能登半島地震 ─ 寄付・支援情報

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2016年1月18日月曜日

映画『スポットライト/Spotlight』(2015):怒り心頭!奴らを吊るせ!




 
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Spotlight2015年)/米/カラー
128分/監督:Tom McCarthy
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さてこの映画も感想を書くのが難しいぞ…。


実話を元に映画化。タイトル『スポットライト』とは、米国・マサチューセッツ州ボストン市の地方紙「The Boston Globe」紙の中のコーナーの名称。記者のチームが一つの題材にスポットライトを当て、時間をかけて調査したものを記事にする。

2001年「スポットライト」チームは、ボストン市内のカトリック教会での、神父による 児童への性的虐待の実体をリポート。その記事が引き金となり米国国内、世界中のカソリック教会にも同様の嫌疑が浮上。バチカンを頂点とする全世界のカトリック教会の土台を揺るがすほどの大スキャンダルに発展する。「スポットライト」の同件に関するシリーズは、2003年に報道・公益 (Public Service) 部門でピューリッツァー賞を受賞。

この映画は、記者のチームが様々な困難にぶつかりながらも取材を敢行し、問題の記事を載せた新聞を発行するまでの経過を描く。


2001年当時、英国でもこういう話がメディアで話題になっていたのはよく覚えている。ただ個人的には新聞の記事を見ても右から左程度の興味しか湧かず、「カトリック教会でなんだか大変なことが起こっているらしい」とは理解したものの、細かい数字などは全く知ろうともしなかった。

今回そのことについての映画が作られたと聞き、また今年に入ってから映画賞シーズンに向けてこの作品が各種ノミネートされていることを知り興味を持つ。

パワフルな話です。現代版「大統領の陰謀/All the President's Men (1976)」。以前特に気に留めなかった実話の詳しい実体を今になって知る驚き。


もし当時のニュース記事を読んでいてその事実をよく覚えているのなら、この映画はそのメイキング・オブの映画になるのだろう。しかし記事をロクに読まなかった私のような人間には全て初めて知る内容。映画を見ながら、記者と一緒になってその実態に驚愕、恐怖、嫌悪…。そして最後に記事が発行されるのを見届けて、ああ無事世に出てよかったと喜ぶ。そんな風にこの映画を見た。実話を追体験したような気持ちになる。それぐらいリアルによくできた映画。

取材の対象の問題も、記者の奮闘もとにかくすごい話です。


★ネタバレ注意

ボストン市というのは、住民にアイルランド系やイタリア系の移民が多く、カトリック教徒の数も多い。「The Boston Globe」紙の読者も50%がカトリック教徒だという。教会はその土地のコミュニティーにとって絶対に揺らぐことのない大きな権威。だからこそ内部でどんなことが起こっていても誰もそれについては語りたがらない。「触らぬ神にたたりなし」いや…神様じゃなくて悪いのは聖職者なんだけど。とにかく絶対的な権威の教会に対して誰も逆らおうとはしない。

同新聞社でも、以前同じような児童虐待に関する記事を出したことはあるのだが、小さい記事でしか扱わなかった過去がある。今回記事を書くにあたり「スポットライト」のチームが過去の事件(レイプ/児童虐待のケース)に関して弁護士に取材をしても誰も口を開こうとはしない。

記者達が最初にその実態を知らされるのは被害者グループの男性へのインタビュー。彼は以前から「The Boston Globe」社宛に教会の児童虐待の資料を送りつけていたという。それでも過去に同新聞社がその問題を積極的に取り上げることは無かった。

「あいつらは長年子供達をレイプし続けている…」

被害者達への取材、被害者の弁護士への取材、教会側の弁護士、心療内科医、様々な方面への取材により扉を一つ一つ開けるように明らかになっていく被害の数々。浮かび上がってきたのは想像を絶する大きさの児童虐待の実態。その被害数の多さ、関わった聖職者達の数に戦慄を覚える。ゾッとする。あまりのことに言葉も無い。なぜこれが今まで表に出なかったのか? 

弁護士、土地の名士、教会、被害者でさえ、…事柄にかかわる全ての人物、機関がその事実を隠蔽していた。

教会は文字通り全てを無かったことにし書類上でも隠蔽を行う…それを誰も咎めることは無い。弁護士は事を荒立てないように被害者側に示談を示唆する。土地の名士は教会を貶めるようなことは言いたがらない。元々(同性愛者、貧困家庭などの)社会的弱者だった被害者達は、事を大きくしたがらず泣き寝入り。決して教会の権威が揺らぐことはない。だから誰も教会内の児童虐待の実態を白日の元に晒すことが出来なかった。閉じた社会の中の悪い慣習が、それまで過去何十年間も継続して続いていた。

取材が進み、いつ記事を出すかの問いにチームのリーダーがGOサインを出し渋る。そこでMark Ruffaloがブチキレる「今記事を出せ。奴らはわかっててやってる。子供達に。お前でも俺でも、俺たちの誰もが被害者だったかもしれない。あの下衆野郎どもを捕まえるんだ。誰も逃げられやしない…」

戦って戦い抜いて書き上げたリポート。それが発行された日の朝、「The Boston Globe」社内の電話は止まることなく鳴り続ける。電話の向こう側には、今まで誰にも言えなかった過去を初めて打ち明ける被害者達。今まで何十年間、誰にも言えずただ一人心の奥にしまっていた辛い過去を今やっと口にすることが出来る。その最後の場面を見て涙が出た。記事が出て本当によかった。


実話を実際に追体験するような映画。内容を過去の新聞記事で知っている人にも、この映画で事件を初めて知る人にも強烈な映画だと思う。

記者達の奮闘もすごい話なのだけど、私には何よりもこれがほぼ実話であったこと…教会内の腐敗の実態、そしてその大きさがあまりにもショッキングで、それだけで暫く言葉も出ないほど嫌な気持ちになった。吐き気がするほど嫌な事件。あの記事が出た後、何人の聖職者達が犯罪者として刑罰を受けたのだろうかと思う。