2013年5月15日水曜日

映画『ルノワール 陽だまりの裸婦/Renoir』:人は何のために生きるのか

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Renoir2012年)/仏/カラー
111分/監督:Gilles Bourdos
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絵のように綺麗な映画です。
 
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あらすじ
1915年、74歳になった印象派の画家ルノアール。年々悪化するリウマチの療養のため、現在は暖かい南仏に住む。何人ものメイド(何人かは引退した元裸婦モデル達)やその子供達と共に暮らし、南仏の美しい自然に囲まれて日々裸婦を描き続ける。そこへ若い赤毛のモデル、アンドレがやってきた。女優を夢見るアンドレがルノアールのためにポーズをとる生活にも慣れたころ、第一次世界大戦の戦場で負傷したルノアールの息子ジャンが帰郷する。ジャンは21歳。将来映画監督を夢見る。さてこの父と息子、モデルの生活に何が起こるのか…。
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 大変綺麗な映画です。出来る限り印象派の絵を実写で再現しようとして撮ったんでしょう。南仏の暖かい光がとても綺麗。緑の木々をバックに花の咲き乱れる草むらに布を広げ、寝転ぶ裸婦が二人。まーほんとに絵のように綺麗。
 
風景が綺麗。光が綺麗。女の子達の裸が綺麗。肌が綺麗。おっぱいが綺麗、光の透ける赤毛が綺麗、光が綺麗。ルノアールの家が綺麗。テーブルに広げたお皿、果物、食べ物が綺麗。布が綺麗。カーテンが綺麗。女性の普段着のドレスが綺麗…綺麗綺麗綺麗綺麗です…。
 
あまりにも絵が綺麗過ぎて、それだけでほぉーっとなって楽しめます。まあよくこんな絵を撮ってくれたもんだ。至福です。決して眠くならなかった…。
 
というのもこの映画、ぶっちゃけそれ以外はかなりぼーっとした映画なんです。抑揚が無い。事件が無い。キャラクターに踏み込むことも無い。男女の熱情を画面に写し込む訳でもない。まるで年老いたルノアール御本人のように、どこか全てを悟った老人の目線のように淡々とストーリーが進む。監督に力が無かったのか、それとも意図的なものなのか…分からないけれど、とにかく静かな映画。
 
たぶん退屈だと思う人が多いと思います。これは眠くなってもしょうがないと思う。
 
 
 ネタバレ注意
 
 与えられた設定はかなり大きなドラマを期待できるんです。年老いた有名な芸術家。リウマチで体中が痛む。彼はもう人生の先が長くない事を分かっている。それでも絵を描くことを止めようとはしない。まるで生命にしがみつくように若い女の裸を執拗に描き続けるのは、美を描くことだけが生きている証だからだ。美しさを留めたい。生きている間にこの世の美を描きたい…。
 
そこへ現れた若いモデル。ベルベットのような白い肌。ルノアールに「あの胸をもう一度見れるのなら腕を切り落としてもいい」と言わせるほどの美。
 
そしてそこへ帰ってきた21歳の息子。戦場から負傷して帰って来た彼が見るのは、南仏の光の中でまどろむ裸婦達。こんな状況でドラマが生まれないわけがないんです。
 
 
当然のことながら、息子ジャンとアンドレは恋に落ちるわけですがこれが一番の問題。この二人、化学反応というかケミストリーがゼロです。いつの間にか好きになったらしいし、いつのまにか親密になったらしいし、いつの間にか将来を語る仲になっている…。全てがあたりまえのように淡々としてます。まだまだ世の中が今では信じられないほどガチガチに古風だった1915年、21歳の男の子が父親のヌードモデルと恋仲になる…ためらいや恥じらい、とまどい、やっと結ばれた喜び、(嬉しい嬉しい嬉しいよ的な)情熱、狂乱、至福、そして見えてくる現実…等というような感情の起伏が全く描かれていない。
 
もっともっとドラマになったはず。年老いたルノアールさんが淡々としているのはいいんです。けど、20代前半の男女の話であの単調さはなかろう。全くリアルじゃない。どうしてなんですかね。あまりにもサラッとし過ぎているんで、意図的なのではないかとさえ思えてしまう。女性の裸も惜しげもなく沢山出てきますが、エロな感じは全くゼロです。
 
私は個人的には絵が綺麗なだけで楽しめたので、決して飽きることはなかったのですが、これだとストーリーの盛り上がりが無さ過ぎてダラダラとした印象は否めない。監督の意図がどのあたりにあったのかは興味深いところ。
 
 
ただし、最後にほんの少しだけフランス人の好む思想らしいものはチラッと見えました。それが救い。もしかしたらこの映画はこれを言いたいだけの映画だったのかもと思えるシーン。
 
傷を治したジャンが戦場に帰るといい始める。
 
恋人のアンドレはジャンを止める。「あなたはもう戦場にいかなくてもいいのよ。私を置いていくの?一緒に語った映画の夢は?どうして私のためにここにいてくれないの?」
 
老いた父ルノアールもジャンを止める。「ここの、この美しさに囲まれていて君はまだ戦場なんて地獄に行きたいのか?どうしてそんなものに命を賭けられるのか?」それにジャンは答える「国が戦っている時に、親父は毎日女の裸ばかり描いているなんて…。」ルノアール「人生は美しさが全て。これだけが生きる理由に値するものだ。」(意訳です)
 
ここでちょっとジーンとくるんですね。ジャンは真面目な青年。お国のために自分の命を犠牲にすることがなによりも大切だと信じてます。友人達が戦場で若い命を落としたのも見てきたわけです。自分だけが南仏で裸の女に囲まれて幸せでいるわけにはいかない…。そんな真面目な青年を、恋人と老いた父はそれぞれ全く別の理由からひき止めようとする。
 
アンドレはただただ女性らしく「あたしを置いてかないでよ~。戦争と私とどっちが大切なの?あたしにきまってるじゃないの…戦場に戻るなんて…馬鹿じゃないの…」大変自分勝手な意見。でもある意味正論。
 
老いた父は「人の人生は短い。自分のたった一度の人生なのに、天の与えてくれた美しさを受け止めて楽しむ事をせず、ただ人を殺しに行くなんてどういうつもりだ。戦争なんて君が行かなくてもいつか終わる…。そんなものに大切な命を懸けてどうするんだ…。」(意訳です)
 
ジーンときた。絵のように美しいながらも、話としては退屈な映画に、ここではっとさせられる。あ…この監督はこれが言いたかったんだろうか…。フランスは芸術の国。生きる意味をいつも考えているような国。ぼんやりとではあるけれど、たぶんこれがこの映画の意図。悪くないです。いやとても好き。
 
そんなわけで一見絵を再現しただけのような、ぼーっとした映画ですが、決して嫌いではない映画。見てよかったです。とにかく美しい。
 
余談ですが、大量生産のプラスチックの日常品が発明される前の時代の人の暮らしというのは、本当に美しいなと思う。
 
 
追記:ところで、アメリカではこの美しい平和な映画がR指定。18歳未満禁止の指定なんですが、何がいけないんですかね…おかしいよね。おっぱいがいけないんでしょ。いいじゃないか…女の裸。これエロなんて全然無いのに。おっぱいの何がいけないんですかね。この国、暴力シーンにはかなりゆるいのに、どういうわけかおっぱいは異常に厳しく取締まるんだな。間違ってると思います。