初回です。
かなりいいと思う。
驚いています。というのもワタクシ、2年前に発表になったこの「○○の妹の大河」のアイデアに大変腹を立て、わざわざこのブログにも文句を書いたぐらいでして、今回見始めたときも最初はかなりイジワルく、ダメだったら感想を書かないなどと息巻いていたのでした。
いや…それが、見始めたら悪くない。いやかなりいい。「○○さんの妹」がこれから大活躍するのかどうかはまだ不明ですが、初回の主役は明らかに吉田松陰。この伊勢谷友介さん演じる松陰さんが素晴らしかった。たった1回見ただけなのに、もうこの人物に惹かれています。
たぶん今年は脚本がいい。松陰の人となりの描写も…学問に目覚めた子供時代。学ぶ事の大切さと、現実に向き合うことの大切さを語り、古風な体制に挑戦する気概を持つ。妹には優しい兄であり師である。人を善であると信じ、未来を見つめ、真実を説き、努力をし、そして周りの者を巻き込んでいく熱い人物…。いいじゃないですか。たった1回分のドラマなのに、この人物のことはもっと知りたいと思う。ドラマは人物に惚れてナンボ。これは楽しみかも。
全体を通して人物達の台詞も自然。少なくとも去年のように初回からとってつけたような台詞の違和感はない。この初回のように、妹を狂言回しにして松陰を主役にすれば面白い歴史ドラマになるかも。結局一番の心配は「無名幕末女子の歴史に頭突っ込み時々恋愛」みたいなドラマ。もしそうなったら見ない。
それから今回、話全体に流れる「学ぶことを真正面から正しいことであるとするテーマ」にも惹かれた。このテーマをもとに
実際の主役=吉田松陰とは誰?
この人が一番大切にしたものとは何?
この2つだけで1時間を回した。とにかく学問とは学問とは学問とは…?と、しつこく問いかける台詞に引き込まれる。全体に流れるメッセージとして「学問は大切だ」と言い切る脚本にまず希望を感じる。もしかしたらドラマの制作現場でも知性を尊重しようとしているのでは?真面目に歴史上の人物を描こうとしているのかも。
あまりにも痺れたので台詞を抜粋。
●学問とは?
・子供時代の高杉晋作が問う「学問は何のためにする?」
・妹・文に、叔父に叱られた自らの子供時代の話をしながら吉田松陰(伊勢谷友介)が問う「己とは?公とは?なぜ学ぶ?なぜ生きる?」すると、それまで学んだ本の文章が答えのように浮かび上がってくる松陰覚醒のシーン。
「本は文字ではない。人じゃ。開けば触れることが出来る…他の人の考えにも、江戸におる人にも、外国におる人にも、とうの昔に亡うなった人にも、出会うことが出来る。」
「同じく悩んで、同じく答えを見つけようとした誰かがおって、教えてくれる。その人の目で見た世の中の、人生の、あらゆることを教えてくれる。生きるに迷うとるのは自分一人じゃないことを。」
・また藩校・明倫館でも同じく松陰が叔父・玉木文之進(奥田 瑛二)に問答で挑戦
「己の頭で考える。ただ覚えるだけでなく考える。」
禁書を破り捨てた後で
「禁止しても無駄だ。どこにでもある。なぜこれを読もうとするのか? 知りたいから。学びたいから。変えたいから。今までの学問じゃもう日本国は守れん。本気でこの国を思う者は知っとる。死に物狂いで学ばにゃこん国は守れんと…。」
「人はなぜ学ぶのか? 学ぶのは知識を得るためではなく、職を得るためでも、出世のためでもない。人にものを教えるためでも、人から尊敬されるためでもない。己のためじゃ。おのれを磨くために人は学ぶんじゃ。」
・それに呼応して小田村伊之助(大沢たかお)が名乗りを上げる。
「人はなぜ学ぶのか? お役に就くためでも、与えられた役割を果たすためでもない。かりそめの安泰に満足し、身の程をわきまえ、この無知で、世間知らずで、何の役にも立たぬ己のまま生きるなどごめんです。なぜ学ぶのか? この世のために、己がすべき事を知るために学ぶのです。己を磨き、この国の役に立ちたい。そのために学びたい。」
何度も繰り返される「人はなぜ学ぶのか?」の問いかけ。畳み掛けるようにその答えを人物達が答えてくれる。これにはかなり心を動かされる。これほどまでに学ぶ事を正面から正しいと宣言するドラマもあまりなかったのではないか。
●松陰はいいやつだ
熱い男松陰はいいお兄ちゃんでもある。内気な妹には、
「人が怖いか?怖いのはお前がちゃんと自分の目で人を見ようとしとるからじゃ。上手くしゃべれんのは、お前が間違うたことが言えん正直者だからじゃ。おれにはわかるぞ。お前はよう人を見とる。本当は誰よりも強く人を知りたいと思うとる。本当は誰よりも強く誰かと出会いたいと心の底から願うとる。」
兄に認められた妹は泣く。それまでもっさりと表情の暗かった文の泣く姿がたまらなく可愛い。いいシーンです。
「人の本性は善だと俺は信じる。じゃから真心を込めて人と向き合えば、思いは必ず伝わるはずじゃ。」
●ところで叔父・玉木文之進が昔の怖いオヤジ
叔父さんの奥田さんが怖い怖い。子供でもパーンと張り倒す!いいぞ。NHK本気かしら。昔はこれくらい怖い大人がどこの家庭にもいたんです。この奥田さんのキレるオヤジキャラは妙にリアルでいい。なんだか懐かしい。実際に江戸の時代に女の子が平手打ちされるかどうかは知らないけれど、男の子なら親に殴られて痣ができるぐらいは当たり前だったでしょう。こういう人物描写はあってもいい。キレオヤジでも決して嫌な奴ではなく、厳しくても実はいい人というのがまた重要。奥田さんは愛すべき怖オヤジなんだろうな。
…さて、来週はもう女の子がいなくなって、大人の女優さんになるみたいですが、はたして彼女にこのイノセントな可愛らしさが出せるのか注目。このもっさりした女の子と松陰のシーンがとても良かったので、ちょっと心配。大人の女優さんになると松陰とのシーンも雰囲気が変わってしまうかも…。
ともかく期待しましょう。ドラマの筋を書くことは去年で懲りたので、これからは感想だけを書くと思う。…だけど、もし台詞が書き留めておきたいほど素晴らしかったらまた延々と抜粋するかもしれない。いや…実はそれが一番いいのだけれど…。