2016年1月11日月曜日

NHK土曜ドラマ『破裂』全7回・感想



年末に忙しくてHDに録画したままだった番組を今ようやく見ている。去年の11月に放送された『破裂』を見終わった。

ドラマに興味を持ったのは「あさイチ」と「スタジオパーク」での椎名さんと仲代さんのインタビュー。しかしながら出遅れてしまって最初の2話を見逃してしまった。

3話目から見たにもかかわらず、最初から椎名桔平さんと仲代達矢さんのやりとりに引き込まれた。前知識のほとんど無い状態で見たので最初はストーリーがわからなかったのだが、俳優さん達の演技だけでTVに釘付け


最初は医療現場での父親と息子の話だと思っていた。心臓を蘇らせる治療法を研究している医師…しかしその治療法には突然死を起こす副作用があった。話はいつしかその治療法を悪用した国家の殺人計画へと展開していく。父と息子の話だと思っていたものが、星新一の近未来SFホラーのような話に変わっていく。ぞっとするような話。

一見暗い印象のドラマだったせいか視聴率は良くなかったらしいけれど、これはすごい話です。ドラマ全体の質も高い。俳優さん達も皆真剣勝負。特に仲代さんと椎名さんのやりとりは息をのむ程のすごい迫力。

制作の方々も気合が入ってたんだろうと思う。作品に対する真剣さが伝わってくる。心臓破裂/超高齢化社会で破綻する国家をイメージさせるような冒頭の砕け散る石榴の映像もドキッとさせられる。久しぶりにこんなドラマを見た。


原作があるらしいことは後で知った。

実際の医療現場でのリアリティとか、政府がらみでああいうことが可能なのか…。徐々にSFホラーと化していく内容のため、こういう話にどれほどの真実味があるのかどうかはわからない。しかし日本は現実に高齢化社会。もしこのような話が起こり得るとしたら本当に怖い。話があまりにも極端すぎて脚本が巧みなのかどうかもわからなかったけれど、場面場面で心に突き刺さる台詞が何度もあった

「お前もいつかは年を取る」「医者は3人殺して一人前になる」「人間の気持ちなど一つに決められない」「利用されたまま死ぬなんて真っ平ごめんだ」「あんたたちの無責任、無為無策がどれだけ国民を苦しめるか」

以前、民放のドラマ『半沢直樹』が流行ったせいなのか、最近は真面目を装ったドラマというと無駄に大声を張り上げるものが多いように思うが、このドラマの椎名さんと仲代さんの怒鳴りあいの演技には違和感を感じなかった。いい俳優さんはドラマ全体の質を上げる。


TVドラマを見た後は、普段からよくYahooの感想ページを見るのだけど、この番組の感想に、ドラマの質や俳優の演技についてのものがほどんど見当たらず、ストーリーの主題(高齢化社会)に関する意見ばかりが並ぶのも興味深い。感想の中に佐久間を擁護するような意見が多いのにも驚かされた。確かに机上の理屈は理解できるけれど…。

しかしながら佐久間のアイデアは、国をあげて秘密裏の大量殺人計画。現実に高齢化社会があまりにも身近な問題だからこそ、このような設定には恐怖を感じる。いかに理屈が通るからといって佐久間のプランに賛同することは私には出来ない。

ドラマの中盤、ゆるきゃらと共にPPGPPP(ピンピン元気/ポックリ)のフレーズが出始めた頃から話はシュールで薄気味の悪いSFホラーに変わっていく。現実にこのような計画がどこかで進められているとしたら…。


心臓蘇生治療法の成功、その副作用の発覚、それが国の殺人計画に利用される、それを知り抵抗する医師、ついに副作用の解決法が見つかる。これで治療を受けた患者は皆助かるはず…。最後に「死なせて」と囁く患者。

官僚と医師の戦いは現実論とモラルとの戦い。視聴者は相反する二つの方向に何度も揺さぶられ問いかけられる。結果を曖昧にしてドラマは終わる。果たして正しかったのは佐久間なのか香村なのか…?


話の内容も非常に興味深いものなのだが、私がこのドラマで一番惹かれたのは俳優さん達の演技。最後は俳優さん達について。

仲代さんは別格。あのお方には何の言葉も無い。別次元。演技の迫力に息を飲む。怒鳴り声も慟哭も、孫に向ける優しい顔も全てに心を動かされる。仲代さんは本当に素敵です。映画「鬼龍院花子の生涯」のオニマサをなさった頃から好き。いろんな物を通り越してとにかくすごいお方。ただ感嘆するのみ。

椎名桔平さんは怖い。私はこのお方の映画もドラマも殆ど見ていなくて、たぶん初めて拝見するんじゃないかと思うんだけど…興味が湧きました。きついですね。怖い。でも怖いからいい。私の勝手な想像ですが、椎名さんは御本人もたぶんきついお方。「あさイチ」のトークを見て「あ~この人には冗談が通じないな」と思った。おそらく俗に交わる事をなさらない方でしょう。
昔気質の強い男の印象。どこか昭和の俳優の香りがする。昔の男の気概。雰囲気が非常に硬派。こちらの勝手な想像だとはいえそんな印象を受ける俳優さんて今の日本にはほとんどいないんですよ。世の中が優しくて穏やかな男ばかりを求め続けたせいか、今の日本の俳優さんは「優しい」印象の方が多い。キレたら何をやらかすかわからないような「怖い」印象のある俳優さんはほとんどいない。だから椎名さんは貴重。彼のように黙って立っているだけで威圧感のある俳優さんは本当に珍しい
現在51歳だそうですが外見はお若い。まだ30代に見えるかも。彼のきつい感じは内面から出てくるものなのか。世代的なものもありますね。昭和の男の雰囲気が残っている最後の世代は今の50歳ぐらいまでだろうと思う。
口を開けば声の響きが暴力的。なのに演技は抑え気味。ドラマの中の一場面…仲代さんの一言の後、無言のまま目に涙が溢れる椎名さんの様子をみてすごいなと思った。無骨でも子供や女性に向ける表情は優しい。抑えた演技がいい。もっとこのお方の作品を見てみたいと思った。

滝藤賢一さんは全く正反対の印象。全てがオーバーアクション。外見も演技もどこか漫画的。このドラマでも「本当にこんな人物がいるかな」と思うほどの熱量。何をやってもリアルに実存する人物に見えない。しかしそれこそがこのお方の魅力ですよね。おかしみと哀しみが同居した表情。このお方が怒鳴って怒鳴って怒鳴りつくしても全く怖くならない。たぶん椎名さんの反対側の位置にいる。それでも一度見たら決して忘れられない顔。彼は不思議な俳優さんだと思います。

他の俳優さん方もよかったです。揺れ動き苦しむ甲本雅裕さん。面白いオジちゃんなのに極悪モロ師岡さん。冷酷佐野史郎さん。配役も面白い。