ああ…いかにもリアルにいそうな悲しいオヤジだ。間違いなく内気なギーク(オタク系)の中年なのだけど決して憎めない。可愛いぞ。イイ奴じゃないか。なんか…理解できるわこの人。若い女の子には単にキモイおっさんかもしれぬがワタシは大丈夫。お友達になってもいい。ともかく、このホアキンさんが2時間延々と一人芝居をする。相手はイヤホンから聞こえてくるOSの声なので相手がいないんですね。だから彼がずーっと宙に向かって一人芝居をしている。でも上手い。ちょっと泣ける。本当に表情豊かですごいと思う。もし今年デカプリオが頑張らなかったら主演男優賞はこの人だったろうと思うくらい上手い。
2. とても近い近未来の風景が面白い。
近未来と言っても銀色のスーツなんて出てこない。今の都市の生活と一見殆ど変わらないんだけど、よく見るといろんな細かい違いが見えてくる。この映画はそんなリアルな近未来の演出が非常に上手いと思う。
①なぜか男性のパンツ/ズボンのウェストの位置が高い。
すごく変。お臍から10㎝くらい上の位置にウェストがあるのでとても変。ほぼ全員がそんなパンツをはいている。ウェストの位置以外は全て普通。だからますますウェストの位置に違和感がある。時代が変われば流行りも変わるということだろう。こういう微妙な服装の違いこそがリアルな近未来。
②ちょっと近未来の仕事環境・住環境が面白い。
主人公の働く会社は仕事の内容から見ても、それほど最先端ではなくて普通の中小企業っぽいんだけど仕事場はおしゃれ。今の最先端なIT企業のオフィスが入ってそうな仕事環境。要は世の中が今よりもちょっとだけ進歩しているので、普通の会社も小洒落た感じになったんだろう…という感じ。それに普通のサラリーマンの主人公の住環境もおしゃれ。どうも2000年あたりに流行ったような一面ガラス張りのお洒落な高級マンションに住んでいるんだけど、そんな物件(現実で2014年の今現在は)まだ彼みたいな普通の会社員には住めないだろうと思う。この主人公のような普通の会社員がこんなところに住めるというのも、世の中がちょっとだけ進んだことの設定なのだろうと思う。③街が清潔
街の風景も今と同じ。だけどとても清潔な感じがする。人もちょっと少ないかも。ウェスト位置の高いパンツを履いたギーク(オタク系)な人達がイヤホンのOSと話しながらゴミ一つ落ちていない通路を歩く風景はやっぱりちょっと変。もうすぐ実現しそうなリアルな近未来の日常の風景だろうと思う。電車に乗ると乗客全員が携帯をいじっていて個々の世界に没頭している東京の風景とどこか似ているかも。
④いろんなツールが面白い
どこも一見普通なんだけど、人物達が当たり前に使っている日常のツールはとても進歩してます。3D画像を部屋の一面に投じたゲームの画面。PCらしいものにもキーボードは無い。ほとんどのコマンドは音声認識されるので人物は常にOSに話しかけている。いろんな場面で(今はまだ技術的に不可能だろう)最先端のツールが出てきて面白い。将来はこんな風になるのかも…などと面白かった。(地味だけどリアルな)近未来の様子がよく考えられて丁寧に作られているのがとても楽しい。
全体的にとてもいい映画。編集も音楽も情緒的ですごくいい。ホアキン君の一人芝居も本当に素晴らしい。表情だけであんなに繊細な演技ができるなんてすごいと思う。こういう人の心をテーマにした映画は記憶に残ります。アクションばかりのSF映画には求められない深み。最後はちょっとしんみりさせられる。見終わった後、後ろの客席からいくつかの拍手も聞こえてきました。
★ちょっとネタバレ注意
さてそれでは問題の内容について…。ここからはワタクシの独断と偏見に満ちた愚痴です。いや…もっとこうして欲しかったなーという意見。
えー正直…うーん…期待してたのとちょっと違ったかな…という感じ…。決して悪くは無い。十分に楽しめた。特に上に書いたようなリアルなちょっと先の近未来の様子は本当に面白かった。話の設定も面白いし、いい題材であることは間違いない。
問題は肝心のオペレーション・システムと主人公のオヤジの関係。いやOSの設定・あり方がちょっと違うかな…という感じ。要はこのスカーレット・ヨハンソン声のOSが、あまりにも人間過ぎてつまんない。もっと機械には機械らしくしてもらわないと…SFロマンを感じない。
内容には触れませんが、このOSが最初から普通の女なんですよ。完成され過ぎているの。それが面白くない。このOSには、まだ生まれたばかりだから簡単なことも分からなかったり、ちょっと間違ったりとか…そういう初期にありがちなユーモラスな可愛げが全く無い。こういうA.I (Artificial Intelligence)って、話しかければ話しかけるだけ持ち主の言葉を学習して人格が形成されて成長していくものだろうと思うんだけど、このOSは最初から大人の完成された女。だからつまんない。このOSが最初はもう少しイノセントで、ホアキン君が教えながら学習させていくような話ならいいのにと思う。育てるのが面白いのに。
だからA.Iと人間との関係を描いた面白味=SFのロマンを感じない…。要は、OSがあまりにも人間そのものなんで、人工のA.Iである必然性をあまり感じないんですよ。
(内容的にあるにはあるけれど)話しかけて学習させていく経過もあまり無く、あってもそれほど微笑ましいものではないのも残念。教えていく内容もちょっとつまんない…。結局A.Iと仲良くなって行き着くところはそこかい?的なガッカリ感もあったりする。結局そこか…アメリカ的なダイレクトさなんですかね。結局みんなそこが知りたいの?
それに何よりもこのOSに機械的なもどかしさが全く無いせいで、彼らの関係がいつの間にか人工物A.Iと人間の関係に思えなくなってくるのも問題。OSがあまりにも普通の人間らしいので、どこかにいる人間の女の子と話しているみたいに思えてしまう。まるで(決して会うことの出来ない)海外在住のガールフレンドとの電話での遠距離交際と同じに思えてくる。それも問題。OSである必要ないじゃん。
それ以前にそもそもワタシには、ああいう人工のA.Iがここ20年、30年であれほどの自意識や肉体性、創造力や独立心を持つほど進化するとは思えませんもん。無理だと思う。それもちょっと醒めた理由。旦那Aは理系の人なので「可能だ」と言ってましたが、いや私はそうは思わないぞ。まだまだ早すぎる。
そんなわけで、寂しいホアキン君がOSと出会って明るくなってくる様子は良かったんだけれど、だんだんOSが身勝手になってくると興ざめ。「そんなのありかよ…」的にちと醒めてしまいました。
だってさーA.I.のガールフレンドなんて、イノセントで忠実でちょっと抜けてて可愛くて何でも言うことを聞いてくれて思い通りになってくれてナンボなんじゃないのぉ? それで可愛いA.I.ちゃんにだんだん人間が中毒になってのめりこんでいって抜けられなくなって、最後はいろいろとおかしくなって悲劇が訪れるなんていう話を期待してしまうけどな。そういう話のほうが星新一さん的な怖いダークなSFのロマンを感じるけどな…。
やっぱこういう話はアメリカはだめなのかなぁ…。行き着くところがああいう結末というのもなんだかなぁ…と思いました。しかしこれは私のワガママ。
それでもね、やはり映画としては面白い題材だと思う。良く出来た映画。これからもこういうテーマの映画はどんどん出てきて欲しい。