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『Sage femme(2017年)/仏/カラー
/117分/監督:Martin Provost』
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日本では映画祭で公開されたそうだ。一般公開は年末らしい。
主人公はパリ郊外に住む優秀な助産婦クレール。真面目な女性です。学生の息子さんが一人。シングル。
その彼女のもとに父親の昔の愛人ベアトリスから突然の電話。彼女とはもう30年間会っていない…「大切な話があるの」。30年ぶりに会うことになった父の娘と父の愛人…決して穏やかな関係ではない。
主人公クレール(カトリーヌ・フロ)は真面目。苦しいほどに真面目。地味。化粧っ気も無い。週末は小さな菜園で野菜を育てる。実は父親と別れた実の母も真面目で厳しい母親だったらしい。クレールは実の母に似ているのかもしれない。真面目で誠実。しかし堅苦しい。
一方、父の昔の愛人ベアトリス(カトリーヌ・ドヌーヴ)は派手なおばちゃん。お酒とお肉とタバコとギャブルを好む派手なおばちゃん。きっと男も好きなのよね。派手なドレスに濃いメイク。自由。自分勝手。それでも人生を楽しむ達人。陽気で歌を歌うことが好き。
この二人…全く正反対。さてどうなる?
佳作です。いい話。フランスの映画はこういう小作品でもちょっと考えさせられる人生哲学を含むのがいい。
人はどう生きるべきか…? 「…べきか?」なんていうものでもないんだろうなぁ。しかしこの映画のメッセージは明確。
真面目で誠実…しかしちょっと笑顔の少ない地味な中年の女性クレールの心が、型破りで自由な派手派手おばちゃんの突然の登場によって少しずつ少しずつ柔らかく溶けていく話です。
★ネタバレ注意
(追加と訂正:両親の離婚はベアトリスとは関係ないらしいので訂正しました…実はよく覚えていない。それよりもクレールの父親の話があまりにも深刻なので話の辻褄があうのかと疑問に思い始めてしまった。許せるものなの?)
ぶっちゃけ二人の関係を簡単にまとめると…
春の突風のように突然やってきた派手なおばちゃんベアトリスは、クレールの父親の昔の愛人。子供の頃に一時期だけ一緒に暮らしたパパのガールフレンドの綺麗なお姉さん。ところがある日突然、ベアトリスはパパとクレールを捨てて突然出て行ってしまう。パパは傷ついた。それから30年も経った…。
ベアトリスとは、クレールのパパを酷く傷つけ、家庭を引き裂いた女。クレールにとっては許しがたい敵なのよ。
だからそんな女が30年間も全く連絡してこなかったのに突然電話してきて「会いたい。助けてよ」と言ってきても、そんなの関係ねーよって話なんです。そりゃそうだわ。
ところがベアトリスは重い病気にかかっているという。そして身寄りもなく独り者。そこで昔の(仮の)家族…クレールに電話をしてきたというわけです。
クレールは優秀な助産婦さん。日々女性達を救い助ける職業に就いている。そんなクレールも最初は突然現れたベアトリスに憤っていたのだけれど、彼女の病状を知って彼女を放ってはおけない…クレールは優しい女性なんです。
すごーく迷惑な人なのに…昔パパを酷く傷つけた人なのに…家庭を引き裂いた人なのに…30年間も全く連絡してこなかったのに…もう自分には全く関係のない人なのに…、クレールはベアトリスを放っておけない。一緒に時間を過ごすにつれてゆっくりと二人の間の氷が溶け始める。
ベアトリスは一緒にいれば楽しい女性。あれから30年も経った。クレールも大人…49歳。過去の思い出は悲しいものだけれど、今大人になって知るベアトリスは確かに魅力的な女性。
恋を謳歌し、歌を歌い、お酒と美味しい食事を楽しみ、ギャンブルを楽しみ…ベアトリスは人生の楽しみ方をよく知っている。クレールの父親もそんなベアトリスの陽気な性格に惹かれたのに違いない。
ベアトリスが現れたのと同じ頃、クレールにも恋人が出来る。借りた畑の隣の男。同世代。もっさりとした地味な外見のトラック・ドライバー。…実は彼も恋とワインと食事を楽しみ歌を歌う…人生の楽しみ方を知る愛情深い素敵な男性だった。
このもっさりとしたボーイフレンドがなかなかいい。美男じゃないんだけれどちょっといい。普通の地味な男…だけどきっとこの人と一緒に過ごす時間は楽しいはずだ。
冷たく堅苦しかったクレールの日常に温かい風が流れ始める。
春の突風のようにやってきたベアトリスおばちゃんは、クレールの冷たい日々に春風を吹き込みいろんなものを吹き飛ばし、ぽかぽかと暖かい春をつれてくる。そしてある日また突然去っていく。
ちょっといい話なんですよね。ベアトリスおばちゃんは春の妖精のようだわ。カトリーヌ・ドヌーヴ様がステキです。
フランスの映画には、人生の美学や哲学を感じることが多い。人は何のために生まれてきたのか? 人生とは楽しむ為にあるのではないか。人生とは、美味しい食べ物とワインと恋と歌と美しいものを楽しむ為にある。人生は短し。いいですねぇ…ちょっといい話だと思うわ。