ネタバレ注意
明智光秀
信長に母を事実上殺され、事あるごとに叱責され殴りつけられる光秀、この真面目な武将がなぜあのような、ありえない行動を起したのかを時間をかけて一つ一つ描写していく。家康への接待で信長に叱責され、その直後丹波・近江坂本の領地を没収される(敵地への領地替え)。大軍を率いる大名にはあまりにも酷い仕打ちだ。理不尽としか言いようが無い。この頃の光秀は顔が違う。常に4白眼。追い詰められて理性を失っていく様子が緻密に描かれる。妻ひろ子は母に姿を変え、母の声は幻聴として常に光秀を謀反へとたきつける。そこへ徳川家康がそそのかしにやってくる。信長との茶会を頼んでも千利休に断られる。このあたりの光秀をめぐる場面には、四方からじわじわと壁が迫ってくるような切迫感がある。
決心をした後は顔が変わる。心を決めた人の顔になる。「敵は本能寺にあり」は母への言葉として描かれる。そして本能寺。声も猛々しく覚悟を決めた目は1点を見つめる。目標はただ一つ、信長の首。戦いは終わり、夕刻利休が焼け跡に尋ねてくるが、この時すでに光秀は意志を無くし抜け殻になってしまっている。この表情で利休も視聴者も光秀の負けを知る。もう彼に未来は無い。結果は史実として解っているのに、どうしてそこでもうひと頑張りしないのだと、なんとも言えない気持ちにさせられる。悲しいのだ。どうしてそこであきらめる…。それくらいこの村上光秀に引き込まれる。村上さんの憑かれたような演技に圧倒されるのだ。この光秀、最後まで強い母親の意志の元、駒にさせられた悲劇の人という気がする。病弱だった妻がいつしか母の姿になるのも、彼自身がそんな強い母親をどこかで求めているからではないのか。
秀吉
高松城攻めで、いつものように無邪気に人夫達と雨乞いをして踊ったり、星を眺めたりしている。…が、6月3日の深夜から情報が届き始める。まず毛利への密使を捕える。黙り込む秀吉。その直後、信長の茶匠からの書状。顔色が変わる。表情が固まって動かない。一瞬叫び声をあげかけるが、数歩外に向かって進み、雨の中無言で崩れ落ちる。リアルだ。これほどリアルな(この時の)秀吉の描写は他に無いと思う。人は本当にショックを受けると言葉を無くす。同じ場面の他のドラマでの秀吉、ぎゃあぎゃあ泣き喚くものが多い。この描写のリアルさには驚いた。
これに続いて、この時の秀吉軍がいかに危ない状態にあったのかも知らされる。この時の秀吉軍、信長の後ろ盾を失い、もし毛利側が事情を知ったら総攻撃で全滅もしかねなかったのだという。安国寺恵瓊との和議。そこへ(まさか無いと思うが)足利義明が尋ねてくる。ここで安国寺はおおよその自体に気付くのだ。…が、無駄な戦はすまいと目をつぶる。ドラマなのに肝を冷やす。上手い。すぐにその場から撤退、姫路城につくころには秀吉の腹も据わっている。秀吉の順を追った心の変化が非常にわかりやすく描写されている。
山崎の戦いでの勝利の後、光秀の首実検のシーンから秀吉の顔も変わる。脚本も俳優もすごいと思う。