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『
Trishna(2011年)/英/カラー
/117分/監督; Michael Winterbottom』
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英国人が撮った想像上のインド版『ダーバヴィル家のテス』。
貧しい家に生まれ育った美しい娘。もちろん大富豪の男性に囲われる。彼の恋人になる代わりに豊かな生活と高い報酬を与えられる。もちろん全てが上手くいくわけがない。そこで起こった悲劇…。
ちょっとだけネタバレかも
監督は英国人。おおまかな話の設定は19世紀の英国文学トーマス・ハーディーの『ダーバヴィル家のテス』。その悲劇をを現代のインドに持ってきて撮った映画。原作とは設定も内容もずいぶん違っている。
19世紀に書かれた『ダーバヴィル家のテス』のような話は、現代の西洋世界では描けない。というのも、19世紀には西洋世界でも当たり前だった貧富の差、女性の立場の低さ、堅苦しい道徳や常識が、現代の自由な西洋世界にはもう存在しないからだ。もし『ダーバヴィル家のテス』のような話を現代の設定で描こうとするのなら、西洋世界ではない、もっと保守的で、貧富の差が激しく、女性の地位が低い他の国に話を持っていくしかない。そんなわけで『ダーバヴィル家のテス』の話がインド人の話として映画になった。
とある国の人が異国の人々についての物語を語るとき、そこに語る側の想像が入りこむのは自然なこと。小説でもそう。もちろん映画でもそう。異国の人々について別の国から語られる話は、その土地の実際のリアリズムよりも、語る側が想像して納得できるもの、語る側が見たいもののほうが優先されることのほうが多い。
この映画も英国人が見たいインド。西洋が見たい想像上のインド。芳醇で薫り高い美しいインドを英国人が妄想した萌え映画だと思う。余りにも豊かな視覚上の至福。美しくミステリアスで危険。ため息が出るほど官能的な人々。素晴らしい。
原作の『ダーバヴィル家のテス』にどこまで忠実な映画か…なんてこの際どうでもよい。どこまで人物描写や心理劇がリアルで重厚なものか…脚本が素晴らしいのか…などもどうでもよい。とにかくこの映画、エキゾチックな風景の中で、美しい俳優と女優さんの禁断の関係を見て、ただ溜息をつくというためだけの映画。ドキドキです。
男女間のストーリーを語る観点から言えば、現代の西洋世界(日本も含めて)は本当につまらない。男女平等、言論の自由、性の自由、少ない貧富の差、誰にでも与えられた教育に成功のチャンス…。タブーも厳格な社会のルールも宗教的縛りも殆ど無くなった現代の世界では、もう『ダーバヴィル家のテス』のような話は絶対に書けない。ああいう話は社会的な縛りがあるからこそ生まれるものだ。日本でも明治、大正、戦前辺りの男女の関係を扱った小説を読んでみると、時々びっくりするほど深い話があったりする。それはその小説の書かれた時代が、現代の私達には想像もできないほど、道徳や規律で自由の無い時代だったからだ。不道徳だからこそドラマ。背徳的だからこそ話として豊かで魅力的なのだ。しかし現代の(日本も含めた)西洋世界では、不道徳を規定するための道徳そのものが存在しなかったりする。
おそらくこの英国人の監督さんも、そのあたりを狙ったのだろうと思う。まだ社会的な縛りのある保守的な国=インド。だからこそ起こる悲劇。それに異国情緒の味付け。この映画も、もとより『ダーバヴィル家のテス』なんて単なるきっかけでしかない。本当に描きたかったのは「エキゾチックな美しい娘、ハンサムな富豪の青年、肌の浅黒い官能的な美しい人物達、美しい風景、恋に落ちる男女、男女間の力関係、強制する者と従う者、現代の西洋人が忘れてしまった道徳心、タブーを犯すイノセントで無力な美しい娘、そこに起こる悲劇…そんな手の届かないミステリアスな(憧れの)異国=インド」…そのようなもの。
Trishnaを演じる主演の女優Freida Pintoさんは溜息が出るほど美しい。とても繊細な顔立ち。セクシーなのに上品。本当に綺麗。それに富豪の青年Jayを演じる俳優Riz Ahmedさんがまた艶のあるいい男。彼は決して悪者ではない。最初は優しく恋人としても大変魅力的。彼にイヤなんて言える訳がない。Trishna
さんも苦しいほどに彼が好きなのだ。そのあたりが『ダーバヴィル家のテス』とは違うところ。彼らはお互いにべったり好き合っているんです。ただそこにインドならではのタブーが存在した。関係はだんだんおかしな方向に行き始める。Trishnaさんはそれがタブーだと解っていても惹かれているからこそ関係から抜け出せない。抜け出せないと気付いたとき…そこで起こる悲劇。
もうただただ美しいセッティングの中の美しい俳優さんと女優さんを見て、ほぉ…と溜息をつけばそれでいいと思う。英国人の妄想らしく全編通して大変エロい。でも上品。最後のオチに多少無理があるのもこの際どうでもいい。こういう映画にリアリズムや真面目な教えを求めるのは無駄。だって単なる妄想映画だから。ステキな視覚上の至福。豪華なホテルも、人物達の衣装も、田舎の風景もごみごみした街の様子も全てが美しい。…で、分かりきった唐突な最後を無言で受け入れて静かに余韻に浸ればよろしい。そんなエキゾチズム(根拠のない異国への憧れ)をとことん堪能できる美しい映画。いいと思います。
キスだけでドキドキする映画なんて久しぶり…(笑)。ステキです。
インドいいな…英国ではカレーばっかり食べてたし…インド人の方々はいつも大変親切で、まるで荒野のオアシスのようでした。すごく好き。今日は思わずカレーをテイクアウトした。